地域に密着した事業の多角化を進め、障害者の職域拡大と地域社会への貢献を目指す
- 事業所名
- 株式会社京急ウィズ (京浜急行電鉄株式会社の特例子会社)
- 所在地
- 神奈川県川崎市
- 事業内容
- 親会社(京浜急行電鉄株式会社)の業務請負、受託
- (駅清掃、駐輪場管理、印刷、布団乾燥、クリーニング、リサイクル等)
- 従業員数
- 51名
- うち障害者数
- 29名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 1 清掃 内部障害 1 清掃 知的障害 25 清掃、リサイクル、クリーニング、パンの製造・販売 精神障害 2 パンの製造・販売 - 目次
1. 事業所の概要
(1)概要
株式会社京急ウィズは、京浜急行電鉄株式会社の特例子会社として、平成15年9月に設立した。親会社は障害者の雇用義務が軽減される除外率設定業種に指定されている鉄道業で、当社は民鉄業界で初めて特例子会社として認可された。当社は、地域社会との良好な関係を発展させるための重要な取り組みとして、障害者や高齢者の雇用を創出する場として位置付けられている。
当社の事業内容は、駅清掃、駐輪場管理、名刺作成、布団乾燥、クリーニングなどである。
概要については図表1の通り。
図表1 株式会社京急ウィズ 会社概要
設立 | 2003(平成15)年9月11日 | |
営業開始 | 2003(平成15)年9月16日 | |
資本金 | 1,000万円(京浜急行電鉄(株)100%出資) | |
従業員数 | 計 | 51名 |
知的障害者 | 25名 | |
身体障害者 | 2名(肢体不自由1・内部1) | |
精神障害者 | 2名(トライアル中を含む) | |
出向者・他 | 22名 | |
本社所在地 | 神奈川県川崎市 | |
業種 | サービス業 | |
事業内容 | 業務請負・受託 (駅清掃・駐輪場管理・名刺作成・布団乾燥・クリーニング・他) |
|
運営方針 | ●ノーマライゼーション意識の徹底 ●生産性を発揮できる仕組み作り ●職域拡大の推進と個々人の能力向上 |
(2)社名・ロゴマーク
社名の「ウィズ」は障害者と健常者が「共に」働くことと、「~と共に」という意味の英語に由来している。またウィズのロゴマーク(図表2)はグリーンの四つ葉のクローバーで、グリーンは安らぎ(安心)、協調(共生)を象徴し、四つ葉のクローバーは障害者・高齢者・健常者・およびそれらを取り巻く地域社会を表す。ロゴマークには、共に安心して希望できる就労と安定した労働力を確保することで「ノーマライゼーション(共生)の環境作りを目指す」という意味がこめられている。

2. 具体的な取り組み
(1)駅清掃
1)作業内容
当社では障害のある社員を「クローバースタッフ」と称している(以下「スタッフ」という)。
知的障害のあるスタッフは、京急川崎、横須賀中央、汐入の各駅構内施設の清掃を行う(写真1・2)。スタッフが清掃を行う箇所は、通路、改札周辺、階段、エスカレーター、トイレ等である。このほか床面のガム取りや広告看板、ATM、電話機の拭き掃除も行う。


2)作業体制
京急川崎駅の清掃は、リーダー1名とスタッフ10名。横須賀中央駅および汐入駅はリーダー1名とスタッフ6名という体制で行う。
リーダーはいずれも親会社からの出向社員で、主な職務は作業の割り振りおよび指示、進捗状況の管理である。社内には当日および翌日のスケジュール、担当作業、担当者が示された時間割表が掲示されてあり、誰が、いつ、どこで、何をするかという作業の大まかな流れがわかるようになっている。
スタッフおよびリーダーは土日を含めて勤務し平日に交替で休むため、リーダーの公休日には代行者がこれらの職務を担当すると同時に、誰の指示に従って作業をするかがシフト表によってスタッフにわかるようにしている。
リーダーの上には現場統括者として業務担当マネジャーが1名おり、シフト管理、作業現場の巡回、変化・トラブルへの対応等を担当している。
なお当社では、スタッフ及び現場指導者を支援するために、平成17年4月にジョブコーチを新規に採用した。以前「職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援事業」により支援を受けたことがあり、それを機にスタッフ本人だけでなく職場全体を支援する必要があることを認識していたことが背景にある。
平成17年11月時点における作業体制は、図表3のように表される。

3)一日の作業の流れ
駅清掃を担当するスタッフの勤務時間は、8時30分から午後4時50分までである。駅構内で作業をするため、土日を含めて勤務し、週休を2日取るようにしている。
スタッフは出勤すると朝礼を行い、当日の作業指示をリーダーから受けて作業に入る。
通路、改札周辺、階段の清掃は、ほうきとちり取りを用い、階段は上段から下段という順序で作業を進める。エスカレーターについては、ベルト周囲のステンレス部分の拭き掃除、ポールの拭き掃除、エスカレーター回りの手すりガラスの拭き掃除を行う。
一つの作業が終わると、スタッフはリーダーに報告し次の指示を受ける。トイレが急に汚れるといった状況が発生した場合は、その駅を担当する全スタッフが直ちに清掃に取りかかる。
また、1日1回、午後2時に「重点清掃」と称して特定の場所を重点的に清掃する。重点清掃の場所は当日朝にスタッフに伝える。
清掃にあたっては、利用客の流れを止めず安全に作業をするよう心がけている。これから清掃しようとする場所を客が使用しているときは、その客が移動するまで待つ。ほうきやちり取りといった道具を用いるときには、客にぶつからないよう左右を確認してから動き出すようにする。作業場面以外に研修やミーティングでも、他人に怪我をさせず、自分も怪我をしないように意識付けを行っている。
(2)クリーニング
1)作業内容
クリーニング業は、平成17年11月21日から逗子市で開業した。京急新逗子駅近くにある関連会社の社屋を改装してクリーニング工場とし、親会社社員が宿直用に使用する駅構内の宿泊施設のリネン類のクリーニングを行う。
業務時間は9時から午後5時20分までである。開業後しばらくの間はシーツとピロケースのみを扱うこととし、将来は扱う品目を増やす予定である。
2)準備態勢
業務開始にあたり、ハローワークの合同面接会を経て、逗子近辺・横須賀地区に住む知的障害者4人を平成17年11月1日付で採用した。
スタッフへの指導・支援は、指導員2人(出向社員1人、パート1人)と業務マネジャー(出向社員)が担当する。またスタッフへの作業指導ならびに指導員・マネジャーへの支援技法に係る指導のため、ジョブコーチを任期付きで新規に1人採用した。11月1日から開業までの間、社員はジョブコーチの指導のもとで作業を習得した。
3)作業遂行上の配慮と工夫
クリーニング作業の流れは、図表4を参照。
作業にあたっては、知的障害のあるスタッフがスムーズに遂行できるよう、視覚的な配慮や工夫をしている。例えば、洗濯前のシーツは赤、ピロケースは青のバスケットに区別して入れる(写真3)。また、洗濯機、乾燥機、アイロン等には赤と緑のランプを設置し、赤のランプがついていれば運転中、緑のランプがついていれば運転が止まっているので機械に触れてもよいことを表す。洗剤や洗濯用の糊は所定の位置に置くこととし、計量カップに印をつけて一回分の使用量がわかるようにしている。このほか機械に印をつける(図表4のアイロン)、機械の使い方を掲示するといった配慮・工夫をしている。


(3)ベーカリー
京急県立大学駅に「スワンベーカリー県立大学駅店」を開店する予定である。同店は株式会社スワン(以下「スワン」という)のチェーン店の一つで、開店準備やパン製造技術等の支援をスワンから受けて運営する。
開店にあたり、知的障害者をフルタイムで4人、精神障害者をパートタイムで2人採用した。精神障害者を雇用するのは初の試みであった。
知的障害者や精神障害者は、対人コミュニケーションや臨機応変な対応などが要求される接客や販売には不向きとする見方があるが、障害者による接客・販売に実績を持つスワンで培われた技術やノウハウを活用し、新たな職域拡大の可能性を探求している。
※株式会社スワン
ヤマト運輸の特例子会社で、ベーカリー直営店の運営ならびにチェーン店への開店準備、パン製造、技術研修等の支援を行っている。直営店ならびにチェーン店では障害者もパンの製造・販売を行う。スワンはベーカリーショップ「アンデルセン」「リトルマーメイド」を展開するタカキベーカリーと業務提携を行い、技術・ノウハウ等の提供を受けている。平成17年9月時点で直営店は3店、チェーン店は11店を運営している。
(4)その他の業務
親会社グループのホテルパシフィック東京において、当社の知的障害のあるスタッフ5人が、廃棄物のリサイクル業務及びホテルの周回道路の清掃に従事している(写真4)。


(5)作業以外の配慮
知的障害のあるスタッフの生活面については、地域就労援助センター(神奈川県の制度に基づく公設民営機関)や東京都大田区の新蒲田福祉センターから支援を受けており、必要に応じて管理者から福祉関係者と連絡を取ることもある。
精神障害のあるスタッフの雇用にあたっては、就労支援機関を通じ医師の指示等について細かく情報提供を受けるなど、支援関係者との信頼関係の構築及び連携に努めている。
また、事業所単位のレクリエーション活動として、年に2回の懇親会を行う(写真6)。懇親会にはスタッフや管理者のほか、保護者や就労支援機関の関係者も参加するので、複数の場所に分散して勤務するスタッフ同士やスタッフと管理者の親睦を図るだけでなく、保護者が管理者と接し、スタッフの仕事ぶりを知る良い機会にもなっている。

写真左は駅の清掃業務を
担当する舘野寿子さん。
右は松本洋一総務部長
3. 当社の取り組みが示唆する新たな経営方法
当社の特色は、京急沿線の地域に密着して事業の多角化を進めることにより、障害者の職域拡大と地域社会への貢献を目指している点にある。単一あるいは関連する複数の事業を行う特例子会社が多い中で、駅清掃、クリーニング、ベーカリー、名刺作成等それぞれ異なる事業を展開している点は、他社にない特色といえる。しかも駅清掃やベーカリーなど、地域住民の目にとまりやすい業務を通じて、障害者が働くことを地域にアピールしている。
相互に関連のない事業を手掛けることによる多角化の特色としては、第一に何らかの外部資源の利用が不可欠になること、第二に多角化によって既存のものとは異質の経営資源の蓄積が新たに可能になること、第三に前もって全社的な戦略的事業マップないしビジョンが必要とされることが多い点があげられている。
このような見解にしたがって考えると、当社は障害者雇用の場を創出することで地域社会に貢献するとともに、良好な関係を発展させるという親会社グループ全体のビジョンの下で、ジョブコーチ、他企業、就労支援機関、福祉機関等の社会資源を活用しながらさまざまな事業を展開し、障害者の職域拡大およびノーマライゼーションの実現という新たな経営資源の蓄積を目指しているといえる(図表5)。
ビジョン | 障害者雇用の場を創出して地域社会に貢献し、 そことの良好な関係を発展させる |
社会資源の利用 | 就労支援機関、ジョブコーチ、他企業、 精神障害者の支援機関、等 |
異質な経営資源の蓄積 | 障害者の職域拡大、ノーマライゼーションの実現、 クリーニング・ベーカリーの業務ノウハウ、等 |
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