付加価値のある製品製造が障害者雇用を進める要因
- 事業所名
- 株式会社東山家具
- 所在地
- 和歌山県和歌山市
- 事業内容
- 総桐タンス、婚礼家具など高級家具の製造・販売業
- 従業員数
- 22名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 4 家具製造 肢体不自由 2 家具製造 内部障害 0 知的障害 1 家具製造 精神障害 0 - 目次
1.事業所の概要
(1)概要
創業88年となる株式会社東山家具は、観光地として有名な和歌山市紀三井寺のすぐ近くにあり、“総桐タンス、ご婚礼家具”などを扱う家具の製造・販売を行っている。製品のほとんどが別注(オーダーメイド)で、特に総桐タンスは全国に熱烈なファンが多数存在する。
本社ショールームの横には、“桐工房”と名づけられた製造工場があり、社員22人が一流の家具を毎日丁寧に手作りで製造している。
(2)障害者雇用状況
社員構成は、事務を含む22人のうち、障害者が7人おり、聴覚障害者4人、身体障害者2人、知的障害者1人が製造現場で作業している。障害者7人の年齢層は、40歳から58歳、勤続年数は4年から43年であり長期にわたり勤続勤務している社員が多い。

2. 障害者雇用の経緯、背景
昭和30年代後半から40年代前半にかけて、日本経済は高度成長期を迎えることとなり、和歌山においても就職は鉄鋼などに人気が集まっていた。このような状況の下、当社のような伝統的な作業を行う木工所には、就職する人材が限られ採用には苦労していた。
そのような折り、たまたま経営者夫妻がろう学校の近所に居宅を構えていたことから、聴覚障害者を初めて雇用することとなった。経営者自らが作業に入り、その経営者を含めても数人の社員しかいない限られた人員の職場だったので、当初は本人とのコミュニケーションには苦労した。経営者は、自分が作業する横に本人を伴いマンツーマンで作業方法を繰り返し伝えることでコミュニケーションの壁を克服した。経営者は「この経験で培われた障害者に対する“心”が、現在の障害者雇用に大きくプラスとなっている」と言う。
それ以後、余裕が出るたびに障害者雇用に前向きに取り組み、現在も障害者への門戸を開いている。「障害者と同じ気持ちになって考えること。私たちは同じ人間であり、ましてや社員は自分の息子だ!」との経営者のモットーが、現在でも事業所内に息づいている。
3.取り組みの内容
(1)熟練職人の育成指導
当社の熟練技能を持った社員(熟練職人)は、原則として製品に対し1対1で携わり、一日に4~5工程をこなすが、キャリアの若い製造職の社員は、熟練職人を目指し、日夜簡単な工程に従事しながら経験を積んでいる。障害者では最年長の勤続43年の社員は、熟練職人として最も技能を必要とする仕上加工の工程で能力を発揮している。彼の作業を見ると“ものづくり”に携わる者としてのやりがいと喜びが、そのひた向きな一つひとつの動作から感じ取ることができる。先輩の後姿を見て、勤続経験の若い社員は「いつかは熟練職人になる!」との強い想いを胸にコツコツと努力を重ねている。

仕上加工の工程

障害者雇用については、できる限り単純化・簡素化を図り、彼らが従事できるよう配慮するモデルが多いが、微細で精巧な細工や加工を要し、単純化できない工程や複雑で経験に大きく依存する作業内容に従事する当社は、一見、障害者雇用に相容れないように思われる。 障害者の目から見れば、最初は「憶えられるのだろうか?」といった躊躇があり、習熟するまでに大きな困難を伴うが、少なくとも3年間、作業に従事するなかで、困難な作業工程をひとつずつ修得し、自信とプライドが生まれ、また、一切の甘えを断ち切り作業に対する責任や意欲も増してくる。当社の作業には、何よりも増して大きな“やりがい”を手に入れることができる。


総桐タンスは完成されていく
(2)健常者と同じ待遇を設定
長年培われてきた経営トップの、「障害者は決して健常者に劣ることはない」という考え方が徹底され、職場風土となって息づいている当社では、一人の“ものづくり”職人として尊重している障害者への賃金は他の社員と同等に一本の賃金体系により支給している。
区別をつけると絶対に上手くいかない経験に基づく取り組みは、全社員の励みになっている。
(3)危険な作業環境に対する対応
聴覚障害者は、研削機械の作動音が聞こえないなど危険が予測される場合には、その機械を最初から使用しない配置も考慮するが、基本的には、本人の自発的に熟練職人をめざす意志を尊重し、管理者の丁寧な指導の下、繰返し経験を積むことで危険作業を安心して任せることができている。
(4)「目標ボード」で当日の目標を確認
前日の終礼において、当日以降の具体的な作業進捗予定を決め、箇条書きで当日の作業工程をミニボードに書き込み、障害者を含む熟練職人が各自作業確認できるようにした結果、①管理者と熟練職人とコミュニケーションがスムーズに図られるようになった、②熟練職人が作業予定について自発的に主張できるようになった、③一日単位での自分の目標が設定され、作業意欲につながった、④無断欠勤がほとんどなくなった、という成果が見られた。
簡易な目標管理制度であるが、堅苦しい形式に捕らわれずありふれたツールを用い、日常の業務活動である終礼にリンクさせたことが功を奏している。

「目標ボード」

作業予定が書かれている
(5)経営者のアットホームな人間関係
企業組織では私的な繋がりが敬遠されるなか、当社では経営者のアットホームな考え方が職場に一貫して流れている。
年末賞与において子どものいる社員にはお年玉を賞与袋に入れて渡したり、仕事外では、経営者は、結婚相談や一般生活のフォローなど、社員を「家族のひとり」と考え現在も支援を続けている。
4. 今後の展望と課題
受注家具の製造や販売を行う当社は、併せて障害者雇用にも継続的に取り組んでいく。製品の付加価値に特化することで利潤に余裕が生じ、社員の育成に相応の期間を費やすことが可能となり、結果として聴覚障害や身体障害などのハンディキャップを補う長い修得期間に費やすコストを充分吸収できる余裕が生じ、障害者雇用に関してのキャパシティを広げることができる。熟練職人を目指す障害者の社員は、素直で謙虚な努力家が多く、修得した技能をもって丁寧に作業する特性を持っているため、当社に欠くことのできない貴重な人材となっている。
一方で懸念される課題についてだが、新たに採用した障害者は、相応の努力を最低3年以上続けなければ、技能を修得し、仕事の楽しさが見えてこないが、簡単にでき成果がすぐわかるものに流される現代の若者気質を考慮し、今後定着率をさらに向上させる努力が必要となる。
また技能の伝承という課題もある。最年長の障害者は既に58歳であり、他の障害者も比較的高齢者が多い。伝統的な技能や障害者への技能指導などを若手社員に伝えなければならない反面、未だ熟練技術や作業ノウハウなどを若手にバトンタッチしていくには課題が存在している。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。