2005年度作成

事業所名

有限会社小野印刷所

所在地

青森県弘前市

事業内容

出版物を中心とした各種印刷、ウェブサービス（ホームページやeコマースの提案）

従業員数

44名

うち障害者数

10名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	4	集版工、製本工、文選工、パソコン操作
肢体不自由	4	写植工、パソコン操作
内部障害	0
知的障害	2	製本工
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要と障害者雇用
2. 障害者雇用の取り組み
3. 今後の課題点
4. まとめ

1. 事業所の概要と障害者雇用

（1）事業所の概要

　有限会社小野印刷所は、大正14年に創立、県内での障害者雇用促進協会の設立当時の会員企業であり、当初から障害者雇用に対し非常に理解を示している。創業者が社会貢献のために行った障害者雇用が現在に至るまで続けられている。

　前社長は長く当協会の理事として障害者雇用促進活動の先頭を歩み、印刷業界のみならず、県内各業界企業への障害者雇用環境づくりに際して良き影響を与え、現在も引き続き理事として活躍している。

（2）障害者雇用の状況

　全体的に障害のある従業員は勤続年数が長いことから業務的にもベテランが多く、採用後の定着率も高い。

　現10名の障害者の勤続年数は次の通り。

　　10年以上勤務者　5名

　　30年以上勤務者　5名

　過去の退職者は、定年か進行性の内臓疾患によるもののみである。

　今までの雇用状況を振り返って障害者個々のレベルにおいても、業務遂行上特に職場での問題点は見受けられず、雇用上の苦労も特には無いが、強いて上げれば、聴覚障害者にはコミュニケーションに気を配りながら接することを心がけているとのこと。

　業務にあたって障害のある従業員は2人以上の複数体制で担当させているが、人間関係上でのトラブルも特になくスムーズに業務が進められている。

2. 障害者雇用の取り組み

（1）作業配置等

　採用後は、障害者の障害の部位、障害の程度を考慮しつつ担当業務を決めて配置している。

　障害者を対象とした特別な教育指導はしていないが、必要に応じて指導や訓練を実施している。

　今までの経験からも、障害部位や程度の把握を前提に配置を判断することが定着率アップにつながっているのではないか、と社長は考えているようである。

　知的障害者には、判断を要する作業内容は困難な部分があるため、単純作業の工程（紙折りや断裁など）を担当させているが、健常者と違って、飽きずに一生懸命業務に励んでいる。

　参考までに重度障害者の担当部署は次のようになっている。

　　製本　2名（聴覚、知的）、

　　組版　1名（聴覚）

　　入力　2名（肢体、聴覚）

 

工場内部

 

（2）障害者への対応

　障害者への特別な配慮、対応は特に意識していない、とは社長の弁であるが、長い障害者雇用の経験が「特別な対応を必要としない」と言わしめるほどに「健常者と障害者」が一体化した職場になっているということなのであろう。

　また、当社には、障害者の良き相談相手がいる。前社長の奥さんが、当社の「障害者職業生活相談員」として、障害者の生活指導を中心にコミュニケーションに気を使いながら障害者の相手をしている。

　奥さんは、病院勤務を長くやってこられ、看護師としての豊富な経験から、様々な面で相談相手や指導をされている。今回は直接お話をお伺いする機会は無かったものの障害者にとっては力強い味方であることがうかがわれた。

　なお、社長の「取り立てて問題はない」、「特別なことは何もしていない」といったあまりにも淡々とした応対に対し、正直物足りなさを感じたため、一年前に就任した新しい社長として障害のある従業員について、より多く聞かせていただきたく失礼も顧みず二度も訪問した。

　創業80年を超える歴史や30年以上もの障害者雇用経験は、外部の人間が「何かノウハウがあるはず」と尋ねてみても表面的な対応などは出てこない程の重みなのであろう。

　例えば、聴覚障害のある従業員への対応については、当然のこととして手話通訳者の養成を行うといった受入れ環境を整える努力をしてきたが、いつの間にか他の社員たちが自発的に手話を覚えたことで手話担当者が必要なくなってしまったことなどがあげられる。

　このような話も、社長は自ら得意気に話すことはなく、筆者の幾度にもわたる質問に苦笑いしながら、「そうですね・・・、例えば・・・」と話した内容であった。

　障害者雇用を特別な配慮を前提としたものではなく、障害者でも健常者でも、一旦雇用した以上は適性を見極め、障害の部位や程度に応じて配置していく、というとても基本的な対応こそが、職場定着を高める極意と再認識した。

 

3. 今後の課題点

　印刷業界は、以前は特定分野で経験が優先される技能職という世界であったが、ここ10年程前からはIT化と言われる技術革新が進み、その流れに積極的に立ち向かう姿勢が要求されている業界へと変貌しているのが、現在の印刷業界の現状である。そのような状況のなかで、障害者は機器の取り扱いを理解し慣れるのは難しく、なかなかついていくのが大変なようである。

　健常者でも技術革新への対応は難しく、ある障害者は意欲を見せ、また現場指導者も積極的に指導を行ったものの、新しい機械への順応がうまくできず成果があがらなかったことから、結局、別工程へ配置せざるを得なかったケースがあった。

　また、企業を取り巻く社会環境も以前とは変化してきており、社会的な役割を大きく期待され、現在、当社でも事業活動の中で環境保全の取り組みを積極的にすすめている。

　なお、従来のような一面的な事業成果では企業として社会の評価が得られない時代であり、当然、社内業務も技術の熟練のみを求めるのではなく、幅広く社会と連携した業務について理解と取り組み姿勢が社員一人ひとりに要求されてもいる。社会的な役割を果たすべく、健常者と障害者の垣根を取り除く流れは、現在のところ当社の障害のある従業員の職場環境や業務環境といった配慮する取り組みに特に影響を及ぼすものではないが、今後無視できない流れである事は心得ていかなければならないとのことであった。
 

筆者と会話中の社長

4. まとめ

　二度目に訪問の帰り際、社長から「昔の話ですが」と、こんな話題が出た。

　重度の聴覚障害のある従業員が、毎朝、自発的に事業所の入り口の清掃を始めた。業務の一環や障害者という意識からの取り組みでもなく、社員の一人としての行動だった。

　当社は、その行為に対し他の社員の模範として社内表彰を行い、このことを機として、今では従業員みんなで分担して清掃するようになったとのこと。

　そっと口にした遠慮気味の口調であったが、障害者と健常者の区別をもたない当社のムードが垣間見られる話題であり、このような内容が日常的に見られる企業であるという強い思いを抱きながら訪問を終えた。

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