力みを抜いた自然体での支援
- 事業所名
- 株式会社東洋リネン
- 所在地
- 山口県下関市
- 事業内容
- ホテル・旅館・宴会場へのリネン品のリース及びクリーニング
- 従業員数
- 28名
- うち障害者数
- 13名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 13 洗濯(4)、仕上げ(4)、選別(2)、集配助手(3) 精神障害 0 - 目次
![]() 事業所概観 |
1. 事業所の概要
昭和53年に創業した当社は、重度障害者多数雇用事業所であり、全従業員の約半数が知的障害者で占められている。毎朝、下関市内のホテルや旅館等で使用された大量の寝具類が営業車で次々に運び込まれ、事業所は活気を帯びる。
2. 障害者雇用の考え方と経緯
「本社では、障害のある従業員に対し、こんな支援をしているとアピールできるようなことは特に無いのですよ。」と、原田卓美取締役事務長は語る。
「本社を設立する時、障害者への支援をどうするべきか、皆で考えたのは事実です。でも今では、自然体で従業員に接しています。」
力みを抜いた自然体での対応が、当社の障害者雇用をより良く展開させている要因の一つであることがうかがわれる。
また当社は、全ての従業員に対して最低賃金を保証し、その除外申請は行わなかった。これは初代社長の創業当時からの経営方針であり、このポリシーは今日まで連綿と堅持されている。
3.取り組みの内容
(1)リネン作業
知的障害のある13人の従業員は、それぞれの持ち場できびきびと作業する。シーツ、カバー、浴衣など多様な寝具類を作業場に運び込み、それらを選別する作業には、ほぼ全員が取り組む。
リネン作業には、収集→搬入→洗濯→プレス・乾燥→たたみ→結束→保管→搬出→配達といった一連の工程があり、従業員一人一人の適性に応じた作業部署を、その流れのなかで設定できる当社の特徴は、障害者雇用を進めていくうえで非常に有効である。

(2)面接や協議を重ねて採用を決定
当社では、従業員の採用に慎重を期している。創業当初は本人や関係者からの就職希望をできるだけ受け入れる方向で採用を進めていた。しかしその後、予測に反し短期で離職する従業員が出てきたため、一時の情に流されて採用を決めると、その結果として本人も事業所も困るという事実を苦い経験を通して知ることとなった。
継続的な就労には、本人の適性等とともに保護者側の要因も強く影響する。そこで現在では、本人、保護者、ハローワーク等関係機関との綿密な事前協議を重ねつつ、採用の可否を決定している。場合によっては、わが子の就職を熱望する保護者を説得し、入社を断念してもらうこともある。
また、当社で職場実習を体験したり、見学等を行った生徒や保護者に対しても、実習等の体験が当社への採用に直結するものではないことを伝えている。
「厳しいと思われるかもしれませんが、安易な期待をお持ちいただかないようにすることも必要なのです。」と原田事務長は語る。
なお、採用後に何らかの問題が生じた場合は、ハローワーク等関係機関と入念な協議を行い問題の早期解決を図っている。
(3)生活面の安定のために
当社では、知的障害者13人のうち、7人はグループホームや通勤寮等福祉施設から通勤、他の6人は自宅から通勤している。彼らにとって生活面の不安定さは就労面の不安定さに直結しやすいため、彼らの生活面に関心を持つ必要がある。
1)福祉施設(グループホームや通勤寮等)からの通勤者の場合
グループホームや通勤寮等では、支援者(世話人、指導員等)による生活面を中心とした支援を行っているが、必要に応じて生活面での情報が当社に伝えられる。福祉施設と連携を密にできることは当社にとって大変心強い。
当社の従業員が利用するグループホームは、当社に隣接するホームと、近郊にあるホームがあり、ともに通勤は便利である。また当社から若干距離のある通勤寮についても、当社で準備した通勤専用の送迎マイクロバスが、朝夕の出勤退社時に運行しており、通勤に支障はない。
「事業所と福祉施設とは、その役割がおのずと異なっています。ですから、お互いの管轄の違いをきちんと意識することで不用意な干渉などが生じぬよう、上手に連携することが大切です。」と原田事務長は語る。
2)自宅通勤者の場合~連絡帳の活用~
自宅通勤者にとって生活安定の鍵を握る保護者に対しては、一歩ふみこんだ工夫が事業所側に必要とされることがある。事業所との連携に前向きな保護者もあれば、その逆の保護者も現実にいる。当社では、6人の自宅通勤者について保護者との連絡手段に連絡帳を活用している。
6人の従業員は、それぞれ出勤時にこの連絡帳を原田事務長に手渡す。事務長は、その日における一人一人の仕事や体調等の気づき、連絡事項等を記載し、各従業員に退社時に返却する。保護者は、家庭でその内容を読み、必要に応じて回答を記載する。この連絡帳を通した相互連絡を、当社では昭和53年の創業後まもなく開始した。
「電話などではなく、こうした文字を通したやりとりを当社では大切にしています。“会社としても本人の就労生活に気をつかっていますよ”と保護者にアピールできる効果もあろうと思います。そして、保護者自らが“会社側に協力しよう”といった思いを持ってほしいと期待しています。保護者からは概ね返事を書いていただいております。」と原田氏は語る。
家庭にも様々なタイプがあり、必ずしも保護者全員から返事や回答が戻ってくるというわけではない。また、こうした文字を通した連絡は、当社に地道な根気も必要とされるが、この取り組みの継続は、事業所と保護者との連携の維持・強化につながり、ひいては従業員の安定就労を支えるベースになることが期待できる。

3)所持金について
従業員の所持金の額については、本来各自の主体性に任せることが望ましく、当社も以前は各自に任せていた。しかし、金銭の紛失や、額の比較が従業員同士でなされるといった問題が生じた。また、社屋の外に設置された自動販売機で、ジュース類を購入する姿がよく見かけられるが、夏場に必要量以上のジュース類を購入して飲む従業員の健康上の心配も生じ、加えて通勤途上で金銭にまつわる犯罪事件に巻き込まれることも危惧される。こうした諸般の事情により、所持金の額については、一日に所持する金銭については500円程度までと従業員に伝えている。
4.従業員の勤務状況
(1)Aさん(男性)
Aさんは、集配助手として営業車に搭乗し、シーツ類の積み下ろし作業に従事している。能力的にも高いAさんは、運搬用ワゴンを降ろすリフト操作も手慣れており、きびきびと作業を進めている。当社に隣接しているグループホームを利用し、当社に通勤している。

(2)Bさん(男性)
Bさんは、自動洗濯脱水機へのシーツ類の出し入れ、機器操作、洗剤の投入等の作業に従事している。作業場を歩く姿はきびきびとしているが、作業遂行には具体的な指示を必要とし、生活指導においても当社からの粘り強いはたらきかけが必要である。例えば、作業場でBさんが他の従業員と口げんか等することがあり、仲裁や助言、指導を行うが、場合によっては保護者による家庭での指導も必要とされるが、家庭との連携づくりは難しい課題である。

(3)Cさん(男性)
CさんはBさん同様、自動洗濯脱水機へのシーツ類の出し入れ、機器操作、洗剤の投入等の作業に従事している。勤続年数の長いCさんは、機器のスイッチ操作も手慣れている。下関市内にある通勤寮を利用し、マイクロバスで通勤している。
なお、知的障害者は加齢による諸能力の低下(体力、注意力等)が比較的早いといわれているが、47歳のCさんは、高齢化による作業能率の低下が徐々に進行している。「高齢化の影響を受けつつある従業員が当社に数名おります。この問題への対策にはまだ妙案がなく頭の痛いところです。加齢による作業能率低下を補填するような制度があれば良いのですが。」と原田事務長は悩む。

(4)Dさん(男性)
Dさんは、シーツ類の洗濯作業に従事している。指示理解や意思表現に課題があるため、作業の遂行には当社からの“噛んで含めるような忍耐的対応”(原田事務長)を必要としている。交通機関の利用については、自宅から民間バス・JR・マイクロバスを利用して通勤している。Dさんは、バスの発着時刻等に急な変更が生じた場合でも時刻表をもとに適切に対処できるため、通勤については自立しており、当社も信頼を置いている。

(5)Eさん(女性)
重度の知的障害があるEさんは、シーツ類の選別、機械への投入、たたみ作業等に従事している。
自宅通勤者であるEさんは、JR最寄り駅から当社までの十数分を歩いて出勤する。途中、人通りの少ない場所も通るため、安全対策として携帯電話を所持させ、何かあればすぐに当社へ連絡するよう指導している。

(6)Fさん(男性)
重度の知的障害があるFさんは、プレス完了後の浴衣をたたむ作業と併せて、集配助手にも従事している。浴衣をてきぱきとたたみ、素早く積み重ねていく姿からは、仕事への意欲が伝わってくる。当社に隣接しているグループホームを利用し出勤している。

(7)Gさん(男性)
Gさんは、プレス完了後のシーツ類を、10枚または20枚といった所定枚数ごとに結束機で結束し、所定の用品棚に保管する作業に従事している。Gさんは既婚者であり、奥さんは近隣の系列事業所(リネン関連)に勤務している。二人は当社隣接のグループホームで世話人からの支援を受けながら職業生活を送っている。
シーツを数えるGさんの指先の動きは、迅速かつ正確である。所定枚数のシーツを結束機にかけ、結わえ終えた束を次々と積み重ねていく姿からは、仕事への責任感と自信が伝わってくる。


5. まとめ~社会参加と自己実現に向けた支援~
当社は、福祉施設との緊密な連携のもとで、障害者雇用を維持・発展させている。そして、力みを抜いた自然体での対応により、知的障害者一人一人の適性に合った支援の仕方を、日々の取り組みのなかで追求している。当社は、彼らからの「働きたい」という熱い願いを受けとめ、就労という社会参加への道を開くことを通して、一人一人にとっての自己実現を支援する取り組みを今日も続けている。
国立山口大学教育学部附属養護学校
校長 松田 信夫
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