2005年度作成

事業所名

特定非営利活動法人JCI Teleworkers’Network

所在地

徳島県鳴門市

事業内容

障害者IT指導者の養成、障害者IT講習会・研修会の企画・運営、重度移動障害者の在宅学習支援、新しい就業形態の創出と就業体験の提供

従業員数

190名

うち障害者数

108名

障害	人数	従事業務
視覚障害	4	事務局業務、IT講習会の企画・調整、在宅就業プロジェクトのコーディネート等、県や国実施の社会実験のコーディネート、NPOアクセシビリティ支援プログラムへの参加
聴覚障害	7
肢体不自由	67
内部障害	8
知的障害	14
精神障害	8

この事例の対象となる障害

肢体不自由
難病（筋ジストロフィー）

目次

1. 団体の概要と自立支援の経緯
2. 障害者（チャレンジド）の雇用にあたっての取り組み
3. スタッフが行う業務の内容
4. 活動の成果
5. 今後の課題と展望

事業所外観

1.団体の概要と自立支援の経緯

（1）団体の概要

　当団体は、社会参加と就労に対する強い意欲を持ちながら、心身の障害、難病、高齢、育児・家族の介護などにより、社会生活や職業生活の中で「弱者」の立場を強いられている人たちと協働し、IT利活用を基盤とした社会参加と就労の機会拡大を目指す団体である。

　平成11年4月に創設し、平成14年1月に特定非営利活動法人の認証を受けた。
 

（2）自立支援活動の経緯

　障害者生活支援センターへの出向、インターネット利用の学習会などで、IT学習の機会提供を積極的に進める一方で、印刷物の製作をテレワーク（コンピュータとインターネットを活用した、在宅就業）で協働するなど新しい就業形態の形成を試行した。

　これらの取り組みが県の福祉担当部課の目に止まり、企画段階から参画した「徳島県障害者テレワーク促進事業」が、平成13年度から徳島県の委託事業として全県規模で展開されることとなった。

　平成14年度からは「障害者パソコンボランティア養成・派遣事業」「パソコンリサイクル事業」が、委託事業に加わり、「指導者養成」「IT利用技術の習得」「在宅学習・就業支援」の体制を整備した。

　また平成15年度からは、厚生労働省及び独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構（当時）が行う「重度障害者在宅就業推進事業」の支援団体の指定を受け、平成16年度には、徳島県の後援を得てマイクロソフト社が全世界規模で展開している「UPプログラム」に参画し、民間企業が行う社会貢献事業との協働体制も形成し、更に多角的な活動を推進することとした。

 

2. 障害者（チャレンジド）の雇用にあたっての取り組み

　団体を運営する事務局業務が多様化したため、平成15年4月から、Aさん（身体障害者手帳1種2級の筋ジストロフィー患者）を事務局職員として雇用した。

　Aさんには、会員管理の事務作業や団体内の様々なプロジェクトチームの中心的な業務を担当させている。
 

（1）多様な勤務形態に対応するための職場づくり

　Aさんの主な勤務場所は、事務局（鳴門市）、JCI鳴門UPセンター（鳴門市）、自宅（板野郡松茂町）の3箇所である。

　当団体の活動は多様かつ流動的であるため、週始めの定例スタッフミーティングや機密性の高い事務処理は「事務局」、独自運営のIT講習会やチームに所属して実施するデータ入力業務は「JCI鳴門UPセンター」、印刷物の編集・Webサイトの更新などは「自宅」といったように、それぞれの職務に合わせてその日の作業場所を選択できるようにしている。
 

（2）作業場所の環境整備

1）事務局のバリアフリー化

　手動の車いすを使用するAさんは、平成15年度当初は事務局職員としての研修期間であり、ほぼ毎日事務局勤務のため、バリアフリー工事を施した。なお通勤については、手動装置を搭載した特殊車両を運転して通勤が可能であったが、次のような環境整備を行った。

①玄関口までに長めの緩やかなスロープを設置。

②建物内の完全にバリアフリー化。

③作業スペースは、玄関口から一番近い部屋に設置。

④車いすでも使用可能なスペースの確保と段差解消。
 

　また、軽度の上肢障害があるAさんは一人でスロープを上ることが困難であるため、出・退勤時には必ず同僚（知的障害のある事務局実習生）が立ち合ってサポートをしている。
 

 

2）JCI鳴門UPセンターのバリアフリー化

　平成16年度から、鳴門市から廃所となった同市役所堀江出張所を借用し、活動拠点として使用している。

　なお、当センター開所に先立ちバリアフリー工事を行ったが、経費については鳴門市の予算で賄ってもらった。
 

①スロープの設置

　通用口と玄関口の段差解消のために、自走式の車いす利用者が、自力で走行できるよう、勾配の緩やかなスロープを設置した。
 

 

②トイレの改修

　トイレ入口の段差解消のため、2方向のスロープを設置し、トイレ内の扉と間仕切りを撤去しアコーディオンカーテンと入れ替えた。

　また、洗面台を、車いすを使用するスタッフが使いやすい場所に移設し、重度障害者用トイレに手すりを設置するとともに、軽度障害者用トイレに洋式便座を設置した。
 

 

3）自宅の環境整備

　Aさんが所有するパソコンと自宅のインターネット環境に加えて、当団体からは在宅業務用として高機能のデスクトップパソコンとプリンタを貸与し、在宅勤務の環境整備の充実を図った。

　在宅勤務の際には一日の終わりに詳細な作業日報を提出するよう指示し、作業・勤務時間を管理している。

　流動的な団体の業務に柔軟に対応できるよう、年間を通して出勤と在宅を組み合わせた勤務形態についてスケジュール管理を行っている。
 

 

3.スタッフが行う業務の内容

（1）事務局業務

　事務局では、会員情報の管理、作業報酬等の計算事務、会計処理などの事務処理業務と、団体の公式Webサイトの管理責任者として、更新・管理作業を担当している。
 

 

（2）IT講習会のコーディネーター、講師

　当団体が行政などから受託または自主事業として行うIT講習会で、コーディネーターとして講習会を企画・調整するとともに、自らも障害のある当事者の講師として、指導を担当する。

　平成17年度は、徳島県商工労働部雇用能力開発課が主管する「障害者IT技能養成職業訓練講習会」、独自に運営する講習会として「知的障害者IT講習会」、「難病患者IT講習会」を担当した。
 

 

（3）在宅就業プロジェクトでの業務

　IT利活用による就業のためのプロジェクトチームで、印刷物の作成、ウェブサイトの設計・制作・更新、パソコン要約筆記者の養成と講習会・講演会などへの派遣、データ入力などコーディネーターやメインスタッフを担当する。
 

（4）県や国が実施する社会実験のコーディネート業務

　平成15年度から、県と国が実施するユニバーサルな社会を実現するための社会実験に参画しており、障害のある当事者の独自のネットワークを活かし、被験者の募集や車いす移送車両の調達など、コーディネート業務を担当する。
 

 

（5）「NPOアクセシビリティ支援プログラム」への参加

　NPO法人イー・エルダーがNTTPCコミュニケーションズ社と共同で行う、「Webサイトのアクセシビリティ支援プログラム（視覚障害者ほかにやさしいWebサイトづくり支援事業）」に申請し、平成16年11月に助成対象となった。

　内部障害者、視覚障害者を含むメンバーを結成して、実験・実証的な研究に取り組んだ。

　コンテストに出品した成果物が高い評価を得た直後から、一般企業からのアクセシビリティ化の仕事を受注している。
 

 

4.活動の成果

（1）指導者の養成

　　「障害者パソコンボランティア養成講座」「自主講習会」などにより、年間約20～30人を養成している。

　現在、講習会などに参加しているチャレンジドの実働人数は約90人、うち、正・副講師要員は50人である。
 

（2）IT講習会（訪問指導を含む。平成17年度実績）

　日数合計　：460日

　時間数合計：1,780時間

　受講者数　：280人
 

（3）計画的な自己実現プログラムの実践

　当団体が運営するIT講習会の受講者のうち、約70が指導者養成講習会を受講しており、また、その約60％が受講後に実施する講習会に学習進行補助員として参加している。

　受講者の約75が当団体の会員となり、ほぼ全員が就労体験（印刷物の作成、データ入力、講習会補助員ほか）に参加している。
 

（4）就労体験の実績（平成17年度）

　現在、会員190人のうち、108人がチャレンジドであり、彼らは以下のいずれか、または複数の就業を体験している。

①印刷物の作成（31件）

②Webサイトの製作・更新（8件）

③ウェブサイトの運営補助（マイクロソフト社が運営する「答えてねっと」の特別対応者：8人）

④IT講習会の講師・補助員（延べ5,200時間）

⑤その他、データ入力（Webサイトコンテンツ作成を含む）、パソコン要約筆記、点字シール貼付名刺作成など

⑥パソコンリサイクル（年間 100セットを再生、貸与）

⑦事務局職員：チャレンジド3人（うち2人は知的障害者の実習生）が常勤している。

 

5.今後の課題と展望

（1）課題

1）専門性の高いIT指導者の養成

　ITによる就労と社会参加を目指すチャレンジドが、急速に多様化している。特に、視覚障害者、知的障害者、精神障害者からの受講希望と、当団体への入会希望が顕著であるが、個々の障害特性についての専門的な知識・技術をもち、「個」に対応した指導ができる講師の養成が差し迫った課題である。
 

2）専門性の高いテレワーカーの育成

　社会全般へのIT利用技術の普及、操作性の高いハードウェア・ソフトウェアの開発などにより、IT分野での就労や仕事の獲得競争が激しくなってきており、さらに専門性を高める研修や経験が必要になってきている。

①知識・技術・職業意識を合わせた専門性の向上

②画像処理、ネットワーク技術、アプリケーション開発分野のスキル習得の強化
 

3）受益者の拡大

　移動パソコン教室、訪問指導の拡充などにより、一層の拡大を図る。

 

（2）展望

　当団体は、3年後にチャレンジドがすべてを行う複合的な「経営体」の創設を予定している。

1）実現に向けての実践課題

①経営理念の確立と会員の意識の高揚

②「JCI」ブランドの創出と浸透・定着

③組織内で、自由な発想による斬新なアイディアが提案できる環境の整備

④プログラム単位での、独立した責任と権限を持つプロジェクトの運営
 

2）事業基盤の整備

　平成17年10月に、徳島県内の企業と共同運営するWebショッピングサイト「徳島WAどっと混む」を開設した。

　「受注した仕事を仕上げて納品する」という仕事の仕方から、「民間業者との共同経営に参画して利益配分にあずかる」という仕事を通して、収益事業の「経営」への移行を体験することが目的である。

　併せて、このWebサイトを新しい経営体の中核的な事業基盤にしたいと考えている。

　現在は、販社の商品をウェブサイトで販売することにより、売上高に応じて受け取るマージンが主な収益であるが、平成18年度中に県内の生産業者や作業所と協働して、独自商品を開発し、集荷・梱包・配達・集金までをチャレンジドたちで行う「集配センター」を開設・運営する計画を進めている。

 

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