菓子製造での知的障害者の雇用促進
～業務遂行援助者によるマンツーマンの作業指導で技術習得～
1. 事業所の概要
昭和23年に当社の現社長が富山県高岡市の老舗菓子舗に見習で入社、昭和31年に自宅の一部を改造して独立し、菓子製造の傍ら販売店を開拓、昭和48年に現在地に移り、当社を設立した。
設立後3年余りの間、「夏場に強いお菓子」の研究を重ね、干菓子の商品化に成功した。雪のように白い透明な「雪渓」は当社の看板商品である。その他りんごとチョコレートを組み合わせた「たべてネりんご」などの菓子製造作業に現在11名の障害者が従事しており、全国各地からの視察や見学を受け入れている。
2. 障害者雇用の経緯
稲場社長は、娘夫婦が障害者福祉施設に勤務する従業員の八田千恵子さん（現在の業務遂行援助者）から、「障害者の働き場所がなかなか見つからない」という話をかねがね聞いていた。
バブル崩壊で多額の借金を背負い一時は失意の中にいたが、地元の事業家からの資金の貸付けや菓子の販売引き受けなどの協力や、地元金融機関の計らいも得て事業を継続することができ、「世間に恩返しを」と考えていた稲場社長は、事業が再び軌動に乗り出した平成8年に、ハローワークに相談して知的障害者2名の採用を決定した。
当初は特に衛生面に関する指導や作業の習得方法について戸惑いがあったため、障害者支援施設や工場などを見学するほか、ハローワークや富山県障害者雇用促進協会に相談し、障害者雇用助成金を活用しながら、現在当社の従業員の半数を障害者が占めるようになった。
3. 取り組みの内容
（1）雇用時の取り組み
1）社長自ら適性を判断
雇用に際して、稲場社長は必ず彼らと腕相撲をとる。腕力の強さ、指・腕・肩・身体全体の力の入れ具合、力を入れるタイミングなどから、判断力、敏捷性、忍耐力、運動能力を判断しそれを参考にして配置する職場を設定する。
2）「ボランティア実習」による作業内容・生活習慣の習得
休日の午前中に月1回のペースで、業務遂行援助者とマンツーマンで生活指導と併せて菓子製造作業について指導する。
実習のねらいは、以下のとおり。
①楽しみながらお菓子の作り方を覚える
②適切な生活習慣を身につける
・作業指導
具体的な言葉で説明する（必要なことはノートをとらせる）
↓
業務遂行援助者が実際にやってみせる。
↓
障害のある従業員に実際にやらせてみる。時間がかかっても作業のでき映えに妥協せず、習熟されるまで指導する（概ね4～5回行っている）。
↓
習熟が図られたら評価の言葉をかける。注意する場合は、理由を分かるように説明する。
・生活指導
以下の点を「約束事」として繰り返し喚起し、実行できた場合は評価の言葉をかけるほか、連絡帳で家族に連絡し協力を求める。
①家で爪を切り、いつも短く清潔にする
②髪を短く散髪し、毎日髭を剃り、身だしなみに気をつける
③作業服は休日に持ち帰って洗濯する
④帽子はきちんと被って仕事をする
⑤午前・午後の仕事の開始直前及びトイレ使用後に必ず消毒・手洗いをする
⑥朝と帰りの挨拶は大きな声ではっきりと行う
⑦必ず返事をする
（2）知的障害への取り組み
1）作業工程を分割し障害者が担当する工程を独立させる
彼らの中には、自分の好まない作業に対しては落ち着かず、トイレや手を洗いに行く人もいるため、できるかぎり彼らの得意な作業を独立させ従事させる。
2）作業方法及び作業環境の改善
①腰を曲げずに作業できるよう、高さが調整できる作業台を随所に設置した。
②作業を容易に行うとともに商品形状の均一化を図るため、木型を製作した。
③目盛り秤の数値の読み取りに際し、商品毎の所定の量ごとに色の種類で識別できるようにした。
④「雪渓」の自動包装機の回転テーブル上に、手の引き込み防止用の安全装置（特定の位置に取り付けたノッチに手が接触すると機械が自動停止する）を取り付けた。
3）障害特性に応じた新商品の開発
彼らの職域拡大及び仕事量の平準化を図るため、賞味期間の長い「干菓子」や「焼菓子」の開発に注力している。
（3）福利厚生の充実
1）通勤災害防止のため通勤用送迎バスを導入
当初は各自で通勤していたが、悪天候の日には欠勤が頻発したため営業車で送迎するも利用者の増加したことから、平成12年に富山県障害者雇用促進協会に相談、助成金を活用し通勤バスを購入し運転手を配置した。通勤バスの導入後は出勤率が向上し、この2年間は100%を維持している。
車中では、業務遂行援助者でもある運転手がまとめ役になって彼らにはたらきかけにより一体感が出てきた。通勤バスは交友関係づくりや指導の場ともなっている。
2）休憩室の改善
休憩室を明るく改装し、従業員の要望によりカラオケを設置した。部屋は皆で飾り付け、地域の障害者のクリスマスパーティでは11人全員で歌って大好評を得た。
3）福祉施設を慰問
自分達が作ったお菓子を食べてもらおうと、年に1回、4箇所の老人施設を慰問している。自分たちの仕事が社会に役立っていることを理解するとともに「何事にも負けない心、頑張る心」が根付き自信につなげている。
（4）障害者雇用に係る各種助成金の活用
障害者雇用に係る助成金について、積極的に富山県障害者雇用促進協会に相談した。これまで次のような助成金を活用し、障害者の雇用促進と経営の安定に大変役立っている。
重度障害者特別雇用管理助成金 ：活用回数2回
重度障害者通勤対策助成金（バスの購入、運転手の委嘱）：活用回数2回
重度障害者介助等助成金 ：活用回数3回
4. 改善の効果
障害者一人ひとりの適性を見極めて得意とする作業を任せ自信につながったこと、また厚生施設や通勤方法を改善したことなどにより、出勤率が格段に向上した。
彼らが日一日と成長していく姿に励まされ、また、販売先の拡大のために援助を受けた地元の事業家に励まされながら、彼らが関わる職域を広げたい一心で新商品の開発をすすめ、障害者の雇用に取り組み始めた10年前に比較すると売上が大幅に増え、障害者雇用数は当初の5倍となった。
5. 今後の課題
当面の課題として、当社は、事業所のスペースが不足していることから、作業場のレイアウトを変更し拡張を図るとともに、設備改善により障害者の職域拡大を図り、併せて休憩室についても拡張し、従業員がよりリラックスして休憩できるようにすることをあげている。
また、将来の課題としては、りんご栽培事業へ進出し、菓子製造業との融合により、障害者雇用数の拡大を図ることである。りんご栽培事業では労働力の必要性が一定の季節に偏るが、賞味期間の長い「干菓子」や「焼菓子」に携わる労働力との融合により、一年を通じて安定した雇用機会が確保できるからである。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてユミルリンク株式会社提供のCuenote(R)を使用しております。
