企業の社会的責任を第一に障害者の雇用を拡大
 事業所外観 |
1. 事業の概要
当事業所は、電子回路基板の生産を主とする工場である。主な生産品目は、プリント配線板、特殊炭素製品、メラミン化粧板等である。イビデン株式会社の国内事業場の一つとして、昭和18年に大垣市の中心街から少し離れた場所に工場を開設し、広大な敷地を有している。
イビデン株式会社の創業は大正元年であり、「揖斐川電力」として揖斐川の流域に発電所を開設した。昭和45年までは、電力事業とともに石炭、カーバイド、カーボンといった素材の生産を中心に発展してきた。事業内容の転換により、ファインセラミクス、プリント配線板、メラミン化粧版などの新技術を育成する期間を経て、現在の電子関連部門（パッケージ基板事業）、セラミック関連部門（自動車環境関連事業）を中心にハイテク化、新規の事業の創出へと進んでいる。
総従業員数は約2,200人であり、うち29人の身体障害者を雇用している。内訳は聴覚障害者が15人、肢体不自由者が14人である。
2. 障害者雇用の経緯
肢体不自由のある従業員は、採用後に怪我を負ったり、発症した人がほとんどである。一方、聴覚障害のある従業員は、ほとんどが新卒採用で、岐阜ろう学校に直接求人の依頼をし、毎年1人ほどのペースで採用し、雇用を拡大してきた。
障害者の積極的な雇用の実績に対して表彰を受けたこともあり、ハローワークなどの関係機関との連携もよく、求職者の紹介を受け、面接なども積極的に行っている。地元出身の人が多く、採用後の定着率は良好である。
採用に関しては、優秀な人材から大手の企業への内定が決まっていく現状があり、いかに優秀な人材を確保するかという課題がある。基本的には地元で就職し働き続けてもらえればいいと考えているが、ろう学校の学生数自体が少なく、地元出身者も限られているため、紹介を依頼しても求職者がいないという状況も出てきている。
3. 雇用の現状
勤務時間は、日勤が8時から16時40分までである。障害のある従業員の職務内容や待遇は基本的に他の従業員と変わらず、特別扱いしていない。個々の特性やニーズを把握しきめ細かく対応することを考慮し配属するなどの対応を行っているが、特に問題なく、障害のない従業員と変わらず就労している。
障害のある従業員は、方針として様々な部署に配属することとしている。彼らだけの特別な作業グループをつくることで差別ととられることのないよう、配属部署を一箇所に固定していない。
具体的な作業内容は、製品の加工、検査、運搬、梱包、発注などである。できあがった製品をチェックする検査工程などもあり、なかには勤続十数年で、主要な戦力となっている従業員もいる。特に、コンピュータの扱いに長けているとデータを扱う各種の作業に対応できるので職場では重宝がられる。
聴覚障害のある従業員同士、昼休みに集まり話をすることも多い。また、職場のサークル活動や、ろう学校のOBの集まりなどで野球やバレーなどスポーツを楽しむことで、仕事を離れた生活でのつながりやコミュニケーションを図っている。
4. 具体的な取り組み
（1）聴覚障害
当社には聴覚障害のある従業員が多いので、コミュニケーションを少しでもスムーズにとれるよう対策を検討している。手話ができる従業員は少ないため、仕事では筆談で行うことが多いが、細かなニュアンスが伝えられない、必要なことがうまく伝えられないなどコミュニケーション手段としては限界があると上司は語る。本人の気持をうまくくみ取るためにどのようなサポートが必要か模索している。
対策の一つとして、手話ができる人を少しでも増やすため社内で手話講習会を開いた。また、入社試験のときや、入社時の説明、重要な会合があるときは、手話通訳者の同席を求めたり、相談窓口として総務課で対応するなどのサポートをしている。
なお、物理環境については、視覚で把握できる回転灯を設置し、危険時の対応に備えている。
（2）上下肢障害
上下肢に障害がある従業員には、環境を配慮して配属している。まず安全性を確保することが大前提であり、危険なものを扱わない、置かない、重量物を持たせないなど気をつけている。
（3）職場外の支援者との相談
親からの相談も受けることが多々ある。私生活について、障害者同士で相談することもあるが、たとえば結婚にも相談に乗ることがある。聴覚障害のある従業員は、同じろう学校の出身者が多く、先輩・後輩のつながりがあるため、誰かが落ち込んだとき仲間が励ます関係もできている。
また、ろう学校のバックアップもあり、必要に応じて学校に行き先生に相談したり、ろう学校から教員が定期的に当事業所に訪問し、卒業生の様子を見たり、時には相談に乗ることもある。
5. 聴覚障害者のある従業員との一問一答
Q どんな仕事をしていますか。
A フィルムの発注、運搬など。上司から指示された仕事をやります。
Q はじめはどんな仕事をしていましたか。
A コンピュータでプログラムをつくる仕事などしていました。
Q この会社にはどのように採用されましたか。
A ろう学校の高等部を卒業するとき、本当は県外に、たとえば大阪の松下とか、日立に就職したかった。通勤などいろいろな事情があり、自宅から通える場所を探しました。イビデンから求人があるという情報を聞いて、応募しました。
Q 仕事で聞こえにくく困ったことはありますか。
A 特に困ることはありませんが、コミュニケーションだけは気をつけています。聴覚障害のため、入社した当時は、やはりコミュニケーションがむつかしく困ったこともありましたが、今は大丈夫です。ただ、自分の希望や意見などうまく言えないことがあります。
Q コミュニケーションはどのようにとっていますか。
A 筆談が主です。あと、口話で理解するようにしています。
Q 仕事以外のときはどのように過ごしていますか。
A 時々昼休みに、聴覚障害のある人と話をしたりしています。野球仲間の先輩と試合をしたり、話したりしています。
以上、筆談で実施。
6. さいごに
当社の取り組みから、障害者の雇用においてもIT革命により情報化の技術が求められる時代の流れがうかがわれる。
また、聴覚障害のある従業員からのコメントを通じて、彼らが感じ経験している様々で時には深刻な不都合や課題について本音が言えるためのネットワークづくりを、当社は積極的に取り組みうまく機能させている。
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