ものづくりの現場から生まれるノーマライゼーションの知恵
 事業所外観 |
1. 事業所の概要
当社は、昭和60年8月、「障害者も健常者とともに働ける雇用の場づくり」を目的として、熊本県宇城市にある「希望の里」内に設立された。
「希望の里」とは熊本県が進める身体障害者福祉拠点と周辺地域との調和を目的としたコミュニティゾーンで、ゾーン内には事業所のほか、体育館やグラウンドなども整備されており、健常者と障害者が一緒にスポーツを楽しむことができる。
当社は、「希望の里」における初めての製造業企業であり、熊本県、宇城市、本田技研工業株式会社の共同出資で設立された、自動車業界初の第三セクター方式の重度障害者多数雇用事業所である。
設立当時の従業員数は約30人であったが、その後順調に推移し、平成17年現在では62人である。うち雇用障害者数は24人で、その内訳は聴覚障害者が8人、肢体不自由者が16人、いずれも重度障害者である。
操業を開始した直後の昭和61年9月には、皇太子・皇太子妃殿下（現天皇、皇后両陛下）の行啓、さらに平成元年には労働大臣の視察、平成2年には再び皇太子の行啓が続いている。
2. 取り組みの内容
当社は、「健常者と障害者とが分け隔てなく働ける職場をつくる」という基本理念をもとに、工場開設した。したがって、例えば、フラットな床面、広い通路スペース、出入り口や施設のつなぎ目のスロープ化、車いす用トイレ、障害者用駐車スペースといった、事前に想定できる障害者に配慮したハード面の整備などは設計時に盛り込まれており、その後も障害者の意見を取り入れながら、働きやすい職場づくりに取り組んでいる。
なお、これらの施設設置や改善については、重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金を活用し取り組んだ。
洗面スペース
出入り口
低い位置に設定
（1）身体障害に対する取り組み
設立当初、障害者専用駐車場は社屋入り口に近い一画に設けられていたが、屋根はついておらず降雨時に濡れてしまうため、屋根を取り付けた。
また、当初用意した健常者・障害者共用のロッカーについて、障害者のロッカー使用頻度が少ないことから意見を聞き、車いすに乗った状態では非常に使いづらいことを確認し、ロッカーのドアに身体を近づけることができるよう、足元に空間ができる木製のロッカーを整備した。
製造現場には複数の製造ラインがあり、それぞれのラインで健常者と車いす利用の障害者が一緒に働いている。各々作業する高さが異なるため、製造ラインごとにその構造や業務内容を見直し、互いが作業しやすいよう工夫した。
座位作業が可能なラインでは、車いすの高さを標準に設計した。一方、ラインによってはリフトを設置し、高さを調整して作業を行う。このように、ラインごとに柔軟に対応し、作業の効率化を図った。
ライン
（2）聴覚障害に対する取り組み
当社では、8人の聴覚障害者を雇用している。周囲の職員が聴覚障害者のコミュニケーションを学ぶために、毎年障害者自身が講師となり手話の研修を行っている。
また、作業場の壁には、聴覚障害サークルの研究レポートを掲示している。「聴覚障害者である自分たちは業務内容を正しく理解しているか」「なぜ正しく理解されていないのか」「手話と文章との違いとは何か」など、職場におけるコミュニケーションの課題について考察されており、イラスト付きでわかりやすく表現されている。このレポートは、聴覚障害者がコミュニケーションの課題をクリアし、よりよい仕事をしたいとの意識の表れであり、他の職員にも刺激を与えている。
研究レポート
3. まとめ
障害者雇用というテーマ以前に、まず製造業としての魅力が当社にはある。例えば、製造ラインによって複数のグループを構成しているが、 個々のメンバーが異なる業務を行うという複雑な工程であり、リーダーは全てのメンバーの具体的な業務仕様書を作成することは困難なため、各メンバーは、グループ全体のスケジュールや目標を把握し、自分で帳票を作成しなければならない。従業員一人一人が自立し、かつ協調しなければならないという企業風土がある。
「世界のホンダ」が培ったものづくりの企業文化を基に、当社独自の現場の文化が混じり合って、独自の文化が築かれている。
ある意味、製造業のモラルは、よりよい製品をより早く効率的に作るかとシンプルであるが、そのための方法論は無限にあり、どの方法論を選択し、いかに洗練させていくかが仕事の醍醐味であり、魅力でもある。
聴覚障害者でも車いす使用者でも、健常者との関係が柔軟に想定されており、仕事をはさんでいろんな工夫が生まれている。当社のノーマライゼーションは、「ものづくり」の現場だからこそ、必然的に生まれている。
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