雇用管理のポイントはワークライフバランス
~無理をすることなく、必要なことを、必要なときに、必要な程度で~
- 事業所名
- 株式会社マルアイ
- 所在地
- 山梨県西八代郡市川三郷町
- 事業内容
- 紙製品並びに産業包装用品の製造及び販売、和洋紙の販売
- 従業員数
- 380名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 2 仕上、梱包、断裁 肢体不自由 1 企画 内部障害 2 電気保守、集配 知的障害 0 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
(1)事業の内容
当社は、明治21年に千年の歴史を持つ和紙の里、山梨県西八代郡市川三郷町に先代が個人で創業し、紙の可能性を時代とともに磨き続けて118年の歴史を刻んできた。受け継いできた「紙の心」は、「包む」を共有の財産として「お客さまに喜んでいただく」ために、3つの事業に枝分けした。伝統事業も革新事業もそれぞれが個性を磨き、よりきめ細かいサービスの提供をめざしている。
紙関連事業・化成品関連事業・半導体関連事業の3つの事業は、それぞれに独立し、独立した企業の体制、準社内カンパニー性組織が機能している。
異なる市場にジャストフィットし、お客の真のニーズを製品に取り込むために、お互いがその独創性を発揮できる環境が整えられた。
なお、ISO9001や環境国際規格ISO14001の認証を取得しており、環境と開発の調和、人と企業のやさしいつながりをテーマに、環境汚染の予防と改善、高品質の維持に終わりのない取り組みを続けている。
【当社データ】
設立年月日:昭和22年5月30日
事業内容:紙製品並びに産業包装用品の製造及び販売、和洋紙の販売、その他これら事業に附帯する一切の業務
事業展開:有機導電材顔料をバーコードに変わるICタグ用アンテナに応用する新技術の開発。世界戦略を視野に独自の活動を展開する半導体関連包材部門。インターネットを活用した印刷ソフト・デザインなどのサービス提供をベースにした新しい紙製品の提案など、最先端分野への積極的な取り組み。
営業品目
①日用紙製品
のし袋・金封・封筒・模造紙・OA用紙・包装紙など文具・日用・包装用紙製品
②化成品関連製品
ラミネート袋・三角袋・スタンディング袋・チャック付袋など食品用フィルム包装資材および工業用フィルム包装資材
③半導体関連製品
ICトレー・液晶トレー・電子部品トレーなど半導体用静電防止包装資材



(2)経営方針
当社の目標は次のとおり。
①販売にあたっても、購買にあたっても、顧客には満足され、わが社もまた永々として発展する企業であること
②社員が働きがいのある誇りの持てる職場であること
③地域社会の人々には愛される会社であること
上記の目標のもと、お客からも社員からも必要とされる企業、「小さくても日本一」とその内容が誇れる企業をめざして、紙関連事業・化成品関連事業・半導体関連事業の3つの事業に邁進している。
永々と継続する企業活動をとおして、お客の発展はもとより、社員一人ひとりもまた成長し、社会の一員として愛される資質を身に付け、豊かな人生を送れるよう願いつつ企業運営を行っている。
「庭に美しい花が咲いたら、その一枝を和紙に包んでさしあげる。」この真心あふれる考え方を基本理念に「紙とフィルム」、伝統素材と新素材に独自の技術と想いを重ね、未来へ向かって挑戦を続けている。
(3)組織構成
大きくは、経営品質、総経担当、紙関連部門(商品企画担当、紙製品販売担当、生産担当など)、OM関連部門(半導体担当、化成品グループ、技術など)で構成している。
(4)障害者雇用の理念
上記の経営方針を実践することが障害者雇用の理念となっている。企業目標に沿って、地域貢献、弱者救済のために事業所として何ができるかを考えると、自然と障害者雇用に目が向いた。またノーマライゼーションという意識のもと障害者雇用を行っている。
2. 障害者雇用の経緯
当社の目標にしたがって障害者雇用への取り組みを始めた。障害者雇用率の達成という側面もあったが、特に大きなきっかけとなったのは、障害者雇用に関心が高く、理解が深かった社長が率先して障害者雇用に取り組んだことである。
障害者雇用は、40年近く前に肢体不自由のある社員を採用したのが始まりである。その後、ハローワークからの紹介を中心とし障害者雇用に取り組むほか、県の障害福祉課から相談を受け、授産施設「どんぐりの家」などへ仕事を委託したり、過去には地元中学校の特殊学級との連携などにも取り組んだ。また学校から研修生の受け入れなども実施している。
求人については、障害があっても職務遂行が可能であれば採用する、すなわち仕事ができれば障害の有無は関係ないというのが一貫した採用方針である。
障害者のある社員は定着率が高く、ほとんどが定年まで働いている。
3. 取り組みの具体的な内容
(1)労働条件
1)就労期間
障害のない社員と同じであり、特に期間を定めていない。
2)勤務場所
工場内または事務所内。
3)勤務時間
原則として障害のない社員と同じであり、残業もある。
4)賃金
障害者と健常者の区別なく、全く同じ評価基準を用い賃金を決定している。
5)職務内容
当社で雇用している障害のある社員別の担当内容は以下のとおり。
なお、中途障害のケースもあり、20年以上のキァリアのうち受障後10年間勤務している社員もいる。
①仕上げ、梱包
②断裁
③新事業開発提案業務(管理職)
④電気技術(メンテナンス)
⑤仕事の集配(各作業における製品の集配業務)




(2)障害状況に配慮した取り組み
1)心臓障害
①残業が発生しないよう仕事配分を調整する。
②本人の同意を得た上で、障害の情報を上司に提供し配慮を促す。
③病院等へ行く時間を配慮する。
以上のように、重労働のような負担がかからないよう、無理のない範囲での作業量を調整することが重要なポイントとしている。
2)聴覚障害
①配慮した内容
ア.身振り手振りを交え、大きな声で話す。
イ.手話を使う。
ウ.コミュニケーションを心掛け、声かけを意識する。
エ.朝礼の内容を後で説明する。また、文書化してネットで公開する。
オ.ワークライフバランス(仕事とプライベートの両立)が保てるよう、時間配分面でバックアップする。
以上のように、情報の伝達という点に重点を置いている。
情報の伝達については、作業指導の際に苦労が多く、筆談では十分に伝わらず、機械が止まってしまう事も少なくなかったため、筆記より伝達が早く確実な手話のマスターに取り組んだ。週に一度、地域のボランティアサークルへ通い、約一年間で身に付け、日常会話では不自由しない程度までマスターしている社員もいる。
なお手話の勉強は、当社が強制しているものではなく、社員が自発的に取り組んでおり、その数は徐々に増加している。

②連絡上のツールの活用
以前はFAX通信を用いて事務連絡などを行っていたが、現在は携帯電話のメールを活用して情報伝達を行っている。通信機器の発達は障害者雇用にとって大きなメリットとである。
なお、仕事上メモで伝達することもあるため、上司は筆談用のメモ用紙を常時携帯している。
3)肢体不自由
フォークリフトの免許取得をバックアップするなど、資格取得を支援する体制をとっている。

製品を運搬
(3)設備・職場環境
肢体不自由のある社員を含め、安全で快適に職業生活が送れるよう基本的な部分を中心に環境を整備している。
①段差を避けて車いす使用でも移動できるようスロープを設置

スロープ
②エレベーターを設置

③聴覚障害のある社員がフォークリフト等を運転する際の安全配慮のため、帽子に目印をつける
④各種の注意事項は口頭に加えて注意書きを貼付

添付された注意書き
⑤機械の故障が一目でわかるよう四色ランプを設置

(3)助成金等の活用
障害者雇用をコスト面でバックアップする助成金等については、現在、障害者雇用調整金、特定求職者雇用開発助成金を受給している。また、過去には、重度中途障害者職場適応助成金、重度障害者等雇用促進助成金(※注)を活用している。
これらの助成金は、ものであり、非常に効果的な制度と考えられる。
※注 重度障害者等雇用促進助成金
山梨県では、障害者の社会への完全参加と平等を実現するために「山梨県障害者幸住条例」が制定されており、より多くの重度障害者等の雇用の場を確保するために山梨県独自に創設された助成金。支給額は、雇入れ1人につき20万円であり、特定求職者雇用開発助成金等国の助成金と併せて受給できる。
(4)当社の取り組みのまとめ
1)ワークライフバランスへの配慮
雇用管理面と職場環境・安全配慮面において様々な工夫に取り組んでいるが、新たな取り組みとしてトヨタ生産方式(※注)により、さらなる効率化と安全性の実現を図る。
雇用管理面で特に配慮している点はワークライフバランスであり、趣味などのプライベートの時間を認め個人生活の充実を支援することが、働きがいややりがいにつながる。なかには、毎年開催される全国ろうあ者体育大会へ参加する社員もおり、特別休暇として付与している。
このワークライフバランスの考え方は、ノーマライゼーションとともにこれからの雇用管理の重要なポイントであるとともに、障害者も健常者も、男性も女性も、老いも若きも共通して必要な認識であると考えられる。
※注 トヨタ生産方式
トヨタ生産方式は、工場における生産活動の運用方式の一つであり、トヨタの強さを支える要素の一つとされている。主に製造現場およびそれに付随するスタッフ部門で用いられている手法だが、その考え方を基に間接部門や非製造業へ適用させていった業務改善手法をトヨタ式とも呼ぶ。この方式では、ムダを「付加価値を高めない各種現象や結果」と定義し、ムダを無くすことが重要な取り組みとされている。
①作り過ぎのムダ、②手待ち時間のムダ、③運搬のムダ、④加工のムダ、⑤在庫のムダ、⑥動作のムダ、⑦不良のムダ、これら「7つのムダ」を排除し、極力在庫を持たず、必要なものを、必要なだけ、必要な時にジャストインタイムで生産するなどの特徴を持つ。
なお、この方式で重要とされている多能工とは、一人の作業者が複数の工程の作業をこなせるようにトレーニングすることであり、これにより、負荷の平準化と工程の少人化を実現する。
2)適切な職務評価による障害者雇用
障害者と健常者の区別のない適切な評価を実施しており、あくまで仕事ぶりを評価するという事業所の姿勢は、障害や年齢、性別にとらわれない雇用の確保を可能にしている。
したがって障害者雇用については、欠員補充のためやハローワークからの紹介があれば、必要に応じて随時採用する予定としている。
以上、当社の労務管理については、ワークライフバランスとノーマライゼーションが全ての基本となっている。ポイントをまとめると次のとおり。
①適切な時間管理と仕事配分(個人生活の充実)
②適切な評価と処遇
③コミュニケーションを大切にし、よく声を掛ける
なお、直属の上司は、労務管理上の取り組みに際して「彼らの気持ちをつかむまでが大変」、「正しく伝わっているかどうか不安になったことがある」と述べており、意識のズレが解消するまで2年近くかかった例もあった。
4. 取り組みの効果
(1)職場の雰囲気の改善
障害者の方を雇用することにより、次のような変化が見られる。
①コミュニケーションが強まり、社員間の絆が深まる。
②事業所内に和が醸成される。
③地域貢献を実感でき、事業所に対して誇りを持つようになる。
以上のように、障害者を雇用することで、職場全体の和が醸成されている。決して過保護になることなく、対等な立場で接することにより、自然と気配りができるようになるとともに協調性や積極性が高まったと言える。
(2)技術・生産性の向上
障害者の方に、連絡事項を確実に伝達しようとするために、仕事の段取りの説明が非常に丁寧になっている。説明を丁寧にするということは、それだけよく考えるということであり、仕事の段取りの精度が飛躍的に向上している。また、同時にコミュニケーション能力も向上し、効率化に寄与している。
適切な仕事の段取りにより、技術も向上することにつながり、職場全体としてレベルアップしていることになる。
導入を図っているトヨタ生産方式も、障害者の方が働きやすい環境を整備し、生産性の向上につながると思われる。
(3)職場の活性化、モチベーション等の向上
障害のある社員が一生懸命に働く姿を、周囲の社員が目の当たりにすることにより触発され、職場の活性化とモチベーションの向上に役立っている。
また、先に触れた当社に対し誇りを持つ気持ちから、働きがいややる気が向上することにもつながる。障害のある社員が平成5年に労働大臣表彰を受賞したこともあり、職場全体の刺激となって相互に励みになっている。
(4)職場環境の改善
エレベーターやスロープを設置することは、安全で働きやすい環境作りであり、労働生産性の向上などの業績改善に直接結びつくものである。彼らが作業をしやすいよう環境に配慮することは、彼らだけではなく高年齢者や女性にとっても、作業を容易にすることになり、職場全体を働きやすい環境にすることである。
(5)労働力の確保
少子高齢化の影響もあり、労働力人口の減少による労働力不足の解消のためにも、障害者雇用は、一つの重要な労働力確保施策である。
(6)取り組みの効果のまとめ
障害者雇用によって職場の雰囲気が改善されることにより、協調性や積極性が育まれ人間的成長が促されていることと併せて、彼らを含めた社員全体の定着率や働きやすさの向上につながっている。
作業の段取りやコミュニケーション能力の向上は、効率化と生産性の向上を可能としている。また社員のモチベーションのアップも実現しており、これらは、事業所全体の活性化並びにレベルアップにつながっている。
さらに、CSR(企業の社会的責任)の一つである地域貢献を果たし、全社員が誇りを胸に、仕事に取り組むことができ、企業全体のイメージアップにもつながっている。
したがって、障害者雇用は、労働力の確保と同時に、生産性を向上させ、事業所全体の活性化とCSR経営を推進するという効果を上げている。
5. 今後の課題と対策・展望
(1)課題
今後は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の改正により、障害の有無にかかわらず60歳以上の雇用を確保する必要があるが、体力や能力の低下に伴う生産性の低下や事故の心配があることから、継続雇用という点で作業を補助する仕組み作りや障害のない社員以上に健康管理面の充実が求められる。
また、障害の有無にかかわらず、平均年齢の高年齢化も中長期的な課題となっている。
(2)対策・展望
①若年労働力の確保
健常者、障害者にかかわらず、若年者を積極的に雇用したいと考えている。特に障害者雇用に関しては「無断欠勤がない、まじめ、仕事に対して一途」などの姿勢が非常に魅力的であり、今後も増やしていく予定である。
②健康管理
障害のある社員が安全で快適に働き続けられる職場は、高年齢者や女性にも働き続けられやすい職場でもあることから、企業全体の魅力や安全衛生のレベルを高めることにつながるため、安全配慮義務は労務管理の中で最も重要ポイントの一つである。
特に、健康管理については、事業所にとって必要不可欠であり、これからいっそうその重要性は高まることから力を入れて取り組みたいと考えている。
③総括
今後の採用においても、障害者と健常者を区別することは考えておらず、能力と意欲を持っている人材を積極的に採用していく考えである。
また、障害者雇用だけではなく、授産施設への仕事の発注も継続することで、CSRを果たし、地域に貢献する企業として発展していく意向である。なお、授産施設への発注は、地域貢献などのCSRだけではなく低コストによる大量処理というメリットもあり、相互に満足できる結果となっている。
人材活用のための方針としては、ワークライフバランスの確立とノーマライゼーションの実践であり、障害者、健常者にかかわらず、雇用管理に関して無理をすることなく必要なことを必要な時に必要な程度で取り組んでいることが、持続可能な障害者雇用を実現し、いろいろな面で相乗効果を生んでいる。
当社は、障害者雇用対策並びに健康管理対策に対し継続して取り組んでいくという姿勢がはっきりと確認できる。

保坂生産担当第三生産グループマネージャー、総務 前田氏
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