2005年度作成

事業所名

有限会社キクチクリーニング

所在地

青森県むつ市

事業内容

一般ドライクリーニング、家紋加工、特殊加工（スコッチガード加工等）、ホテル・旅館等の洗濯業

従業員数

40名

うち障害者数

14名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	0
肢体不自由	0
内部障害	0
知的障害	14	整理・仕上げ・たたみ作業・洗場
精神障害	0

目次

1. 障害者雇用の経緯と雇用後の状況
2. 障害者雇用の取り組み
3. 障害者雇用の考え方と今後の方策

1. 障害者雇用の経緯と雇用後の状況

（1）知的障害者雇用の経緯

　有限会社キクチクリーニングは、昭和31年に創業、昭和44年に設立された。

　30年程前に、遊びがてら良く顔を出していたクリーニング業の経営経験者でもある下肢障害者を、本人からの入社希望で障害者として初めて採用。

　障害者採用は経験の無いことで、当初は多少の不安もあったが、入社後の勤務ぶりは不安を払拭させるほどの経験者らしい働きであり、性格も一生懸命さを持っていた人であった。

　その後、いろいろな機会に順次障害者を採用し、現在知的障害者14名を雇用している。

（2）雇用後の状況

　現在雇用しているのは知的障害者ばかりであるが、当社の作業は知的障害といえども動作・行動に差し支えなければ、それぞれに合った作業を担当させることで業務は可能であると理解されている。

　一方では、特に手の動作に不自由さを持っている上肢障害者は作業の性質上なかなか採用が難しい。

　単純的な担当作業ではあるが、皆さんよくやっており勤務経験の長い障害者は熟練者としてしっかりした作業ぶりを見せている。

2. 障害者雇用の取り組み

（1）作業配置、作業工程等

　採用直後は簡単な作業として「シーツのたたみ」等を担当させ、その仕事ぶりをよく観察して作業や職場に対する適性を見るようにしている。

　その際、作業適性ばかりではなく、性格面にも注視するようにしており、一人の人間としての全体的な特性を把握することが大切と考えている。

　話し好きなタイプなのか話し下手なのか、得意なことや不得意なことは何なのか等をしっかり理解したうえで、担当作業の配置を考慮するようにしており、他のメンバーとの円滑な作業を期待する上で欠かせない内容となっている。

　障害者には意外と仕事仲間としての相性も見られ、新しい採用があった場合は、作業仲間としての全体の配置を見直すこともしばしばである。

　ここ2年前くらいからは、日常で大きな問題は特になく、みなさん一生懸命やってくれているとのこと。かえって、中には勤務経験の長い障害者は障害の無い社員よりもベテランらしい味を出すこともあるほどである。

　健常者と混じっての作業行程を担当させているが、全体の流れは工場長が仕切っているものの、健常者の同僚たちも慣れた感じで作業上のやり取りをしていて、安心して見ていられる。

　知的障害者の行動特性を理解し、作業行程の流れの中でも、障害者が担当する部署は障害者自身に任せるようにしているが、知的障害者は自分が担当している部分については「自分が責任者」という意識が強いので、任せることでかえってスムーズに作業が進んでいる。

　知的障害者の多くが「自分が責任者」意識になって仕事をしているが、全体のコントロールは工場長が上手に行っている。
 

工場内部

工場設備

 

（2）障害者への対応

　現在、事業所の寮に2名入居しているが、その他は自宅からの通勤者である。家族の送迎の他に徒歩やバス通勤、自転車通勤のものもいる状況であるが、通勤上の問題は特に無いとのこと。
 

　30年程前からの障害者雇用ではあるが、当初から全てが順調であったわけでもないようで、いろいろと問題を抱えておられてきた話もお伺いできた。

　これらのお話は、障害者雇用をマイナスとして捉えた話題ではなく、経営者として障害者雇用を前向きに捉えるからこその自信と意欲に裏打ちされた思い出話として理解させていただき、筆者を感動させるに十分な内容であった。

　職場で同僚とケンカをして長時間トイレに籠もってしまい、あげくに自宅へ電話をして嘆くため、母親が心配してあわてて駆けつけてきたケース。あるいは、健常者へのイタズラ的行動。例えば、他人の弁当のつまみ食い、他人のロッカー内にある私物へのイタズラ等があって、健常者が困ってしまう場面が多々見られた時期もあった。

　中には、悪意ではないのであろうが、クリーニング商品を自宅へ持ち帰ってしまうことも一度ならず何度か見られたが、商品の持ち帰りには、何度も何度も諦めずに注意を繰り返して「いけないこと」であることを分かってもらったりしたとのこと。

　イタズラ的行動に対しては、知的障害者らしい「注目されたい、誰か相手をして欲しい」という欲求の現れではあろうが、働くと言うことは「集団生活的職場」であることを分かってもらうことが先ず必要であるという考え方に立って、安易な思いやり的妥協ではなく、対応をキチッとしてきたとのこと。

　筆者はそんなお考えにいたく興味を覚え具体的な対応をお聞きした。

　イタズラ的行動を起こす障害者については、「親」と「養護学校の先生」と「事業所」、「本人」を交えて徹底に議論してきた。本人に「他人が嫌がること」の自覚を持ってもらうまで、何回でも話し合った。

　おかげで最近は職場内も落ち着いてきて、大したトラブルもなくやっていますと余裕ある表情での社長の言葉であった。

　そして、社長からは、「養護学校の先生も熱心で、当事業所とは車で2時間以上もかかる遠い青森から何度も相談・支援に来てくださいました。先生方も一生懸命ですよ。」との言葉が重ねられていた。

 

3. 障害者雇用の考え方と今後の方策

　訪問した時は前社長である会長と現社長が同席し、昔の話から最近の話までいろいろ会話が弾んだ。

　特に、会長からは今までの体験の中から「障害者雇用」に対する力強い信念を感じさせる貴重な話が聞けたことは有り難い限りである。

　精神障害者の社会復帰訓練の受入れ等、障害者雇用への理解の深い事業所なだけに、様々な施設や機関とも縁が深いからこその問題提起的話題は今後の障害者雇用に心しなくてはいけない点も含んでいた。

　中でも障害者の障害の状況について適切な情報提供を、との意見は、「障害者を事業所に押し込む」的発想ではなく、「事業所として障害者を活用する」雇用環境作りには欠かせない点であろう。

　情報の未開示のままに採用し、採用後に事業所内で大きな問題が生じた事例を思い出話としてされていたが、「そんなご苦労をしながらの障害者雇用」であることに改めて会長や社長の揺るぎない「障害者雇用」への信念を感じさせられた思いである。

　そんな事例も、障害者雇用の大変さとしてではなく、「そんな事もあったよな～」と話す会長。そして、社長は、過去の話にこだわることなく、「今後は、障害者4、5人に一人ぐらいずつ健常者のチーフを付けようかと考えている」と、新たな障害者活用のための作業展開をイメージしている。

　経営者も、健常者も、そして障害者も相互に寄りかかり合うのではなく、それぞれが自分のなすべき事、やるべき事に一生懸命になることが、真に障害者雇用の環境づくりではないだろうか。

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