業務上災害による中途障害者の職場復帰、職種転換に向けての取り組み
- 事業所名
- 石部運輸倉庫株式会社
- 所在地
- 滋賀県湖南市
- 事業内容
- 貨物運送業、倉庫業
- 従業員数
- 113名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 1 一般事務 内部障害 1 ドライバー 知的障害 0 精神障害 0 - 目次
![]() 本社事務所 |
1. 事業所の概要
(1)沿革
当社は昭和32年に石部小型運送有限会社として営業を開始し、昭和43年には国道1号線沿いの現本社敷地に第1号倉庫を設立。その後昭和56年3月に自動車運送取扱事業の登録を受け、平成元年4月、同有限会社を発展的に解散、当社を設立。同年5月には倉庫業の認可を受けた。
現在の事業内容としては、一般貨物自動車運送事業・自動車運送取扱事業・倉庫業をはじめ、工場構内荷役事業・通関業・産業廃棄物収集運搬・パイプ切断業・一般労働者派遣事業など多岐に及ぶ。
(2) トータル物流の進展を目指す
当社では梱包・保管・仕分・在庫管理等一貫した物流の提供により、カンバン方式に対応できる適時輸送を行っている。さらに以下の項目についても進展に努めている。
1)運送品質の向上
運送会社の品質は安全な輸送および適切な倉庫管理といえる。当社では安全講習をはじめとする体系的な教育システムにより従業員の能力・資質の向上を図っている。その結果平成5年3月にはISO9002の認証を取得、平成15年にはISO9001に移行した。
2)地域社会への貢献
児童・生徒の職場体験学習の受入れ、クリーンキャンペーンの参加等を行っている。
3)地球環境への配慮
今後ますます地球環境への配慮が重要な経営指標となるなかで、同社ではノックス規制をはじめとする新たな排気ガス規制に対応した輸送を行っている。また、平成16年8月にISO14001の認証を取得、資源の有効活用、廃棄物の削減をはじめとする環境経営を積極的に推進している。
4)職場環境の整備
平成16年8月、本社隣接新倉庫建設による作業環境の拡大、障害者対応トイレ・スロープの新設をはじめ職場環境の整備を推進した結果、厚生労働省から快適職場推進計画認定事業場の指定を受ける。さらに、翌平成17年10月の本社近隣倉庫建設に伴う休憩室設置などにより2度目の快適職場推進計画認定事業場として指定を受ける。
2. 被災した従業員の職場復帰に向けての取り組み
(1)被災の経緯
当社の従業員Aさん(34歳、男性)が、業務上災害により中途障害者となった経緯は、次のとおりである。
当時31歳であったAさんは、平成15年1月、当社にトラック運転手として採用され貨物運転の業務に従事していたが、採用後約3か月経過した同年4月にトラック運転中、岡山県内において交通事故被災、岡山県内の病院に収容され治療を受けたが、その後遺症のため中途身体障害者(下肢1級、車いす使用)となった。
(2)職場復帰に向けた職業訓練の受講
入院当初から職場復帰への意志を強く持っていたAさんは、当初の展望としてリハビリテーションを経て現職種への復帰を望んだ。加療後、後遺症による中途障害(=下半身不随)のため、当社は現職種のトラック運転手として復帰することはほぼ不可能と判断した。
このため、Aさんの職場復帰にあたり、職種の転換の検討が必要となり、新たな職種において広く必要とされるパソコン操作技能を習得してもらうこととした。技能習得については、兵庫県立総合リハビリテーションセンターの自立生活訓練センターにおいてパソコン操作の職業訓練を3か月間受講した。
3. 事業所の職場復帰受け入れの取り組み
(1)職場復帰に向けてのはたらきかけ
武田信也社長はAさんの職場復帰を約束し、パソコン技能の習得を支援するために毎月1回程度、同リハビリテーションセンターを訪問してAさんと面会し、意欲を高めるはたらきかけを行った。また、営業部長も月1回程度、他の役員も隔月にAさんを訪問することで意思疎通を図り、Aさんに対して当社が職場復帰を受入れる安心感を持ってもらうよう図った。
(2)職種転換
平成16年9月2日、被災後1年5か月経過したAさんは、前職の貨物運転業務に変わって「業務管理室・鋼材センター」の職場に復帰した。復帰から3か月間における勤務の状況は、Aさんの業務処理の指導・支援に当たる女性従業員1人とともに、2人体制で新職務に従事した。その後、指導・支援担当職員の編成替えのため「業務管理室・事務グループ」に配置換えした。職務内容は、従前の伝票類を手作業で処理する旧体制を改めパソコン処理とし、その入力作業を創出、Aさんに担当させて、今日に至っているが、新たな部署に定着している状況である。

(3)職場復帰への受入れ体制
当社におけるAさんの中途障害者としての職種転換を伴う復帰に至る受入れ体制について、ハード・ソフト両面にわたる配慮については、以下のとおり。
ハード面での整備については、障害者用トイレの別棟新設、就業場所である事務所内におけるスロープの新設については障害者作業施設設置等助成金、住宅の賃借、駐車場の賃借については重度障害者等通勤対策助成金と、Aさんの職業生活全般で使用する施設・設備について助成金を活用し整備をした。
なお、トイレの新設やスロープの設置に当たっては、自立生活訓練センターの理学療法士、支援員、情報訓練担当者が来社し事務所内の環境を確認のうえ、当社及びAさん双方にとって有用で具体的なアドバイスを受けた。


ソフト面での整備については、①まず、転換後の職務である事務処理に不可欠なパソコン操作技能について、十分対応できるレベルにあると積極的に評価し、技能が活用できる職種を創出、配置したことや、②次に明朗活発な性格のAさんに対し、職業生活の各場面での各従業員の支えが随所に見受けられていることが挙げられる。②については、例えば、当社では月1回、武田社長以下全員が参加し従業員の意思疎通を図るための「全体ミーティング」を開く際には、会場である事務所2階へAさんを従業員が抱えて2階へ運ぶ。また終業後に時折行う「懇親会」の会場は、Aさんに支障のないイス席の店を選ぶ、また社員旅行には従業員がAさんの参加を手助けしている。
なお、当社は「全体ミーティング」のプログラム構成の中に、産業医の健康講話を毎回組むことで、安全と健康の保持に努めている。
4. 職場復帰したAさんの感想と決意
「職場復帰に向けては、被災当初に入院した岡山県内の病院で、自立生活訓練センターを利用した人から訓練内容を聞き、入所を決意した。同センターでOA講習(パソコン技能訓練)を受講した。自分の経歴中、パソコン操作の経験が全くなかったが、指導員は受講者2、3人に対し1人の割合で担当、1日3時間、週2回、4か月間、技能習熟の進度に応じて訓練が行われたこともあり、通常の訓練時間で終えることができた。
中途で車いすを使用することとなった人にとって、日常生活・職業生活上最大の課題は、排泄の問題をどう解決するかであると思うが、会社が自分の職場復帰のために行ったトイレの別棟新設やスロープの新設等の配慮には、感謝にたえない。
会社には自分の職場復帰のために最大限の配慮をしてもらった。自分は会社に対し、仕事を全うすることでお返しするつもりだ。」
5. まとめ
中途障害者の職種転換を伴う職場復帰は、特に復帰後の職種が前職種と比べて互換性の低い新職種である場合は、克服すべき課題が多いと考えられるが、当社の以下の取り組みにより、中途障害者の職種転換・職場復帰・職場定着が実現した。
①最も大きな要因として、トップである武田社長がAさんの職場復帰への強固な意志を受止め、揺るがなかったこと。
②Aさんの就業環境、生活環境の全ステージにわたる受入れ体制につき、助成金を活用し十分な整備を行ったこと。
③Aさんの職種転換を目指した職業訓練の受講の結果、技能レベルの向上が実現したこと。
④従業員のAさんに対する就業・生活各般についての暖かい気配りが随所に見られること。
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