百貨店における聴覚障害者雇用の取り組み
~信頼感とフォローで雇用継続を図る~
- 事業所名 :
- 株式会社水戸京成百貨店
- 所在地 :
- 茨城県水戸市
- 事業内容 :
- 百貨店経営
- 従業員数 :
- 357名
- うち障害者数:
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 2 商品の包装 肢体不自由 2 商品の荷受及び在庫管理 内部障害 0 知的障害 0 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
明治41年に創立した当社は、水戸駅から徒歩17分、水戸伊勢甚、ダイエー水戸店の撤退で水戸中心街が停滞する中、これを打破する切り札として、周辺商店街の期待も担い、平成18年3月17日、茨城県最大級の百貨店として大きく生まれ変わった。
売り場面積は地上9階、地下1階、従来の2.5倍の3万4千m2。県内初の人気ブランドショップ、ルイ・ヴィトン、ティファニー、セリーヌ、ロエベ等を含め、従来の2倍強の677ブランドが出店している。
2. 障害者雇用の状況
当社の障害者雇用について、平成15年に障害者雇用優良事業所として茨城県知事賞を受賞している。
(1)障害者数:4名
内訳:重度障害者3名(聴覚障害2名、肢体障害1名)
重度以外の障害者1名(肢体障害1名)
(2)雇用率:1.96%
(3)障害者の定着(勤続年数)・業務内容
氏名 | 障害の種類 | 勤続 | 業務の内容 |
---|---|---|---|
Tさん | 聴覚障害(重度) | 22年 | 商品の包装 |
Gさん | 聴覚障害(重度) | 11年 | 商品の包装 |
Iさん | 肢体不自由(重度) | 38年 | 配送センターの荷受、倉庫における在庫管理 |
Kさん | 肢体不自由 | 33年 | 荷受管理業務 |
3. 聴覚障害者雇用の取り組み
(1)信頼し自主性を重んじる
聴覚障害のあるTさんやGさんが働く商品包装の職場においては、手話で2人とコミュニケーションをとる従業員Oさんを交え、3人がチームになって、お中元やお歳暮を除く祝事、仏事、記念品など、年間40万個にも及ぶ商品包装を全て行っている。
次から次に商品が入ってくるため多少雑然としているが、上司の荒川物流担当課長は、「3人とも主婦であり、全員勤続10年以上、仕事はミスなくきっちりこなす。任せて安心。」と語り、現場からは落ち着きと笑顔が絶えない明るい雰囲気が感じられる。



作業について、立ち仕事であるが、休憩時間以外は全く休まずこなす。1個の商品を20~30秒で包装する。この秒単位の包装作業の連続で、1人年間13万個を包装する。非常に緻密な仕事ぶりは、精密機械をしのぐ手さばきであり、すべての包装の模様を全く同様に仕上げる。

「作業指示書どおりに作業し、トラブルもなく仕事の質も高い。スピードと生産性も申し分ない。」「仕事の関係上、土曜・日曜・祝祭日に合わせて休みが取れるわけではないが、いつ誰が休みをとるかは3人に任せている。私が細かいことを言う必要はない」と語る荒川課長の3人に対する信頼感と自主性を重んじ任せる姿勢は、3人の意欲を一層強いものにしている。
(2)ハンディをフォローする気持ちが障害者の大きな力に
2人とチームを組むOさんは、以前寝具売り場で勤務していた時、1年間公民館に通って手話に挑戦したが、残念ながら実践する場面がなく、せっかく覚えた手話も忘れがちだったという。しかし、現在の職場でTさん、Gさんに会って、手話を実践するうちに記憶も蘇り、支障なく会話ができるようになった。

また、荒川課長も一念発起で手話のビデオ通信教育を始めた。「中高年となり、なかなか覚えられない」と課長は嘆くが、障害者のハンディキャップを少しでも埋めようと、手話を覚えることよりも覚えようとする気持ちや姿勢が、「上司の課長まで自分達とのコミュニケーションをとるために手話を学んでくれている」と、TさんやGさんの心を打ち、2人に大きな力を与えている。
(3)何よりのパワーは「仕事が楽しいこと!」
Tさん、Gさんとも「この仕事が楽しく、会社へ行きたくないと思ったことは一度もない」と言う。「これは結婚式の引出物。お幸せに」、「これは快気祝。退院おめでとう!」、「ゴルフの賞品の折りたたみ自転車、誰がこの幸運を射止めるのかな!」そんなことを考えながら商品の包装をしていると疲れも感じない。
仕事上困ったことや職場への注文は何もない。誰もが手話をできればもちろんありがたいが、Oさんのように不自由なく手話のできる人が身近にいるし、荒川課長のように苦労しながらも手話を覚えようとする理解ある上司がいるので、安心して仕事ができる。
4. 今後の課題
(1)障害者が従事できる職場の拡大
当社の「いいものいいこと・いつもいっぱい」のスローガンは、誰もがいつ来店しても十分満足感を得られる百貨店をめざしたものである。もちろん、障害をもつお客さんに対しても暖かく迎えられるよう、店内構造バリアフリーについては、車いすがゆったり乗れるエレベーターや広々とした障害者用トイレ、そして、お客さん第一の思いやりを持った従業員の明るい応対など、障害のあるお客さんの受け入れ体制を進めている。
なお、当社の障害者雇用率1.96%は、百貨店としてはかなり高く、障害者の勤続年数も全員10年以上と、安定した障害者雇用が続いている。しかし唯一残念なことは、多くの百貨店がそうであるように、障害者の職場が商品包装、荷受といった「縁の下の力持ち」的なところに限られており、彼らが店内で働く姿はない。
店内への障害者配置の実現が、当社の今後の検討課題となっている。
(2)当社の今後の意向
長嶋人事担当課長は力強く語る。「障害者を受け入れることのできる職場の拡大は、今後考えていきたい大切なこと。健常者も障害者も等しく生活できる社会が正常な社会。百貨店も一つの小さな社会であり、健常者と同じように障害者が店内で働く場所が欲しい。障害のあるお客さまの受け入れは進んでいるが、まだまだ障害者受け入れのための職場開拓は、あらゆる面から相当な努力が必要だろう。しかし、当社の大圃(おおはた)哲生社長は、茨城県雇用開発協会の理事でもあり、障害者や高年齢者の雇用に深い理解がある。ハローワーク、雇用開発協会の応援も得ながら障害者の職場開拓、新規雇用、その定着に努めていきたい」。

5. さいごに
当社の取り組みからは、ハンディキャップを抱えながらも、屈託なく明るく振舞う聴覚障害のある従業員と、そのハンディキャップを補い少しでも不自由なく働いてもらうようエールを送る事業所の“自然さ”が感じられる。この自然さこそが、ノーマライゼーション、「障害者が特別に区別されることなく、健常者と同じように生活できる分け隔てのない社会」につながる。
百貨店内に多くの障害者が健常者と共に生き生きとして働くことについては、この業界では、残念ながらまだ全国的にも例が少なく、厳しい状況である。これが現実となるよう、当社の障害者雇用の一層前向きな活動が注目される。
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