バリアフリー・テーマパーク運営を目指して
~障害者の雇用拡大はゲストへのサービス向上に繋がる~
- 事業所名
- 株式会社ユー・エス・ジェイ
- 所在地
- 大阪府大阪市
- 事業内容
- ハリウッド映画を主題としたテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」の事業企画及び運営
- 従業員数
- 5,000~6,000名(うち常用雇用数:2,000名)
- うち障害者数
- 32名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 コスチューム等の洗濯 聴覚障害 9 調理補助、洗い場、商品管理品出し、制服仕分け、メールサービス、商品組立加工等 肢体不自由 10 調理補助、制服仕分け、事務(経理・人事)、商品管理、品出し、イベントショー裏方業務等 内部障害 1 調理補助、販売事務 知的障害 11 調理補助、商品組立加工、施設営繕管理、清掃、洗濯、制服仕分け等 精神障害 0 - 目次
1.事業所の概要
(1)概要
株式会社ユー・エス・ジェイは、大阪市此花区においてハリウッド映画をテーマとした大規模テーマパーク、「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」の事業企画と運営を行なっている。
当社は、ユニバーサル・スタジオ社(米国)が運営する「ユニバーサル・スタジオ・ハリウッド」「ユニバーサル・スタジオ・フロリダ」の伝統や事業ノウハウを継承した、アメリカ国外進出第1号のエンターテインメント企業である。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンパーク内には、関西を中心とした日本だけでなく広く世界各国からのゲスト(お客)一人一人が「映画の中の主人公」となることができるよう、夢と興奮と感動の世界へ誘う迫力満点のライドやライブ・ステージ・ショーなど壮大なアトラクション及び飲食店・物販店を設置している。
オープン以来数千万人のゲストが訪れ、「ジュラシック・パーク」「バックドラフト」「ターミネーター」など、ハリウッド映画の醍醐味を体感できるアトラクションをはじめとした、ワールドクラスのエンターテインメントを通じ興奮と感動でゲストを魅了している。
(2)沿革
平成6年12月27日 | 大阪ユニバーサル企画株式会社設立 |
平成8年3月13日 | 商号、目的、定款の変更と第三者割り当て増資に伴い、「株式会社ユー・エス・ジェイ」に移行 |
平成10年10月28日 | パーク建設工事起工式 |
平成13年3月31日 | グランドオープン |
2. 障害者雇用の理念
株式会社ユー・エス・ジェイは、障害のある方々に幅広く雇用の機会を提供し、ゲストにとっても、また、そこで働く社員にとってもバリア・フリーなパークであることを目指す。これによって、ゲストや社員同士間での思いやりやチームワークをより一層育むことができると考える。さらに、社員一人一人の就労における自立を支援し、働く喜びを提供することによって社会に貢献できるものと考える。
当社のクルー・サービスセンター(人事部)の上原立氏は、「障害のある人を雇用し、日常的に共に業務を遂行する中で、自然と社員同士が互いに助け合い、励まし合い、時には厳しく指導し合う関係が生まれる。この関係によって日常から障害のある方へのコミュニケーションや応対の方法を学ぶことができ、ゲストの障害の有無に関わらず、接客時における戸惑いや迷いのない応対方法の習得に繋がっている。また、当社における障害者雇用は、単に企業の社会貢献や社会的責務という観点のみではなく、サービス業としての本質であるゲストへ提供するサービスの質的向上を主眼に置いて推進されてきた経過がある。この理念を今後も踏襲し続けなければならない。」と話す。
3. 障害者雇用の経緯
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グランドオープン以前、障害のある人が数人雇用されていたが、グランドオープン以降、本格的な障害者雇用に取り組むべく、障害者の雇用理念として上記方針が事業本部より打ち出され、10人程度で構成される障害者雇用推進プロジェクトチームが発足した。
プロジェクトチームでは、障害者の雇用促進に向けてパーク内の各部門での雇用の可能性を探り職務分析を行った。これを踏まえ、障害者の就業が可能な職務や部署には積極的に雇用を検討するよう訴えた。その後、同年9月に大阪府労働部、所轄公共職業安定所の協力の下、障害者フェスタ2001(合同面接会)へ参加し、平成14年3月までに順次障害者採用を拡大させてきた。
4.障害者雇用の状況
(1)障害者雇用実数(平成18年2月現在)
知的障害・・・・11人 | 聴覚障害・・・・9人 | 肢体不自由・・・10人 |
その他・・・・・2人 | 計・・・・・・・32人 |
(2)障害のあるスタッフの職務内容と採用条件(資格等)
職種の詳細 | 職 務 内 容 | 採用条件や資質(資格等) |
調理補助 | パーク内飲食店内及びパーク外バックヤード(下準備)部門等での調理補助など | 特になし(立位作業が中心・衛生管理ができる) |
サービス | パーク内カート販売物品や土産物(ポップコーンや飲料の容器など)の組立 | 特になし(立位作業が中心・衛生管理ができる) |
スチュワード | パーク飲食店内での食器洗浄作業など | 特になし(立位作業が中心・衛生管理ができる) |
パークサービス | パーク備品等の洗濯、パーク内及びパーク外の公道清掃と道案内 | 特になし(道案内等で要求される会話力) |
ワードローブ | パークスタッフの着用済み制服のクリーニング前の仕分け管理、アイロンかけ、修理(縫製)、ボタン付け等 | 特になし(目視による修繕箇所の確認、ミシンの使用) |
ショー関係 | アトラクションやイベントなどの裏方スタッフ | 特になし(安全管理ができる) |
コスチューム | 使用済みコスチューム等の洗濯 | 特になし(色形などを目視により判断できる) |
商品管理・品出し | パーク内ショップの商品管理と品出し補充作業及び接客 | 特になし(商品情報に関する説明ができる) |
メールデリバリー | 郵便物仕分けとパーク各部門への配達(一人乗り電気自動車乗務) | 普通自動車免許 |
デスクワーク | 各部門での事務 | パソコンが使えることが望ましい(ワード・エクセル、他) |
(3)労働条件
障害のあるスタッフの職務内容については、障害によって遂行が困難な内容を除き、他のスタッフと同一の職務を要求していることから、労働条件は障害の有無によって区別することなく、障害のないスタッフと同一条件で雇用契約している。
また、勤務成績が優秀で一定以上のキャリアや実績を蓄積したスタッフには、昇給や昇格を行っている。
なお、「レギュラー(パート)」職の平均的な労働条件については以下のとおり。
項目 | 内 容 | 備 考 |
勤務日数 | 1週間あたり平均5日勤務 | |
休日 | 週休2日(シフト制) | 事業形態上、土日祝は出勤 |
勤務時間 | 7:30~23:00の間で平均7.5時間 | シフト制(季節により時間が異なる) |
給与 | 時給月給制 | |
保険等 | 雇用・労災・健保・厚生 | |
契約期間 | 0.5年又は1年更新 |
(4)採用のプロセス
障害者の採用については、パーク内の各部門から提出される数名枠の採用計画あるいは退職による欠員補充を行っている。また、募集に際しては、情報の公平性を保つため、必ず公共職業安定所の求人窓口にて公開求人を行っている。
なお、求人から採用までの流れは下図のとおり。

第1次選考の合格者は第2次選考へ進むが、身体障害のある人については、配属予定先担当者による2次面接の後、具体的な職務内容及び職場環境を見学し、本人の入社意思を確認した上で最終合否結果を判定する。
また、知的障害のある人については、配属予定先担当者による2次面接の後、3週間の配属予定先現場での実習を組み込み、職場で要求する職務および職場環境等を具体的に体験し、理解を促した上で、本人の入社意思確認を行い最終合否結果を判定する。これは、彼らが職務に就くにあたり、具体的な職務内容や職場環境について、実際に働く中で具体的に理解してもらうためであり、同時に受入れ側としては、配属を予定している部門のスタッフに対して、本人の職務遂行能力の確認とともに、対応方法の理解を促す上で大変重要な位置づけとしている。
訓練校等………34% | 授産施設等………6% | 一般企業………44% |
他………………16% |
(5)新人研修
採用したスタッフは、オリエンテーション(新人研修)を経て各部署へ配属する。
新人研修は、単に配属部署にて要求される職務遂行能力を高めるためのものではなく、職務に対する包括的な知識と事業の本質を理解させることを目的としている。
したがって、配属先がゲストへの直接的サービスを行わない部署であっても、間接的に接客サービスに繋がっていることを認識させるため、障害の有無に関わらず、同時期入社のスタッフ全てを対象に同一プログラムで研修を実施している。
なお、研修プログラムは、就業上の規則の説明、日常勤務する上での接客マナー等の講習及びパーク内各施設とその職務内容などの説明で構成されている。
5.取り組みの内容
(1)障害者職業生活相談員の配置と役割
当社では、2人の人事部スタッフを障害者職業生活相談員(以下「相談員」という。)として配置している。
相談員は、障害のある新入スタッフの配属に先立ち、配属先責任者はもちろん、共に働く他のスタッフに対して受入れ事前講習会を実施している。これは、本人の障害及び職務遂行上配慮すべき事項について詳細に伝達し理解を促し、本人の就業が定着できるよう職場環境と体制の整備を行うためである。
彼らが職務に就く際には、配属先で良好な人間関係が築けるか、障害について理解が得られているのか等、実際の職務内容以外の不安要素を多く抱えているものだが、事前に講習会を開くことにより、スタッフ全員に一定の理解が図られているため、本人にとっては大変心強い。
また、配属後は彼らの就業状況を的確に把握するため、配属先を頻繁に訪問し、勤務状況や勤務の負荷状況(出勤日数や就業時間)について本人や配属先責任者との間で密に情報交換し確認している。特に新規に採用した直後は、本人に要求している職務が一定のレベルで遂行できるまで、本人に付き添い作業指導にあたる。その際、勤務状況だけでなく、本人を取り巻く職務上や職業生活上の課題から家庭での生活状況に至るまで相談員として関わりを持つ上で必要とされる詳細な基礎情報の収集に努め、改善あるいは解決が期待できることについては、積極的に家族や保護者に連絡している。
彼らが勤務する上での不安要素(人間関係・職務内容・職業能力・就業環境・職業生活の安定)をできるだけ早期に解消し、安定して働くことができるようにすることは、彼らが働き易くすることだけでなく、全てのスタッフが互いにより良い関係を構築することに繋がるとともに、結果的にゲストへの質の高いサービスを提供することに繋がっている。
(2)就業生活上の課題解決に向けて他機関と連携
当社では、彼らの就業の安定を図るために積極的に他機関や他施設と連携を図っている。特に知的障害のあるスタッフの就業については、出身学校や施設又は相談機関や支援センター等、教育福祉サイドの担当職員と綿密に連絡を取り合い、各機関所属時の支援経過や課題などの確認及び近況報告等の意見交換を行っている。
相談員が意見交換することによって、彼らが職業生活を送る上で発生する問題あるいは抱えているニーズ等に対し、事細かな状況調査に一早く対応することができる。
つまり、相談員の役割として、本人の抱える生活上の問題点あるいは支援の必要性が生じた場合に際して、支援者側との関係をうまく構築することが期待されている。
また、連携体制を構築するためには、支援者側の事業所との連携体制に対する考え方と取り組み方が重要なポイントとなる。相談員が求める支援者像のあり方については以下のとおり。
①繋がりのある人
就業する本人が関わった学校や施設等で、これまでの支援経過や家庭状況その他についてある程度把握できており、本人や相談員から信頼関係を構築できる人が支援者であることが望ましい。
②仲介役として
勤務上または人間関係上の問題といった事業所から家庭等へ直接伝えにくいことや給与や就業時間、待遇等の問題といった本人又は家庭から事業所へ直接相談しにくいことを支援者に仲介役としての役割を担ってもらうことで本人の就業環境などが整備しやすくなる。
③職場訪問
定期的に職場を訪問することにより本人の就業態度等を改善することに加えて、事業所とは違った視点からの本人に対する評価が得られる効果を期待している。
(3)職務遂行上、特に配慮されている事項
当社では、彼らが安定して職務遂行できるよう相談員の関わりを中心として、環境や体制の整備について、以下の取り組みを行っている。
1)配置転換
配属先にて彼らに要求する職務がミスマッチであった場合や人間関係において何らかの問題や課題が発生し、改善の手立てを講じたものの効果が見られない場合は、本人と相談の上で配置転換を行うことがあるが、もちろんこのような状況を防ぐために、相談員が何度も現場の責任者や本人に対して改善のための調整や働きかけ、作業への付き添いを行う。
2)障害種別による配慮事項
①下肢障害(義足装着)
・休憩時・トイレ使用時の義足脱時の休憩スペース・車いす・簡易ベッドの設置


②下肢障害(車いす・義足装着)
・車通勤の許可と専用駐車スペースの設置
③聴覚障害)
・勤務部署に1人1台の筆談器の設置

④聴覚障害
・鉄扉への窓の設置(向側にいる人物との衝突回避)

⑤知的障害
・危険個所での事故回避のための立入禁止ラインと警告シールの貼付
・作業スケジュール表の作成による1人業務の円滑化
・専用計量器の設置による目分量作業の回避
・温度計表示の工夫による温度管理業務の実施

⑥視覚障害
・PC文字、文書文字の拡大表示化
6. 総括
採用窓口担当者は、職場で発生する様々な問題点だけでなく、例えば、「金銭を巡るトラブルにどう対処すべきか?」といった生活全般にわたる支援ニーズについても本人や担当責任者からの聞き取り等をもとに状況を把握しており、まさに当社の障害者雇用理念である「社員一人一人の就労における自立を支援し、働く喜びを提供することで・・・」を実行している。
株式会社ユー・エス・ジェイという一大テーマパークの事業運営のその中で、彼らが安定して働くことができるよう支援する姿、また新たな採用を見込めるようにと各事業所へ働きかけている姿は、大変地味ではあるものの、当社の障害者雇用理念を実現させようと我武者羅に取り組んでいることとして、支援者の就労支援のあり方について示唆を与えている。
「当社の障害者雇用はまだ始まったばかりであり、身体障害のある人と知的障害のある人だけの採用実績ではなく、今後は精神障害のある人達の雇用も検討していく必要がある。また、より重度の、事業所各部での採用が困難な人についても、これまでとは違う形態で雇用できる方策を検討していかねばならない。まだまだ課題が山積している。」と採用窓口担当者は話している。
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