障害特性に応じた職務と環境を設定し障害者を雇用

1. 事業所の概要
1953年に設立し本社を大阪市に置く当社は、1960年代に編集部門、製版部門を設立、1990年代後半には通信事業に参入しインターネット事業を開始し、創業以来半世紀にわたり、地域に密着した独自のメディアを開発し、暮らしに役立つ情報コミュニケーションの提供に取り組んでおり、変化の激しい高度情報社会の中、人間性の豊かな企業として、広範な分野にわたる知識の集積と新しい技術の開発に努めている。現在、電話帳「テレパル50」の発刊・配布、ネット広告販売、通信販売等を主な事業内容としている。
2. 障害者雇用の経緯
当社は従来から障害者雇用には取り組んでいたものの、障害のある従業員の指導・管理を専従で担う従業員を配属していなかったこと等が原因で、うまく定着させることができなかったため、公共職業安定所から指導を受けながら、2000年から、5つの改善ポイントを定めて本格的に障害者雇用に取り組むこととなった。
改善のポイントとして①専従指導者の配置、②職務の確保、③採用前の実習の実施、④相談援助機関との連携、⑤社員への啓蒙活動を設け、これらに取り組んだ結果、2003年までに法定雇用率を達成することができた。
2006年6月現在の法定雇用率は、当社全体で2.27%、製作本部では5.29%である。
3. 取り組みの内容
(1)採用条件
採用に際しては、就労意欲及び意思、障害又は疾病が安定しているかどうか、毎日通勤ができるか、一般的な常識は持ち合わせているか、仕事はできるのか(実習を通して判断)、対人関係はどうか、等を確認する。本人から情報が得にくいこともあるため、事前に家族や障害者支援機関等から情報提供を得るようにしているが、本人の当社に対する就労意欲や意思を最も重用視している。
現在、障害のある従業員全員が最低賃金以上の給与を支給しており、パート従業員の場合は時給700~790円を支給している。また健康保険、厚生年金、雇用保険の対象となる週30時間以上の勤務が可能となるようにシフトを組んでいる。
(2)職務の設定
1)訂正シール貼り
現在、障害のある従業員の主な職務である訂正シール貼りについては、以前は各営業所の担当者又は製作本部において訂正が発生した部署が行っていたものを製作本部が一括して請け負うことで、障害のある従業員の職務を確保することができるとともに、各担当者の負担を減らすことにつながった。
電話帳の訂正作業は、月間平均4~5万箇所あり、1冊の電話帳では平均2箇所程度である。過去最高は一冊で15箇所の訂正を行った。
訂正作業の手順は、①作業場へ訂正する電話帳を運ぶ、②包装紙を破らないよう開梱、③訂正シール貼り、④再包装、⑤倉庫への搬出、である。訂正内容については、単純な受注ミスもあるが情報を集約した後に変更したものもある。本来、ゼロに近いことがよい仕事ではあるが、一定の量が発生し、各人のペースに合わせて進めることが可能である作業であることから、現在では彼らに適した職務となっている。
特に③の訂正シール貼りの内容について、事前に指定された箇所をサンプルとして作成し、それに基づき作業する。訂正箇所に正確に真っ直ぐにシールを貼り付けるといった非常に丁寧な作業が求められる。この作業は障害のある従業員に完全に任せており、作業のリーダーが全体を見ながら作業を進めている。
彼らへの配慮として、個々人の能力及び適性にあった作業を組み合わせた作業を設定するほか、個々のノルマではなく、チームとして協力して一日の作業量をこなすよう設定している。


2)ライン作業
フィルムで梱包され出てきた一定数の電話帳をパレットに組み積み、ある程度(電話帳の厚みで変化する)積みあがった段階でハンドリフトを駆使して倉庫へ搬出するライン作業は、訂正シール貼り作業と異なり、従業員のペースでは作業を行うことができないことに加えて、複数の作業を同時に遂行する能力が求められるため、比較的作業能力が高く、他の従業員とのコミュニケーション力が求められる。以前は彼らを各工程に試験的に配置したが対応が困難であったため、現在は対応可能な1名が従事している。

松阪ケーブルテレビの番組表の封入・仕分け作業は、PP袋に宛名シールを貼り付け、指定された冊数を封入し、町ごとに梱包し配達員に渡す。1回の封入件数の約1万4千件を2日間で行う。
(3)作業環境
以前、障害のある従業員は、他の従業員と共有した環境に配置していたことで、他の従業員が常に彼らの仕事の様子を見たり声かけができるため、障害に対する理解を深めるきっかけとなったが、周囲が騒がしいため作業に集中できないことから、現在は区切られた一定のスペースを設け配置している。環境を変えたことで、他の従業員から彼らの様子が見えにくくなったが、静かな環境の中で作業に集中できるようになり、彼らから「区切られたスペースのほうが作業をしやすい」という感想も出ている。

(4)上司との関係づくり
毎年3回(夏・冬の賞与前及び4月の給与改定前)、一人ひとり、本部長及び課長と面談する機会を設け、現状の報告やこれまで良かった事や困った事等を確認し相談することで、上司と本人とののつながりを密にしている。上司との面談は、彼らが少しでも働きやすくなればと考え実施している。なお、関係づくりにより少しでも働きやすくなればとの考えから、彼らとの食事会も実施している。
(5)関係機関との連携
現在、製作本部が連携をとっている機関としては、松阪公共職業安定所、三重障害者職業センター、三重県雇用開発協会、養護学校、県民局、病院、生活支援センターなどがある。中でもとりわけ職安及びセンターとの連携が重要となっている。
職安とは障害者就職面接会を通じて障害者雇用を進め、雇用後は職安及び障害者職業センターと定期的に打合せを行いながら障害のある従業員の状況把握に努めてきた。加えて障害者職業センターからジョブコーチによる支援を受けながら、実習生の雇用をスムーズに進めたほか、必要に応じて、職安や三重県等と連携を図りながら対応をした。現在、少しでも当社の経験を役立てることができれば、と考え、講演会やイベント等に係る依頼を積極的に受けている。
養護学校からの実習生については、過去数名受け入れてきた。実習期間中に保護者との関係をいかに上手く作るかが、彼らを採用するために必要な要件のひとつとなっている。実習受け入れ前には面接を行い、体力面や作業に対する集中力、疾病の有無などについて事前にある程度把握する。
実習の際の工夫として保護者との連絡帳交換がある。連絡帳には当社からの質問・連絡事項や指導内容の記入に加え、本人から作業内容や感想を、家庭からは家庭記入欄に記入をしてもらう。連絡帳を通じて当社との情報交換・共有を図ることで、実習を円滑に進めている。
(6)障害者職業生活相談員の取り組み
製作本部で障害者職業生活相談員を担っている笠松課長代理は、これまで障害のある従業員との関わりの中で特に留意したこととして、「うまく表現をすることができないために、体調の管理が難しい人がいるため、朝一番にその日の体調を確認することから始めていること、また、こちらから一方的に尋ねることにより、彼らが受け身や依存的になっては困るので、彼らが相談に来るのを待つ、すなわち相談員からアプローチしない代わりに、十分に話を聞く機会を設け、その場で解決できるような努力をしてきた」と話す。
他にも、他の従業員からの理解や支援を得るために、全体会議と併せて彼らに対する支援や理解を高める話をしている。
4. さいごに
当社が障害者雇用を進めることができた要因として、以下の3点をあげる。
①製作本部を含め当社が障害者雇用に対し真摯に取り組む姿勢を打ち出したこと。特に製作本部のトップが十分な理解を持っていること。
②障害のある従業員が必要以上のストレスを負うことなく、能力を発揮することが可能な環境を設定したこと。
③障害者職業生活相談員が一人ひとりの障害のある従業員の様子を十分に把握し、能力向上や就労継続に配慮してきたこと。
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