心かよい合う医療
~自らの役割を認識できる職場環境~
- 事業所名
- 医療法人三愛会 池田記念病院・池田温泉病院
- 所在地
- 福島県須賀川市
- 事業内容
- 医療業務
- 従業員数
- 168名(法人全体)
- うち障害者数
- 12名
障害 人数 従事業務 視覚障害 8 マッサージ、看護助手、事務 聴覚障害 0 肢体不自由 3 マッサージ、薬剤師、事務 内部障害 1 事務 知的障害 0 精神障害 0 - 目次
![]() 池田記念病院外観
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1. 法人の設立経緯と事業内容
同法人が経営する池田記念病院は昭和35年池田医院として開設され、昭和38年池田病院に改組、平成5年に現在の名称に改称した。また、昭和57年には池田温泉病院が併設され現在に至っている。池田記念病院は須賀川市の市街地に、池田温泉病院は同市の郊外に設置している。
法人の全職員数は168人である。主な診療科目は記念病院が内科・整形外科・呼吸器科・外科・歯科・リハビリなど計9科、温泉病院は内科、整形外科、放射線科、リハビリの計4科である。
病院のモットー 1.誠実 医療人として常識を踏まえ、従業員守則を順守し、病める患者を大切にホスピタリーの精神を発揮し、職員は経営者の経営方針を良く理解し、心を一つにして、素直に陰ひなたなく、「和と協調と連帯」の精神をもって勤労すること。 2.三愛の精神を尊ぶこと 三愛とは?[三つの愛] ①人間愛(人を愛すること) 患者さんを大切にし、自分を含めて人類を愛する事です。 ②職業愛(仕事を愛すること) 私たちが安心して働き、生活の糧を与えてくれる職場に感謝し、医療職の聖業として使命に立脚し、自分の仕事に対し、自覚と誇りを持って仕事に当たることです。 ③社会愛(社会・国を愛すること) 私たちが安心して生活ができ、仕事の出来る社会・国に感謝し愛する愛国心をいいます。 |
2. 障害者雇用の状況
(1)雇用の状況
三愛会池田記念病院・同温泉病院を合わせ、平成17年11月現在で総職員数168人の内12人が障害があり、障害者雇用率は7.1%である。これは法定雇用率1.8%を大きく上回っており、さらに病院がその職種の特性から40%の除外率が設定されていることを考えると、最低基準に対して約7倍の雇用となっている。
雇用している障害者の内訳は視覚障害者が8人(男性4人女性4人)、上肢障害者2人(男女各1人)、下肢障害者1人(男性)、内部障害1人(男性)である。
雇用のきっかけは、約10年前にリハビリテーション部門を充実させる際に一括雇用し、雇用した障害者の多くが現在まで、長期間離転職もなく継続しているとのことであった。このことから、法人が障害者雇用に対し理解を示していることがうかがえ、かつ障害のある職員にとっても働きやすい職場環境であることが想像できる。
(2)職場での労働環境
障害のある12人のうち7人が従事しているマッサージ業務は、医師の指示を受け専門の資格を持って患者に対する医療行為に携わるものである。主としてリハビリテーション室において患者のマッサージ業務に従事しているが、各自が専門職としての自覚と誇り、あるいは組織の中での役割を理解し業務に携わっている様子がうかがえる。また、勤務時間も一般職員と同様に設定している。なお、上肢障害のある職員は視覚に障害のある職員のマッサージ業務の補助に従事している。看護師や理学療法士、患者も含めて笑顔が絶えず、非常に明るい雰囲気のなかで職務を遂行している様子が非常に印象的であった。
![]() マッサージ業務
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3. 障害者雇用に際しての工夫と配慮
(1)通勤に対する送迎の配慮
同記念病院は須賀川駅からほど近い位置に立地するものの、視覚に障害のある職員にとっては車や人通りの多い場所での通勤は困難な状況である。そこで、視覚に障害のある職員を含め、自力で通勤することに困難が見られる障害のある職員に対し、日常からリハビリテーションを受けに来院する患者の無料送迎用の車両を利用し、患者の送迎時間外を利用し須賀川駅近辺から送迎を行っているとのことであった。同様のことが郊外にある同温泉病院でも行われており、法人として障害のある職員専用の送迎車両を用意しなくとも、積雪の多い冬季の通勤に対する配慮がなされている。
(2)労働条件・院内体制
障害のある職員12人の労働条件(賃金・福利厚生)は他の一般職員と全く同じである。障害のある職員の大半が視覚に障害があるが、資格を得て専門知識を生かした技能職であるため、健常者と同様に(あるいは健常者以上に)職務を遂行できるためである。なお、技能職として視覚を有している職員に対しては、資格手当が加算される。
院内の体制に関しても、同様の理由で特別な配慮は特に設けておらず、また、配慮せずとも十分業務が遂行できている。
(3)人的支援・人間関係
専門職として勤務している障害者に対し、法人として特別な条件や配慮は設けていない反面、視覚障害者が周囲の様子が把握できず不安げな様子に気づいた際には、池田正宏総務部長ほか周囲の職員がすかさずはたらきかけている。すなわち、障害によるデメリットを理解し、適宜コミュニケーションを図りながら良好な職場環境づくりに取り組んでいる。
また、過去に資格を取得しておらず補助的な仕事をしている障害のある職員から、資格を取得し専門職に従事したいとの申し出を受け、現場にて教育を行ったこともある。結果的には、本人の事情で資格取得には至らなかったが、今後も申し出があれば対応するとのことであった。
(4)建築的な配慮
出勤時は、通用口を利用する一般職員とは別に、正門前に送迎車を止め、歩行誘導ブロックや手すりが敷設されている患者用の動線で職場まで移動させている。また、患者用と併用しているトイレやシャワーは、勤務場所であるリハビリテーション室にほど近い位置にあり、前面のスペースを広くとっている。視覚障害者にとって日常動線を一定にすることは危険防止や安心を得るために重要なことであり、建築的にも働きやすい配慮を反映した環境が形成されている。
なお、両病院とも外来用の建築的配慮(スロープ、手すりなど)は十分に整っているが、建築後年数の経った記念病院は、平成16年度に福島県のやさしいまちづくり条例に基づいた「やさしいまちづくり推進事業補助金」を受け、患者の施設利用に対するさりげない配慮を反映するような設備を整えた。
![]() 手すりと点字ブロック
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(5)その他
当法人の、専門の資格や技術を持った障害者を積極的に受け入れる取り組みは大きく評価することができ、障害者が自立するための一つの例として大いに参考にするべきである。
なお、当法人の障害者雇用の取り組みは、患者のみならず周辺住民への影響も大きいものがある。特に普段からリハビリを受けている患者にとっては、障害のある職員が働いている状況は日常的なものとなっており、障害者に対する意識が良い意味で変化してきているようである。またリハビリを受けていない(普段障害のある職員と接していない)患者からは「障害者を雇用しているのですか。知りませんでした。」という感歎の声が聞かれるとのことであった。障害者の雇用が良い意味で周辺地域に根付いてきたものと思われる。
4. 今後の展望
当法人の障害者雇用は、大半がその専門的な職種上、資格の取得が条件であることはやむを得ないことであるが、逆を述べれば障害者でも資格・技術を習得することにより自立が可能であると言える。また、事業主が特に障害者を雇用するための組織や規則を設けず、ほんの少しの配慮だけで障害者にも働きやすい職場環境が形成されていることは障害者雇用のモデルケースとなりうる。
池田総務部長が「これと言って何もしていないからお恥ずかしい」と謙虚に述べているが、逆に何もする必要が無いほどに障害者が職場にとけ込んでいることを強く感じる。また、周囲の職員のさりげないフォローがあれば良い職場環境が形成されるということであった。同法人の経営方針の一部に以下のような文言がある。
「自らの役割を認識し、他との連携・協調を図る。相手の人格を尊重し、相手の心をいたわり、自らは謙虚に、相互信頼を築ける人材を育てる。」
この方針が職場内に浸透しており、これまで述べてきたような職場環境が形成されているのではなかろうか。福祉の基本理念にノーマライゼーション(障害のある人が地域社会に当然に抱含する)があるが、同法人はまさにこの理念を実践していると感じた。
今後の障害者雇用について、池田総務部長からは、温泉病院については新たに温泉を利用した水中歩行訓練ができる施設等を計画しており、事業開始の際には障害者を雇用したいとのことであった。障害者の雇用機会の拡大のために、今後に大いに期待したい。
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