重度障害者の個性を生かした配置転換
~障害者が主体的に働く職場づくりを目指して~
- 事業所名
- 障害者ワークセンター新生会印刷所
- 所在地
- 兵庫県西宮市
- 事業内容
- 印刷業
- 従業員数
- 15名
- うち障害者数
- 9名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 1 印刷 肢体不自由 6 DTPオペレータ、事務 内部障害 1 営業 知的障害 1 製本 精神障害 0 - 目次
![]() 障害者ワークセンター新生会印刷所 |
1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯
当事業所は、昭和45年、大阪万博の年に創業した。
創立時はそよ風タイプ研究会という名称で、重度障害者の働く職場づくりをめざすべく、地域のニーズに応え、障害者就労の場を確保するために、印刷事業を展開してきた。
その頃、各地に作られた養護学校の卒業生、特に脳性小児麻痺などの重度障害者が働く職場が地域に見当たらず大きな課題となっていた。この状況に対して、障害者の就労支援は、一般企業に障害者雇用の先を求めるよりも自力でビジネスモデルを立ち上げることを優先課題と考え、彼らの就労意欲に応える場が新生会に求められた。
このような経緯から、当会は『働く喜びを求めて』を合言葉に印刷事業を開始した。まず、タイプ印刷(和文タイプ+輪転機)からのスタート。小規模な事業で始まったが、地域の応援を得て、数年後にはオフセット印刷(写植機+オフセット印刷機)に移行した。
この時、社名を障害者ワークセンター新生会印刷所と改め、ワープロ・編集専用機の時代を経て、DTP(パソコンベースの版下編集作業)へと事業を拡大した。
当事業所は、地域の自治体・企業・自治会・市民などさまざまな応援に支えられ、ゆっくりとではあったが、順調に事業所としての道を歩むことができた。
一方、より障害が重い人、日常生活や職能を高める訓練等が課題となっている人のために、昭和61年には社会福祉法人を設立し、認可施設の新生会作業所(身体障害者通所授産施設)を開設した。
現在、社会福祉法人運営の福祉系事業(授産施設)と障害者ワークセンター新生会印刷所の商工業系事業に分かれているが、新生会グループとして連携協力している。
2. 障害者雇用状況
障害者の就労支援を目的としてスタートした当事業所は、印刷事業の展開と併行して、地域の在宅障害者の雇用にも力を注いでおり、営業部門・製造部門に配置している。現在、製造部門のスタッフ11人中7人、事務・技術指導部門スタッフ4人中2人の障害者が勤務している。内訳は、知的障害者1人、身体障害者が8人である。
当事業所は、身体障害者手帳1級の方が6人と、重度障害者を多数雇用していることが特徴であり、中には生活面(移動、食事、排泄等)で全介助が必要な人もいる。
職場構成は、製版工程に5人(うちDTPオペレータ4人、技術指導者1人)、印刷の営業1人、事務部門1人、印刷・製本2人である。
3.具体的な取り組み
(1)体力や障害状況に応じた配置転換とその効果
脳性麻痺で四肢体幹に麻痺があり車いすを使用している身体障害者手帳1種1級の田中さんは、西宮養護学校高等部を卒業した後、そよかぜタイプ研究会時代に和文タイプの訓練を受け、一時期印刷の下請けとして和文タイプを自宅で開業したが、軽印刷業界が和文タイプから写植機に転換する時期に、当会作業所にてDTPオペレータとして職業訓練を受けてもらい、昭和62年に印刷所の営業職として採用した。
田中さんは、以降12年間、印刷所の営業の一員として事業の拡大に多大な貢献を続け、営業主任として活躍を期待していたが、心労や体力的な衰えと併せて脳性麻痺による二次障害に悩まされ、精神的にも行き詰まりを感じてきたため、退職についての相談を受けたが、先ず本人の健康の回復を最優先に考え、心療内科で受診し数ヶ月の療養期間を設けることにした。この間に、事業主、職業コンサルタントを中心に現場のスタッフも交えて、本人の配置転換の可能性を検討した結果、平成11年に当会グループ内の会計・経理・企画を担当する事務部門を当面の配置先に決定した。

新しい配置先では、給食数の管理・小口現金・金融機関の入出金といった短時間で処理できる業務から始め、少しずつ業務範囲を拡げていくスモールステップで完結型の事務を設定した。また、もう一人の事務担当者とペアで仕事をする体制にし、業務が過重にならないように配慮した結果、田中さんは、自分から会計実務講習を受けるなど、積極的にキャリアアップにチャレンジし職域を広げることができた。
やがて、会計部門を始め、DTP関連のオペレータの経験を活かした所内報の発行など、現在ではセンター事務局の中心的なポストを担っている。
なお、障害者作業施設設置等助成金を活用した店舗の改装(自動ドアの設置)、事務用パソコンとコピー・プリンタ複合機の導入や、通勤の利便性を考慮し勤務地の近くの駐車場確保といった就労環境の整備も配置転換後のスムーズな職場定着に結びついている。
助成金制度を活用することにより、小企業単独では困難な職場環境の改善に取り組むことができた。

乗り換える田中さん

また、事務部門に職場配置を転換したことで、福祉部門において受け入れている教職免許証取得のための介護体験実習を担当してもらい、車いすの操作実習のモデルから実習全般のアレンジまでこなしている。本人もこの業務には手ごたえを感じており、実習資料の準備など生き生きと取り組んでいる。
実習担当が田中さんの新しい分掌となったことは、当事業所にとって大きな収穫となった。今後も、彼が高いモチベーションを維持しながら後進たちが目指す目標として職場で輝いてほしいと願っている。
(2)作業所から事業所への移行にあたってのフォロー
当会作業所で印刷製版の実践練習を数年経てDTPオペレータとして採用した小田原さんについては、作業所の組版専用機から印刷所のパソコンベース(MAC)のDTP編集に移行できるかどうか、また、レイアウト・仕様書の読み取り能力を一般のオペレータ並みに引き上げることができるかどうか、という2つの課題が採用時にあった。
実績のある車いすを使用する先輩職員を職業コンサルタントとして配置し、技術支援を受けながら実際の業務を分担することで、オペレータとしてのスキルアップを期待した。
本人の意欲的な姿勢もあって数年後にはオペレータの中核となり、現在では名刺・はがき・冊子など多種類のレイアウトに対応できるようになった。職業コンサルタントを中心に、職場環境の整備やDTP業務の切り分けなどフォローアップできたことが有効な結果となった。

(3)全面介助が必要な障害者の採用
昨年、当会作業所を20年近く利用してきた、職場介助者による日常生活全介助の必要な重度の障害者を採用した。職場介助者がいたため採用に踏み切ったが、現在、パソコンベースのDTPオペレータとして活躍している。
当会作業所を開設した昭和61年以降は、作業所で実績を上げた利用者をワークセンターが職員として採用する方法が採られるようになり、福祉系事業の拡張に伴いグループ内の事務会計処理を集中的に行うセンター事務局を設け、本人が従事できる新たな職域の確保が可能になったため、DTPアシスタントとして食事・トイレ介護など全面介助が必要な重度の障害者の採用が可能となった。
(4)自閉症の障害特性を配慮した採用
同じく昨年採用した、コミュニケーションが難しい自閉症のある人は、就労意欲はあるものの、緊張が高まると奇声を発して仕事が手に付かないことが多く、一般就労は困難だったため、当会作業所で就労訓練を経て、印刷関連業務のアシスタントとして採用した。
本人の精神的な安定感が得られるよう、本人の嗜好性をある程度尊重しつつ、印刷後工程の作業を組み合わせ柔軟な職場配置を行うことで採用に至った。
4. 取り組みの効果、障害者雇用のメリット
(1)スタッフの半数以上が障害者であるため、「職業能力の異なるスタッフが連携して業務をこなす」ことを日常的なテーマとし、チームワークを最優先に取り組んできた。この姿勢が社風になっているため、突発的な受注があっても柔軟に対応できるようになった。
(2)個性を生かすことももうひとつのキーワードになっている。20年間の取り組みの蓄積は、従事可能な職域の多くは職務分析から生み出されるという発見の連続によるものである。
5. 今後の課題
(1)印刷業界全体が業績の低迷にある状況の中、印刷所の経営は困難を極めている。障害者雇用の維持はなんといっても本業の業績如何にかかっており、一定の収益が確保できる仕事を受注できるかがポイントとなる。小企業の安定した経営基盤の確立が緊急課題となっている。
(2)価格破壊が進む中で、常にオーバーワーク気味の受注体制が常態化しつつある。生産効率を優先しつつも、過労にならないような配慮・バランス感覚が常に求められている。
(3)10年以上就労しているスタッフの中には、加齢に伴う二次障害が現れ始めている。一般的に身体障害者の老化は通常の人よりもかなり早いため、リハビリを導入し、それに応じた勤務時間の調整が必要だが、当事業所のような小企業では踏み込みにくい課題である。このように、本人の職業能力に低下が見られても継続雇用していくには、小企業の体力では困難なことがあり、新しい支援のしくみが求められる。
(4)作業所の長期利用者の就労移行支援も大切な課題であり、障害者就労支援機関との連携が必要になる。
(5)最近地域の在宅障害者から増えてきている、IT・印刷関連の就労に対する希望にも応えていきたい。
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