障害者の安定的な職場の確保
~社会への参加を基本に障害者と互いに助け合って働ける企業を目指す~
- 事業所名
- 有限会社みらいPlus
- 所在地
- 高知県高知市
- 事業内容
- 食肉惣菜加工(米飯類、特に寿司を中心とした食品加工)
- 従業員数
- 11名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 1 洗浄 精神障害 2 パック詰め、寿司づくり - 目次
![]() 事業所内 |
1. 事業所設立の背景、経緯
且田社長が障害者雇用に取り組み始めたのは、約30年前までさかのぼる。
当時大学1年生だった社長は、高知県土佐市で知的障害者の総合的なコロニーを作るための施設建設に携わったことをきっかけに、その施設に職員として就職し、知的障害者の職業的自立を目標に教育活動と就職活動に従事してきた。
しかし、当時彼らを受け入れる企業は零細企業が多く、就労や収入の安定にはほど遠かったこと、また職務が雑用的な内容のため、彼らが仕事における自分の必要性を感じることができず、加えて職場の人間関係の問題などから働く意欲が低下し、離職するケースも多かった。
そのような状況を社長は見続け、「どんなに教育や指導を行い彼らの能力を伸ばしても、卒業後・修了後に生涯を通じての生活が保障される職業生活が確立されなければ、彼らが持つ能力が低下してしまう。それならば、自分が彼らの働く場をつくろう」と思い、保護者や障害者関連の団体などの協力を得て、平成16年10月に当社を設立した。
現在、社員は11人、うち精神障害者2人がパック詰めや、寿司を巻く卵を焼くといった直接寿司づくりに関わる作業に従事し、知的障害者1人は容器等の洗浄作業に従事している。

2.企業理念及び障害者雇用の考え
(1)企業理念
障害者雇用については、彼らのあるがままを受け入れ、仕事をする際に何が必要なのか考えることが必要であり、不足している部分は、職場の指導、技術面、金銭面のいずれであっても補填することができれば良い。
このような考えにより、当社は「障害者の安定的な職場の確保、社会への参加を基本に障害者と互いに助け合って働ける企業」を理念に、健常者と障害者が同じ職場で働き、互いの力を結集することで、より強力なマンパワーを確立し企業を経営していく意向である。
(2)障害者雇用の考え
「どんな障害のある人でも、条件さえ整えば働くことは可能である」という認識のもと、全社的に障害者雇用の理解を深めることが大切であると当社は考えている。
企業は人間の集まりであり組織なので、社員すべてに職場に入って調和が保てることが必要とされる。「トップだけとか採用担当者だけが理解しても、実際に障害者が配置される職場で理解されていないとうまくいかない。」
職場にこのような雰囲気をつくることによって、事業所が彼らの能力を職場内で発揮できるよう、職場環境を改善するといった無理をすることなく、自然と彼らの能力に合うよう職務そのものを改善できる職場環境づくりが可能になると考えている。
「深い理解と、少しの工夫・援助があれば、健常者との助け合いの中で、障害者も職業人として暮らしていける。」
3.取り組みの内容
(1)ハード面の取り組み
寿司製造には相応の技術と経験が必要であり、障害のある人が従事することは困難を極めるという。しかし、職人技が必要とされるシャリの握りと油揚げへの寿司飯の詰め作業を機械が代行すれば、1人が油揚げの供給、1人が寿司飯の型整えと取り出しを行うことで、シャリがふっくらとした職人ばりのいなり寿司ができる。機械を導入することで、彼らだけで安全で良い商品を仕上げることができる。


(2)衛生面の工夫
食品現場においては、衛生面において安心して作業を任せられるようになる必要がある。そのため、爪を切る、消毒をするといったことについては社員全員に繰り返し徹底して指導している。

(3)ソフト面の工夫
1)雇用管理
①募集・採用
現在は欠員が生じたときに募集・採用を行っている。採用に向けては、公共職業安定所と打合せを行った上で本人と面接を行う。場合によっては、本人と保護者、担任の先生を交え面接を行う。採用に当たっては、国の雇用援護制度、特に3か月間のトライアル雇用制度を活用し、期間中は本人の意欲、勤務態度を重視し確認する。
②賃金
賃金は、一律最低賃金の時給613円である。勤務体制については障害者1人ひとりと話し合い、病状やデイケア通所等に応じて勤務スケジュールを組んでいる。
③労働時間
1日8時間であるが作業部門によって時間帯は異なる。昼の休憩は1時間であるが、体調が悪い場合など必要に応じて休憩をとってもらっている。
2)職場配置・定着
本人の適性・能力を考慮し職場配置やローテーションを組んでいるが、その日の体調により体制を変えなければいけない場合に対しては工夫して応じている。
一般的に社員の配置にあたっては、面接などの際に本人の適性を見極め、適切な職務を選定することが重要だと言われているが、当社では、社員同士の付き合いの中でその人の個性を職員が把握することができ、職場の一連の作業の中で、その人の能力を活かせる部署について感覚的に把握することができる。
3)教育・訓練
まずトライアル雇用を活用し職務内容や手順等の把握を図り、現場で作業しながら体で習得してもらうやり方をとっている。
4)福利厚生・健康管理
健康診断は年1回実施している。体調管理は基本的に個人に任せ、その都度必要に応じて本人と相談する。
福利厚生については、設立したばかりの当社においては、現在特に行っていない。
5)保護者や養護学校との連携
保護者とは必要に応じて意見交換を行っている。
養護学校とは、且田社長が県内の養護学校で、障害者の職業的自立や働くことや社会に出るということなどについて講演するほか、養護学校生徒や施設利用者を職場実習で受け入れるなど、連携を密に図っている。
6)助成金や各種支援制度の活用
活用できる助成制度は積極的に活用している。当社設立に際しては、作業設備の整備において第1種作業施設設置等助成金を活用した。
4. 取り組みの効果
当社設立の経緯は、「障害者がその能力を十分に発揮し、健常者とともに社会経済活動に参加し、働く喜びや生きがいを見いだしていく場をつくりたい」という且田社長の思いからであった。以来30年余り経ったが、障害者雇用に対する事業所の理解不足や誤解は未だに存在している。
養護学校卒業後、仕事を行う上で必要な体力や、持続する力、身の回りのことは自分でできること、体調管理など、基本的なことは身に付けていても、進路選択に関する情報の収集や採用の機会を得ることは、困難な状況であり、加えて、雇用し職務経験を積んだ後に職務領域を拡大する難しさに直面するケースも多い。
このような中、障害者が社会の一員として思いきり働きたいと意欲を持ちながら働くことができる一つの拠点として当社が設立され、当社で働いている障害者は、雇用収入の安定が実現し障害者の職業的な自立を図れている。
5. 今後の課題・展望等
高知県内でも、障害者雇用に積極的に取り組もうとする事業所が出てきたが、法定雇用率に達成していない事業所も依然多いのが現実である。当社が雇用できる障害者の数にも限界がある。
作業能力はあるが一般企業に就職することが困難であったり、または就職できないでいる障害者のため、20人規模の福祉工場の設立を社長は考えているが、具体的な実現に向けて検討することが次の課題である。
もう一点、彼らが働ける場を広げるために、具体的な指導やカリキュラムだけでなく、訓練して就職できた後のアフターケアの機能を備えた2年程のコースを有する職業訓練センターを要望している。この職業訓練センターの支援により、彼らが持っている能力を持続・向上させることができるほか、事業所とのタイアップによる教育訓練を行うことで、雇用機会の拡大が期待できる。
6. さいごに
当社の取り組みから、障害者雇用を進める上で重要なことは、周囲の社員の障害者雇用に対する姿勢と、戦力として働くことを希望する彼らの意識との間にあるギャップをいかに埋めていくかということである。
障害者雇用を進める上で、変わるべきは彼らではなく保護者や養護学校、施設、企業、地域といった周囲の人々といった考え方もできる。彼らの個性を評価しながら能力を伸ばすためには、「選択の余地を与える」「過保護にしない」「自己決定させる」といった周囲の認識や評価、アプローチの方法を変えていくことが必要ではないかと考える。
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