スポーツを通じて地域社会に根づいた、思いやりと
気配りの職場風土により障害者雇用に取り組む
- 事業所名 :
- 株式会社カネボウ化粧品小田原事業所
- 所在地 :
- 神奈川県小田原市
- 事業内容 :
- 化粧品の研究開発及び関連商品を含めた製造
- 従業員数 :
- 637名
- うち障害者数:
- 9名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 化粧品製造ライン 聴覚障害 0 肢体不自由 3 総務事務(1)、研究開発(2) 内部障害 2 生産技術(1)、研究開発(1) 知的障害 3 化粧品製造ライン 精神障害 0 - 目次
1. 事業所の概要
1969年に操業を開始した当社は、株式会社カネボウ化粧品の製品の約80%を生産している。
当社は小田原工場(以下「工場」とする)、化粧品研究所(以下「研究所」とする)、テクニカルセンター(生産技術開発を行う部門)から構成される。
2006年9月1日時点における従業員数は、工場385名、研究所222名、テクニカルセンター30名の計637名である。このうち障害者は工場に4名(身体1、知的3)、研究所に4名(身体4)、テクニカルセンターに1名(身体1)勤務している。
2. 障害特性に配慮した取り組み
(1)身体障害
当社に在籍する身体障害者は6名で、うち5名は採用後に病気等により受障した従業員である。彼らの概略については以下のとおり。
1)Aさん(視覚・下肢機能)
勤続20年を超える従業員で、軽度の視覚障害と下肢機能障害がある。日常生活に杖や車いすを使用せず、通勤には公共交通機関を利用する。
現在担当している職務は、ファンデーションや口紅等の不良品を、再利用するもの(ケースなど)と廃棄するものとに分別する作業である。
下肢機能障害に配慮して作業は座って行い、シャンプーなど大きく重い製品ではなくファンデーションや口紅など小さく軽いものを担当している。視覚障害については、程度は軽く特別な配慮は必要とされていない。
2)Bさん(下肢機能)
研究所で研究職に従事していたが、病気により下肢に障害が残った。入院・休職の後、一旦原職に復帰し、現在は研究所の企画部門でデスクワーク主体の職務に従事している。杖や車いすは使用せず、バイクで通勤している。スポーツ大会など社内行事にも休職前と同様に参加している。
3)Cさん(下肢機能)
東京本社の経理部門に在籍中に椎間板ヘルニアを発症し手術を受けた。下肢に障害が残り、リハビリテーションにより杖を使って歩けるようになったものの、通勤が困難となった。
Cさんは東海道線沿線に居住しており、本社勤務の前に当社で経理の経験があったことから、復職と同時に当社の経理部門に異動した。異動にあたって工場の出入り口にスロープを設けたほか、通勤経路を調査しJR小田原駅構内のバリアフリー化を確認した。
異動後の約1年間は、毎日午前10時と午後3時に若手社員の付き添いの下で事業場の構内で歩行訓練を行い、杖がなくても歩けるようになった。昼食時には社員食堂で食器を持って立つことが困難なため、同じ部門の社員が付き添っている。また直属の上司は、身体に過度の負担をかけないよう定時で退社するようCさんに促している。
4)Dさん(心臓機能)
テクニカルセンターに勤務していたが、心臓疾患により休職、入院し手術を受けた。その後原職に復帰し、休職前と同様に職務をこなしている。人工弁を使用しているが、大きな問題は特に発生していない。
5)Eさん(腎臓機能)
研究所に在籍し研究員として測定を担当していた。病気により腎臓に障害が残り、長期休職の後に原職に復帰した。復職後は原則として残業は行わないが、出張は休職前と同様にこなし、社内行事にも参加している。
(2)休職者への対応
当社における病気等による休職者の復職にあたっては原職復帰を原則としているが、困難な場合は、職務内容の変更や人事異動で対応する。復職後の職務内容、残業、通院等についての対応は、直属の上司や人事労務課、医務室が本人と相談し様子をみながら対応しており、これまでのところ大きな問題は発生していない。
(3)知的障害者
当社で勤務する知的障害のある従業員3名は、いずれも工場で生産に従事している。2名は勤続10年を超え、1名は2006年4月に入社した新人である。
1)勤務内容
生産ラインの従業員は、朝出勤すると更衣室で所定の作業着に着替え、作業場内に埃を入れないようエアシャワーを浴びてから作業に入る。午前中4時間、昼休みをはさんで午後4時間作業を行い、ローテーションにより2時間ごとに作業が変わる。
当日の作業内容は、朝礼で作業グループのリーダーがメンバーに指示を出すが、彼らに対しては、昼休み前と午後の作業開始時にもあらためて指示を出している。
工場では取り扱い品目が多い上に品目の入れ替えも頻繁に行われることから、作業内容は多岐にわたる。彼らは個々の作業適性が異なるので、2時間ごとのローテーションの中で習得した作業のみ担当させるとともに、作業変更が頻繁に行われるラインには配置しないようにしている。
作業に関するルールは、従業員の持ち場の近くに掲示する。変更があればその都度指示を出し、危険な行為があった場合はその場で注意する。さらに安全に配慮し、彼らが孤立しないよう、常に従業員が近くで作業をしている。
2)新人に対する配慮
新人に対しては、作業を習得し職場に適応するために、作業現場や総務部門で様々な配慮を行っている。
作業現場ではキーパーソン的な従業員(以下「援助者」とする)を配置し、職場のルールやマナーの指導、作業の指示や指導を行う。新たに学習する作業については、援助者が1対1で指導する。まず援助者がモデルを示し次に新人が模倣する、というプロセスを繰り返し新人は作業を習得する。
休憩時間には直属上司や総務スタッフなどが付き添い、孤立しないように努めている。彼らにとっては、仕事を覚えるだけでなく休憩時間をどのように過ごすかも、職場に適応し就労を続ける上で重要になるからである。
出勤、退勤や昼休みの際には、総務スタッフが関わり状況を確認する。特に出勤時には健康状態をチェックし、その後着替えて作業に入ってもらう。社内で問題が発生した場合は母親に連絡する。
なお、他の2人は細かな指示がなくても作業ができ、付き添いもなく休憩時間を過ごしている。
3)今後の計画
彼らは、一旦習得すれば他の従業員と変わらない生産性、品質、スピードで作業ができるが、作業によって得手不得手や向き不向きの差が大きいことから、他の正社員やパートタイマーと同等に評価することが困難な面もある。当社には試作廃棄物の分別、樹木の管理、清掃、作業着の洗濯など、彼らが従事できると考えられる職務があることから、将来的に知的障害者で構成される部門を組織化し、彼らの就労の場を広げることを検討している。さしあたって当社は、2006年に続き2007年も知的障害者の採用を予定している。
3. 社会貢献活動~養護学校との交流
工場の女子ソフトボール部は、2000年から毎年春に、神奈川県立小田原養護学校の生徒とソフトボールを通じた交流を行っている。
交流のきっかけを作ったのは、部員の妹であった。当時、他の地域の養護学校に在籍していた彼女は、視力の障害に加えて歩行が困難な状態であったため、姉の応援になかなか行けなかったが、一度応援に行った際に他の部員から親切な対応を受けた。その後、当社のソフトボール部の話をするようになっただけでなく、歩行が可能となり、視力も回復した彼女のことを聞いた小田原養護学校の教員が「ソフトボールを通じてふれあいの場を作れないか」と部に話を持ちかけ、交流が実現した。
この交流が縁で入社した従業員もいる。部員と一緒にプレイした生徒の一人が「カネボウで働きたい」と希望し、職場実習と面接を経て2006年4月に入社した。この従業員は工場で生産業務に従事しているが、彼女に対してソフトボール部に所属する従業員が作業指示や指導を行うなどキーパーソン的な役割を担っている。
4. さいごに
当社の取り組みからは、障害のある従業員に対して気負わず自然に配慮する気風が職場全体に形成されていることがうかがわれる。
具体的には、知的障害や身体障害の特性に配慮した対応に加え、養護学校とのソフトボールを通じた交流や、休職した社員の復職にあたっての対応などにも職場風土が反映されている。
当社の「思いやり」「気配り」といった言葉で表されるような職場風土が、障害者の今後の活躍や職業生活の継続につながることが一層期待される。
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