職域開発により知的障害者の多数雇用と定着を図る
- 事業所名
- 株式会社中西
- 所在地
- 愛知県豊明市
- 事業内容
- 再生資源リサイクル
- 従業員数
- 40名
- うち障害者数
- 19名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 19 リターナル壜の選別・箱詰缶アルミ、スチール缶の選別・圧縮ペットボトル処理廃プラスチック処理 精神障害 0 - 目次
1. 事業所の概要
当社は、昭和39年に壜商として創業した。
使い捨て社会に疑問を感じ、昭和40年代から「捨てればゴミ、分ければ資源」を合言葉に、「リサイクル」という言葉が未だ浸透していない時期に、言葉自体を知ってもらうことから始めた。リターナル壜(再利用できる壜)の分別の仕方、リサイクルの流れなどを役所、婦人会、子供会等から、要請があれば説明会、講演会を開き、リサイクル意識を浸透させるための啓発活動を行ってきた経緯がある。
当初は、壜、カレットだけの取り扱いであったが、昭和40年代の終わり頃、飲み終わるとゴミとして捨てられるのを見かねて缶の取り扱いを始めるなど、時代の変遷と共に古紙、ぼろ布、ペットボトル、廃プラスチック等と、取り扱い品目を増やしてきた。
現在は、市町村役場からの収集・運搬・処理の委託が事業の中心であり、壜、カレット、缶、古紙、ペットボトル、廃プラスチック等が主要取り扱い品目となっている。「捨てればゴミ、分ければ資源」のモットーは今も変わらず、再生資源の総合リサイクルを勧め、環境に優しい循環社会ができることを目指している。
2. 障害者雇用の経緯
(1)きっかけ
知的障害者雇用については、今から20年ほど前に「働く場所がないので体をもてあましている人がいるんだが、使ってくれないか」、と知人に頼まれアルバイトとして雇ったことが始まりである。
以前は必ずといっていいほど「身内の方に知的障害のある人がいるのですか?」と聞かれた。当時は、彼らが縁もゆかりもない所で働くことがどれだけ稀であったかを示している。
それまでは、知的障害者と接したことのある社員は一人もおらず、知的障害に関する知識もなかった。「本人は、小学生程度の知能で、計算は10くらいまでしかできない」と説明を受けていたので、「単純な作業だからできるだろう。小学生なら3回ほど説明すれば十分な内容だが、10回説明すれば分かるだろう」と簡単に考えた。判断力は小学生の状態で身体だけが成長した人と受け止めていた。
しかし、現実に雇ってみると、そんな単純なことではなく、人により障害の特性は様々であり、当初は指導も思うに任せず、どこに相談に行ったらいいのかさえも分からない状況のなか何度もあきらめかけたが、彼らと共に働き、コミュニケーションを密にすることで障害について理解を深め、乗り越えることができた。
その後、平成元年に正社員として1人の知的障害者を採用し、現在も勤務している。以後、年に1~2人のペースで知的障害者を採用しており、現在は19人を雇用している。
(2)雇用状況
役員・アルバイトも含め、社員はトータルで40人。正社員31人のうち19人が知的障害がある。
知的障害がある社員の内訳は、19人中17人が雇用上の重度であり、半数以上は自閉的傾向がある。
自閉症のある人は一般に、こだわりが強く他人との関わりを築くのが苦手で、適した作業を設けて習得させることに時間がかかることから勤務が困難と言われることが多い。しかしながら当社においては、根気よく無理強いせず、適度な距離を保ちつつ接することで、彼らとの関係が構築され、ある時を境に距離が少しずつ縮まり、言葉のやりとりができるようになるなど、成長を強く感じ、大きな喜びを与えてくれることが、社員に自閉的傾向の強い人が多い理由の一つとなっている。
また、彼らの中には、適した仕事に従事すると職人のような働きをすることがある。現在リターナル壜の仕分けをしている社員は、援助者が見落としてしまうような小さな傷も見落とすことなく、きちんとした仕事をしている。融通が利かず、他の作業には全く興味を示さないが、ことリターナル壜の仕分け作業においては生き生きと作業している。
3. 具体的な取り組み
自閉的傾向のある人が半数以上を占める知的障害のある社員においては、当社で雇用する前は職場定着が困難で転職を繰り返してきた人も少なくなかったため、職場定着に向けて様々な取り組みをしてきた。
当社のモットーについて、社長は、「知的障害者で自閉を併せ持つ人の対応は非常に難しいが、この人達にも、何か一つ他の人にはない良いものを持っている。これを如何に引き出すか、見出すか、また、これをどのように育てるか、これが最重要の課題である。このためには、まず、色々な仕事をさせてみる。そして、私たち援助者には、繰り返しくりかえし教え込む忍耐と努力が不可欠であると思う。その結果、(他社では定着ができずにいくつもの職場を転々としてきた人が)定着した時の喜びはまた格別で、一段と心に熱いものが込み上げてくる。」また、「障害者への援助は、決して一方的なものではなく、援助する側が得られるものも大きい」と語る。
以下、その取り組みのいくつかを例示する。
(1)送迎
通勤時の配慮について、駅と当社間の送迎を行っている。以前は一人で通勤できることが入社時の条件であったが、側道拡張工事による当社の移転に伴い、送迎を行うこととした。当社が若干駅から遠くなったことも理由の一つではあるが、主な理由として次の四つが挙げられる。
①通勤路が近くにあるバイパスの抜け道として利用されているため、歩道のない細い道であるにも関わらず通行量が多く危険である。
②駅からの経路途中にある側道工事の現場の重機、工具などは、知的障害のある社員にとって非常に興味深いものであり、繰り返し現場に入り込んだこと。
③近くに中学と高校があり、学生の後に付いて無断で学校に入り迷惑を掛けたこと。
④自閉傾向の強い社員が、他人の敷地内に入り植木鉢を前に見た時の置き方に勝手に戻すといった問題行動を起こしたため、危険の回避、寄り道、近所への迷惑をできる限り減らすことが求められていた。
なお、送迎を行ったことで、仕事仲間の集団が通勤途上の興味に足を向けることなく職場に向かうことで、「これから仕事をするんだ」という意識となり作業をスムーズに始める要因となった。

(2)作業の単純化
知的障害のある社員は、以下の5つの部署で作業に従事している。各々の作業工程をさらに幾つかの作業に分け、担当する作業を単純化している。また、作業の種類を多様化、レベル化することで、障害の程度、適性に合わせ配置あるいは配置換えをしている。
①リターナル壜の選別・箱詰 | ②缶処理 | ③ペットボトル処理 |
![]() リターナル壜を種類ごとに
分別する。 |
![]() 圧縮した缶のブロックを、扱いやすいように小さくする。 |
![]() ペットボトルの中から異物を取り出す。コンベアー側面のワイヤーを引くと機械が停止する
|
④カレット処理 | ⑤廃プラスチック処理 | |
![]() カレットを色ごとに分別する
|
![]() 廃プラスチックの中から 異物を取り除く。 |
(レベル化の一例)
(単) | ・ペットボトルのキャップを取る | |
↓ | ・回収されてきたペットボトルの中からペットボトル以外の異物を取り出す | |
・カレットを色ごとに分別する | ||
(難) | ・何種類ものリターナル壜を選別し、各々の箱に詰める |
当初は簡易かつ単一の作業に従事し、遂行力と習熟具合に応じ少しずつ複雑な作業、工程へステップアップできる体制をとっている。
(3)機械の改造
①選別用のベルトコンベアーの速度を、彼らの能力に合わせ、通常より遅く設定した。
②ベルトコンベアーを停止させる安全装置のボタンを、各々が作業するポジションごとに設置した。
③安全ボタン以外にも、ベルトコンベアー全体にワイヤーによる安全装置を設け、ボタンを押さなくてもワイヤーに触れることで停止するよう改造した。
④圧縮機のボタンをカバーで隠し、勝手に操作できないようにした。
⑤機械の凸凹を少なくし、引っ掛かりやつまずきなどが起こらないようにした。
なお、これらの機械の改善、改造等の設備設置には助成金を活用した。
(4)社内教育、援助者の配置
①援助者の配置
知的障害のある社員2人~3人に対して、1人障害のない社員が援助者として配置されている。加えて、援助者が不在の時でも、日頃から彼らと一緒に働き状況を把握していることで、彼らが安心して作業に取組むことができるよう、また、問題が起きた時に素早く対応できることから、各作業部署ごとにサブ援助者を最低1人配置している。
職業生活相談員受講者は6人。障害者職場適応指導者受講者は4人。作業に関しては、業務遂行援助者を配置し指導を行う。社会福祉士の資格を持つ社員が職業コンサルタントとして職業生活全般についての相談を受け持つ。障害についての理解を深めるために社員に順次、障害についての講習会の受講などを積極的に勧めている。
知的障害のある社員が半数以上を占める当社の実態上、障害のない社員は援助者としての資質が求められるため、同じ職場の社員として、彼らを区別することなく共に働くことが採用の条件としている。
これまでに、馴染めないからと辞めた人も残念ながら少なくないため、採用に際しては3ヶ月の試用期間を設け、彼らと共に働いた上で、今後も仕事を続けられるかどうかを確認した上で採用する。同じ質問を毎日のように繰り返し受けたり、突然奇声が聞こえることもある環境でやっていけるかどうかは、実際に体験してもらわないと実感できないと考えている。
なお、出入りの業者であっても、彼らを蔑む担当者については交代を申し入れている。
②採用時の援助
採用した障害のある社員に対しては、援助者が1年間かけてマンツーマンで作業の指導、職業生活についての相談等を行う。最初は、職場に慣れる、作業を覚える、1日6.5時間の労働に耐えられるだけの体力を作ることに重点を置いている。援助者は、個性や障害の特性を把握し、どのような作業内容、指導・援助方法が相応しいのかを判断し、他の社員とも協力し指導方針の統一を図っている。
③社内教育
障害のある社員は入社当初、職場に慣れることで精一杯だが、しばらくすると他の社員と比べて作業ができないことで落ち込んだりする。そのような時には、他人と比べず、「入社してからこんなにもできることが増えたよね」とプラス思考でできるようになったことを周囲の社員が認め、自分自身の成長を自覚できるよう促す。自分に自信や可能性が持てるようになると、仕事に意欲が出てくるほか、後輩が入社した時の動揺が少なくなる。
また、年間十数回、障害者の実習を受け入れているが、多くの知的障害者と接することで、様々な障害を肌で感じ取ることができ、障害の理解を深める機会ともなっている。併せて障害のある社員にとっても、職場以外の人と接する良い機会となっている。実習生に指導する機会を通じて、自分に自信を持ったり、威張ってみたりと、実習生から良い意味でも悪い意味でも影響を受け、成長していくと考えている。
(5)勤務時間の設定
作業前における機械のチェック、作業の段取り、下準備とともにミーティング及び送迎、また作業後における送迎、作業のチェック、業務日誌の作成、ミーティングなどのため、障害のない社員は、彼らより30分早く出社し30分遅く退社している。特に、朝夕のミーティングは、彼らの状況を社内全体で共有し援助方針を統一するために必要な時間となっている。
なお、1日1時間の勤務時間差は、一ヶ月分を指定休とすることで、彼らと勤務時間が同じになるよう調整している。
※知的障害のある社員の勤務時間・休日
8:30~16:30(第2・4土曜日、日曜日休み)
※障害のない社員の勤務時間・休日
8:00~17:00(第2・4土曜日、日曜日、指定休)
(6)家族、関係機関との連携
彼らが朝食をとり、身だしなみを整え、遅刻することなく出社するという基本的な生活リズムを支えている家族の協力がなくては、彼らの雇用を続けていくことは難しいことから、日頃から、彼らの家族と連絡を密に取っている。年に1~2度家族と懇談会を開き、家庭内での生活を聞き職場での様子を伝えるほか、実際に作業の様子を見てもらっている。
なお、不幸にして家族に恵まれず、日常的な世話を放棄した社員に対しては、通勤寮やグループホームへの橋渡しや休憩時間に洗濯の仕方といった日常生活に必要な指導や相談を行うこともある。
家族やグループホームとの連携はもちろんのこと、障害者職業センター(及びジョブコーチ)、職業安定所、出身校の先生等の関係機関・関係者とも、できるだけ緊密に連絡を取り、情報交換や支援を受けている。例え些細なことでも、継続的に彼らの状況を把握してもらうことで、問題行動が起きた時に専門的な視野に立った適切な対応や助言、支援を受けることができる。
(7)余暇の活動、社内行事
1)野球部について
①概要
平成16年11月に発足した野球部は、障害のある社員とない社員との混合チームで、本人の希望と社長の同意が入部条件となっており、きちんと仕事ができることが条件で、野球の話に夢中になって仕事が疎かになった場合は部活動に参加できない約束になっている。活動は休日で、チーム構成は、障害のある社員6人とない社員11人(アルバイト、出入り業者を含む)である。月に1、2回で練習・試合をしている。

②創部のきっかけ
障害のある社員に余暇の過ごし方を聞くと、テレビを見て過ごす人が大半で、年齢と共に体力の低下が気掛かりとなっていた。また、甘いもの好きの肥満傾向の社員については成人病の心配もあるので、身体を動かし障害のない社員と一緒に楽しめるものを検討したところ、野球が候補にあがり、休憩時間にキャッチボールをしたところ良い感触を得、部を発足した。
③部活動を通して
同じチームの一員、同じ職場の社員としての連帯感、仲間意識が強まった。また、野球という共通の話題で話す機会も増え、人間関係が以前よりも円滑になった。普段職場では見られない一面が見られることもあり、隠れた性格がわかることもある。試合でボールを打つことで大きな自信を持つことができる。ゲームを通して身体を動かすこともできる。「今週は試合があるから、仕事もがんばろー」と仕事の励みにもなっており、これらは、野球を通して得られた大きな成果である。
2)社内行事
年2回程度、お楽しみ会を催している。歌が好きな社員が多いのでカラオケと食事というパターンが多いが、ボウリング大会、温泉、水族館見学、バーベキュー、果実狩り等を行った。みな楽しみにしており仕事の励みになっている。

4. 現在の問題と今後の課題
知的障害者の就労に家族の協力は重要であると実感しているなか、家族に恵まれない社員もいる。問題が生じても家庭内の問題に簡単に踏み込んでいけないため、家族に改善を求めるよう伝えるが、改善されないときは福祉課に間に入ってもらう。家庭内の問題は対応が困難である。
身の回りの世話を放棄されたが、グループホームで暮らすことになるまでの時間がかかった社員は、適切な指導を受けてこなかったこともあり、寂しくなると実家の犬小屋に泊まるなど以前の習慣が抜けず、また、入浴し体を清潔にするといった基本的な習慣がなかなか身につかず仲間から敬遠されがちとなっている。
また、現在十分にフォロー体制ができている家庭でも、家族の病気や親が離婚する場合もあり、勤務年数が経てば年老いた親が彼らの世話をすることが困難になることもある。そのような状況になった時、兄弟に世話を任せるにしてもグループホームで暮らすにしても、いきなり環境が変わると彼らは戸惑うばかりで問題行動を起こすことも心配される。
変化への対応に時間を要する彼らの将来の生活について、長期的な展望を持った上で、実現に向け長い時間をかけて準備し、必要があれば訓練することが必要である。
基本的な生活習慣ができていないと、仕事上支障が出ることもある。障害を理由に全ての面でフォローするのではなく、自分でできることを一つでも増やす、兄弟と暮らすことを想定するなら兄弟だけで過ごす時間を作ったり、グループホームであればショートスティを体験させる等も必要と考えている。
自立に向けた訓練、自立生活を支える体制、家族を支援する体制を一層充実させることが、彼らの職業生活を支えることに繋がり、今すぐにでも始めなければならない課題と考えている。
5. まとめ
最初は1人雇い入れたことから始まった知的障害者の雇用だが、今では全社員の半数を超えた。雇用数が少ない時は、彼らは指導を受ける側であったが、雇用数が増えると、仲間内で「あんなことしちゃだめだよ」と注意し合い、先輩社員が「こうするんだよ」と指導するようになり、障害者同士の仲間意識が強まった。彼らは伸び伸びと自信を持って仕事に従事している。
彼らが障害のない社員と共に過ごすことはもちろん大切だが、彼ら同士の時間も大切だと実感している。彼らの仲間意識や助け合いの気持ちが強まることで孤立、孤独感が減少し、精神的な安定が図られることによって、意欲的に仕事に取組めるようになることを期待している。
最後に、雇用を続ける上で大切な要素として、職場は根気よく粘り強くはたらきかけること、そして、大らかな気持ちで接するということを付け加える。
当社も、一度に大勢の障害者を雇い入れることはできないが、これからも仕事を作り出していくことで、知的障害者の雇用を進めていけたらと考えている。
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