「ともに生きる」ということ
- 事業所名
- 社会福祉法人暁雲福祉会 福祉工場ウィンド
- 所在地
- 大分県大分市
- 事業内容
- パン製造・販売業
- 従業員数
- 19名
- うち障害者数
- 19名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 パンの製造 聴覚障害 0 肢体不自由 1 パンの製造 内部障害 0 知的障害 17 パンの製造 精神障害 0 - 目次

1. 障害者雇用の理念と福祉工場の設立
(1)障害者雇用への思い入れ
福祉工場である「ウィンド」は、福祉施設と事業所の両面の性格を併せ持った企業である。設立理念においてもそのことが鮮明に提言されている。
「私どもの福祉理念は『人間礼拝』。たった一つの尊い命。お互いに相手を大切に思いあい、ともに支えあいながら生きること。社会に生まれてきたからには、何か小さなこと一つでいい、障害があっても、働きたいという願いを見つめその可能性を実現させていくことです。この世紀に求められているのは、命を大切にすることを輪の中心において、経済も教育も福祉も考えていくことではないでしようか。」と、障害者雇用への思いを熱く語るのは施設長の丹羽和美氏。
また、テーマに掲げた『ともに生きること』についても、「ともに生きるということはそんなに大変なことではないんです。同じ命の重さだということを感じられる瞬間があれば。そこで、自分の足りないところを助けてほしいと思う。自分が出来ることをしたいと思う。これはシンプルな、心の底からわきあがってくるような、そうせずにはいられない思いじゃないですか。そこら辺をつないでいけば、ことさら人権と言わなくても素敵な世界になると信じています」と、涼しげできれいな瞳に、障害者への思いのたけをこめて語られた。
福祉工場ウィンドの経営主体は社会福祉法人暁雲福祉会である。当然のこととして、企業経営理念において、一般企業が障害者を雇用する際の人間観とは全く異なった理念を前提として設立されている。それは、法律で決められているからとか、慈善の気持ちとか、ましてや義理や人情論での雇用ではなく、一人の人間としての処遇が大切にされていることにある。
(2)福祉工場設立の経緯・背景
暁雲福祉会で運営している八風園という障害者福祉施設に、近年、養護学校を卒業後に一般企業に就職した若者が、1~3年ぐらいの間に離職して訪れて来る傾向が多く見られようになった。併設する小規模作業所マーヤの園で受け入れて様子を観察すると、すべてに自信をなくしていたり乱暴な言葉づかいになっていたり、さらに精神科を受診していたりとさまざまであった。
何か手立てはなかろうかということで、離職した本人側の要因、就労の機会の保障、事業主の配慮の有無、職場において差別的な劣等処遇はなかったか等の問題点を調査した。そして、数多くの若年離職者が短期間に生ずることに対して、働くこと、働き続けることを『QOLの視点』から追求し、離職を未然に防ぐ対策を考える過程で、試行錯誤の末、福祉工場の開設を思い立ったということである。
それは、障害者授産施設の八風園さかのいち分場内で平成7年からパン販売を行っている店「麦工房森のクレヨン」での経験から確信した。麦工房森のクレヨンでは、知的なハンディがあっても、その人の得意な作業工程を選択し環境設定しその上で心身両面への援助を行えば、必ず就労は可能であるという事実があったのである。実際に、福祉工場ウィンドでも、精神科受診者以外は、半年から1年ぐらいの間で学生時代のような生き生きとした彼らに戻った。
「知的な障害があっても働きたい、社会とつながりを持ち収入を得たい等、基本的な労働要求があります。そして権利も義務も有しています。このことに丁寧に応えてあげる姿勢が事業主に求められているのではないでしょうか。」との丹羽施設長の一言は示唆に富む。
(3)関連施設
・知的障害者授産施設 | 八風園、八風園さかのいち分場 | |
・グループホーム | マナス1、マナス2、マナス3、マナス5 | |
・知的障害者小規模作業所 | マーヤの園、ルンビニー2、マーヤの園2 | |
・直営販売店 | 森のクレヨン1号店、森のクレヨン2号店、森のクレヨン3号店 |
2. 作業工程と作業風景
(1) 作業工程
計量 |
ミキシング |
発酵(寝かし) |
生地の分割(パンの大きさに合わせて) |
寝かし |
成型 |
焼きあげ |
袋詰め |
店毎に分類、積み込み |
販売 |
(2)作業風景



3. 障害者雇用の取り組み内容
(1)障害者の募集・採用
広く一般に採用について知らせ、もっと雇用したいが定員がある。
養護学校の生徒の場合は現場実習の制度を利用して適性発見に努めている。
(2)障害者の配置
ア 配置
作業は必ず障害のある従業員2人組で配置する。その上で、スタッフが近くにいていつでも尋ねられる体制を作る。このことは応用力に課題を持つ知的障害者にとっては大切な配慮だと感じた。
イ 適性の発見
独自な視点で評価表を作成し、適正な評価がされている。適性発見の手立てが確立されており、適材適所に配置している。
(3)労働意欲・意識の喚起
「美味しいなと言われるのが嬉しいので、頑張ってつくっています。」「僕は揚げ物担当だから、あげ色に気をつけています。」「パンの生地と仲よくなることです。やっぱり気持ちで仲よくなろうとしたら、パンの生地が手についてくる。」「時間ですね。発酵しすぎても悪いし、発酵しなくても悪いし。それとあと、分量を間違わないようにしないと。」等々、一人ひとりが目標と自覚をもって、しかも自信にあふれて仕事をしている姿には感動した。
(4)能力開発
「自分たちは世の中に必要とされているのだと自己認知できたときに、本物の力が生まれる。障害があろうとなかろうと世の中に必要な人になるということは、商品として考えた場合、一般市場に通用するものを作らなければならないということです。障害者の作ったパンということではなく、本当に毎日の中で必要とされるものを提供していく人を育成することです」との考えがある。
競争に勝つためには知的障害者に適した研修が必要であるため、外部講師を招聘し、技術の向上を図り、新製品の開発を図っている。的確な評価を通して、スキルアップを図っている。
また、小・中学校の福祉体験学習や障害者の職業能力開発事業等々、地域との交流や見学・研修の場として提供し、多くの人々と共に働くことを通して交わることで、自己有能感が育成されている。
(5)勤務時間
パンの製造販売という性格上、就業時間は6:00~15:00で、労働時間はそのうち6時間としている。
15:00以降、希望者は社会福祉法人の実施しているクラブ活動に参加できる。
(6)生活の場の整備
パン製造という仕事で朝が早いため、住居が職場の近隣が望ましいと考え、グループホームを4棟建設した。社会性の養成にも一役かっている。
4. 今後の課題・展望
(1) 就労前の試行機会
ウィンドの評判を聞いてパン工場で働きたいという障害者は多いが、現実には能力と仕事のレベルがマッチせず断らなければならないケースが多々あるため、就労前に試行できる機会がほしいと強調された。養護学校の生徒の場合は現場実習を活用している。最近では、普通校に在学する障害のある生徒が対象になるケースも増えてきたが、普通校には職場実習の制度がないため試行が困難である。
国が県を通じて企業、社会福祉法人や教育訓練機関に委託して実施している「障害者の態様に応じた多様な委託訓練」の拡大実施に期待したい。
(2) 所得保障
所得を健常者のレベルにまで高めたいと考えている。
また、一般企業への就労移行が可能なように現場力を高めたいと考えている。
(3) 親の高齢化と家庭の教育環境の調整
掃除・洗濯・食事等の生活能力が不十分な障害者のレベルアップをどう図っていくかが課題である。
(4) 啓発活動と利潤追求の矛盾
団体・公的機関等の啓発活動の要望にできるだけ応えたいが、事業として捉えた時、それに裂かれる時間が貴重である。
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