適材適所で能力を発揮できる職業人に育てる企業を目指す
1. 事業所の概要
宮元武四現会長が昭和28年に個人創業した当社は、紙袋の製造及び販売を開始、その後新たに工場の竣工と機械設備を導入しながらポリエチレン袋の製袋加工、樹脂クロス袋の製袋及び縫製、定置土嚢及び漁網用ロープの製造、ヤーンバックの生産、エンドレス原反の製織、ストッキングタイプの台所用水切り袋、シールの製造等に着手してきた。なお、ストッキングタイプの台所用水切り袋3点は福井県リサイクル製品に認定されている。また、平成12年には中国に江陰宮元塑料有限公司を設立した。
2. 障害者雇用の経緯
当初、宮元武壽代表取締役社長は、障害者の雇用に疑問を持っていたが、知人から聴覚障害のある人の雇用について相談を受け雇用したところ、一生懸命かつ熱心に仕事をする姿に感動し、障害者に対する考え方を改め、雇用に取り組んだ。
平成5年に、重度障害者多数雇用事業所として国の認定を受け、身体障害、知的障害のある従業員10名でスタートした。当時は、バブル崩壊後の景気低迷時でもあり、当社も業績を落としている中で、障害者雇用助成金を活用しながら、彼らが働きやすい作業環境を目指した工場を建設した。
しかし、彼らと関わった経験を持っておらず、どのように対応したらよいか解らなかったため、養護学校を退職した先生に2年間当社に来てもらい、仕事を説明する前に、社会とは何か、会社とは何か、社会人としてどうすべきかについて彼らに説明を依頼するとともに先生の指導方法を見ながら学んでいった。
当時社長は、知的障害がある従業員に対して将来的に最低賃金が払えるよう育てる目標を持っており、マンツーマン方式で教育しようと、製袋機に障害のない従業員（指導者）とのペアで配置したが、数ヶ月間経過したところ、指導者が一日の生産量の向上と彼らの教育との両立に対して精神的に限界を超えてしまったことを理由に退職したことがあった。他にも知的障害のある従業員を多く雇用したことにより退職した従業員もいたが、それは当社と個人の理念、考え方の違いから生じたものと解釈している。一方で、障害のある人と一緒に仕事をすることについて、従業員から「今まで彼らとすれ違うと目で追っていたが、今は違和感がなくなった」との回答があり、彼らと共に生きる中でもっとも大切で基本的なことは、違和感がないことだ、と考える当社と共通の理解を持つ従業員を非常に高く評価している。
3. 取り組みの内容
（1）職場配置
マンツーマン方式で教育を受けながら製袋機操作に勤務していた知的障害があるAさんについて、指導者が僅かの時間席を外した際に、機械のトラブルに対し適切な対処をすることができずに機械を破損したことがあり、この件以来、まずAさんの安全について検討し、内職の仕事に配置転換することとした。
内職への配置にあたっては、職務を細分化し、作業工程を障害の程度に応じて1～2行程に設定した。
内職勤務初日、誰一人一言も話さず黙々と仕事をする周囲の従業員を見て、「明日は全員が疲れて休むかもしれない」との懸念も感じられたが、実際は全員生き生きと作業できており、適材適所の必要性を再確認した。
（2）仕事への意欲や責任感、生活態度の向上へのはたらきかけ
重度の知的障害のあるBさんについて、就職希望のため母と来社した時には、何を聞いても一切話さなかったことから雇用は無理と感じたが、電話で中座し再び戻ると、母と笑顔で身振り手振りを交え話していたことから、頭の中へインプットされればBさんに仕事を任せることができるかも知れないと考え、雇用を判断した。
周囲の従業員は当初対応に苦慮の連続であったが、当社からは「職場に自分の居場所があるか一生懸命調べているのだから」と説明し、当面Bさんへのはたらきかけは控えて様子をうかがうこととしたところ、3ヶ月程過ぎると、Bさんが周囲の従業員の傍らに行き手を動かす様子が見られるようになった。
また、家庭でも、今まで母がいないと食事もとらなかったBさんは、自分でお湯を沸かし玉子焼きを作ることができるに成長した。また、Bさんが内職作業の1工程を担えるようになったある日、熱が出たので母が休むように言ったが、「僕が休んだら仕事が止まるから駄目」と言って出勤したこともあり、仕事に対する責任感も芽生えることができた。
（3）社内体制
1）障害者職業生活相談員の配置
障害者の職業生活全般においての相談、指導等、障害者を支援するため障害者職業生活相談員を4名配置するとともに、職場定着推進チームを設置している。ハローワークや障害者地域生活支援センターなど彼らを支援する社会的環境も整い、公的機関と連携し適宜、適切な指導・助言の援助も受けきながら、彼らがより安全で且つ安心できる社会生活、家庭生活ができるよう努めている。
2）業務遂行援助者の配置
雇用管理のために必要な業務遂行に関する援助及び指導の業務を担当する業務遂行援助者が、障害者各人の作業目標,作業計画、作業内容、品質管理などの指導、助言を行い、全員がノークレームを合言葉に、お互いの仕事を理解し、助け合う体制をとっている。
（4）健康管理と生活指導
健康管理面では、当社が行う年1回の健康診断のほかに、本人の勤務状況などにより、健康状態の確認をし、家庭への連絡、家庭での状況把握、場合によっては家族の相談に乗り助言などもする。
生活指導面では、特に軽度の知的障害者が犯罪のターゲットにならないよう、注意を促すと共に、兆候が見られれば、即座に家庭、公的機関と連携し安全面に配慮している。又、障害者が継続的に安定した業務につくことができるよう、自立意識の高揚を目指して指導している。
（5）公的関係機関、福祉施設との連携
福井県雇用支援協会が開催する障害者雇用促進に関する研修に積極的に参加し、従業員の意識付け、資質の向上に努めている。又、障害者職業センターとも連携をとり、カウンセラーやジョブコーチの利用を通して、障害者の作業能力の開発、働く意欲の向上を図り、より雇用の安定と継続を実現するための環境つくりに努力している。そのほか、養護学校在学生の作業実習も受け入れ、彼らの作業に対する適応力の向上、持続力の強化、就労意欲の開発などにも協力している。
4. 今後の展望と課題
障害のある従業員が、たとえ対応できる職務遂行のキャパシティは狭くとも周囲から任される仕事、安心してもらえる仕事ができるように育てていくことを目指している。
今後の課題としては、日本の第二次産業（製造業）は新商品の開発、付加価値のある商品の開発を目指さなければ生き残れない状況のなか、製造している商品の単価が決して高価とは言えない当社において、障害者雇用を今後どうように取り組んでいくべきかを考えていかなければならない。
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