「日本一小さなレトルト工場の手作りカレー」を全国へ
- 事業所名
- 有限会社とりもと
- 所在地
- 岩手県宮古市
- 事業内容
- 飲食業、レトルト食品製造販売
- 従業員数
- 7名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 5 調理・厨房業務、接客、仕入れ、レトルト製造 精神障害 0 - 目次
![]() 飲食店「鳥もと」は宮古市の 繁華街にある(写真は店内) |
1. 事業所の概要
(1)事業の内容
・飲食店「鳥もと」、カレー専門店「カリー亭」の経営
・レトルトパック食品(焼き鳥、カレー)の加工販売
(2)経営方針(企業理念)
・おいしくて安全な食品を提供する。
(3)障害者雇用の理念
・生涯にわたり、自立した生活を保障できるような職場にしたい。
(4)レトルト事業が売り上げを伸ばす
「カリー亭」のレトルトは本格的なカレーが手軽に味わえると評判。特に、柔らかく煮込んだ骨付きのもも肉が入っている「チキンカレー」はヒット商品。また、「無添加で安心・安全な食品としての企業姿勢も買われ、店頭販売だけでなく、岩手県内の「道の駅」やデパートなどでも取り扱っている。さらに業務用の加工も請け負い、首都圏近郊の観光地やゴルフ場のレストランなどにも卸している。「手作りなので、その土地の名物を使ったカレーのオーダーにも対応でき、小ロットでも受注できることがカリー亭の特徴」と小幡佳子取締役は述べる。「日本一小さなレトルト工場の手作りカレー」をキャッチフレーズにしている。カリー亭の店の売り上げだけでは赤字だが、レトルトの販路を広げることで、売り上げを伸ばしている。
2. 障害者雇用の経緯
(1)背景
昭和54年に焼き鳥店「鳥もと」を開店した小幡勉代表取締役、小幡佳子取締役夫婦は、昭和60年頃、地域で付き合いのあった知的障害者施設の園長から、「養護学校を卒業しても就職先がなく、授産施設も空き待ちの人たちがいる」という話を聞いたことが、障害者雇用に取り組むきっかけとなった。
小幡夫婦は東京出身で、宮古市に移住し現在の店を持った。地域に親戚や知り合いもないところからスタートしただけに、人とのつながりを大切にしている様子がうかがえる。また、福祉施設に対しても、利用者の職業能力の向上や自立について強い関心を持ち、小幡夫婦と施設の職員や寮母との良好な関係が、当店と施設の有機的な支援体制を築いていると言える。
「障害者雇用のきっかけについては、行きがかり上、雇うことになっただけですが、もう十数年のつきあいになった今になって振り返ると、うちは子どもがいないので、彼らを育てることで自分たちも育っていった感じがします」と小幡佳子取締役は述べる。
![]() 小幡勉代表取締役・
佳子取締役夫婦 |
(2)経緯
①訓練から雇用へ
相談を受けた施設から、3人の障害者を「訓練」の形でローテーションを組んで1日に2人ずつ出勤するようにした。当初は施設の指導員が店まで送り迎えしていたが、やがて「外に出かけることが喜びになった」本人たちの意思で、バス通勤に切り替わった。
当社での仕事は鶏肉を串に刺す作業。施設との連絡を兼ねてノートをつけ、個別に作業量(串刺しの本数)を記録していったところ、お互いの競争意識がやる気と技術の進歩につながったようで、およそ1年かけて技術を習得した。社会参加のための「訓練」で始めたが、徐々に作業時間を延長し、体力を配慮して10時~16時の週3日雇用とした。また、3人が競争心を持って意欲的に仕事に臨んだため3人全員を雇用した。
②焼き鳥からカレーへ
やがて小幡夫婦は「焼き鳥の仕事を続けても、彼らが自立していくのは難しいのではないか」と、彼らの将来を案じるようになる。そこで「カレーでレシピを確立すれば、店を運営していくことができるのではないか」と考え、平成7年、カレー専門店「カリー亭」を開店した。現在勤務している5人の従業員は、全員「カリー亭」に配属している。
レシピは1年ほどかけて研究に研究を重ね、宮古地域には珍しい、スパイスなどを使った本格的な味を作り出した。当初、地元ではなかなか受け入れなれなかったが、盛岡や県外から徐々にリピーターが来るようになり、知名度が上がっていった。そこでレトルトパックでの販売を思いつき、1年後に開始。さらに1年後、レトルト加工の機械を購入し、外注ではなく店内で加工できるようにしたため、機動力が上がり販路が広がった。
③助成金の活用
「カリー亭」での障害者雇用に際しては、平成6年に障害者作業施設設置等助成金(第1種)を活用し、作業施設である厨房、またウォーマーテーブルや食器洗浄機、煮炊攪拌機といった設備を設置した。加えて、平成10年には重度障害者等通勤対策助成金(住宅の賃借助成金)を活用し、社員寮を改築した。現在社員寮には3人の障害のある従業員が利用している。
当初は障害者雇用の助成制度などについてよく知らず、「もっと早く知っていれば他にも利用できる制度もあった」との思いもある。
![]() レトルトの加工施設と厨房
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![]() 業務用レトルトを
殺菌機から取り出す |
![]() 手羽先を串に刺す作業
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3. 障害者雇用にあたっての取り組み
(1)一人一人の能力を見ながら、適した仕事を考えている。なお、「カリー亭」はバイキング形式で、価格は888円に設定。オーダーを受ける際のミスや、レジの打ち間違いを少なくするための工夫である。
(2)当社の方針は「現場主義」。仕事はやりながら覚えていくものなので、根気強く繰り返し教え、覚えてもらう。間違いは、その時その場で正す。調理などで失敗があった時は、即やり直しをさせ、問題を先送りしない。時には「これが済んだらお昼」と決めてやり直し作業をするため昼休みが夕方近くなることもあるが、従業員にとってはルールとして身についているようだ。叱る時ははっきりと厳しく叱り、叱られている理由を確認する。これはもちろん小幡夫婦と従業員とのこれまで蓄積された信頼関係(愛情)があってこそできる叱り方である。
小幡勉代表取締役は3人の障害のある従業員を連れて、宮古市(太平洋)から秋田市(日本海)まで横断する2泊3日の自転車の旅をしたことがある。彼らにとって社長は仕事上だけでなく人生においても「頼もしくてちょっと怖い」父親のような存在である。
![]() ミーティングの様子
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4. 取り組みの効果
(1)取り組みを実施したことによる効果
従業員一人ひとりに鶏肉の串刺し、カリー亭の仕入れ・調理・接客、レトルトパック食品(焼き鳥やカレー)の製造について担当を持たせたため、責任感を持って仕事に臨んでいる。
(2)障害者雇用の波及効果やメリット
「メリットなどは考えたこともない。強いて言うなら、障害者福祉に関わる人たちとのヨコのつながりができ、相談相手ができたことです。また、福祉の人たちにとっても当店があることは何がしかのメリットになっていると思います」と小幡社長は述べる。
「鳥もと」で訓練生として受け入れていた頃、仕事を覚えることに時間がかかり大変だったが、小幡佳子取締役は「店が明るくなった」と感じている。当事、求人を出してもなかなかいい従業員が採用できなかったこともあり、障害があってもやる気があって明るい人たちを育ててみようとの気持ちになったと言う。
(3)障害者自身のコメント
厨房で働いている従業員からは「うちのカレーはおいしいとよく言われます」、ウェイトレスからは「バイキングではなく、オーダーがとりたくなってきたので、もうすぐメニューが変わります」というように、店や自分の仕事に自信を持っている様子がうかがわれた。
なお、従業員の小国さんは、宮古自動車学校の手厚い指導により、平成16年に普通自動車免許を取得。同じく昆さんも、平成16年に普通免許、平成17年に自動二輪の免許を所得した。「知的障害を乗り越え、免許を取得」と新聞にも取り上げられたことを本人が誇らしげに話してくれた。
![]() 和やかな接客風景
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5. 今後の課題・展望
「横濱カレーミュージアム」のレトルトカレー博物館へ出品が決まり、商品の評価・知名度は年々高まっている。また、安全・安心な「食」に関わるさまざまな業界の人々が集う「食の学校」会員としても活動し、人的ネットワークも広がっている。「うちは福祉施設ではなく、商売としてカレーを作っているし、いい商品を作れば売れると思っている」という小幡代表取締役。今後も商品開発とレトルト商品の販路拡大をめざし、「従業員の労働条件を良くしていきたい」と希望を話した。
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