事業所名 :

株式会社新陽ランドリー

所在地 :

宮城県仙台市

事業内容 :

病院・工場などのユニフォームや寝具など業務用を主とするクリーニングとリネンサプライ

従業員数 :

54名

うち障害者数:

32名

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	1	クリーニング工
肢体不自由	1	クリーニング工
内部障害	1	配送業務
知的障害	29	クリーニング工
精神障害	0

目次

1. 事業所概要と障害者雇用の経緯
2. 知的障害者雇用に取り組んで
3. 継続雇用を図るための取り組み
4. 障害者雇用の拡大のために（障害の適切な理解の重要性）
5. まとめ

事業所外観

1. 事業所概要と障害者雇用の経緯

　当社は、個人向けクリーニング店として創業後、25年を経て仙台市東部工業団地内への移転を機に知的障害者の雇用に取り組み始めた。当時は国連・国際障害者年（昭和56年）を迎える頃だったので、新聞でも大きく取り上げられ、それをきっかけとしてやがて知的障害のある社員数が増えてきた。はじめは、知的障害に対する知識や理解が不十分な中、試行錯誤の連続であった。家庭生活を営むことに問題を抱える社員もいたので、加藤洋子社長の家の人々は障害のある社員と寝食を共にし、生活と就労との一体化した取り組みが行われた。
　その後、平成3年に重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金を活用して泉工場と社員寮が建設され、平成6年には有限会社から株式会社に組織変更して現在に至っている。
　当社の業務の概要は、病院や工場などのユニフォームや寝具などの業務用を主とするクリーニングやリネンサプライである。現在、本社工場・泉工場を合わせた全社員54名のうち、障害のある社員の内訳は、知的障害者29名、身体障害者3名であり、全社員の約6割が障害のある社員である。泉工場では寮で生活している社員が多いが、本社工場の社員は自宅から通勤している。

本社工場での作業風景①

本社工場での作業風景②

2. 知的障害者雇用に取り組んで

　「身辺が自立し通勤が可能であれば、重い知的障害があっても一般就労が可能である」と加藤常務は言い切る。また、「極端なことをいうと」と前置きした上で、「多くの知的障害者は十分な能力があっても、福祉的就労を行ううちにやがて働く能力や意欲を低下させてしまうこともあるのではないか」と話す。親や学校の先生たちにもまだまだ保護的な考え方があり、潜在的能力があるにもかかわらず、できる力を過小評価してしまっているのではないかというのである。職場の作業指導員の適切な作業指示とストレス回避の配慮があれば、重い知的障害があってもその人に応じた仕事を行うことができる。
　昭和60年にアメリカを訪れてジョブコーチなどの取り組みを視察したことはとても参考になったと加藤常務は話す。作業工程を明解に区分けして一人ひとりの働く役割を明確にすれば、知的障害があっても十分な能力が発揮できる。ジョブコーチの取り組みから大いに学んだ加藤常務であるが、現在、当社にはあらためてジョブコーチは必要ないほど、障害のある先輩社員と作業指導員が十分な役割を果たしている。採用後の定着率の高さも当社の自慢である。すでに就労している先輩社員の存在が、障害のある社員の孤立化を防いで就労の継続を可能にしている。
　しかし、働き始めてすぐに当社の戦力になるわけではない。半年ぐらいは、とくに厳しい指導などは行わずに自由に工場で過ごしてもらうことが常ではあるが、甘くやさしい態度で接するのでもない。ただ励ますだけではなく突き放すような姿勢を基本として、先輩社員の働いている姿を見てもらい、見よう見まねのうちに少しずつ慣れて自信が持てるようになるまで見守る。じっくり時間をかけて待つことが重要である。その後できることが増えてくると、自信と達成感の良い循環に伴って技術が向上してくる。やがて3年ほど経つと戦力となる。長い時間をかけて辛抱強く見守ることが当社の就労実践の基本である。
　「身辺自立と通勤が可能であれば重い障害があっても働くことができる」が口癖の加藤常務は、通勤に不安を持ち続けたために毎日姉が送迎し続けた社員と家族の例について述べた。姉の協力によって就労が継続されていたが、やがて姉の結婚が決まり送迎が不可能になった。本人はもはや就労することは無理だろうと思いこみ悩み続ける日々が続いたが、意を決して一人で通勤することに挑戦したところ、一人で通勤できた。周囲の人々が案ずるよりも本人にはしっかりした能力があったのである。

3. 継続雇用を図るための取り組み

　障害者雇用に取り組み始めて25年を過ぎた現在、障害のある社員の平均年齢は30代後半になった。結婚などの場合を除き退職した人はほとんどいないのが当社の自慢の一つである。
　継続雇用を可能にしている理由について、障害がある場合には就労支援と生活支援を総合的に行う必要があると考え、知的障害者の雇用に取り組み始めた当時は試行錯誤のうちに寝食を共にする生活支援が行われた。その結果、食事後に「ご馳走様」と言い、感謝する気持ちが芽生えたと加藤洋子社長は語る。家族的な信頼関係が構築できた当時の社員が基盤となって、現在の高い定着率につながっている。信頼関係の構築が重要である。
　知的障害のある社員の多くは養護学校や特殊学級出身者であるが、継続雇用を図る際には、出身学校との情報交換を行うことが重要である。
　年間行事の中で旅行やクリスマスパーティーなどを開催することもポイントである。ホテルの中で自分たちの仕事が実際どのように役立っているかを知ることにもなる。働き始めるまでに十分な社会体験を持てなかった社員も多いので、できるだけ多くの機会を利用して社会性を向上させて欲しいと願っている。社会一般の習慣を身につけることがより良い人生を送るために重要であり、就労の継続につながる。
　当社は、積極的に障害者スポーツに取り組んでいることでも知られている。平成13年に地元宮城県で開催された第1回全国障害者スポーツ大会では仙台市代表となったバスケットボールチームが3位入賞した。また、卓球では全国大会で上位に入賞する選手も多く、パラリンピックなどの国際大会に参加する選手もいる。毎年開催される宮城県・仙台市障害者スポーツ大会にも多くの社員が参加している。
　しかし、このようなスポーツ余暇活動はあくまでも職場定着のための取り組みのひとつである。就労が実現しその継続を支えるため、職場で働くことの楽しさを実感できるために、レクリエーションやスポーツ活動といった余暇活動への支援は必要と加藤常務は強調する。
　継続雇用を図るためには、信頼関係の構築と就労のみならず社会生活、余暇活動を含めた総合的な支援が重要な役割を演じていることが理解できる。

4. 障害者雇用の拡大のために（障害の適切な理解の重要性）

　加藤常務にとって残念なことは、潜在能力が発掘されないままに、やがて就労への意欲と力を失ってしまう障害者が数多いことである。できるだけ職場実習などを体験してほしいと願っている。職場実習などをきっかけとして、多少の緊張感を伴って仕事を経験することがとても大切であり、その体験が作業能力だけではなく社会生活能力を向上させることにつながる。企業はできるだけ職場実習など受け入れるべきであるというのが加藤常務の持論である。
　学校関係者の理解も大切である。先ごろ、加藤常務は「障害者の雇用を考える会」を企画し、養護学校等へ案内して開催した。当社のこれまでの雇用実践経験を生かして障害者の雇用のあり方を自由に話し合う会である。学校関係者であっても生徒を過小評価しがちで、重い障害があると一般就労できるはずがないと思い込んでしまう傾向が強いと感じた。
　当会はさらに来春も催して、互いに連携して障害がある人たちの潜在的能力を引き出す支援を行いたいと抱負を語る。
　また、当社により多くの仕事の需要があれば、さらに多くの障害者を雇用できるのだが、と加藤常務はまた残念がる。時代や社会構造、産業構造の変化に応じて企業の取り組みも大きく変わってきた。これまでの知的障害者雇用の実践経験を生かして新たな領域でも企業活動を伸展させたいと強い希望を強調する。親や周囲の人々には、身近であるだけにやはり保護的な関わりが先に出て、障害のあるマイナス面に縛られてしまうのではないか、意欲と成功体験、達成感が導き出せるような取り組みを行うことによって、さらに多くの障害者の就労が実現される。業種が異なっても障害者雇用の実践を展開する自信があると加藤常務は話す。

5. まとめ

　知的障害がある場合には、育った環境や学校での体験に影響を受ける場合も多い。また、養護学校で能力が高くても就労場面では力を発揮できない場合もある。そのようなことから、当社では入社後の半年間を費やし、じっくり時間をかけて先輩社員の働く姿をみせ、あまり手を貸し過ぎず多少突き放した環境の中で、自力で働く自信と意欲が引き出されるのを待つ。
　障害があって何ができないかに着目するのではなく、障害があっても何ができるのかに着目することの重要性は、誰にでも理解できるがその実践は難しい。できることとできないことをしっかり見極め、一人ひとりに適した職務、すなわち一連の作業工程を分解したのち、個々人の能力に合わせた職務を創設していることも重要なポイントである。
　時間をかけ、一人ひとりのできることを職務内容に結び付け、3年かけて戦力を育てるには、継続雇用に向けた環境づくりも重要である。保護的な支援から自立のための支援の重要性が謳われ、障害者自立支援法によって就労支援の重要性が指摘されている現在、当社の就労場面と社会生活、余暇活動を含めた総合的な取り組みから学ぶことは数多い。