事業所名

医療法人弘生会関屋病院

所在地

奈良県香芝市

事業内容

医療業

従業員数

250名

うち障害者数

4名

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	0
肢体不自由	1	看護師
内部障害	1	総務
知的障害	2	物流管理の補助作業、厨房における補助作業
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要
2. 障害者雇用の取り組みの経緯と背景
3. “がんばるな”が合言葉
4. まとめ

1.事業所の概要

（1）概要

　当事業所は、奈良県と大阪府の県境に位置する香芝市にあり、万葉の昔から歴史とロマンに彩られた二上山の山麓の地で、北から、ふたかみ棟、かつらぎ棟、こんごう棟の三棟で構成されている。

　すばらしい自然環境と、歴史文化遺産に囲まれて当事業所は昭和26年の設立以来、半世紀あまりにわたり、主に地域の高齢者医療に貢献をしている。
 

（2）社会福祉の理念

　「社会福祉という仕事は、あくまで人間を相手にし、まず、その相手に信頼してもらわなければ一歩も進まない仕事なのです。そうであれば、その相手が子供であれ、障害のある人であれ、どの人にも通用する手段である笑顔を活用して、我々がOKサインを最初に出さなければ、相手に信頼してもらえるわけがありません。ですから、ブスッとした「ブス」になることなく、ニコニコした笑顔美人で利用者に接する能力、これが社会福祉施設職員の資格の第一歩だと私は考えています。」

　北畑英樹理事長は、著書「福祉名言100話」で、先ず何よりも笑顔、笑うことの大切さを語っている。ニコニコすることが他者のみならず自己をも変えていく第一歩であるという考え方がある。

　なお、かつらぎ棟のエントランスにある大きなリンゴのモニュメントやガイドステーションの壁面に描かれた大きな赤いリンゴは、マルチン・ルッターの「たとえ世界が明日終わりであっても私はりんごの樹を植える」という言葉を、「たとえ患者の明日の命運がどのようなものであっても、私達は今日、患者さんが快適で楽しく有意義な生活を送っていただけるよう精一杯努力します」と読みかえ、患者の尊厳を守り、心を込めた医療、看護、介護を実践していくことを表している。

2. 障害者雇用の取り組みの経緯と背景

　当事業所が障害者雇用に取り組んだのは数十年以前になる。看護師として十数年継続雇用している職員や、十年以上に渡って事務職をこなしている職員など、障害者として特別な扱いがなされていない職員が長年にわたって勤務している。

　一番新しく採用し5年を経過した知的障害のある男性のKさんは、現在物流管理部に所属し、種々の備品の在庫管理と補充を担当している。物流管理部ではKさんを支え一緒に仕事をする3人の上司と同僚がいる。彼らは障害者雇用について、以下の三点を職場のキーワードとして取り組んでいる。

①障害者を仲間として暖かく迎えられる職場

②障害者の力が活かせる職場

③頑張らない職場(頑張るとエンドレスになる。どこまで行けばゴールとなるのか誰もわからない。)
 

【タオルや衣料の搬入】

タオルや衣料を各病棟に納める

【備品の在庫管理・補充】
 

備品の管理

リストへの記載

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　また、日常の業務に加え、患者と家族や友人、医療スタッフとのコミュニケーションの場の提供や訪問しやすい病院の周知を図るため、毎週土曜日にコーヒーサロンを開催するほか、春のひな祭り、夏の七夕、秋の敬老会、12月のクリスマス会など季節に合わせた行事を開催しているが、障害のある職員も病院のスタッフの一員として参加し、患者さんのみならず多くの人々と接する機会を持つことができるように配慮している。

　シフト制の勤務をしているKさんも積極的に参加しており、勤務当初は戸惑いがあった様子も見られたが、最近は彼をサポートするチームの協力を得ながら、業務に積極的に関わり、更にワンステップ上の業務へのチャレンジ意欲となってはね返ってくる好循環が見られる。

3. “がんばるな”が合言葉

　通常職場では、掲げられた目標の達成に向け様々な研修や教育、叱咤激励など行われるなか、当事業所では“がんばれ”は禁句としている。松浦東男事務長は、「無理をするということは、精神的にも肉体的にも個人に負担がかかり、仕事が苦痛につながる恐れがある。本来仕事は楽しくやらねばならない。特に社会福祉施設では楽しく笑顔を常に絶やさないことが、最高のサービスだと思っている。したがって、“がんばるな”が合言葉となっている。」と語る。

　この非常に印象的な考えについて、北畑理事長は、「知的障害者であれ、身体障害者であれ、また障害のない人であれ、今の世の中みんな不安を持っている。そのような環境の中では、物事を限界まで突き詰める必要など全くない。まして最上、最高を目指すことは無益なこと。マアマアでええ。八割でええ。七割でええねん。」と語る。

　障害者の継続的な雇用が続いている大きな要因は、まさしくこのような考え方が職場の基本となっていることにあると言える。障害者だから多分できることが限られているだろう、公私の両面からかなりのフォローをしなければいけないだろう、とは考えていない。

　松浦事務長は、仕事を行う上での基本的な姿勢について、「何故この仕事があるのか？」「担当している仕事は社会性を持っているので、機械的では無く、誰のためなのか、誰が喜ぶかを常に思いながら仕事をやること。それがまさしく自分の励みになり力になる。」といった内容を職員に対し丁寧に時間をかけて説明する。ここには障害のある人ない人の区別はない。

4. まとめ

　北畑理事長は精神科医であると同時に、高齢者や障害者、子供などに関しての福祉の専門家である。また、自ら落語医者と名乗り「あやしや小丸」という芸名で福祉に関しての講演や啓蒙活動をしている。

　理事長は障害者雇用の効果として、「障害者が生き生きとして働くことのできる職場は、同時にやすらぎや、ねぎらいのある職場であって、いわば合格マークのある職場だ。どんな職場であれ、笑いがない職場ではストレスが重なり、伝えたいことは伝わらず、伝えたくないこと(例えば不安や怒りなど)は伝わりやすい。笑いのある職場こそ障害者が真に自己実現できる良い職場だと言える。」と述べる。なお、「携帯電話やパソコンのメールなどを使った会話が増え、直接人間同士でのコミュニケーションが減少している傾向が気にかかる。人に対する関心や興味が薄れると、それが人間に対する不信や愛情不足に繋がる。」とも述べている。

　障害者を雇用する職場で最も必要なのは、「人間に対する関心と愛情、連帯感」であり、それはまた「人の尊厳を最も大切に考える」という当事業所の理念に反映されている。