身体に障害のある方への配慮により雇用継続している事例
~雇用継続は、経営者の理解と本人の努力から~
- 事業所名
- 株式会社山形メイコー
- 所在地
- 山形県西村山郡河北町
- 事業内容
- プリント配線板の製造
- 従業員数
- 342名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 物流 聴覚障害 0 肢体不自由 5 検査、修理、出荷、清掃 内部障害 0 知的障害 1 清掃 精神障害 0 - 目次
![]() 社屋(左奥に見えるのが Fさんの従事する第3工場) |
1. 事業所の概要
株式会社山形メイコーは、山形県のほぼ中央部に位置し、満々と豊かに流れる最上川のほとり、西には遥かに雄峰月山を望む『雛とべに花の里』河北町にある。山形自動車道寒河江インターと東北中央道東根インターに程近く、また山形空港から車で約10分と、交通の便も良好である。
当社は昭和57年に設立し、自動車、携帯電話、コンピュータ関連機器、ゲーム機等のエレクトロニクス製品に組み込まれる“神経”の部分であるプリント配線板を開発、製造している。国内外に広く14の拠点を持つメイコーグループ(本社:株式会社メイコー。神奈川県)の中でも、特に高付加価値品、高密度対応品の量産に特化し、コストパフォーマンスや供給キャパシティに優れた工場である。また平成10年にはISO9002認証登録(平成15年にはISO9001/2000年版認証登録)、平成13年にはISO14001認証登録している。
事業所全体に向心力があり、社員が一丸となって同じ目標に向かっていることの表れといえる。
![]() 中村紀三工場長
|
2. 身体に障害のあるFさん雇用の経緯
(1)職場実習、トライアル雇用(ジョブコーチ支援)を経て採用へ
養護学校を卒業したFさんが入社したのは平成17年4月。3ヶ月のトライアル雇用を経て7月には正式に契約社員となった。Fさんは重い下肢障害があり、普段の移動は車いすを利用しており、クラッチ杖を使っての歩行はごく短い距離に限られる。高等部3年の冬から当社で職場実習を行い、その後雇用に至った。筆者も担当ジョブコーチの1人として、4月入社と同時に就労支援を行った。
(2)通勤のための本人・家族の取り組み
①改造自動車
就職にあたって一番の心配が通勤であった。それまでは家族の送迎が主な移動手段であったが、働く以上は自力で通勤できる方がよい。そこで全ての操作を上肢だけでできるように改造した自動車をまず購入し、それを自動車学校に持ち込んで教習を受けた。
②通勤付き添い
仕事が終わってから自動車学校に通う日々が続き、6月に免許を取得した。自分で運転しての通勤を始めたが、手でのアクセル・ブレーキ操作はフットペダル以上に繊細さを要するため難しく、また急な危険回避動作にも心配があったため、しばらくの間は家族が助手席に同乗して通勤の様子を見守った。このため事業所も安心することができた。現在は1人で運転している。
3. 勤務条件に関する事業所の配慮
(1)勤務時間
運転免許取得・自力通勤が勤務継続にとって大事な要素と判断し、規程にない勤務時間短縮について配慮した。自動車学校に通う間は15:00を退社時間とした。自車通勤開始後も運転に慣れるまでは勤務時間は変更せず、約1ヶ月後に1時間延長、盆明けに正規の勤務時間である17:30までと徐々に延ばすことで、本人の過度の疲労や体調不良を防いだ。
(2)休暇
Fさんは、リハビリと内科的疾患の治療で月2回の通院が必要であるため、採用時点で相談や確認を行った結果、必要な休暇や早退を認めた。
(3)休憩時間
Fさんは手洗いに時間と回数を要するほか、車いすとクラッチ杖で移動するため、あまり人の多い所での移動も困難となる。そのため、正規の休憩時間以外で、Fさんの仕事の区切り・体調に応じた時間帯に手洗いに向かうことを認めた。
(4)段差のないフロア
事業所内は殆どの製品を台車で運搬するため、最初からフロアに段差は設けていない。通路にはみ出して物品が置かれていることもなく、台車が十分通れる幅が確保されている。そのため、車いすでも外から工場内に入って作業机までの移動については支障はない。精密機器を移動するための配慮が、そのままFさんの車いす移動にも快適な環境となっている。
![]() 平らで通りやすい通路
|
(5)駐車スペース
社員の駐車場は事業所の敷地外にあり、移動距離も長いうえ道路を横断しなければならないことから、Fさんの駐車場所は事業所の敷地内の来客用駐車場を使用することとした。来訪者受付のすぐ脇であり、守衛の人がFさんの車の乗り降りを見守っている。
また、山形県は豪雪地帯であり、冬は雪が車いすの行く手を阻み、来客用駐車場から工場入口までの数十メートルの移動が難しくなる。そこで12月には工場入口脇に駐車位置を変更した。普段そのスペースへ入ってくる廃棄物処理業者のトラック運転手も協力を得ている。
4. 作業に関する事業所の配慮
Fさんの仕事はいくつか座り作業を設定しているが、中心になるのは携帯電話の電池基板の小不良表示である。製品の基盤は指で触っても小さな傷が付くため、事前にチェックする必要がある。製造過程での不良品ではないため小不良と表現している。1枚の基板には数十の電池部品があり、それぞれ番号がついている。別部署から、微細な傷等の小不良のある部品番号が示されてくるので、Fさんはその番号の定められた位置に、ペンでマーキングしたり、シールを貼付する作業を行っている。
![]() 小不良マーキング作業
|
![]() 基板が置かれる棚
|
(1)製品の運搬距離が短い
従来から、不良箇所のない基板とある基板は別々の場所で扱うシステムにしており、不良箇所のある基板が運ばれてくる場所にFさんを配属しているので、Fさんが製品を取りに行って運んでくる必要はない。班長が持ってきて製品棚に置いた製品をFさんは棚から隣の机まで運んで作業し、終わったらまた隣の棚に戻しておけば班長が取りに来る。
このように移動障害を踏まえた運搬距離が短い部署への配属について配慮がなされている。
(2)呼び鈴
このように班長と離れた場所の配置において、班長への質問や確認を行う際に、班長を呼ぶための呼び鈴を置いた。内線電話や照明表示を導入するのは大がかりだが、呼び鈴であれば簡易に改善が図られ音もよく通る。
![]() 呼び鈴
|
(3)ミスを防ぐサンプルとマニュアル
マーキングの位置と方法は、製品の種類によって全て異なる。初めは毎回班長が対応していたが、Fさんの習得度に合わせて、既に作成されていたマニュアルや、現物を使ったサンプルを導入した。小不良表示作業はFさんが入社する前は他部署の人が折を見て行っていた作業なので、マニュアルは写真と注意すべきポイントが載っている、まさに“これを見れば誰がやっても間違わない”ユニバーサルデザインである。
普段からこういったミス防止策が当たり前に行われている事業所であれば、障害のある方を雇用したからといって慌てることは全くなく、同じものを障害のある方にも使えばいいだけ、というわけである。
![]() マーキング作業マニュアル
|
(4)与える作業の選別
どんな事業所でも納期や締め切りまでに作業を完成させることが常に求められているが、なかには毎月一定数をその月内で完成させればよいというような、“大急ぎ指示”が生じない作業というものがある。Fさんには自分のペースで仕事ができるよう、スピードよりも正確さを求める作業を設定している。
(5)優先順位の指示
班長が作業の優先順位をその都度指示する。正確にハッキリと伝えていることが作業の遅れを防いでいる。
優先順位指示は、周囲全体の状況を適確に把握して何が優先かを自力で判断することが苦手な、知的障害・精神障害のある方にとっても、有効かつ必要な方法である。ただし、指示者の“指示したつもり”“伝わった筈”という思い込みが、作業や人間関係の歯車を狂わせるので注意が必要である。指示は相手が正確に理解できてはじめて成立するものであって、そこに至らないのであれば指示者の側で、説明の仕方や伝達の方法を工夫する必要がある。
5. 今後の課題
(1)作業能力をより高める
今後Fさんに求めるものは、現在の正確性を保ちながら徐々にスピードアップしていくことである。そのためには、①それぞれの作業のポイントをしっかり押さえること、②そのポイントを意識し続けること、③Fさん自身が作業能率を数量等の具体的なデータで認識すること、が必要となる。①や②は前に挙げた様々な取り組みを当社が継続するとともに、Fさんが経験を積み重ねることが大事である。また当社では毎日退勤時にその日の作業数をコンピュータに入力して報告することとしているので、その数値を③に利用することも検討できる。
(2)新たな仕事に挑戦する
いつまでも同じ仕事が与えられるとは限らず、また、Fさんには企業人として自分の仕事の幅を広げていこうとする努力も必要である。当社ではFさんに、働く喜びをもっと味わってほしいという思いもあって、徐々に新たな仕事を与えていく方針である。人間の目視では発見できない通電不良部分をコンピュータで解析する装置『CAN-LINE』の操作から、近いうちに経験させる予定である。
(3)課題へ取り組む当社のスタンス
いずれの課題についても事業所が「社員に不要な負担をかけない範囲で、少しずつ」というスタンスで取り組んでいる。勿論その背景には“品質第一、顧客満足度向上最優先”という当社の品質方針が従業員に浸透している、ということもあるが、同時に“人を育てる”ことに長けた従業員が大勢いるということも述べておきたい。働く者の意欲を削がずにやる気を引き出すための良い課題を与えるのが、当社の特徴と言える。
6. 働いて9ヶ月…Fさんの言葉
「この会社には、高校3年の職場実習の時からお世話になっています。その時と同じ作業をさせていただいているので、入社時の戸惑いはなかったです。私の作業は移動範囲が定まっているので助かります。」
トイレに1段だけ段差があるが、と筆者が尋ねると、「あのくらいはクラッチ杖で越えられるので大丈夫です。」と甘えすぎない答えが返ってきた。そして何より「わからないことは近くのSさん、Hさんに聞けばすぐ教えてくださるし、お昼ご飯もご一緒させていただいています。これからもこの会社で頑張っていきます!」と、周りの従業員がFさんを支えていることが励みになっていることを教えてくれた。
7. まとめ~障害者雇用が円滑に進む当社のポイント~
・人的組織がしっかり構築されている
・品質管理のための方策がしっかり構築されている
・適材適所の意識が事業所全体にわたって活きている
・社員が力を発揮するための個に応じた配慮をいとわない
・社員が聞きたい時にすぐ聞けて、すぐ教えてくれる人的環境が整っている
・新入社員を仲間としてあたたかく受け入れる風土がある
これらを見ると、障害のある方の雇用継続の要因は、すぐれた企業経営の要因とも重なっているように感じられる。障害者雇用が円滑に進むかどうかでその事業所の体制・基盤がどれだけしっかりしているか、企業の体力・成長力がどれだけあるかが見て取れると言っても過言ではないかもしれない。企業は人、と強く感じさせられる事業所である。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。