認知症対応型グループホームでの障害者雇用の取り組み
- 事業所名
- 有限会社シルバーケア
- 所在地
- 徳島県板野郡松茂町
- 事業内容
- 指定認知症対応型共同生活介護事業(認知症対応型グループホーム)
- 従業員数
- 47名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 2 介護施設での入居者へのケア(食事、洗濯、掃除等)及び建物の維持管理 精神障害 0 - 目次
1.事業所の概要
(1)沿革
平成13年 4月 有限会社シルバーケア設立
平成14年 2月 グループホーム春日苑 松茂 創業
平成15年12月 グループホーム春日苑 川内(徳島県徳島市)創業
平成17年 3月 グループホーム春日苑 田尻(大阪府泉南郡田尻町)創業
(2)グループホーム入居要件
・65才以上の介護認定度1以上の方
・軽度~中度の認知症のある方
・寝たきりでない人
(3)グループホーム入居定員
グループホーム春日苑 松茂:18人(1棟9人×2棟)
グループホーム春日苑 川内:27人(1棟9人×3棟)
グループホーム春日苑 田尻:18人(1棟9人×2棟)
(4)理念
『「ただいま」と言いたくなる場所。ここ春日苑は、従来の介護施設の枠組みにとらわれない「我が家のような環境で暮らす」という発想から生まれた新しい介護施設です。あたたかいスタッフや、ともに生活する入居者に囲まれ、まるで家庭のような雰囲気の中「もうひとつのわが家」として喜びある暮らしを送っていただけます。また、専門スタッフによる、きめ細かいサポートで入居者のご家族の方にも安心して頂けます。今まで過ごされてきた日常生活に近い環境で生活をいとなむ。それがまさに、「わが家に近いわが家」春日苑です。』(春日苑パンフレットから抜粋)
(5)グループホームのケア内容
『・認知症のお年寄りが家庭的な雰囲気の中で、少人数で共同生活を送ることにより、認知症の症状の進行を緩和させ、よりよい日常生活を送ることができるよう支援する。
・介護福祉士や介護支援専門員など専門のスタッフが24時間介護する。
・1棟9人の入居者に対し3人のスタッフがお一人お一人にあわせて作成した介護プランに添ってきめ細かく、やさしくサポートする。
・病院への通院や私用での外出にも、ご家族の手を煩わさずスタッフが付き添う。』(春日苑パンフレットから抜粋)
(6)グループホームの環境
・全室個室でプライバシーが守られる居住環境。
・全室南向きの8畳の居室はとても明るく、介護保険基準の4畳半を大きく上回っている。押入、半間の洋服ダンスなど、収入スペースもたっぷりあり、お気に入りの家具や思い出の品々を持ち込める。
2. 障害者雇用の状況
障害者就業・生活支援センター(以下、「支援センター」という)、地域障害者職業センター(以下、「職業センター」という)及び公共職業安定所からの紹介により、現在、2人の知的障害者を雇用しており、春日苑 川内1人、春日苑 松茂1人を配置している。
採用にあたっては、雇用前のジョブコーチ支援事業を1ヶ月行った後、トライアル雇用を実施した。
彼らの職務内容は、グループホーム内での入居者へのケア(レクリエーション、食事、声かけ、見守り等)、食事の準備、洗濯物たたみ、掃除及び建物の維持管理等である。
雇用形態は、1日6時間の週5日勤務であり、休日はシフト表により変動する。
3.取り組みの経緯、背景
(1)背景
従来、病院や福祉施設を運営する事業者が高齢者福祉の分野を担ってきた一方で、平成12年4月に介護保険制度が導入され、高齢者の介護や福祉分野の事業を民間営利法人でも開設・運営できるようになったことから、これまでにはない他業種の事業者がこの分野、特に高齢者の地域ケア分野へ参入し始めた。
この流れの中、徳島県内で有数の建設業者が、遊休土地の有効活用を検討した時に高齢者福祉の分野で事業所を立ち上げることを考え、当社が創立された。
障害者福祉の盛んな地域に所在している当社のスタッフは、彼らが同じ街で暮らしている姿を目にしていたが、彼らの雇用に対しては、何をどこから取り組めばいいのか想像もつかないため、漠然とした不安を持っていた。
(2)雇用のきっかけ
平成17年初め、当社スタッフの知り合いを通じて、地元の支援センターから、障害者雇用の話を聞くことになったが、当社にとって初めての試みであり、また、障害の特性を詳しく理解していなかったため、どんな仕事がどれだけできるかということよりも、入居者との関係がうまく取れるのかが不安であった。具体的には「彼らが突然奇声をあげ入居者を驚かせてしまったり、万一入居者がケガを負うことがあれば取り返しがつかない」「コミュニケーションのすれ違いで入居者を怒らせてしまうことはないか」といったものである。
4.障害者雇用に向けての準備
(1)障害者雇用の検討
1)障害者雇用の検討
障害者の雇用を検討するきかっけとなったのは、支援センターから、知的障害者が実際に老人福祉施設などで働いている写真や資料をもとに具体的な説明を受けたことである。雇用前に実習を行うことで彼らの勤務状況を分析できることや支援センター等からのサポート等の雇用援護制度を活用し、当初の負担を軽減できることを知った。これを受けて、雇用形態や勤務時間の設定、仕事の内容などについて支援センターと相談しながら、職場実習を行って採用を検討することとした。
2)職務の整理
職業センター及び支援センターと相談の上、職務内容を細かく検討した。現場で必要とされる職務を分析することにより、勤務時間内にできる仕事を仮設定することができた。
なお、春日苑 川内と春日苑 松茂では職務内容が違っていたため、仮設定の内容も、各施設では違ったものになり、それぞれの職務に適性のある人材を求人条件にあげ、支援機関に伝えた。
(2)実習の活用
両グループホームに1人ずつ実習を受け入れたが、雇用前にジョブコーチ支援事業の活用と、彼らの実際の仕事ぶりを見て、当初の不安はかなり軽減され、現場のスタッフも彼らと早くうち解けることができた。
けがや病気などの緊急時も、職業センターや支援センターが窓口になり、彼らの生活面の担当機関に連絡が行き届き、対応をスムーズに行うことができた。
5.各施設における取り組みの内容
(1)グループホーム春日苑 川内
1)求人条件
当社が運営するグループホームとしては入居者が一番多い3ユニットで形成されている当施設のコンセプトは、「わが家に近いわが家」「移りゆく四季の中で楽しむ暮らし」と掲げている。
当施設が必要としたのは入居者ケアをする人材であったため、職務については当初からレクリエーションへの参加や入居者ケアに加わることが検討された。
求人条件は、入居者とのコミュニケーション面が最優先と考え、入居者は若い人を自分の孫のようにかわいがるため、できれば若い人の募集について希望した。
なお、採用にあたって重視する点は以下のとおり。
①入居者とのコミュニケーションがとれること
②対応が分からない時はスタッフに尋ねることができること
③職務が流動的なので、指示を聞いて取り組めること
④働く意欲があること
2)Aさんの特徴
求人内容を確認し、支援機関と共に見学した知的障害のあるAさん(男性)に対し、施設長は見学後に面談を行い、当社と本人の双方合意の上、実習を設定した。
17才のAさんは、高校を中退し、福祉施設で共同生活を送っており、仕事の経験は少ない。最近、製造業を半年で辞めたばかり。興味がないと全く気が入らず短気にもなる反面、興味がある事はとことん頑張るタイプ。また、コミュニケーション能力は高く、作業に対し自己判断ができる反面、独自に判断することもある。祖母によく面倒を見てもらった「ばあちゃん子」である。
3)職務内容
一日のスケジュールは下表のとおり。職務のほとんどが入居者ケアに関わった内容である。
朝の体操ではタオル体操やリハビリ体操、レクリエーションではボール遊びや散歩、カラオケ、季節の行事などを行う。昼休憩の前には配膳し、食事の介助や片づけ、午後は洗い物や洗濯物を行う。自主的にできる入居者へは、本人ができるよう介助する。
時間 | Aさんの仕事内容 |
9:00 10:00 10:30 11:30 12:00 13:00 14:00 16:00 |
3ユニットのトイレや洗面台掃除等 職員会議 体操とレクリエーション 配膳と食事の介助 <昼休憩> 洗い物 洗濯物(介助、干す・たたむ) 終了 |

仕事内容は流動的で臨機応変さが必要

(2)グループホーム春日苑 松茂
1)求人条件
徳島県産の杉や檜を全面的に使用し2ユニットで形成されている当施設のコンセプトは、「やさしい木の家」「自然木のぬくもりの中で高齢者の方々に心からホッとしていただけるやさしい住まい」「木や人のやさしさに包まれて」と掲げている。廊下の床も全て木張りである。
当施設が必要としたのは建物をきれいに保つための人材であるが、共同で入居生活している認知症の高齢者のケアも兼ねながら清掃管理をすることが求められ、職務については、不十分になりがちな建物の清掃管理部分で検討した。
求人条件は、入居者とのコミュニケーション面と清掃仕事を嫌がらないことをあげた。
なお、採用にあたって重視する点は以下のとおり。
①入居者とのコミュニケーションがとれること
②一日の仕事の流れを確立すること
③対応が分からない時はスタッフに尋ねることができること
2)Bさんの特徴
求人内容を確認し、支援機関と共に見学した知的障害のあるBさん(男性)に対し、見学後、当社と本人の合意の上、実習を設定した。
49歳のBさんは、中学校卒業後、仕事を転々とし職歴は多数。単身生活を送っている。自己都合ではなく、仕事ができないと言われ辞めさせられることが多かった。
長所は人なつこくおしゃべりが好きで明るい点。短所は会話すると仕事の手が止まる。また、分かっていても人に聞く確認行為が見られる。作業に対する自己判断は苦手。
3)職務内容
一日のスケジュールは下表のとおり。職務は建物の管理清掃が主となっているが、入居者との関わりも大きなポイントである。職務内容に関わらず、認知症のある高齢者の生命を預かりケアを通して生活を彩る仕事であることに変わりはない。入居者とのコミュニケーションは重要視され、入居者へのちょっとした気づきや困った時の対応を他のスタッフに知らせることが求められる。
なおBさんの場合は、目移りして仕事が手につかないよう、一日の仕事の流れを確立することが先決であった。
時間 | Bさんの仕事内容 |
9:00 10:00 11:00 11:30 12:00 13:00 14:00 15:00 15:15 16:00 |
ユニット花の廊下と食堂・掃き拭き ユニット月の廊下と食堂・掃き拭き ユニット花の洗面台と鏡・洗い拭き ユニット月の洗面台と鏡・洗い拭き <昼休憩> 玄関の掃除 外回りの掃除 おやつの時間(入居者ケア) 窓や手すり掃除、日替わりでケア 終了 |


6.取り組みの効果
(1)雇用に至った要因
1)グループホーム春日苑川内(Aさん)
①入居者からとても気に入られた。朗らかで優しい面が出せた。
②本人が当施設での就職を希望し、意欲を持ち続け仕事を真面目に取り組めた。
③スタッフの指示を聞いて仕事ができた。
④対人ケアについては長い目で見ることができた。
⑤支援機関との連携によって当初の不安感が軽減した。
2)グループホーム春日苑松茂
①作業面では依然課題は多いが、本人の持つ明るさが施設に良い雰囲気をもたらせた。
②本人の作業可能な範囲が理解できた。
③ジョブコーチの支援により仕事ぶりが改善され、仕事の流れを自身でつかめるようになってきた。
④支援機関との連携によって当初の不安感が軽減した。
(2)効果
1)Aさん
年齢が若く、働く経験と働く意欲が不足していたAさんは、現在の仕事にやりがいを感じ始めており、最近ではヘルパー資格を取ってみたいと口にするようになったほか、生活面でも意欲的な姿が見られるようになった。
以下、Aさんのコメント。
「最初、入居者との関係が不安だった。職員間より、利用者との関係が不安だった。けど、レクとか入ってくうちに打ち解けましたね。毎日入っていくうちに。」
「就職が決まって、うれしかった反面、頑張っていこうという気持ちになりました。今は入居者と話していると疲れを感じない。楽しい仕事。」
2)Bさん
一つのことに集中するのが苦手で、おしゃべりすると仕事の手が止まるBさんだが、現在の仕事には持ち前の明るさがとても活かされた。また、ジョブコーチ支援を利用することで、仕事の流れを自分でつかむようになり、仕事への集中力が高まった。
以下、Bさんのコメント。
「仕事はできてないところがあるんかなあ。忘れんようにアパートに帰ってノートに書いてるんやけどね。就職できるかなあって自分でも心配があったけど。毎晩、ノートを見て勉強してるんよ。毎日、勉強。」
「仕事は厳しいねえ。ほんま厳しいわぁ。けど、厳しくってもやらんとあかんね。生活にお金がいるから、アパート代払わんとあかんし。」
3)当社にとっての効果
どのスタッフも「正直不安はあった」と言うが、実際に取り組み始めてからは、徐々に不安が軽減され、現在は「あいさつも明るくするし、スタッフに対してもこんにちはとあいさつする」「素直なのでお年寄り自身が受け入れてくれている感じ」と概ね良い評価をしている。他の事業所に向け「いい人が来てくれれば事業としては助かると思います」とコメントする。
7. 今後の課題・展望
徳島県では、障害者雇用に取り組む認知症対応型グループホーム事業所はまだまだ数少ない中、他業種から高齢者福祉に参入してきた事業者が障害者雇用を進めるのは、より大きな戸惑いや不安があり、なかなか踏み切れない状況が推測される。
そのような中で、支援機関が相互の協力体制による支援を受け、不安感や負担感の軽減が図られ、認知症対応型グループホームを職場とし入居者ケアを担った職務内容を設定した当社の取り組みは、今後一層、障害者雇用が高齢者の地域ケア分野でも進んでいくことを期待させるものである。
就業支援ワーカー 佐野 和明
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