決して無理しない長期的な指導により障害者を雇用
- 事業所名 :
- 株式会社桔梗屋
- 所在地 :
- 山梨県笛吹市
- 事業内容 :
- 和洋菓子製造・販売
- 従業員数 :
- 356名
- うち障害者数:
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 2 製造、出庫 肢体不自由 2 製造、出庫 内部障害 1 配送 知的障害 2 製造、出庫 精神障害 1 出庫、検品 - 目次


1. 事業所の概要
(1)事業の内容
明治22年に創業した当社は、支店、分店を開設しながら、高級菓子よりも誰にでも愛される「きんつば」などを主流とした菓子づくりを行っていた。第二次大戦を境に閉店や転業を余儀なくされた和菓子屋もあったが、当社は桔梗信玄餅の大ヒットなどで、現在では山梨県に直営店を31店舗展開している。
平成2年に本社を移転し、敷地内に「花菓亭一宮店」「お菓子の美術館」石臼挽き手打ちそば・おむすび・甘味処「水琴茶堂」「工場アウトレット 社員特価販売1/2」を併設し展開している。
また、平成18年4月からは、山梨県立フラワーセンターハイジの村を運営している。


(2)経営方針・経営理念
地球上でもっともお客を飽きさせない企業であること。伝統や、既存の価値観を大切にしながらも、常に新しい視点、切り口でお客様を「あっ」と驚かせる場であること。それが当社の目指すものである。
当社は、従業員ひとりひとりが桔梗屋の『顔』であるという自覚を持ち、お客に最高のショッピング体験をしていただくため、進化し続けている。
(3)組織構成
大別すると、製造部、営業部、財務部、総務部、マーケティング企画室、外食事業部から構成されている。
2. 障害者雇用の理念・経緯
(1)障害者雇用の理念
経営理念に沿って、地域への奉仕、地域に根ざした企業として貢献することを心掛けている。また、前社長の意向である「家庭的な経営」、「心のかよった企業」を目指す中で、ノーマライゼーションの取り組みとして、障害のある人に雇用の場を提供することが自然と考えている。
(2)障害者雇用の経緯
40年程前に、肢体不自由及び言語不自由のある人を社員として採用したのが始まりである。その後、ハローワークからの紹介を中心に障害者雇用に取り組んでいる。一人の障害者雇用をきっかけに、続けて紹介の相談が寄せられている。また、各種団体で発行する雑誌を見ての応募や、障害者施設並びに授産施設からも相談の連絡がある。
求人については、障害があっても仕事が可能であれば採用している。「自宅から通える範囲内での採用」「できる範囲で仕事をしてもらう」というのが一貫した採用方針である。したがって、障害者の定着率は高く、ほとんどの社員が定年まで働いている。
また、平成16年7月からは精神障害のある社員を雇用したが、それが広報誌で紹介されたこともあり、他県からの視察や、障害者団体からの見学が増加している。

小田切製造部製造五課係長(右)
3. 採用・配置についての取り組み
(1)労働条件
1)契約期間
原則として1年間の有期契約であり、それを更新している。定着性は高く20年以上更新している社員もいる。
2)配置
勤務場所は工場内であり、異動はない。
3)勤務時間
フルタイムからパートタイムまで、働き方に合わせ設定している。特に、精神障害のある社員の場合は、5時間からスタートし、本人の体調に合わせて勤務時間を伸ばしていった。
4)賃金
時給であり、原則として最低賃金額以上を目安に設定している。
(2)職務の設定
1)製造関連:風呂敷を縛る、楊子を刺す、包装する



2)出庫関連:箱詰め、アウトレット製品の箱詰め、日付を打つ

3)検品関連:製品に不良がないかチェックする
4)配送関連:自動車を運転し配送する
5)そ の 他:使用済みダンボール箱を再生する

(3)助成金等の活用
障害のある人の雇用に際しては、職場適応援助者助成金やトライアル雇用奨励金を活用した。これらの制度は、障害者雇用をコスト面でバックアップするものであり、非常に効果的な制度である。
4. 労務管理に関する取り組み
(1)雇用管理面について
障害の種類によって雇用管理上の工夫が異なっているが、共通した考え方として、彼らの中には変化に対して過敏に反応する社員もいるので、パニックになることを避けるために、一定の仕事を設定している。基本的には、「一つの仕事をできるようになったからといって、性急に仕事の内容を高度化したり変更したりせず、長い目で育成する。」
1)精神障害に対する取り組み
豊富な人生経験を生かして、的確にアドバイスができる年輩の社員がコーチ役となり指導している。また、山梨障害者職業センターと相談しながらジョブコーチを活用し雇用管理を行っている。
2)知的障害に対する取り組み
送迎用バスの利用から指導をスタートした。人事担当者や直属の上司が家族との連絡を密にし、協力を得ながら取り組んだポイントは次のとおり。
①家族ぐるみで対応する
②できることから仕事を任せる
③社内にパートナーを作って指導に当たる
④上司が「障害者だから」という意識を持ちすぎない
⑤職場適応訓練を活用する
3)聴覚障害に対する取り組み
会話をするときは、口の動きがわかるようにマスクを外している。また、聴きとりやすい位置に移動するなどして、本人の負担を軽減している。
とにかく会話が大切であるため、できるだけ上司の方から話しかけるように心掛けている。
指導については、1ヶ月程度専属の指導員を配置し行うほか、作業を的確にできるよう作業マニュアルなどは、一目でわかるよう図解入りにしている。

2)設備・職場環境について
肢体不自由の社員が安全で快適に職業生活が送れるよう、基本的な部分で整備している。
①車いすで移動できるよう、なだらかなスロープを設置

②階段の昇降の安全を確保するため、全ての階段に手すりを設置

③機械の故障が一目でわかるよう、三色ランプを設置

④専用のトイレを設置


(2)労務管理のポイント
①適材適所 :その作業に適しているか見極めを大切にすること。
②会話を大切にする:積極的に話しかけ、孤立しないようにすること。
③特別扱いしない :同じ職場の社員として、同じ意識で仕事をすること。
④外部資源の活用 :ジョブコーチをはじめとした支援機関を積極的に活用すること。
⑤家族との協力関係:本人だけでなく、家族との信頼関係や協力関係を大切にすること。
また、作業指示のポイントとしては、決して無理をさせないことがあげられる。特に労働時間に関しては、体調や作業の習熟度に合わせて増減できるよう対応している。
5. 取り組みの効果
(1)職場の雰囲気の改善
①現場の結びつきが強まり、家族的な雰囲気がより一層感じられるようになった。
②「助け合う気持ち」、「協調性」、「世話を焼く」等の思いやりの精神が育まれた。
③当社の障害者雇用の姿勢を評価し、当社に対して誇りを持つようになった。
障害のある人が職場にいるのが自然であり普通のこととして事業所全体が受け止めており、違和感や特別な意識もなく共に働いている。
(2)職場の活性化
障害のない社員が、彼らの一生懸命にコツコツと働く姿を目の当たりにすることにより、刺激を受け、やる気を高めることに大きく役立っている。
(3)職場環境の改善
障害のある社員が作業し易いよう環境に配慮するということは、彼らのみならず高年齢者や女性への配慮にも繋がり、職場全体を働きやすい環境にする。
スロープや手すりの設置など、安全で働きやすい職場環境作りは、労働生産性の向上などの業績改善に直接結びついている。
(4)労働力の確保
彼らが戦力として十分に活躍できる職務があるので、障害者雇用は重要な労働力確保の施策の一つであり、当社にとっては必要不可欠となっている。
(5)取り組みの効果のまとめ
障害のある人を雇用することによって、社員の協調性や積極性が育まれ、さらには、思いやりの気持ちなど人間的成長が促された。職場の雰囲気が改善されたことで、障害者だけではなく職場全体の定着率や働きやすさの向上につながった。
対外的には、地域貢献としての障害者雇用を評価されることにより、当社のイメージアップに大きく貢献し、企業に求められているCSR(企業の社会的責任)の観点からも評価されることとなった。
6. 今後の課題と対策・展望
(1)課題
当社は、一層の地域貢献や労働力確保の点から、障害者を雇用する現場を拡大したいと考えているが、建物の構造上エレベーターが設置できない現状では雇用が困難な身体障害のケースも出てくると予想される。下肢障害のある人を雇用するための設備の充実が課題となっている。
(2)対策・展望
障害者雇用を進めるために彼らに適した職場環境を無理に作ると、どこかで破綻を来すことになりかねないため、適材適所という考えに基づき、現状の体制の中で可能な範囲で仕事をしてもらうことを原則として、可能な限り障害者の雇用に取り組んでいく意向である。
特に、当社の関連会社が、指定管理者制度(公の施設の管理に民間の能力を活用しつつ、住民サービスの向上を図るとともに、経費の削減等を図ることを目的とする)に基づき運営している山梨県立フラワーセンターハイジの村においては、地元の学校からの障害のある人の受け入れを計画している。

(3)総括
決して無理することなく、できることをできる範囲で仕事として与え、長い目で育てる当社の雇用管理の取り組みが、継続的な障害者雇用を実現し、職場全体の活性化や労使の一体感、CSR、企業イメージの向上など、いろいろな面で相乗効果を生んでいる。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。