株式会社京急ウィズにおけるクリーニング・ベーカリー経営の取り組み
- 事業所名 :
- 株式会社京急ウィズ(京浜急行電鉄株式会社の特例子会社)
- 所在地 :
- 神奈川県川崎市
- 事業内容 :
- ベーカリー経営及び親会社からの請負・受託業務(駅構内清掃、印刷、クリーニング等)
- 従業員数 :
- 73名
- うち障害者数:
- 33名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 1 清掃 内部障害 1 清掃 知的障害 29 クリーニング、ベーカリーでの販売、駅構内清掃 精神障害 2 ベーカリーでの販売 - 目次
1. はじめに
当社について、2005年度に引き続き、今回は、2005年11月に開業したクリーニング及び2006年3月に開業したベーカリー(パンの製造・販売)の取り組みを重点的に紹介する。
2. 事業所の概要
当社は、民鉄業界最初の特例子会社として2003年9月に設立した。2005年12月16日時点の従業員数は73名で、うち障害のある従業員数(当社においては「クローバースタッフ」と呼称)は34名である。彼らの障害の内訳は図表1の通り。
事業内容はクリーニング、ベーカリーのほか、駅清掃、ホテル清掃、駐輪場管理、印刷、布団乾燥等である。このうち彼らが従事している業務はクリーニング、ベーカリー、駅清掃、ホテル清掃である。なお駅清掃については、従来の京急川崎駅・横須賀中央駅・汐入駅に加え、2006年4月からは大師線各駅も担当している。
当社は川崎、新逗子、横須賀の3か所に事業所を設置しており、川崎では清掃、新逗子ではクリーニング、横須賀ではベーカリーを中心に事業を行っている。
知的障害 | 29 |
身体障害(肢体不自由) | 1 |
身体障害(内部障害) | 1 |
精神障害 | 2 |
3. クリーニングの取り組み
(1)事業の概要
2005年11月21日、当社は神奈川県逗子市の京急新逗子駅近くでクリーニング工場を開業した。取り扱う品目は、京急線全線全駅の駅職員宿泊用のシーツや枕カバー等リネン類であるが、将来的に品目を増やす予定である。
クリーニングを担当する従業員は、親会社から出向している業務マネジャー、指導員2名(出向社員1名、パート1名)、知的障害のあるクローバースタッフ4名の計7名である。
(2)開業までの経緯
開業にあたり、神奈川県内の他の特例子会社や東京都内の就労支援機関を見学し、業務について指導を受けた。
4名のクローバースタッフはハローワークの合同面接会を経て2005年11月1日にトライアル雇用で採用、翌年2月に本採用とした。
開業直前の3週間は、ジョブコーチがクローバースタッフへの作業指導と、指導員ならびにマネジャーに対して障害のある従業員への支援技法の指導を行った。
なお、当社にて2005年4月に1名、10月に1名採用したジョブコーチは、ともに神奈川障害者職業センターにおけるジョブコーチの経歴がある。彼らの職務内容は、クローバースタッフ、指導者、管理者を含めた職場全体の集中的支援で、当社内の指揮命令系統からは独立した位置付けとし、クリーニング工場の開業前には駅清掃の支援を、開業後はベーカリー業務の支援にあたった。
(3)作業工程と作業量
京急線各駅から自動車で回収したリネン類を、自動洗濯機による水洗い、蒸気乾燥機による乾燥、ロールアイロナー(大型アイロン)によるアイロンがけ、シーツホルダー(大型折りたたみ機)によるたたみといった工場内での一連の作業を行い、最後に自動車で京急線各駅に配達する。このうちクローバースタッフの担当は、工場内の作業である。一日当たりの作業枚数は、シーツが約350枚、枕カバーが約170枚である。
(4)作業上の工夫
彼らが正確かつ安全に作業ができるように、既存のクリーニング機器に特別な改造を施している。洗濯機・乾燥機(写真1)・ロールアイロナー(写真2)・シーツホルダー(写真3)といった機器に設置したパトライトが、運転中は赤、停止中は緑が点灯し、機器の動作状態が視覚的にわかりやすくしている。なお、ロールアイロナーには安全ガードパネルや赤外線センサーを設置し、パネルに手が触れたり赤外線センサーが反応すると機械が自動的に停止するようになっている。またそれぞれの機器には異なる色のラベルを貼り、種類がわかるようにしている。



このほか彼らの作業が効率的にできるような配慮・工夫として、洗濯前のシーツは赤、枕カバーは青のバスケットに区別して入れている(写真4)。

工場では定物定位を心掛け、洗剤、洗濯用糊など作業で使用するものや、洗濯済みのリネン類は全て所定の位置に置く。さらに機械の使い方や糊の作り方を掲示する、アイロナーのシーツ投入口に印をつけてその範囲内でシーツを投入する、計量カップに印をつけて洗剤や糊の1回分の使用量がわかるようにするなどの工夫が見られる。
工場はさまざまな機器を同時に運転することから、室内の温度が40℃近くまで上昇することがある。夏場は高温による熱中症を予防するため、工場内にウォータークーラーと梅干を置き、作業中に水分とミネラル分を補給できるようにしているほか、温度計と湿度計のついた時計を設置している(写真5)。

4. ベーカリー経営の取り組み
(1)店舗
2006年3月6日、当社は京急県立大学駅隣に、株式会社スワン(ヤマト運輸株式会社の特例子会社)がチェーン展開する「スワンベーカリー」のフランチャイズ店「スワンベーカリー県立大学店」を開店した。
同年9月1日時点で、同店には知的障害者5名、精神障害者2名、身体障害と知的障害の重複障害者1名がクローバースタッフとして勤務している。職務については、知的障害者2名がパンの製造、他の6名は販売を担当している。

(2)開店の経緯
県立大学駅は2004年に京急安浦から現在の駅名に改称、2005年には駅舎の改築とバリアフリー化を行った。旧駅舎跡地の活用方法について検討していたところ、スワンベーカリーのフランチャイズ加盟の話が持ち込まれ、ベーカリー事業を行うこととした。
事業開始にあたっては、県立大学駅があり「福祉の街づくり」を推進する横須賀市から、福祉活動を実践できる場が設置されることは非常に意義深い、と推薦を受けた。
開業が決定した後、店長・副店長・製造工場長の3名はスワンベーカリーの店舗を見学し、銀座店と赤坂店でパンの製造・販売の実習を行った。またハローワークの合同面接会を通じて、2005年12月16日付で現在のクローバースタッフをトライアル雇用で採用した。なお、計画当初には精神障害者の雇用は考えていなかったが、合同面接会に精神障害のある人がやってきたことから面接を行い、採用を決定した。
開店までの2か月半間、クローバースタッフはジョブコーチの指導のもとで仕事に必要な訓練を受けた。
販売を担当するスタッフの訓練内容は、各スワンベーカリー店舗共通のマニュアルに基づくレジ打ち、接客のロールプレイ、商品の扱い方等である。レジ打ちの訓練は、パンの写真と品名・価格が表示されたレジのキーが並んだ練習用シートを用いて行った。接客のロールプレイは、新聞紙を丸めて作ったパンの模型と実際の紙幣を用いて行った。店で扱う約50種類のパンについては、食品サンプルを見ながら外見と名前を覚えた。
製造を担当するスタッフは、パン生地の扱い方、成型の方法、揚げパンの作り方などを習得した。

(3)作業上の配慮
製造を担当するスタッフは、やけどの恐れがあることからパン焼き窯を用いた作業を行わず、パン生地の成型や、カレーパン、コロッケパンなどの揚げ物作りを主に行う。菓子パンや調理パンの材料には缶詰を用いることがあるが、手を切らないようにするためロータリー式の缶切りを用いる。スライサー(食パンを切る機械)は、巻き込み事故を防ぐため、既存の型にセンサーを追加して、両手で2か所のスイッチを同時に押していないと動かないように設計されている。

(4)労働条件
当店の営業時間は、平日が朝7時開店、夜8時閉店、土・日・祝日は朝8時開店、夜7時閉店である。営業時間は長いが、クローバースタッフの勤務時間と休日は固定している。多くの小売店で行われているようなシフト勤務、交替制勤務や変形労働時間制は適用していない。
知的障害のあるスタッフは4名が1日実働7.5時間・週5日勤務しており、1名が1日6時間、週5日の勤務である。
精神障害のあるスタッフは1名が1日4時間・週5日勤務、もう1名が1日5時間・週4日勤務である。重複障害のスタッフは1日4時間・週5日勤務している。定期的な通院の必要があるスタッフは、通院日を公休日としている。
(5)精神障害への配慮
精神障害者は、疲れやすい、気分や体調の変動が激しい、思考の偏りや混乱が見られるといった特性を持つ人が少なくない。しかもそれらの特性が周囲の人に理解されにくいことも多いことが、彼らの雇用促進・雇用管理の難しさにつながることも否定できない。
当社が精神障害者を初めて雇用するにあたっては、京急沿線のNPOと連携し、頻繁な情報交換やクローバースタッフのフォローに努めることで、このような問題に対処している。
NPOからは精神保健福祉士が週1~2回巡回し、スタッフの仕事を手伝うとともに、スタッフや他の従業員からの相談を受け支援を行う。
千濱利幸店長は、2006年8月5日にtvkで放映された番組「ニュース930」で精神障害のあるスタッフについて「思ったより成長が早い」とコメントした。
(6)きめ細かな配慮により明るい店づくりを図る
当店は「障害に甘えず、明るい店づくりを通しておいしいパンを提供する」ことをモットーとしており、現在のところ予想の2倍以上の売上を計上している。千濱店長によると、従業員は障害の有無にかかわらず人間関係が良好で、お客さんにも笑顔が見られるようになったとのことである(2005年8月5日、tvkの「ニュース930」で放映)。
接客・販売は、体力を要する上にコミュニケーションや臨機応変な対応なども要求され、精神的なストレスも大きい。特にクローバースタッフが無理なく続けていくためには、労働条件の設定、マニュアルによる標準化、時間をかけた十分な訓練、担当職務の割り振り、機械の改良、家族や就労支援担当者との連携など、きめ細かな配慮が不可欠である。またこのような配慮は、明るい店作りや、ひいてはおいしいパンの提供にもつながる。

5. まとめ~4年目を迎え今後の取り組みを検討する
2003年9月の設立以来3年間にわたって、当社は駅清掃、ホテル清掃、クリーニング、ベーカリーなど多角的に事業を展開し、障害者の職域拡大や地域社会への貢献を実現してきた。事業多角化について、熊谷孝次代表取締役社長は、「チャンスがやってきたときに、取り込むか取り込まないかがポイント」とコメントした。
特例子会社の関係者が異口同音に「2~3年かけてようやく会社が軌道に乗った」と話すのを耳にすることがある。当社も3年かけて事業を形にしてきた特例子会社の一つといえる。4年目を迎えるにあたって、熊谷代表は「今年は足元を見る時期」と語る。多角化による拡大路線に一区切りをつけ、熟成期間を経た後の、当社のさらなる飛躍が期待される。
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