障害を問わない職務設定と精神障害者の積極的な雇用
- 事業所名
- 富士ソフト企画株式会社(富士ソフト株式会社の特例子会社)
- 所在地
- 神奈川県鎌倉市
- 事業内容
- サーバー管理、ホームページの作成・管理、データ入力、名刺作成、不動産管理、保険代理店業務
- 従業員数
- 145名
- うち障害者数
- 96名
- ※従事業務については、障害別に業務分担は行っていない
障害 人数 従事業務 視覚障害 3 データ入力、ホームページの作成・管理、文書の編集・校正・管理、調査、データベース作成、システム管理、総務事務、名刺作成、不動産管理、保険代理店業務、就職促進委託訓練事業の運営 聴覚障害 14 肢体不自由 36 内部障害 3 知的障害 19 精神障害 21 - 目次
1. 事業所の概要
富士ソフト企画株式会社は、富士ソフト株式会社の特例子会社として、平成3年1月に設立、平成12年4月に身体障害者の雇用を開始し、同年9月に特例子会社の認定を受けた。
障害者の職務に関して、障害別にかかわりなく社員が1人1台のパソコンを使用して働いていることは、当社の特色の一つである。
また、現在当社には、身体障害に加えて知的障害や精神障害のある社員も勤務している。特に精神障害者の雇用を積極的に行っており、平成18年3月1日時点で21名在籍している。この点は当社の最大の特色といえるだろう。
当社の概要を図表1に、社員の障害別内訳を図表2に、沿革を図表3に示す。また作業の様子を写真1~3に示す。
設立 | 平成3年1月 | |
営業開始 | 平成12年9月 | |
資本金 | 4,000万円(富士ソフト(株)100%出資) | |
従業員数 | 計 | 145名 |
知的障害者 | 96名 | |
身体障害者 | 49名 | |
本社所在地 | 本社(鎌倉市) 横浜営業所 長崎営業所(佐世保市) |
|
事業内容 | Webサーバー・メールサーバーの管理 ホームページの作成及びメンテナンス データ入力 名刺作成 不動産の賃貸借及び管理 生命保険・損害保険代理店業務 |
|
モットー | 品質・納期・機密保持 | |
業種 | サービス業 |
身体障害 | 肢体不自由 | 36(20) | 56(30) |
聴覚 | 14(6) | ||
視覚 | 3(2) | ||
内部 | 3(2) | ||
知的障害 | 19(1) | ||
精神障害 | 21 | ||
計 | 96(31) |
年 | 月 | |
平成3 | 1 | 有限会社ケイアール企画設立 |
平成12 | 3 | 組織・商号を富士ソフト企画株式会社に変更 |
4 | 身体障害者の雇用を開始 | |
9 | 富士ソフト(株)の特例子会社として認定 | |
平成13 | 7 | 知的障害者の雇用を開始 |
平成14 | 5 | エレベータ完成 車いすを使用する社員の雇用を開始 |
9 | 社有車を購入 大船駅・本社間で送迎を開始 |
|
平成15 | 4 | 精神障害者の雇用を開始 |
平成17 | 1 | 全館障害者用トイレ・事務所ドア引き戸工事完了 |
2.具体的な取り組み
(1)労働条件
社員の労働条件は、図表4に示す通りである。
社員は1年毎に契約を更新する嘱託社員である。勤務時間は原則として午前9時から午後5時40分までであるが、これより短い勤務時間で契約する社員もいる。残業は基本的にない。
残業を基本的に行わせないことや短時間勤務、送迎サービスといった形で、障害のある社員が働きやすいように労働条件面で配慮を行っている。
勤務時間 | 9:00~17:40(昼休み12:00~13:00) 社員の都合により勤務時間は適宜契約 例)10:00~17:00、9:00~16:00など |
残業 | 基本的になし |
休日 | 土、日、祝祭日、年末年始、夏期休暇、慶弔休暇、有給休暇 |
給与 | 110,000円~(勤務時間が9:00~17:40の場合) |
手当 | 通勤手当(全額支給)、食事手当 |
賞与 | 年2回支給(または一時金支給) |
社会保険 | 厚生年金、雇用保険、労災保険、健康保険、介護保険(40歳以上) |
福利厚生 | 自社保養所 ※親会社と共用 本社・大船駅間の送迎 |
定年 | 60歳(本人の希望により65歳まで延長可能 |
レクリエーション活動 | 社員旅行(年1回)、地引網、花見等 |
個人面談 | 6か月に1度実施 |
(2)身体障害のある社員への配慮
1)社屋のバリアフリー化
身体障害のある社員を多数雇用する当社は、社屋のバリアフリー化を積極的に行ってきた。
扉はすべて引き戸である。通路は車いすがすれ違えるほど広い。床面の高低差のあるところでは段差をなくしスロープを設けている。上の階あるいは下の階への移動にはエレベーターを利用することができる。
平成17年1月には、全館で障害者用のトイレが完成した。トイレに入ると自動的に照明が点灯する。個室は車いすを使用する人が使いやすいように広めに取ってあり、洋式便器に近づくと自動的にふたが開く。用便後センサーに手を近づけると水が流れる。手を洗うときにはカランの下に手をかざすと水が出て、手を引くと止まる。換気扇の運転・停止もセンサーにより行われる。トイレから出ると一定時間後に自動的に消灯する。
2)通勤における送迎
通勤にも配慮している。前述のように平成14年9月に社有車を購入し、目の不自由な社員や足の不自由な社員を主な利用対象として、大船駅と当社の間で送迎を行っている。
当社は大船駅から徒歩約12分の所にあるが、通勤路の道幅が比較的狭いため移動中に危険を伴うこともあることから、送迎を行うことにより通勤の便の向上を図っている。
以上のように、社屋のバリアフリー化や送迎などにより、身体障害のある社員をはじめ、さまざまな障害のある社員が職場で快適に過ごし、能力を発揮できるような配慮を行っている。
(3)知的障害のある社員への配慮
平成13年7月に1人の知的障害者を採用した。知的障害者がパソコンの入力作業をするという他社の事例を知ってその事業所を見学し、地域就労援助センター(神奈川県の制度に基づく公設民営機関)からパソコンのできる知的障害者の紹介を受け実習を行った結果、採用を決めた。
その後彼らの採用を増やし、ローマ字入力など基本作業の習得、インターネットの住所検索サイトの活用、メールアドレス例・ローマ字・間違いやすい漢字の一覧表を作成、掲示するといった方法により、文字の理解が不得手な社員が作業をしやすいように環境を整えた。
なお、この取り組みは、平成14年度障害者雇用職場改善好事例(知的障害者)で奨励賞を受賞した。
更に社員はパソコンの技能を向上させ、データ入力に加えてホームページ作成、ネットワーク管理も行うようになった。
(4)精神障害のある社員への配慮
1)精神障害者雇用の経緯
精神障害者は平成15年4月に初めて採用した。採用までのいきさつは、さまざまな障害者の就労支援機関との話し合いから、精神障害者の実習の希望が多いことがわかり、親会社の了解を得た上で、1人の実習を当時の「ジョブコーチによる人的支援パイロット事業」の下で受け入れたことから始まる。
その後実習生はトライアル雇用に移行し、平成15年4月に本採用となった。以後、精神障害者の採用を増やし、平成18年3月時点で21名雇用している。
2)社内でのリハビリテーション・カウンセリングの実施
なお、当社では精神障害のある社員が職場に適応し、安定した職業生活を送れるようにするため、人材開発グループ(障害者の職業能力のアセスメント、実習、採用、及び国の就職促進委託訓練事業を行う部門)にカウンセリングの専任者を配置し、彼らに対してトライアル雇用の段階から本採用の後まで継続してリハビリテーション・カウンセリングを行っている。また、必要があれば、社員本人と直属上司とカウンセラーとの三者面談も実施する。精神障害者の支援機関や医療機関とは、社員に問題が生じたときに相談するといった形で連携を行っている。
※当社のリハビリテーション・カウンセリングの具体的な取り組みについては、佐織壽雄「精神障害者の就労における職業リハビリテーションカウンセリングの事例研究」(『第12回職業リハビリテーション研究発表会論文集』[高齢・障害者雇用支援機構主催]pp. 47-50)で詳しく説明している。
採用にあたっては、まず応募者を3か月間のトライアル雇用で人材開発グループに配置する。トライアル雇用は1日3~6時間といった短い勤務時間でスタートし、無理なく職場に適応できるように本人の希望や主治医の意見を考慮しながらカウンセリングを行い、段階的に時間を延長する仕組みをとっている。症状によっては最初からフルタイムで勤務する者もいる。
トライアル雇用の期間中に当社が必要な人物と判断した場合、社内各部門のニーズ及び本人の適性と希望を見きわめた上で本採用とし、配属先を決定する。
当社は、チームで1つのプロジェクトを行う形で仕事を進めるが、精神障害のある社員が所属するチームには人員を多めに配置し、体調不良や通院による遅刻・早退・欠勤に対応できるようにしている。また配置の際には、当事者同士によるピアサポートが期待できることから、同じ作業所や同じ訓練の同級生をペアで配置するといった配慮をしている。
(5)人材育成
1)体系化された研修の実施
さまざまな障害のある社員が同一の職種で勤務しているが、従来はOJTや自己啓発、資格取得により社員の能力向上を図っていた。体系化された研修は平成17年4月に採用した社員を対象に初めて行った。今後の職務遂行の中で研修が効果をあげることが期待される。
2)チームリーダーの任命
前述のようにチームで仕事を進めるシステムにおいて、適性や能力が認められた社員は障害者でもチームリーダーに任命され、プロジェクトの進行に対する責任を負う。
保険代理店業務では親会社グループの団体保険に関する業務を行い、障害のある社員が責任者を務める。この業務を担当する社員は、入社後に必要な資格を取得する。
3)聴覚障害者への配慮(手話の実践)
社内で手話を実践することにより、聴覚障害のある社員に対してコミュニケーション面での配慮を行うと同時に、円滑なコミュニケーション、円滑な業務遂行、更にコミュニケーション能力や業務遂行能力の向上にもつなげている。当社では「手話を一つずつ覚える」ことをモットーに、社員が朝礼で何か一つ手話をすることとしている。
なお、手話の学習にはイントラネットも活用しているが、ITを活用した情報伝達の工夫やコミュニケーション方法の改善への取り組みを通じ社員の聴覚障害に対する理解や対応力の向上につながったことに対し、平成15年度障害者雇用職場改善好事例(聴覚障害者)奨励賞を受賞した。
さまざまな障害特性を持った社員を、技術や顧客ニーズの変化の激しい業種で継続雇用する上では、彼らが主体的に学び、学んだことを職務に生かす姿勢が不可欠となると同時に、事業所としても社員の学習を支援し、育成を図ることが重要となる。
当社のさまざまな取り組みや社員の能力の高さは、平成14年度は知的障害者部門、同15年度は聴覚障害者部門で職場改善好事例において奨励賞を2年連続し受賞しているほか、平成16年10月のアビリンピック全国大会において社員がホームページ部門で銀賞を受賞、平成17年1月のアビリンピック神奈川大会ではホームページ部門で金・銀賞、ワープロ(知的障害者)部門で銅賞を受賞するなど、対外的にも高く評価されている。
4)レクリエーション・社会活動
余暇の過ごし方の指導の一環として、年に一度の社員旅行(写真4)のほか、地引網や花見といった行事を行う。旅行には車いすに座ったまま乗り降りできるリフト付きバスを手配するなど、障害のある社員が参加しやすいように配慮している(写真5)。
また社会活動としては、平成15年6月1日から30日までの1か月間、鎌倉市海浜公園プールに壁画を描いた(写真6)。
このような活動は、余暇に関する問題解決の一助となるばかりでなく、さまざまな社員の相互理解や親睦を深める上で大きく役に立っている。
3. 当社の取り組みが示唆する今後の障害者雇用の考え方
(1)障害を問わない業務体制
当社の特色の一つは、障害にかかわりなく社員がパソコンを使用する業務に就いていることである。
現実として、さまざまな障害のある社員の雇用にあたって身体障害のある社員はパソコン作業、知的障害のある社員は体を動かす作業というように障害別によって担当職務を決めている事業所は少なくない。清掃業務は肢体不自由者に必ずしも適するとは限らないというように障害特性が職務特性に適合しない場合もある。障害者雇用に対する事業所それぞれの方針もある。障害種別に応じて役割を分担することは仕事を効率的に進める方法の一つである。
とはいえ、事業所が方針を明確に打ち出し環境を整えて必要な配慮を行えば、社員が障害種別に応じた役割分担を必要とせずに勤務することが実現可能となる。この点について、当社は格好の模範を示している。
(2)精神障害者の積極的な雇用
当社の最大の特色は、精神障害者の雇用を積極的に進めている点である。
平成17年7月の「障害者の雇用の促進に関する法律」の改正により、平成18年4月1日から精神障害者も障害者雇用率の算入対象となった。これを受けて精神障害者の雇用の増加や就労支援の活発化が予想される。
ところが、精神障害者は一般的に疲れやすい、気分や体調の変動が激しい、物事を筋道立てて考えることが不得手というように、職務遂行や職場適応に影響を及ぼす特性が見られる。しかも精神障害をよく知らない人にとっては障害特性がわかりにくく、無理解や不適切な対応につながることもある。雇用の際には、本人に合わせて労働条件や作業体制を設定するほか、医療や福祉の関係者と連絡を密に取り合う必要が生じることもあり、職場の負担が重くなることもあり得る。更に精神障害者の雇用事例は、身体障害者や知的障害者の事例ほどよく知られているとはいえず、モデルも必ずしも十分にあるとはいえないのが現状である。
当社は精神障害者の雇用にあたり、トライアル雇用を経た採用、柔軟な労働条件の適用、継続的なカウンセリングの実施等さまざまな取り組みを行って、雇用の増加や定着につなげてきた。更に、平成17年2月から神奈川県の障害者就業促進委託訓練事業(通称「トライ!」)を受託し、パソコンによる実務を想定した精神障害者専門の独自のプログラムを開発して訓練を行っている。このような実践が良きモデルとなり、精神障害に対する社会全体の理解や雇用促進に大きく貢献することが期待される。
※精神障害者専門の独自のプログラム:佐織壽雄「精神障害者の就業レディネスに関する考察」(『第13回職業リハビリテーション研究発表会発表論文集』[高齢・障害者雇用支援機構主催]pp. 160-163)で詳述。
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてユミルリンク株式会社提供のCuenote(R)を使用しております。