ジョブコーチ支援を活用し、重度知的障害者の雇用の可能性を広げる
- 事業所名
- 森山産業株式会社宇都宮工場
- 所在地
- 栃木県塩谷郡高根沢町
- 事業内容
- 照明キーパーツ(自動車計器板用電球ソケット、照明器具ほか)及びプラスチック成形品の開発・製造・販売
- 従業員数
- 115名(事業所全体で125名)
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 2 プラスチック成形品の表面補修補助、ランプの電流値検査 精神障害 0 - 目次
![]() 事業所全景 |
1. 事業所の経営方針と組織構成、障害者雇用の理念
(1)経営方針
森山産業株式会社宇都宮工場では、以下の行動指針を基に、“生き生きと働くことができる環境づくり”に努めている。『職掌・多能工化』『数値目標管理』そして“コミュニケーション”を柱に、心に潜む前向きな良心への刺激による活性化が狙いである。
当工場の行動指針
①『少数になれば皆精鋭になしうる(能力・開発)』を信じ、一人一人の自主的態度と積極的な意欲の高揚を図ろう
②効率のよい業務・管理の標準化を永久推進し、「誰にでもわかる」「誰にでもできる」「安心して任せられる」をモットーに職場の垣根を越えた職掌・多能工化を図ろう
(2)組織構成
当工場は、“ものづくり”の主役である製造部を技術部・量産開発部・管理部の3つのセクションがバックアップする組織体制の下に、115名の従業員が働いている。
男女比率は、男性4割に女性6割、従業員比率は正社員3割に非正社員が7割(内訳は準社員・嘱託が1割、パート・アルバイトが6割)である。
(3)障害者雇用の理念
多様な雇用形態において、人的資源の有効活用という観点から、年齢・性別・学歴等よりも「人(個)」に視点を置き、個人の“特性(個性・能力)”を最大限に、背伸びし過ぎることなく発揮してもらうことを第一に考えた雇用を図っている。その一環として、ポジティブ・アクション(注)への取り組みが群を抜いて進められているほか、数年前から若者や中高齢者、多様な形態で勤務している社員、そして障害者といった社員への支援にも力を入れ、労使双方ギブアンドテイクの精神で効果を出している。“特性(個性・能力)”を仕事に活かすことは個々の社員の自信ややる気、喜びにつながり、事業所へ利益をもたらすことを基本姿勢としている。
当工場は、障害者雇用に関してはまだ開始したばかりであるが、一日のうちの大半を過ごす職場で、生き生きと働くことのできる環境が提供できるよう、日々試行錯誤を繰り返しながら、更に受け入れの輪を広げるよう努力している。
(注)ポジティブ・アクション
積極的改善措置。過去に形成されてきた社会的・構造的な差別によって不利益を受けているグループに対し、実質的な機会均等を確保するための配慮。クオータ制(割当制)はとらないが、状況に応じて特定の数値目標を定め、一定期間内に実質的な機会均等と結果の平等が実現するよう努力することを指す。
2. 障害者雇用の取り組み経緯・背景
(1)経緯・背景
当工場では、1年前、業務の一部を4~5年前から委託している2つの障害者施設(作業所)の紹介で24歳の知的障害のある男性を受け入れたのが取り組みの契機であった。
続いて職業安定所の紹介で、25歳の重度の知的障害のある女性(Aさん)を、ジョブコーチ支援を利用し2ヶ月間の実習と3ヶ月間のトライアル雇用を経て正式雇用し、照明器具の電流値検査(ランプをテスターにかけ合否を確認する作業)に従事させている。
(2)Aさんの雇用に向けた取り組みの具体的内容
1)2ヶ月間の実習から3ヶ月間のトライアル雇用へ
受け入れにあたって、工場長が自ら各部署を廻り障害者が従事できる作業種を選定した。
隣町のグループホームで暮らすAさんは、ジョブコーチの通勤支援(電車・バスの乗降)をはじめ基本的労働習慣の習得や職務遂行に係る基本的な部分での支援を受けながら実習を続けるが、障害の重さ故の就労に対する心構えの未熟さや甘さが重なり、スキル上昇の跡が見られないなか、トライアル雇用も利用し改善を図ることとした。なお、トライアル雇用期間中は一日5時間勤務とした。
2)トライアル雇用から正式雇用へ
3ヶ月間のトライアル雇用期間中も、引き続きジョブコーチによる懸命の支援を受けながら状況をうかがったが、「できる日とできない日」の波が極端に見られた。ハローワークの担当官や障害者職業センターの障害者職業カウンセラー、ジョブコーチを交えて最終判断を行うケース会議が開かれる2日程前に、ジョブコーチに来社を求め、意見を聞く場面を設けるとともに、現時点で当工場としては採用は厳しい旨の意向を伝えた。
ケース会議では、出勤態度は評価するものの、作業意欲や作業量が求める最低レベルに達していないことから採用は難しい旨を説明した。しかし、ハローワークの上席指導官や障害者職業センターの障害者職業カウンセラーからの熱意を受け、最終的には工場長が「何かの縁があって当社に来たのだから、もう少し様子を見てみよう」と幹部を説得し、採用となった。
3)雇用後の取り組みと結果
Aさんの電流値検査に対する作業遂行のレベル向上を図るうえで、ジョブコーチの支援を受けながら、「課題分析」という、出勤から職務遂行状態、退勤までの観察を通し、不足している内容とそのレベルの検証、改善方法を検討することとした。具体的な取り組みは以下のとおり。
①出勤から退勤までの動き方について、Aさんの能力に合わせ、時系列的に並べて分かりやすく示す。
②目標数値を、一日単位から半日単位あるいは時間単位まで短く設定するとともに、その目標をAさんの近くに置く。
③視覚的にうったえる材料として出来高確認表(棒グラフ)を作成し、目標ラインを設定、Aさんが自ら結果を記入することで励みの材料とした。目標値としては、トライアル雇用期間中の状況から一日あたりの予測作業量3,600個に対して4,000で設定した。
④作業テーブルが若干高いため、スノコを敷き無理のない姿勢で作業が出来るようにする。
![]() 高さ調整用スノコ
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⑤完成品の袋入れを従来の2倍の大きさに変更することで収納回数を減らし、時間短縮を図る。
⑥作業テーブル上にデジタルカウンターを設置し、自ら生産数が分かるようにする。
![]() ![]() デジタルカウンター
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これらの内容について、日々の出来高数と様子をジョブコーチに報告させるようにした。
雇用後の1か月後において、当工場とジョブコーチによる取り組みにより、Aさんは毎日コンスタントに4,000個をこなし、日によっては4,200~4,300個遂行できる日も出てきた。
3. 重度の知的障害者の雇用に向けた当工場の考え方
(1)当工場の取り組み姿勢
障害者の持つハンディキャップを「これはできない」と否定し行わせないことは簡単であるが、当工場は一度彼らにトライさせる取り組みを行った。配置部署の担当者は彼らに進捗状況の報告や分析を行わせ、目標が達成できなかった場合は原因を明確にしている。
また、「障害者を育てる」といった姿勢が全面に表れ、ある種障害があることに妥協しないため、一見障害者に対して厳しい職場に思われがちであるが、現在彼らが従事している職種がなくなった場合のことや、彼らを理解している関係者が永遠に携わる訳ではないこと等、将来のことまで配慮している職場でもある。
ノーマライゼーションの理念を貫く当工場の取り組み姿勢は、発想の転換さえすれば(相当レベルは高いが)、女性パートや嘱託員、高齢者など「様々な方への支援の一つ」であり、「それ程受け入れに関して身構える必要はないんだよ」という事を教示している。
(2)ジョブコーチの立場から見た当工場の取り組みについて
通常、我々支援者は、「事業所に理解を求めること」を「障害者のハンディを認めてもらうこと」に止めてしまいがちである。当工場の取り組みを通じて、事業所に求める理解とは、「できなくともいいんだよ」と言うことではなく、障害がある故の限界を見極めた上で、できなかったら「できるように周囲が工夫すればよい。」と言う、ごく自然な発想であり、本人の可能性を追求していくというジョブコーチの理念であることを再認識した。
また、当工場の大きなアピールポイントは、障害者を大勢の方が支えているところである。これは、障害者・健常者を問わず言えることで、例えば事業所内で困っている人がいれば自然に助けるという当たり前のことがなかなか出来ないものである。こうした部分が随所に見られ、当工場全体の意識の高さを知ることになった。
さらに、事業所は受け入れるための方策を講じてくれる。→ジョブコーチもそれに応えるため努力する。→利用者(障害者)も一生懸命頑張る。ふと気づくと、こんな図式になっていたような気がしてならない。
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