事業所名 :

株式会社五味八珍

所在地 :

静岡県浜松市

事業内容 :

飲食店（中華ファミリーレストラン）経営

従業員数 :

225名

うち障害者数:

2名

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	0
肢体不自由	1	社内報作成、営業業績に係る集計業務、店舗メニュー作成等
内部障害	0
知的障害	1	製造作業（野菜の加工（カット）作業等）
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要
2. 職場復帰の取り組み
3. さいごに～取り組みの効果～

事業所外観

1. 事業所の概要

　「各種の味、変化に富む品」という意の社名で1970年に創立した当社は、約40年の歴史の中で、中華ファミリーレストランとして静岡県内を中心に愛知県東部まで直営店36、フランチャイズ店9を展開し、今後も毎年1～2店舗の出店と2012年には直営店50店舗を目指して事業を進めている。
　全店共通したユニークな店構え、価格、品揃えに加えて、新入社員教育をはじめ現場スタッフの技術力が全店で実現できるよう、QS（クオリティースペシャリスト）認定制度を確立するなど、従業員教育システムも独特のものを持っている。
　浜松市に本部があり、経営、購買、教育など事務管理部門の全てと、別棟に各種の食品製造を行う工場がある。企業全体の従業員の多くはパート、アルバイトとして来客応対に多忙な現場各店に配置している。

2. 職場復帰の取り組み

（1）受障の経緯

　平成16年4月大学新卒で雇用したKさんは、ベテラン社員に交じり現場の店舗にて調理実務研修を行い、入社8ヶ月で社内調理認定資格を取得し、次のステップに進む中、同年11月にバイクで出勤途中、側溝に転落する自損事故により脊髄損傷等の重傷を負った。加えて内部損傷も受けたため回復は困難を極め、手術、治療とリハビリも含め入院期間は9ヶ月に及んだ。

（2）職場復帰の意思確認

　平成17年8月に退院したKさんは、両下肢障害のため車いすを使用しての生活となり、自宅に昇降機を設置するなど生活環境を整える一方、母の運転する車で通院し、訓練・リハビリを受けながら自立能力の向上に取り組んだ。
　8月末に当社は、母同伴で本部を訪れたKさんから、退院の報告と「一定のリハビリが終了し就業が可能となった際は、引き続き当社で働きたい」という意思と平成18年1月頃までに復帰する目標を確認した。

（3）職場復帰に向けた条件の提示

　社内でKさんの意思を実現するための検討を行い、以下の点について本人に提示し相談した。
①車いす使用の場合、多忙な来客応対が中心の店舗ではなく、本部で事務管理業務を担当してもらうこと。
②現住所は本部から遠隔地で通勤が難しいため浜松市に転居すること。
　本人からの同意を確認し、社内インフラ整備等、職場復帰のための具体的な課題の検討に取り組んだ。
　なお、検討にあたっては、家庭訪問により家族と話し合い、Kさんの生活状況を理解したほか、客観的判断のために主治医とも相談を行った。

（4）職場復帰への準備

1）住宅、単身生活の確保
　玄関ドアの幅、十分な生活スペースと段差のない室内、駐車場など、車いす生活が可能な住居の確保について、民間アパートは適切な対象物件がなく公営住宅も多数の抽選待機者がいる現状の中、長い紆余曲折を経て、高価なリゾート用住宅を改装しKさんに貸与するに至った。
　なお、宿舎の選定にあたっては、総務担当者がKさんと同行し、トイレや浴室をはじめとした室内改装の計画を立てたほか、冷蔵庫の高さや、洗濯機は開口部が前向きのドラム式が適切であるといった打ち合わせを行った。

2）通勤手段の確保
　車いすの重量を確認したうえで本人に適した通勤用自動車の選定にあたってKさんと打合せを行い、上肢のみの操作で運転可能な車いす用の改造車を購入、Kさんに通勤手段として貸与するとともに、ペーパードライバーのKさんが車に慣れる必要があるため、教習可能な自動車学校を総務担当者が探し、入社前の10日間習熟訓練を受けてもらった。

3）事務所インフラ整備
　復帰前に実施した主な事項は以下のとおりである。
　①専用駐車場の新設
　②玄関スロープの改造
　③玄関ドア自動化
　④障害者用トイレ新設
　⑤事務室内通路動線の確保、特製事務机の設置

専用カーポートを設置

玄関に自動ドアとスロープを設置

車いす使用者用トイレを新設

Kさんが使用する事務机

（5）職場復帰と能力開発

　平成18年2月、Kさんを職場に復帰させた。
　復帰時の不安は皆無ではなかったが、社内のインフラ整備を進めつつ、社員には事前に「新規転入者がある」ということ以外、朝礼などで特に配慮を要請することはしなかった。
　周囲の社員は、Kさんに対して必要以上の気遣いや、障害を特に意識することもなく受け入れ、Kさんもごく自然に職場に溶け込んで現在に至っている。
　Kさんが担当する社内報作成、営業業績集計、店舗メニュー作成などの事務部門でOJTにより技能を習得するとともに、当社の方針で、パソコン、デザイン等の業務遂行能力向上のため専門学校専門課程に通学してもらうこととした。

店舗現場と同じに作られた本部研修室

3. さいごに～取り組みの効果～

　通勤途上の災害を受けた正社員に対して、就業規則や業績面から環境整備の経費負担が可能という当社の経営判断もあったが、突然の事故により重い障害を負い、車いすの生活を余儀なくされた精神的ショックと併せて、店舗中心の当社で職場復帰が可能か不安もあったであろうKさんの、短期間で障害を受容し乗り越えた精神力と、困難さを承知の上で職場復帰を申し出た覚悟と熱意に感動した役員のはたらきかけにより、継続雇用の方針を決定した、と総務担当者は振り返る。
　職場復帰に向けて受け入れ環境を整えていく過程は決して順風満帆ではなかったが、総務担当者をはじめとする当社の具体的かつ細部まで行き届いた取り組みは、「会社はここまでやってくれるのか」という社員の評価は当社への信頼感を高めるとともに、総務担当者自身も「勉強になった」と話し、役員はじめ当社のトップにも障害の理解が高まった。
　当社が築いた障害者に優しい職場は、社員の「この会社なら安心して勤められる」という意識の向上に大きく寄与している。