「清潔」「美」「健康」に関わる生活製品を世界に提供する企業の障害者雇用への取り組み
- 事業所名
- 花王株式会社
- 所在地
- 東京都中央区
- 事業内容
- トイレタリー製品、化粧品、工業用化学製品等の開発・製造・販売
- 従業員数
- 7046名(常用労働者数)
- うち障害者数(実数)
- 102名
- ( )内は特例子会社「花王ピオニー」の内数
障害 人数 従事業務 視覚障害 2 聴覚障害 27 肢体不自由 37 内部障害 20 知的障害 16(11) 精神障害 0 - 目次
1.事業所の概要と障害者雇用の状況
(1)事業所の概要
花王の創業は1887年。1890年に化粧石鹸を販売して以来、洗剤や油脂製品の製造、販売を手掛け、現在は日本市場でシェアー1位のトイレタリー製品の他、化粧品から工業用化学製品の開発・製造・販売まで手掛け、商品を提供する市場も日本のみならず、アジア、アメリカ、欧州に及んでいる。また従業員数は連結対象企業を合わせると約3万人である。
(2)障害者雇用取り組みの経緯
花王の障害者雇用は、1976年に当時の身体障害者雇用促進法が改正され、民間企業において身体障害者の雇用が義務化されたことが契機となり、各事業所において積極的に障害者の採用に取り組むこととなった。
90年代後半に入り企業の社会的責任および法令遵守の意識が高まるとともに、花王においては全社を挙げて法定雇用率の達成に向けて障害者の採用をより計画的に推進することとなった。多い年には10名前後の障害者を採用したこともあり、1999年には法定雇用率を達成することができ、その後現在に至るまで法定雇用率を維持しつづけている。事業場と製造工場、研究所が全国9ヶ所に分散していることもあり、各地域での障害者求人に対する応募は比較的順調であった。
花王における障害者の雇用は、通常の職場に配属して仕事をすることを前提としていたため、障害者の中では肢体不自由者、聴覚障害者、内部障害者を中心とした身体障害者が多く、知的障害者の雇用は必ずしも進んでいなかった。このため、後述の通りイコールパートナーシップを企業理念に掲げる花王では、通常の職場では充分に能力を発揮できない知的障害者に対しても就労の場を提供する計画を推進することとなった。知的障害者に適した職域開拓に取組んだ成果は、2005年10月に東京都墨田区にある同社「すみだ事業所」内に「花王ピオニー」を設立したことで結実し、翌06年4月から知的障害者11名を雇用すると共に特例子会社の認定も受けている。
2.障害者雇用の考え方
(1)企業理念としてのイコールパートナーシップ
花王では、すべての活動は企業理念である「花王ウェイ」の精神を実現するために、企業行動指針に従って行動することとしている。
企業行動指針は11の項目を含むが、そこに「社員の多様性と人権を尊重し、この力を最大限に活かす」ことを明記しており、この「多様性の尊重」は障害の有無を差別しないことにつながり、障害者の雇用を推進することは花王の具体的な行動原則に沿ったものといえる。
(2)障害者雇用に対する基本的考え方
イ.基本的考え方「障害のある人もない人も、共に働き、共に生きる社会を目指して、障害のある人たちの社会人としての自立を支援する」
花王では障害者雇用に関して上記の基本的考え方をもとに、関連会社を含めたグループ全体でその具現化のために、次の2つの視点から取組んでいる
①社会的責任を果たす
●法令遵守(雇用率の維持)
●ノーマライゼーションの実現
●多様性の尊重(性別、人種、国籍など)
②働く場を積極的に提供する
●通常職場での雇用
(人物像)
・健常者と分け隔てなく働き、職務遂行能力を高める意欲を持つ
・高い専門性を持つ、あるいは素質を持つ
・通常職場で十分能力を発揮できる
●特例子会社での雇用
通常の職場での雇用が困難な障害者に対しても、特例子会社を通じて雇用の場を提供する。
(人物像)
・軽易作業が充分にできる
・協働ができる
・自分のペースを大切にしたい
花王およびグループ各社は、次の通り障害者雇用を推進する。
①花王グループ全体の視点から障害者雇用を推進する
②障害のある社員が、働きやすく、働きがいのある職場環境を整備する
③グループ会社は、花王の「障害者雇用の基本的考え方」をもとに、各社の状況にあった雇用の考え方を
定めて推進する
3.花王における障害者の現状
(1)花王本体の状況
花王本体においては、平成18年6月現在の障害者雇用数は91名であり、障害部位別では肢体不自由が最も多く(42%)、次いで聴覚障害(29%)、内部障害(21%)の3つの障害者が90%以上を占めている。通常の職場で能力を発揮できる方々が対象となるため、視覚障害者および知的障害者が少数となっている。また障害者が担う職域は、事務部門に16名、営業部門5名、研究開発部門14名、製造部門49名となっており、製造部門および事務部門に多く配属されている。
また花王本体で雇用されている障害者は、特別の職域開発を必要としていないため、原則として採用、配置、雇用管理面で公的な支援制度は活用していない。
(2)募集と採用
障害者の募集・採用は人材開発部門が中心となり各事業所の協力を得て進めている。なお採用時期は新卒採用を原則としており中途採用は少ない。障害者の採用を促進するために一般採用とは別枠として採用活動を行っている。また応募者を幅広く求める目的で、現在では花王のホームページ上での募集や障害者募集専門誌による募集なども活用しているが、新たな募集方法についても今後検討していきたい意向である。
(3)給与等の労働条件
給与、勤務時間を始めとした労働条件は一般採用者と同一条件である。職場配置についても本人の適性に応じて配属するものであり、原則として一般採用者と変わりがない。
ただし職場環境に関しては、障害者が能力を充分に発揮できるように働きやすく、かつ働きがいのある職場環境の整備にも注力している。具体的には、コミュニケーションや設備面で特別の対応を要する聴覚障害者および下肢障害者に対しては、以下の職場改善対応を講じている。
①聴覚障害:●有志による掲示板「みみコミボード」(聴覚障害者のコミュニケーションを目的とした
社内掲示板)の立上げと運用
●「花王ビデオニュース」やトップ説示の内容をイントラネットに掲載
●携帯メールの活用
②下肢障害:●車通勤の認可、駐車場所の配慮
●車いすに配慮したトイレ、エレベーターの設置
●入り口スロープ、手すりの設置
また、障害者が配属されている事業所においては障害者職業生活相談員を配置し、働きやすい職場環境つくりと職場定着に向けた相談体制を設けている。
会社としての障害者雇用の方針を明確にするとともに、障害をもったメンバーに対する雇用管理のポイントを啓発するために「障がい者雇用ガイドブック」を作成し、主に部門長やマネージャーに向けて配布している。
(4)中途障害者への対応
花王の中途障害者の割合は34%とほぼ3分の1を占めている。これは入社後に交通事故などによる受傷や疾病、または労災によって障害者となった社員だけでなく、入社前からの障害に対して入社後に障害認定を受けた場合を含んでいるためである。中途障害者については、治療後の復職を支援する画一的な制度は設けていないものの、復職・雇用継続を大前提に考えている。このために各職場においては中途障害者の障害状況に応じて、勤務時間を調整するリハビリ勤務、職場環境の整備などを始めとして様々な支援策を実施している。
また花王では半日休暇制度が認められているため、平日に通院を要する内部障害者等も本制度を利用している。人材開発部門では中途障害者から働きやすい職場環境つくりに関して、新たな要望が出てきた場合には常に前向きに取り組む姿勢である。
(5)和佐福祉工場への支援
花王は和歌山工場において地域における社会貢献の一貫で、地域福祉施設の「医療法人スミヤ」が1993年に開設した和佐福祉工場に対して、10年以上にわたり機械設備の貸与、技術指導員の派遣、および花王製品の充填・詰め合わせ作業という仕事の発注業務を通じて支援を継続している。本事業には地元和歌山県も参画し、国からの助成金等も活用した障害者雇用の成功モデルとして知られ、地域・企業・行政が一体となった「和歌山方式」とも呼ばれている。
同福祉工場で働く障害者は現在20名を超えており、重度身体障害者を含む多くの障害者に対して雇用の場を提供している。和佐福祉工場については、本リファレンスサービス雇用事例「社会福祉法人スミヤ和佐福祉工場」で、独立して取上げられているので参照してください。
4.特例子会社「花王ピオニー」
(1)設立の経緯
通常の職場での雇用が困難な障害者に対しても、特例子会社を通じて雇用の場を提供するとの障害者雇用の考え方に沿って、2005年10月に東京都墨田区にある「花王すみだ事業所」の一角に花王が100%出資する「花王ピオニー株式会社」を設立した。花王社内で社名募集した結果、採用された社名の「ピオニー」は英語で「牡丹(ぼたん)」を意味している。「牡丹(ぼたん)」の由来は花王が初めて石鹸を販売したときの包装紙のデザインに牡丹が使用されたことにさかのぼり、花王の象徴的名称である。
(2)障害者の作業内容
障害者が担う職域は、約30種類にのぼる花王の化粧品や家庭用製品等の詰め合わせセット作業である。現在11名の知的障害者が雇用され、ベルトコンベアーの前で1列に並び、プラスティック箱のサック折り、仕切り折り、折った箱への製品の詰め合わせ作業を順番に行っている。
この作業は花王の事業所内にあった製造工程の一部を花王ピオニーが受託したものである。ピオニーでは知的障害者が作業を担当することとなるため、当初は生産性を通常ラインの50%程度と見込んでいた。しかし入社した障害者は作業開始時刻の数分前にはベルトコンベアーの前に座るなど、その作業姿勢は真剣であり、かつ健常者に負けないぐらいの集中力をも発揮している。また作業の熟練度も日増しに高まり、現在では通常ラインでの生産性と変わらない水準まで向上している。
11名の内、障害者職業センターによる重度判定を受けている者が6名いる。また2名は身体との重複障害者である。右手が麻痺し不自由な障害者が、不自由な右手で箱を持ち箱詰め作業を続けたことから、少しづつではあるが右手を動かせるようになり、喜びを感じながら日々の作業に集中している姿が見受けられる。



(3)雇用管理(採用方法、勤務時間、給与、社会保険、通勤、研修、配置など)
障害者の採用面では、障害者就労支援を手掛けるNPO法人「WEL’S新木場」の協力を得て進めた。WEL’S新木場が都内11区の地域就労支援機関と提携していることから、採用候補者の選定では全面的に協力を得ることとした。
WEL’S新木場が選定した採用候補者16名に対して、ピオニーでは2005年11月に3班に分け5日間の職場実習を実施した結果、最終的に候補者は11名になった。06年1月から3ヶ月のトライアル雇用を実施した結果、4月から11名全員を契約社員として本採用することができた。
障害者は現在1年間の契約社員としての処遇であるが、1年後には全員を正規社員に登用する計画である。また契約社員といっても賞与は年間2回の支給、健康保険、厚生年金などの社会保険も付保している。有給休暇制度も適用され、実質的には待遇面で正規社員との間にほとんど差異がないといえる。
勤務時間は午前8時半から午後5時まで(昼食休憩1時間)であるが、ベルトコンベアー作業であるため、1時間半から2時間毎に休憩15分を取っている。なお障害者の居住地は葛飾区5名、墨田区4名、千代田区1名、中野区1名であり、事業所近郊の者が多く遠方でも中野区から1時間の電車通勤と恵まれており、通勤面で問題は生じていない。
また11名の障害者に対して指導員4名(花王出向者2名・花王の元従業員2名)を配置している。この指導者4名は花王生産ラインで知的障害者を指導した経験を有する者でもある。当初の予想を上回る生産性向上の実績には、指導者の経験と努力が大きく影響している。
知的障害者による作業が順調に立ち上がっていることから、07年3月~4月までに障害者をさらに9名増員し合計で20名体制に増員する計画も進行中である。
(4)公的支援制度と地域就労支援ネットワークの活用
特例子会社は一般に経営面で厳しい状況に置かれており、親会社からの業務受託等を通じた支援が不可欠となっている。また親会社支援に加えて、助成金等の公的支援制度の活用も受けている。ピオニーの場合、障害者職業センターの職務試行法による実習、トライアル雇用を活用し、さらに納付金関連助成金で指導員に対する業務遂行援助者配置助成金も申告済み。また特定求職者雇用開発助成金申請を予定している。
なお立上げ当初には障害者職業センターからジョブコーチ派遣を受けていたが、指導に当る従業員が知的障害者指導に経験豊富であったため、ジョブコーチの継続的援助は早期に不要となった。
知的障害者を初めて雇用する企業は、障害者に対する指導方法を始め雇用管理面での不安、日常生活面での支援の仕方、就労がうまく行かなかったときの対応など、これまで経験したことのない様々な問題に対面する不安を抱えている。これらの問題解決の仕組みつくりができないと、企業は知的障害者の雇用に踏み切れない。
特に多数の知的障害者を雇用対象とする場合、企業が単独でこれらの対応を行うことは困難であるため、地域において知的障害者の生活・就労面で支援ノウハウを有する公的あるいは民間による支援機関との連携が必要となる。知的障害者雇用の成否は、地域支援機関とのネットワークつくりにあるともいわれている。花王の場合はNPO法人「WEL’S新木場」との連携を通じてこの問題に取り組み、障害者の採用で成果を得ている。
(5)花王グループとしての障害者雇用
花王はグループ関連会社に対しても「障害者雇用の基本的考え方」をもとに、各社の状況に沿った障害者雇用に取り組み、関連会社各社が各々の考え方により単独でも法定雇用率を遵守するよう努力することを求めている。しかし関連会社の中には職域が限定され障害者の配置が困難であり、障害者雇用が一定以上進んでいない企業もある。各社が単独で法定雇用率達成という理想を掲げつつも、花王グループ全体での法定雇用率達成という目標を実現するためには、特例子会社「花王ピオニー」を含めてグループ適用の検討を行っていく予定である。
5. まとめ
花王の障害者雇用に対する取り組み姿勢は、イコールパートナーシップという企業としての行動基準に根ざしたものである。花王本体の通常の職場で能力を発揮できる障害者、主に身体障害者、に対しては設備面で職場環境を整備した上で受入れ、既に法定雇用率を達成しているにもかかわらず、通常の職場では受入れられない障害者、主に知的障害者、に対しても新たに職域を開発して新設した特例子会社で受入れることにより、雇用の対象に加える取り組みを行っている。
現在、障害者を巡る福祉・就労環境は様変わりしつつある。2006年4月に障害者自立支援法が施行され、福祉施設で就労する障害者の一般就労への移行が進むことが予想されている。企業の中にはカジュアルウェア店舗を展開するU社のように1.8%の法定雇用率にかかわりなく、全社的に1店舗に1人の障害者配置を目標に掲げて取り組んだ結果、現在は7%を超える雇用率を達成している企業もある。企業には各社独自の企業理念があり障害者雇用への取り組み方は一様ではない。また各企業により職域が大きく異なるため、必ずしも障害者の配置が容易でなく雇用が困難な企業もある。しかし法の下に人格を与えられた法人である限りは、法令遵守により法定雇用率の達成に向け最大限の努力を講じることがすべての企業の責務であると思う。
花王は「花王ウェイ」という企業理念に従い、他社に一歩先んじて障害者の一般就労への取り組みに努力している。これから障害者雇用に取り組む企業にとっては、花王の取り組みを先行企業の好事例として参考にしていただきたいと思う。
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