職場における「うつ病」対策(予防、早期把握、職場復帰)
~“コミュニケーションNo.1”それがメンタルヘルス対策の神髄~
- 事業所名
- 株式会社ほくやく
- 所在地
- 北海道札幌市
- 事業内容
- 医薬品および医療・福祉関連品の販売
- 従業員数
- 947名
- うち障害者数
- 11名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 4 事務、保管管理 内部障害 7 事務、保管管理 知的障害 0 精神障害 0 - 目次
![]() 事業所外観 | ![]() 人を大切にする職場環境を反映したマーク |
1. 事業所の概要と「うつ病」対策の経緯
(1)事業所の概要
平成11年4月に道内医薬品卸2社(ホシ伊藤・バレオ)が合併し株式会社ほくやくとして新たなスタートを切る。
道内21支店、ヘルスケア支店、医療関連札幌支店ほか全道各地に物流センター、その他営業所、業務センター等を運営している。
(2)「うつ病」対策の取り組みの経緯
過去にうつ病等の精神疾患に伴う欠勤が発生した場合、医師の診断書をもとに休職・復帰・配置転換などの対応を行ってきた。しかし発生事例が少なかったことや、休職者は主に役職者であったことから、事業所として特別な対応を行うこともなかった。
平成11年に株式会社ほくやくとして新たなスタートを切り、平成13年から新卒採用を開始すると、新入社員でうつ病等が発生し職場復帰等に向けたフォローに取り組むなかで、メンタルヘルスにおける難しさを認識・経験するとともに職場復帰に向けた流れを構築した。
なお、現在まで職場復帰プログラムを利用した社員は6名ほどであるが、うつ病等のある社員については、精神障害者保健福祉手帳の取得を希望しない本人の意向を尊重し、精神障害者としての雇用扱いにはしていない。
2. 「うつ病」対策の概要
(1)概要(予防、早期把握、職場復帰への対応)
同社で実施されるうつ病等のメンタルヘルス対策は、以下のとおり。
①うつ病等の精神疾患の発症、精神的な不調を未然に防ぐこと。
②うつ病等の精神疾患、精神的な不調の早期発見、早期対応。
③長期欠勤などの業務上支障が発生した社員に適切な支援を行い、職場復帰を円滑化すること。
なお、長期欠勤にいたるケースの職場復帰は職場の理解・協力が非常に必要になるため、人事部が中心になって取り組みを行っている。
(2)取り組みの内容
1)コミュニケーションにより「気づき」を高める
①“コミュニケーションNo.1”
社長の方針の1つに“コミュニケーションNo.1”というものがある。当然、お客様に対してということだが、まず社内のコミュニケーションがとれていることが前提になる。2社合併時には多くの不安もあったが、社内報なども情報共有できる場として内容を構成した。2社の社風が違う中で、お互いのコミュニケーションを取り合う体制が今でも中心的な考え方になっている。コミュニケーションを大切にする意識がアットホームな風通しの良い雰囲気を作っている。
上司と部下が日常的にコミュニケーションがとれていると、部下がミスした時など「こういうことは直さないといけない」といった時に「すいません、最近少し調子が悪いんです」という言葉が時にスッと出て、よく聴くと不調の気づきのきっかけになることがある。不調の度合いが軽度の場合は、早期に負荷軽減するなどの配慮で悪化を未然に防ぎ人事部は介入しない。
平成14年度に「職場と家庭の心のケア」という冊子を全拠点(支店)に配布した。上司と部下に互いにメンタルヘルス意識を高めてもらうことが目的で、部下にはセルフケアとして自らの健康の認識やストレス対処法を意識してもらうとともに、上司(管理責任者)にはラインケアとして部下の異変に対する「気づき」の意識を高めることとした。
②面接による状況把握
同社は、社員の業務評価として半期に1度、面接制度を取り入れている。上司と部下が個別に面接を行う中で、上司からの一方的な評価だけではなく、部下からは自己評価を上司に伝える。これは双方向のコミュニケーション場面として有効であり、部下とのコミュニケーションの改善にもなっている。
面接の際に体調面の相談を部下から持ちかけられることもある。社員の体調の変化については、欠勤・遅刻・早退が度々発生する、職場に来ても辛そうで、明らかに体調が悪い、仕事上のミスや物忘れが頻繁に発生することなどが要因としてあげられる。
また、明らかな異変をきたしてなくても「最近どうも眠れないんです」という日常的コミュニケーションが状況把握においてとても大切になる。
メンタルヘルス対策については、各拠点ごとの面接や日常会話から把握した状況について所属長からの報告を受け、人事部が対応する流れとなる。
2)早期治療のすすめ。“治すことはやすめる(癒す)こと”
「今はちょっと調子が悪いだけです。一生懸命頑張ります。職場を変えないで下さい。」と自分自身も“何かおかしい”と気づいても初期段階には病職(自分が病気であるという認識)がない場合が多い。通院しているケースは別として、療養のための長期休職や職場転換などに対する抵抗(不安)は強い。会社人・社会人としてやっていけない烙印を押されるのでは、との恐怖も重なる。
状態が明らかに悪いときは、人事部から本人に対し「病気ではないか」とはっきり伝える。その際、職場の上司も同席するようにする。「病気は、適切な治療をし、休養すれば治る」と、今まで回復した事例を話し受診を促す。その際はもちろん、本人が強い不安を抱えないよう、職場復帰後のプランを示すことが大切である。
3)休養からの職場復帰プログラム
①配置転換と職場の協力
職場復帰後は、元の部署に戻さない方針である。「部署を変えない方が良い」という考えもあるが、業務上の負荷軽減のためリハビリになる部署を選ぶ。同社は職種が多く、物流部門の品出し、ピッキングのような単純軽作業もあり職場復帰後は、体力面から慣らしていく。本人には、配置転換を療養前に伝えておく。
職場復帰にあたり職場の協力が重要であるが、各職場が人的余裕をもって業務を行っている訳ではない。短期的な協力関係は築けても長期的に協力体制を維持することが難しく、結果として不協和音が生じるケースが多い。職場として「長期欠勤・段階的療養」を受け入れる意向が強い場合は、無理に異動させることはしない。しかし、多くは人事部付けとしてその配置を転換し余剰要員として復帰プログラムを行う。「本人が病気を認知すること」と「職場復帰に向け前向きに努力すること」の姿勢があってはじめて職場復帰プログラムが有効となる。
②療養(休職)3ヶ月・半日出勤3ヶ月
職場復帰に要する期間は、フルタイム出勤まで少なくとも9ヶ月間、長期で1年以上をイメージしている。3ヶ月の休職後、半日出勤を中心に1日おきまたは、2日出社し1日休みなど、睡眠の状況を確認し疲労感を残さないよう配慮する。疲れが残る場合は、無理しないで欠勤するように指示する。朝の状況も配慮し遅めの出社を促す。仕事は責任を負わない様に配慮する。とにかく気楽に肩の力を抜くよう所属長から現場のリーダーに対して指示を出す。本人には、決して“アクセル”は踏ませないようにする。
③半日勤務からフルタイム出勤へ向けるステップの3ヶ月
半日勤務が安定後、勤務時間の3/4勤務を経てフルタイム勤務といったステップを導入する。特にステップの変わり目は体調を崩し欠勤する場合が多いため、現場に理解をもらうことが重要である。半日勤務で毎日出勤できるようになってからは体力的にも改善され、復帰のペースが速くなる。
また、3/4勤務を経てフルタイム勤務に向けたステップでは、多少の疲れであれば過敏にならず出勤してみることも提示する。主治医の判断とともに「誰でも体調が良くないときはある。そろそろ過敏にならず通常の状況を意識する時期である」ことを伝える。
3. 効果の概要(職場のメンタルヘルス対策から見えてきたこと)
メンタルヘルス対象者は、1つの拠点に集中しないようにする。各拠点に分散して配属し基本的に拠点の所属要員ではなく人事部扱いとするが、各拠点では快く受け入れが行われている。1,000人の社員数の事業所にも係わらずコミュニケーション力の結果なのか、各所属長の協力体制は定着してきている。
人事部付けとして職場復帰プログラムのため配置転換を行った本人も職場の理解を得られ、安心して職場復帰に取り組むことが出来ている。日ごろからのコミュニケーションの大切さを改めて認識している。新人社員が抱く同社の印象は、「風通しがよく、アットホームな話しやすい雰囲気」といわれる。メンタルヘルスを心がけるということは、社員に対する “気づき”が増えることとなり、一人一人を大切にすることにつながる。そして、コミュニケーションの良さが働きやすい職場環境を作り出す結果となっている。
![]() |
![]() |
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。