障害特性の理解、現場への周知、支援機関との連携を
一体化した障害者雇用の取り組み
- 事業所名 :
- 株式会社アーレスティ栃木
- 所在地 :
- 栃木県下都賀郡壬生町
- 事業内容 :
- アルミダイカスト製品製造
- 従業員数 :
- 379名
- うち障害者数:
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 1 製品加工 肢体不自由 1 製品加工 内部障害 1 製品加工 知的障害 2 ライナー回収作業、清掃 精神障害 1 製品修正 - 目次

1. 事業所の概要
株式会社アーレスティは、アルミダイカスト製品を1938年の創業以来製造し、主に自動車業界に製品を供給してきた。現在では加えて、コンピュータ、家電、産業機械、農業機械など幅広い分野において製品を供給している。
組織としては、国内外に生産拠点工場を持ち、ダイカストから仕上げ・加工・組み付けまでの一貫生産体制を取る等、低コスト・高効率な生産体制の確立に挑んでいる。
株式会社アーレスティの東日本の基幹工場である当社は、従業員379名のうち重度障害者2名を含む6名の障害者を雇用している。
当社の経営基本方針は、「常に生き生きと活動し、理論と実験と創意と工夫を尊重し、品質の優れた製品と、行き届いたサービスを提供しよう」であり、それは社名(アーレスティ~Research:開発研究・調査、Service:サービス精神、Technology:技術が互いに深く支え利用し合いながらより素晴らしい物へと磨き上げていく有機的関係にあるという企業理念を元に、それぞれの頭文字「R、S、T」を「アーレスティ」と呼ぶことにした)にも反映されている。社名に込められた企業理念を生かし、様々な製品を通して、広く社会の役に立ちたいと願っている。 障害者雇用に対しても企業理念の一環として、また当社に与えられた使命の一つとして、以下、積極的に取り組んでいる。
2. 障害者雇用の経緯、背景
様々な分野で社会貢献を積極的に実践する理念に基づき、以前から障害者雇用(法定雇用率の達成)を意識し取り組んできた。まず、当社工場の中で、加工・修正・回収・解体・清掃といった、障害があっても従事できる職務がある部署を見極め、ハローワークに相談し、障害者職業センターや知的障害者通勤寮、障害者就業・生活支援センターといった支援機関と繋がりを持つようになった。当社には現在6名の障害者が勤務しているが、各人を雇用する上で、その都度支援機関から雇用援護制度や、彼らへの対応に係るアドバイスを受け、また、職場に定着させるためジョブコーチを活用し、当社の取り組みに対する支援について有機的な関係が構築されており、障害者雇用を初めとした社会貢献を推し進めていく原動力になっている。
余談ではあるが、当社はグループ会社の中でも先駆的に、地域社会に貢献していくための独自の委員会を立ち上げ、障害者雇用やボランティア活動、安全パトロール等をはじめとした地域活動に積極的に参加してきた。なお、来年度からは各工場から委員を出し、障害者雇用も含んだ社会貢献委員会を発足させ、全社を挙げ充実化を図っていく予定である。
3. 取り組みの具体的内容
(1)障害特性をふまえた配置
障害者の雇用については、当社で無理なく長く勤め続けてもらうことが第一と考えており、彼らの障害特性を皆が理解した上で各部署に配属している。また、各々の部署で適任者を選出し、トラブルが生じた際の対応窓口を設けている。適任者には人付き合いが上手く、仕事と割り切って面倒を見、指導が上手い人を選ぶようにしている。この取り組みにより、本人はもちろん他の従業員も安心してスムーズに職務に従事できている。
ここ最近は、ジョブコーチに作業面、人間関係共に支援を受けており、今後も必要に応じて活用を考えている。
(2)知的障害への取り組み
1)ライナー改修作業のAさん
ライナー回収部署で勤務する30代のAさん(男性)は、毎日グループホームから自転車で出勤する。いつもニコニコ人なつこく、不良品の回収解体作業に従事している。作業には解体用のプレス機を操作しているが、事故も無く対応している。
なおAさんは軽度の知的障害と併せててんかんがあるが、てんかんは薬の効果で発作は生じていない。採用当初、別の部署に配置したAさんについて、当時は知的障害に対する知識も経験も少なかったこともあるが、入社時のAさんについて支援機関との情報交換や連携も十分に行っていなかったため、流れ作業のルールが彼の中で十分に理解されないまま、作業中怪我をしたり、てんかんの擬似発作に大騒ぎし、通勤寮や就業・生活支援センターのスタッフと情報交換、調整することで、現在の部署に配置し現在に至っている。
現在の部署では、初めの頃は精神的な原因からか、たまに体調を崩したり、仮病を使ったこともあったが、現在のAさんはそんなことを忘れさせるほどの仕事振りである。


障害といっても内容は様々で千差万別、個性豊かであるが、企業に社会人として就職した以上は、与えられた仕事は全うしてもらう必要がある。同様に、事業所も雇用した以上は、一従業員として彼らが力を発揮できるよう、環境整備など企業努力する必要があり、そのため、彼らのことをよく理解している支援機関のスタッフと情報・知識を共有し、上手く連携するが本人と事業所お互いのメリットにつながることを改めて知ることができた。この経験は、Aさんだけではなく、現在雇用している障害者や、今後実習を含め当社を訪れる障害者の人々全てに対して、活かされていくと信じている。
2)清掃のBさん
今年度雇用した50代のBさん(女性)は、中軽度の知的障害がある。主にトイレや休憩室の清掃を担当しているが、彼女の雇用に際しては、ハローワーク、就業・生活支援センターを介して障害者職業センターのジョブコーチ制度を利用し、作業内容ひいてはBさんの障害に係る他の従業員への周知について支援を受け、作業・人間関係に関する課題を同時にクリアすることができた。Bさんは人当たりは良いが、作業に慣れてくると手を抜くことがあるため、その都度ジョブコーチと相談し、コンスタントに作業できるよう取り組んでいるところである。
Bさんはパート雇用としたが、雇用後もジョブコーチ制度を利用し、現在も定期的にジョブコーチが当社を訪問し、状況確認や調整によりフォローアップを受けている。
Bさんが当社で清掃に取り組むようになって数ヶ月間、他の従業員からは、「トイレや休憩室が綺麗になって気持ちが良い」との言葉も耳にするようになり、また、その言葉を本人にも掛けており、職場全体が以前にも増して良い雰囲気になっている。
障害の特性にもよるが、その人が働くために必要な援助や工夫により、企業で働くことはできる。Bさんの場合、ジョブコーチに雇用前と雇用後に支援を受けたことで、円滑な雇用と継続雇用が図られたように、ケースバイケースで必要な制度やサービスを組み合わせ、事業所と障害者双方にメリットとなるような関係を作ることができた。


(3)自閉症への取り組み
当社では自閉症、身体障害の従業員も雇用しているが、近年、その自閉症や、発達障害のある人からのアプローチが盛んになってきている傾向がある。当社で雇用している自閉症のあるCさんへの現場での対応については、現在も試行錯誤の真最中である。Cさんは、質問や説明に対し素直な返答が返ってくることが少ないので、特に人間関係に関してはデリケートな対応が必要と考えている。具体的には、対応の際に気づいたことはその都度現場の従業員にメールで連絡し、本人に対する理解を促すと共にトラブルを回避している。このような取り組みもあり、現在Cさんは大きなトラブルも無く勤務している。
(4)体験実習の受け入れ(発達障害・高機能自閉症・養護学校在学生)
発達障害のある人からのアプローチに対しては、主に体験実習として受け入れ、決められた期間通勤し、持ち場で作業をし、現場の従業員との関係を作る経験を提供している。彼らはそういった体験・経験をする機会や、加えて成功体験も少ない場合も多いので、当社の実習が成功体験を重ねる一助となればと考えている。
また最近は、高機能自閉症のある人の体験実習も受け入れた。
なお、養護学校の生徒については、以前から体験実習を受け入れている。実習終了後、生徒からはお礼の手紙をもらうが、とても嬉しく思うと共に、今後もより多くの人の一助としたいとの思いを強めている。
4. 今後の課題と展望
現在当社で雇用している障害のある従業員に関する課題としては、まず給料について、昇給やボーナス等の設定の見直しを考えているが、他社の情報など不十分であるため、支援機関に相談しながら当社独自の設定を考えていきたい。給料は職務に対するモチベーションに関る、とても重要なものなので、慎重かつ前向きに設定していく意向である。
また、課題というよりは家庭や支援者へのお願いになるが、本人の愚痴や悩みをつぶさに聞いて、癒して欲しい。障害があり働くことは、障害がない者が想像するより遥かに大変な事だと思っている。しかし事業所が本人の悩みや気持ちに介入していくことは困難で限界もあるため、当社と家庭がそれぞれの役割を全うし、情報交換を密にすることで、彼らの就労生活ひいては人生を支えていけると考えている。
今後、当社としては、経営理念に基づいた社会貢献を様々な分野で展開していくことは勿論のこと、さらに来年度から発足する予定の委員会を中心とした、より具体的な障害者の雇用機会の充実や、実習の受け入れなどに取り組んでいく意向である。
5. まとめ
当社の取り組みからは、企業内での障害の正しい理解・周知・連携の一体化と実践力が強く感じられる。企業という一つの大きな組織の中、障害者を雇用し、一つの部署へ配属したとき、そのどれかが欠けても、いずれ障害者雇用のバランスが保てなくなる。
また、事業所が正しく理解した障害特性を本人に接する従業員全てが把握し、部署内または企業内で、必要に応じて支援機関と連携しながら、彼らの雇用継続に取り組むことに加えて、それら一連の取り組みから得た本人に対する必要な関わり方について、具体的に実践できる(応用できる)事業所の力も重要である。
当社は、障害者雇用を社会貢献の一つと捉え、積極的に取り組んでいるなか、彼ら個人の特性や性格を理解、把握し、職場配置や、窓口対応といった細かな配慮がなされており、さらには支援機関との連携も適度になされているため、バランスの良い障害者雇用の取り組みがなされている。
当社で雇用されている障害者就業・生活支援センターの登録者2名に対しても適切な対応や、ジョブコーチを含んだ関係機関との連携も適度に図られているため、障害者雇用に対する事業所としての基盤は十分整った環境である。今後の「社会貢献委員会」を発足させた取り組みに対しても大いに期待がもてる。
「障害者雇用の経験も前歴もないから」「できる仕事がないから」「サポートに入る人材を割くことができないから」と回答する事業主が依然多く残っているなか、具体的に実践する力、つまり企業の底力を持って取り組む当社の存在意義がある。
生活支援ワーカー 阿久津 勝俊
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