雇用援護制度を活用し雇用拡大
~1店舗に1人の障害者の雇用を目指して~
- 事業所名
- バロー株式会社
- 所在地
- 岐阜県多治見市
- 事業内容
- 食品スーパーマーケットの他ホームセンター、ドラッグストア、スポーツクラブ等
- 従業員数
- 3,929名
- うち障害者数
- 70名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 スーパーでの商品管理 聴覚障害 2 事務職(パソコン操作) 肢体不自由 14 スーパーでの商品製造 内部障害 13 ホームセンターでの商品管理 知的障害 40 スーパーでの商品製造 精神障害 0 - 目次
![]() 本部外観 |
1. 事業所の概要
当社は、岐阜県を拠点に平成17年現在、86店舗の食品スーパーマーケットを経営しており、併せてホームセンター、ドラッグストア、スポーツクラブ、ペットショップなど幅広く事業を展開している。事業所名「バロー」は、英語の古典で『勇気ある者』を意味し、社会に貢献できる責任ある企業づくりのために、何事にも挑戦する「勇気」を持ち続けることが大切だという理念が込められている。
創業は昭和33年であり、「株式会社主婦の店」を設立し、岐阜県恵那市にてスーパーマーケットの営業を開始した。以後、スーパーを各地に開店する一方、「中部薬品株式会社」(サンWILL DRUG)設立、「東濃スポーツクラブ」(現アクトス)開設、外食事業(ファミリーレストランWEST WOOD)などを手がけ、中国にも進出している。平成17年現在、正社員1,280名、パートアルバイト等3,929名を雇用している。障害者の雇用は70人で、実雇用率は2.66%である。
2. 障害者雇用の経緯
障害者雇用に本腰を入れて取り組み始めたのは、平成14年からである。当時は、雇用率は0.9%と、法定雇用率(1.8%)の半分を割っている状況であった。それまでは、身体障害者の雇用がほとんどで、求職数が少なく、新たに採用することが難しい状況であった。知的障害者の雇用は難しいだろうと採用を控えていたが、身体障害者だけの雇用では無理な状況になってきたため、知的障害者も含めた受け入れ体制を整え、まず法定雇用率1.8%の目標を達成すべく採用を進めることとした。
採用にあたっては、地元の恵那ハローワークに相談、求人票を出した。また岐阜障害者職業センターの就業支援のサービスを利用したり、各地の就職説明会にも参加するなど様々な機会を利用して採用を進めた。また養護学校の教員や施設の職員などにもアドバイスを受けた。ジョブコーチ支援やトライアル雇用など、制度を積極的に活用し、まず実際に働いて仕事を知ってもらうことを心がけた。これらの取り組みの結果、当社の雇用率は2%を越えた。
3. 取り組みの具体的な内容
(1)通勤を考慮した配置
現在、61店舗に障害者を配属しているが、基本的には、居住地の近くで楽に通勤できる範囲の店舗で勤務している。最近は、授産施設や、養護学校の卒業生を中心に継続的に採用している。知的障害のある社員は40人勤務している。
(2)知的障害者の職務
知的障害のある社員の職務は、スーパーマーケットにおいては、商品の陳列、運搬、廃棄物の処理、清掃、また野菜、肉、魚などの生鮮食品のパック詰めなど、後方作業が中心である。とはいえ、店に出て客と接する機会はあるので、基本的なコミュニケーション能力が求められている。


(3)子会社への配置
惣菜部門は、昭和60年に設立した子会社「中部フーズ」に業務を移管している。そこではパート職員が300人、知的障害のある社員は7人勤務している。惣菜、お弁当などの加工製品の陳列作業という難易度の高くない作業を設定している。また、職場にとけ込んで作業できるよう、面倒見のいい女性のパート職員と共に作業しサポートを受けている。
作業指導やサポートについては、つきっきりというわけにはいかないので、まず作業内容を決め、繰り返し説明し、一人でできるようになったら任せるようにしている。たいていは、最初に覚えた作業が気に入って継続して取り組むことが多い。
(4)勤務条件
知的障害のある社員は、原則としてパートタイムのスタッフとして勤務しており、勤務時間は、1日7時間、週休2日を基本としている。
時間帯は店舗によって異なるが、8時~16時あるいは12~20時の間でシフトとしている。
雇用の契約は、時間単位で行っており、本人の希望や能力、状況にあわせて柔軟に対応し、安定した就労を図っている。
(5)採用後の指導
知的障害のある社員に対する採用後の指導は、長期計画に基づき行っている。2、3年の期間の目標を決めて従事できる作業の幅を広げている。基本的には新人のパート職員の実習と同様、店長が責任者となり、スタッフを一人つけ実地で指導し、必要があればその都度説明する。併せて、ジョブコーチ支援を活用し、フォローアップの期間を含め半年あるいは1年という期間支援を受けることが多い。
4. 取り組みについての配慮点、課題など
障害者の雇用にまつわる問題は様々だが、対応が困難なケースもゼロではない。本人がSOSを出している場合もあり、ちょっとした異変でもできる限り感づいて事情を聞いてみる必要もある。
職場への定着は良好である。離職者の例では、前職ではクリーニング工場で勤務していたがライン作業が困難なため解雇された人を当社で受け入れた。採用当初の勤務状況は良かったが、本人に求める要求度が高まり、仕事についていけず離職した。このような反省から担当部門の責任者が過剰な役割を与えることなく、ゆとりをもって働けるよう心がけている。
ホームセンターでは、接客の仕事が多くコミュニケーションが多く求められる。何人もの知的障害のある社員が挑戦したが、自分で判断することが多く求められるため、対応は困難であった。
目安としては、各店舗に1人の知的障害のある社員を配置する方針であるが、店舗によっては2、3人雇用している。障害のある社員のみによる特定の職務を設定するのではなく、全ての社員といっしょに働く経験を重視している。
また、当社は、障害者の雇用の促進等に関する法律による雇用納付金制度と同様の仕組みを社内で実施している。障害者を雇用する店舗には毎月5万円の「助成金」が出るが、雇用していない店舗は月5万円本社に納めなければならない。このシステムにより、各店舗が自主的に障害者の雇用を進め、社会的な役割の理解を深めるよう努めている。
5. 障害者の雇用についての方針
(1)各店長への説明・周知
障害者、特に知的障害者の雇用については、まず店長が趣旨を理解することが求められる。理念として障害者の雇用の必要性は理解していても、現場の責任者としては厳しい経営責任を求められるため、しっかりと事情説明をする必要がある。全体的に知的障害のある社員の中には職務遂行能力が低い人もおり、給料を支給することに疑問を感じるケースも全く無いわけではない。また現場からは、彼らにどう接していいかわからないという声も聞くこともある。こうした課題があっても雇用を前向きに考えてもらうため、店長に対してはその都度説明し、それ相当の心構えをしてもらっている。
(2)物理的環境の整備
バリアフリー化に関しては、障害のある社員のためだけではなくお客のためにも、店舗の環境を特に物理的に整備することを心がけている。平成6年には、多治見ショッピングセンターが「GIFUバリアフリー賞」の表彰を受けた。これは、福祉のまちづくりの観点から、高齢者や障害者に配慮した建築物等の設置者と福祉のまちづくりに寄与する活動を行った団体等を表彰するものである。また作業場においては、基本的に生産や作業効率を最優先に考慮し設計している。
(3)障害を特別視しない雇用方針
また、障害者の雇用の実践について職業リハビリテーション研究発表会で発表するなど、事業所としての考えや取り組みを一般に示す機会もある。企業も社会と同様、障害者もいれば健常者もいる。老若男女、さまざまな立場の人が混在し、協力し理解しあって働くのが当社の雇用の基本方針である。
人事管理に関していえば、障害者を特別扱いしないという方針がある。特例子会社を立ち上げるというアイデアもあるが、そのことにより職務を限定してしまい、かえって障害者を受け入れにくくしてしまうのではないか、との懸念もある。先に述べたように、1店舗に1人の障害者を雇用する方針のもと、全ての社員といっしょに働く事ができる職場を目指している。
(4)アンケートの実施
当面の当社の方針としては、雇用率をキープすることを目標として、採用を続けていくことである。徐々に各関係機関ともパイプができてきたので、安定した採用を継続し、彼らの職務遂行力を高め、職場環境の向上を図る。そのために、上司や同僚がかれらの勤務状況について、また自分に対してどう評価しているか把握するため、併せて家族や施設のスタッフ等にも同様の趣旨でアンケートを実施している。回答のなかには、「(パートの)おばさんがこわい」など、本人から本音を聞くことができる。
6. さいごに
知的障害者の雇用拡大を積極的に進め、成功した当社の担当者は、障害者のために特別な環境整備や対応をしていないと述べているが、特にジョブコーチ支援やトライアル雇用の活用がスムーズな研修の実施や、業務への定着に有効となっている。 また、障害のある求職者に対して、心理的な安定を図る実習の機会を保障することは、実習ひいては雇用促進を効果的に進め、可能性を広げていく。
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