障害者雇用を通しての職場の活性化
~障害者雇用に関しては自然体で対応~
- 事業所名
- 昭和産業株式会社
- 所在地
- 山梨県韮崎市
- 事業内容
- 放送通信機や半導体製造装置・液晶製造装置や各種プリント基板の表面実装等の製造
- 従業員数
- 200名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 5 製造 肢体不自由 2 生産管理、設計 内部障害 1 製造 知的障害 0 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
(1)事業の内容
当社は、昭和39年2月に設立され、放送・通信機器、半導体製造装置等の事業を中心とし、設計、製造、検査までの一環した生産を行っている。設計分野においては、ハードウエアとソフトウエアの両面にわたって、幅広いテクノロジーを提供している。また製造面においては、プリント基板表面実装ライン設備の充実を図り、小ロットから大ロット生産に対応している。
具体的には、放送通信機器や半導体製造装置、各種プリント基板など電子機器のアッセンブリを行い、いち早く鉛フリー半田つけ作業の標準化に着手し、環境負荷の軽減に取り組んでいる。
また、受注から設計開発・製造・検査、現地調整工事までを、経験豊かな技術者が一貫した製造サービスを行える体制を整えている。特にプリント基板の表面実装については、小ロット多品種対応型のヤマハ製SMT方式マウンターを5ライン整備し静電対策を施した専用工場で、異型部品から微細チップまでのチップ搭載を行っている。
周辺は山並みの連なる自然豊かな山梨の峡北の地であり、隣地の果樹園周辺にキツネの一家5頭が生息していることも判明し、地域や近隣の野生生物達にとっても、やさしい企業を目指している。
なお、各種の認定や認証の取得状況は以下のとおり。
・山梨県商工会連合会モデル工場(平成8年~平成11年)
・平成10年11月 ISO9001認証取得
・平成13年11月 同2000年版に更新登録
・平成16年11月 ISO14001認証取得

【当社データ】
創業年月日:昭和39年2月11日
業種:電気機械器具・一般産業 機械製造業
業務内容:設計(アナログ・デジタル回路、システム、制御ソフト、機構)、組立配線、SMT方式P板表面実装、電気調整検査、現地調整工事
主要製品:通信機器製造、電源装置製造、半導体製造装置製造、監視カメラシステム
現在は、山梨大学医学工学総合研究部の石川稜威教授と共にDSP(デジタルシグナルプロセッサー)を利用した音声補正装置の実用化に取り組んでいる。これは、ホールや駅、繁華街などの喧騒の中で、アナウンスなどの生の声を聞き取りやすい声に変える装置であり、ICを使い簡単な操作により単体で機能し、テレビや防災無線の音響装置などに取り付けるタイプを想定している。すなわち公共的な場面で、難聴者も健聴者も聞き取りやすい音の実現を目指している。
(2)経営方針
当社は「信頼される明るい会社」を社是として、創立以来、地域に密着した地元企業として、放送通信機器や電話用電源装置、各種製造装置や公的施設の監視カメラシステム等の製造を通して社会に貢献している。
当社の製品は、放送・情報のマスメディアやパーソナルメディアを裏で支える各種装置機器だからこそ、より安全で安定した稼動を保証するものでなければならないと考えている。
したがって、生活に潤いをあたえ、人々の心と心のコミュニケーションを支えることに誇りを持っているメディアに携わる人々をサポートすることを役目としている。 毎日の着実な生産活動が、そうした品質の製品を生みだしていることを誇りにしている。
(3)組織構成
当社は次のとおり、四つの部門から構成されている。
◇管理部門-総務・資材
◇技術部門-開発・設計、製造技術
◇製造部門-放送・映像機器、プリント基板表面実装、各種電源装置、半導体製造装置
◇品質管理部門
(4)障害者雇用の理念
人材活用の基本は、年齢や経験にとらわれず能力に見合った役割を担い、成果に見合った処遇により一人一人のやる気を引き出すこととされているが、当社の基本姿勢は、障害者、健常者を区別することのないノーマライゼーションの考え方である
また、地域に密着した地元企業の社会的責任を果たし社会貢献するため障害者雇用に取り組んでいる。すなわち障害者の職場の確保を図りたいと考えている。
2. 障害者雇用の経緯
初めは人手不足という状況もあり、障害者雇用への取り組みがスタートした。きっかけは、ハローワークからの紹介であり、様々な障害者が応募してきたが、現在は聴覚障害のある社員を多く雇用する状況となっている。
当社では、新卒ではなく中途採用が主であるが、社会的責任やコストメリット等も考慮し仕事のできる人材を求めた結果、障害者雇用に至った。現在では、県外の事業所で障害者を採用することもある。
3. 取り組みの具体的な内容
(1)労働条件
1)就労期間
障害のない社員同様、特に期間を定めていない。
2)勤務場所
工場内または事務所内。
3)勤務時間
原則として障害のない社員と同じで、残業もある。
4)賃金
能力を中心とした評価制度とそれに対応した賃金制度を導入しているが、健常者と障害者の区別なく、全く同じ評価基準を用い賃金を決定している。
5)職務内容
当社で雇用している障害のある社員別の担当内容は以下のとおり。
①製造 :組配(組み立て配線)や圧入
②生産管理:工程の生産管理
③設計 :機器の設計
課によっては、障害のある社員が全てこなすことができる職務もあるほど、障害のない社員と同様、戦力となっている。




(2)障害状況に配慮した取り組み
1)聴覚障害
障害者を雇用した当初は、聴覚障害のある社員が少なかったためコミュニケーションに苦労したという経緯があったため、彼らを含めて次のような工夫を行っている。
①配慮した内容
ア)あまり気を遣わずに、自然体で接する。
イ)やって見せて、やらせてみて確認する。
ウ)言葉だけでは上手く伝わらないことがあるので、筆談用に常にメモを持ち歩く。
エ)仲間が積極的に指導し、丁寧に教える。
オ)現場のリーダーが、安全面での指導を徹底して行う。
カ)コミュニケーションを心掛け、声を掛ける。
キ)朝礼の内容は文書にして回覧している。
ク)障害のある社員がわかりやすく見やすいように、図面をファイリングしている。


②新入社員に対する障害の理解についての指導
採用した当初は、連絡事項の伝達やコミュニケーションの取り方に苦労したが、試行錯誤の末、ほとんど支障がなくなった。
障害のある社員に対し自然に接することが非常に大切であり、ノーマライゼーションの実現のためにも不可欠な要素であるが、若い新入社員の場合、彼らと接することが初めての場合が多く、慣れるまで数ヶ月を必要とする。いろいろな意識のギャップもあり、自分本位の対応をすることもあるのでリーダーが指導している。なお、年長者の場合は意識のギャップを感じる場面は少ない。
長年にわたる障害者雇用の取り組みから、常に区別なく普通に接するよう指導しており、若年者から年長者まで、自然に接することが当然となっており、一つの企業文化となっている。
③コミュニケーションの対応
苦労した点はやはり伝達であり、ハローワークを通じて手話通訳者に来てもらい評価結果の伝達などを実施したこともあった。
また、障害のある社員も能力があれば当然に相応の役職に就くことになるが、現実問題として社外においてお客への対応が難しい状況に対しては、周囲の社員が配慮することで対応している。
特に対応が難しい製品の不具合の伝え方に対しては、一方的な言葉のみの説明では十分伝わらないため、板書や筆談を交えながら丁寧に指導している。
なお、社員の中には手話教室に通ってマスターしたり、聴覚障害のある社員に手話を教えてもらうなど、コミュニケーションの向上に取り組んでいる。
④通信機器の活用
通信機器の発達も障害者雇用には追い風となっている。FAX通信が普及していない時代は電話により親を通じて伝達していたが、FAX通信の普及により伝達が確実になった。その後ポケベルを経て、現在は携帯電話を活用している。携帯電話のメールは非常に有効であり、緊急連絡も上司との間でメールを使い確実に伝達できるようになった。
⑤複数人の雇用
聴覚障害のある社員は、しっかりした当事者ネットワークを持っており、職場に仲間がいることは安心感につながっている。したがって、単独よりも複数人雇用する方がモラルアップには効果的と考えている。また彼らは趣味が豊富であるが、残業時間を配慮することなども職場の自然な気遣いとして彼らの働きがいの向上に役立っている。
2)肢体不自由
肢体不自由のある社員に対しては、安全で快適に職業生活が送れるよう、トイレや廊下といった基本的な部分での整備を心掛けています。具体的には、次のとおり。
①階段や段差をなくし、スロープに変更


②トイレに手すりを設置


③ドアに衝突防止の注意書きを貼付
④廊下・階段に手すりを設置

⑤可動式台車の内製

(3)助成金等の活用
助成金等については、現在、障害者雇用納付金制度による報奨金の支給を受けている。また、過去には特定求職者雇用開発助成金を活用している。
なお、施設の改造や整備においては、過去には助成金を活用していたが現在は活用していない。
(4)当社の取り組みのまとめ
以上、当社の取り組んできた工夫について、ポイントをまとめると次のとおり。
①適材適所(適切な能力評価)
②障害について必要以上に気を遣わない(必要最低限の気配り)
③声を掛ける(孤独にしない)
④マニュアルではない実践的な指導教育(やって見せて、やらせてみる)
⑤作業環境・道具・治具の整備(安全配慮、作業効率改善)
4. 取り組みの効果
(1)職場の雰囲気の改善
障害のある社員を雇用することにより、次のような変化が見られた。
①周りの社員が人間的に成長できた。
②社内だけでなく社外でも、彼らへの理解が深まり、自然と手伝えるようになった。
③「背後から呼びかけない」など、彼らへの接し方が理解できるようになった。
④気配りができるようになり、セクハラのような事が起きていない。
⑤仲間をカバーすることの心掛けができるようになった。
以上のように、彼らを雇用することで職場内に人間的な潤いが醸成されている。彼らにだけではなく全社的に相互に気配りができるようになり、協調性や積極性が高まった。周りをフォローすることが自然とできることが社内の和を生み出している。人を見る目に幅ができ、個性を認め合うという感性も醸成され、人間的にも成長したことが実感できる。
(2)コミュニケーション技術の向上
聴覚障害のある社員に連絡事項を確実に伝達できるため、手話に近いことができるようになるなど、言葉だけではなく身振り手振りを交えて会話をするので、自然と表現力を含めたコミュニケーション技術が向上した。会話の基本である相手の目を見て話すことも自然と身に付き、コミュニケーション技術の一つであるアイコンタクトもできるようになった。
障害のない社員同士であれば、言いっぱなしのような一方的な発言で終わることもあるが、彼らとではそのような会話は成立しないので、相手の言わんとしていることを理解する努力を惜しまないようになった。
したがって、コミュニケーションを図るために人の話をよく聞くという姿勢と意思伝達のレベルが向上しており、人間関係の円滑化にも非常に役立っている。
(3)職場の活性化、モチベーション等の向上
障害のある社員が一生懸命働く姿を、周囲の社員が目の当たりにすることにより刺激になり、職場の活性化とモチベーションの向上に役立っている。
また、勤務に対して積極的で資格取得に対する意欲も高い彼らを全面的にバックアップすることにより、彼らの能力開発に止まらず、周囲の社員の奮起を促し、職場全体としてのレベルアップにつながっている。
(4)生産性の改善
1)指導教育の改善
仕事の基本である作業の指導教育については、マニュアルだけでは不十分であることから、効果を高めるため実物を使って丁寧に指導することを定着させた。これは彼らだけではなく障害のない社員に対しても同様の手法が用いられるようになり、現場力(企業の人材が現場で発揮する力)の向上ひいては生産性の改善に効果を上げている。
2)職場環境の改善
廊下や階段、トイレなどに手すりを設置したり、階段や段差を無くすためのスロープを設置することは、安全で働きやすい環境作りであり、労働生産性の向上などの業績改善に直接結びつくものである。台車の改良なども同様であり、当社にとって直接的に役立っている。
彼らが作業をしやすいよう環境に配慮し、道具や治具等を活用することは、彼らだけではなく高年齢者や女性にとっても作業を容易にすることになり、職場全体を働きやすい環境にすることが可能となる。作業を容易にするということは、効率を高めることに他ならない。すなわち無理や無駄の排除そのものであり、人時生産性(※注)の向上に貢献している。
※注 人時生産性
従業員1人が1時間に稼ぐ粗利益(売上から原材料費を差し引いた利益のこと。)を示し、「粗利益÷延べ労働時間(従業員数×労働時間)」の数式で求められる。
(5)労働力の確保
少子高齢化の影響もあり、労働力人口の減少による労働力不足の解消のためにも、障害者の雇用は不可欠となっている。
(6)障害のある社員からの言葉
「現在は、やりがいを持って仕事をしており、一生懸命やっています。また、資格取得がメリハリとなっています。」という声からは、当社の姿勢でもあるノーマライゼーションが浸透し、障害の有無にかかわらず当社の一員として活躍していることが伺える。
5. 今後の課題と対策・展望
(1)課題
今後は、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の改正により、障害の有無にかかわらず60歳以上の雇用を確保する必要があるが、体力や能力の低下に伴う生産性の低下や事故の心配があることから継続雇用という点で障害のない社員以上に健康面での配慮が必要である。社内体制を再点検し、必要であれば整備しなければならないと考えている。
また、仕事の質が変わってきており、多品種高品質少量生産による生産技術レベルのアップに対して、指導的役割を果たしてもらうことが難しくなるのではないかとの不安もあり、現場仕事とのマッチングの問題をどのように克服していくかも課題の一つであると考えている。
(2)対策・展望
①教育訓練
能力開発を継続することができれば、彼らを戦力として大いに期待することができる。
②安全衛生対策
安全配慮義務は企業経営の中の全てに優先する最重要ポイントである。彼らの安全衛生を考えることは、企業全体の安全衛生のレベルを高めることにつながる。
高年齢者の雇用確保義務への対応や、今後も障害者雇用を継続するためにも、安全で働きやすい職場を目指し環境の整備に取り組みたいと考えている。
特に、健康管理については、彼らだけでなく高年齢者や女性を含めた全社員に対して必要不可欠であり、これから一層その重要性は高まることから力を入れて取り組みたいと考えている。
③総括
今後の採用においても、健常者と障害者を区別することは考えておらず、社員として能力を発揮してもらうことが必要不可欠と考えている。
方針としては、ノーマライゼーションの実践であり、障害者雇用に関してあくまで自然体で対応することで、多角的な相乗効果を生むことができることを経験から学んでいる。
障害のある社員が持てる能力を発揮し事業所がそれをバランスよく求めるという関係が、信頼感や安心感、モチベーションのアップにつながり、非常に効果的な循環を生んでいる。どちらかが無理をしたり偏っていては、雇用は長続きしない。
また、作業環境や補助器具に小さな工夫を積み重ね、健康管理を充実することで、彼らを含めた全ての社員が、やりがいを感じ安心して働ける魅力ある職場づくりの実現という大きな成果を上げることが可能になる。
能力開発も、安全衛生も、社員に能力を発揮してもらうために、雇用管理上最も重要な項目の一つであり、企業の業績にも必ず良い影響を与えることにつながる。
当社は、障害者雇用と併せて安全配慮対策に対し継続して取り組んでいくという姿勢がはっきりと確認できる。

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