事業所名

医療法人社団山形愛心会庄内余目病院

所在地

山形県東田川郡庄内町

事業内容

医療機関。入院（一般病床、亜急性病床、療養病床）、外来、通所リハビリテーション、介護予防デイサービス等

従業員数

319名

うち障害者数

3名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	0
肢体不自由	1	電話交換業務
内部障害	1	看護助手
知的障害	1	介護補助業務
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要
2. 障害者雇用の経緯
3. 事業所の取組み
4. これからの課題
5. 病院における知的障害者雇用の可能性

1. 事業所の概要

（1）事業内容

　医療法人社団山形愛心会庄内余目病院は、平成3年8月1日に山形県庄内地域の庄内町（旧余目町）に開設された医療機関である。事業内容は、入院（一般病床、亜急性期病床、療養病床）、外来、透析、通所リハビリ、介護予防デイサービスなどである。

　職員数は319名（平成17年10月1日現在）、うち障害のある職員は3名（身体障害者2名、知的障害1名、いずれも重度障害者）である。

（2）事業所の理念

　当院の理念は以下のとおりである。

　・生命を安心して預けられる病院

　・健康と生活を守る病院

　・地域とふれあい地域に感謝する病院

2. 障害者雇用の経緯

　当院が初めて障害者を雇用したのは平成6年3月である。当初採用されたのは下肢障害のある人で、現在も電話交換業務に就いている。さらに内部障害（週3回当院で透析を受けている）のある職員が別部門に看護助手として勤務しており、加えて、平成17年1月職場実習完了後、知的障害のある人を1人採用し現在介護補助業務に配置している。

　ここでは、この介護補助業務に就いているAさんを取り上げる。

（1）採用経緯

　Aさんは、山形県が主催している知的障害者対象の事業でホームヘルパー3級の資格を取得した。この事業は単に資格を取得させるだけでなく、労働・教育・福祉関係機関によるネットワーク体制によって、介護職への就労条件を整え、介護職への就労に結びつくよう支援するものである。

　平成16年11月頃、ハローワークから、ヘルパー3級の資格があるAさんの研修受け入れについての打診を受けた。院内で検討したところ、当院は急性期病床と療養型病床の両方を備えたケアミックス型の地域医療を展開しているが、療養型病棟内で介護補助業務に限定するとAさんが対応できることが想定され雇用も可能ではないかという判断により、資格未取得者の研修や高校の福祉科の職場体験（1週間）を受け入れてきた療養型病棟で1ヶ月間研修を行った。

　研修では、Aさんは、特定の仕事をゆっくりやるのであれば仕事ができることが確認できた。研修期間が終わり、当院、山形県障害者雇用促進協会、ハローワーク、家族の間であらためて支援・助成制度の検討が行われ、Aさんは当院に平成17年1月から療養型病棟での介護補助業務で採用した。
 

（2）勤務形態

　Aさんは非常勤勤務で、夜勤は無く日勤のみの週5日勤務である。研修中は月曜日から金曜日までの勤務であったが、現在は月1回程度、平日の通院日の代わりに土曜日または日曜日に勤務することもある。時給は現在650円で最低賃金基準は満たしている。

3. 事業所の取組み

（1）職場の選択

　病院は患者の病状の変化に応じた判断・行動を求められる業務が多いが、Aさんを配置した療養型病棟であれば、咄嗟の判断をあまり必要としない定型的な業務がいくつか存在する。また、療養型病棟は患者の入退院が少ないため、Aさんの業務を介護業務に限定し継続的に提供することができる。

　当院がAさんを研修と同じ職場に配属した理由は、Aさんの場合はできるだけ環境を変えないことが必要であることを研修を通して認識していたからである。研修と同じ職場であれば、職務内容もある程度把握しており、指導者を含め既に知っている職員と勤務することができる。
 

（2）職務の設定

　当院では、Aさんを含め看護補助者はチーム医療の一員と位置づけている。従って業務は補助的な内容であるが、医療・看護に携わる職業人として自覚と責任が求められる。

　Aさんの職務は、ベッドメーキング、患者の退院後の病室の後片付け、湯茶の準備と配茶、水分補給の準備、ポータブル便器の処理及び洗浄、食事介助、食事の後片付け、タオルの洗濯、食事用エプロンの洗濯・干し・たたみ（写真）、リネンの返却・受け取り（不潔リネンの返却、清潔リネンの受け取り、看護職員の看護衣等の洗濯依頼と受け取り）などである。直接患者と接しない部分では一人で活動する（例：食事の後の清掃など）。
 

Aさんがエプロンをたたんでいるところ

（3）日誌

　Aさんは勤務終了時に毎日、日誌をつけている（写真）。これは研修中から続けられている。Aさんの監督を担当している職員が、日誌を書いてもらうことでAさんが仕事について何を考えているのか知る手がかりになるのではと考えたからである。

　日誌は、まず本人が実施した職務内容と「まとめ」を書いた後、一緒に仕事をしている指導者のコメントを加えたものを、Aさんの監督にあたっている看護部長のチェックを受ける。看護部長は内容のチェックだけでなく、誤字も訂正する。

　この日誌によって、Aさんの毎日の仕事の様子と併せて、特に必要な援助がきちんとできているか、安全確保ができているかを把握することができる。なお、研修中はAさんの父にも日誌をみてもらい、コメントをもらっていた。
 

Aさんがつけている日誌

　当院では、Aさんの能力と特性にあった職場と職務を見つけて配置することによって、Aさんは生き生きと仕事をしている。併せて、Aさんが一人でできる部分は仕事を任せていることが、Aさんの仕事に対する満足度を高めている。仕事の様子は日誌を利用して把握し、適切な指導を行っている。

4. これからの課題

　当院が課題として考えていることは、Aさんが今後も現在の職務を継続することに対して満足できるかということである。もっと他の仕事もしたいと思うようになることは十分考えられるが、現在の状況では職務を拡大することは難しい。職場自体の業務拡大でもなければ、Aさんの職務内容は簡単には変わらないだろう。

　Aさんの能力をまだ十分に活用しきれていない、ということもあり、当院はAさんの能力をどう活用していけばいいか検討しているところである。

5. 病院における知的障害者雇用の可能性

　本事例から、病院における知的障害者の雇用の可能性について考えてみたい。

　最近病院で設置している療養型病棟が、判断が苦手な人たちの職場となりうる可能性がある。環境がめまぐるしく変化し、とっさの判断が求められるので、知的障害がある場合、職務をこなすことは困難が予想される急性病棟に対して、療養型病棟は定型的な職務が少なくない。また、例えば洗濯物の整理整頓、清掃、昼食時の野菜の洗浄など利用者や患者と直接接しない職務もある。ただし、これらの職務が最近外部委託されていることも多いという問題がある。

　近年、知的障害者の職場として福祉施設に期待が寄せられているが、病院の療養型病棟も同じような特徴をもっている。福祉施設や療養型病棟が知的障害者にとって適した職場であると考えられる他の理由としては、今後も設置が増加するだろうという量的な面だけでなく、職務がバラエティに富んでおり、指揮命令系統の混乱が少ないということ、また研修になれている職場であることなどがあげられる。

　しかし、福祉施設や病院の職員が接するのは福祉サービスの利用者であり、患者であるということを忘れてはならない。どのような職場でも働く者の責任感が問われるが、特に病院や福祉施設は、利用者の生命に関わる職場であり、働く者には他の職場以上の責任と自覚が求められ、それは知的障害者であっても同様である。医療や福祉の現場において知的障害者の雇用拡大を図るには、介護技術の習得を図るだけでなく、命を預かる職場で働く意味の理解を促す取り組みも非常に重要である。