精神障害者の雇用に向けた段階的勤務設定の取り組み
- 事業所名 :
- 株式会社ロイヤルホテル(リーガロイヤルホテル)
- 所在地 :
- 大阪府大阪市
- 事業内容 :
- 宿泊施設業・付帯店舗経営
- 従業員数 :
- 1808名
- うち障害者数:
- 18名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 ヘルスキーパー 聴覚障害 2 燻製食品仕込み、経理 肢体不自由 9 事務、リネン 内部障害 5 営業、テナント店舗管理、施設管理、人事、事務 知的障害 0 精神障害 1 宴会専用厨房での業務 - 目次
1. 事業所の概要
昭和10年に、関西における迎賓館的ホテルの要望が政財界からあげられ、「新大阪ホテル」を開業、以降、関西に数々のグループホテルを開業し、平成2年、名称を新たに「リーガロイヤルホテルグループ」とし、東京・広島・小倉(福岡)・新居浜(愛媛)などにネットワークを拡大してきた。開業以来、国賓・皇室をはじめ国内外のお客を迎えるホテルとして感動と満足の追求を主軸としたホテル経営を行っている。
「リーガ」とは、Royal International Group & Associatesの頭文字であり、サービス化、ソフト化の進む新しい時代に対応して、それぞれの個性を活かした魅力的なホテル像を追求するホテルグループのシンボルとして、1990年4月1日に制定した。
企業理念は以下のとおり。
1)リーガロイヤルビジョン(CS・ES・No.1)
すべてのシーンにあふれる笑顔を当社の喜びとし、誇りうるNo.1ホテルグループの創造を通じ、社会に貢献することを使命としている。
2)リーガロイヤルハーツ
①あたたかい心
常にゲストの立場で考え、すべてのゲストに最高のおもてなしをする。
スタッフ同士が尊重しあい、働きやすい環境をつくる。
②考える心
物事をさまざまな角度から分析し、的確なチャンス、タイミングを捉える。
すべてが向上するよう工夫し、考える心を持ち続ける。
③情熱の心
チームワークを最大限に発揮し、一丸となって突き進む。
現状に満足せず、常にチャレンジする情熱を持つ。
2. 精神障害者の雇用の取り組み
(1)Gさんについて
現在、当社に勤務している統合失調症の診断を受けているGさんは、宴会部の厨房内で宴会用器具や食器の洗浄、片づけ、宴会準備等の業務に携わっている。
統合失調症は経緯も含めると、その特有の症状等に本人が対応できるようになるためには、通常かなり長い年月を必要とするが、Gさんも発症後、必要な日中活動は地域の小規模作業所等を利用し、障害と向き合いながら、自身の体調管理を主体に今後のことについて模索していた。作業所に堅実に通い続け、「働きたい」希望を叶えるため、周囲とのコミュニケーションを積極的にとっていた。
熱心で前向きなGさんは、H14.6から理髪店にて社会適応訓練を受ける。作業はタオル折り、床の掃き掃除等を1日約2時間行った。開始当初は週3日から始めたが、比較的慣れるのも早く、2ヵ月後からは週4日に変更し、1年半順調に訓練を受けた。
理髪店での訓練により、Gさんの中に一般就労に対する強い希望が芽生え、作業所との相談により、社会適応訓練の残り期間を一般就労への準備期間として位置づけ、雇用の可能性のある事業所へ訓練場所を変更することとした。
(2)Gさんの雇用~社会適応訓練の受け入れ~
当社は、体調に波があり、調子が悪くなる前兆が自分で把握できず、調子が悪くなると1週間くらいは部屋から出られなくなってしまうGさんに対して、本人が欠勤しても、社内体制に大きく影響しない職務から訓練を始めることを提案した。
当時の人事担当者は、本人の現状を理解し、それに合わせた対応として、まず社会適応訓練を実施することと、突然休まなければならないことを受け入れた上で「勤怠管理」を行うことについて提案した。
(3)訓練開始と事業所担当者とのコミュニケーション
Gさんにとって2箇所目の社会適応訓練事業所として、H15年9月から1日3時間、週4日の勤務形態で「一般就労」という目標達成のため、職務に銀のスプーン磨きを設定しGさんを受け入れた。
新しい環境に入る時に過度の緊張を伴うGさんの受け入れにあたっては、訓練開始当初は毎回、雇用支援アドバイザー(注)の訪問支援による仕事と環境に慣れるためのサポートを受けることとしたが、サポートは2週目は週3回、3週目は週2回と頻度を下げ、担当者や現場スタッフとのコミュニケーションをとることを目的とした業務日誌をつけることとした。担当者はGさんが仕事が終わった後に毎回記録した内容を確認するが、業務日誌は現在でも続けており、仕事の振り返りから趣味の話など会話を助けるツールとなっている。現場スタッフと昼食を一緒にとっているGさんは、平成18年10月の業務日誌に「少しずつやけど会話ができるようになった」との感想が述べられている。
(注)雇用アドバイザーは、特別非営利活動法人大阪障害者雇用支援ネットワークでH16年度末まで行っていたボランティア養成講座の修了者のうち、自発的に登録された「就業生活支援活動者」のこと。
(4)体調管理
「働くことで一般的な社会参加がしたい」希望を持つGさんは、なかなか状況が進展しない中で少しずつ仕事や環境に慣れてきた11月頃、体調を崩しながらも、一般就労に向けて勤務時間の延長希望も芽生える一方で焦りも見え始めたが、大きく調子を崩したことをきっかけに焦らないことが大切だと再認識し、また休んだ後も現場スタッフが温かく見守ってくれることから、大きく調子を崩す前に周囲に相談する大事さに気づいた。
当社は、このことをきっかけに、Gさんが一般就労に向け自分の体調の波を把握できるよう「体調管理シート」を導入した。
なお、「体調管理シート」はGさん自身に加え、当社の担当者においても体調の把握や予見に活用することができる。
訓練開始から半年経過し(16年4月)、銀スプーン磨き以外の職務も追加した。調子の波は相変わらず見られたが、4月から10:00~15:00に時間延長した。
(5)雇用
H17年6月末に社会適応訓練が終了するにあたって、Gさんを嘱託社員として雇用することを決定した。なお、月・火・木・金が勤務日のGさんから、休日前には自分の仕事を全部片付けたいという強い希望を受け、本人の体調を鑑みながら7月からは火曜日と金曜日の労働時間を10:00~16:00の5時間に延長した。
H18年4月には週4日を全て一日5時間勤務とし、Gさんの「40歳までには週に30時間働く」目標の達成を念慮しながら雇用を継続している。
なお、Gさんの職務内容は次のとおり。
①シンク洗いと後片付け
銅や真鍮製の食器をクリーナーで磨くと、クリーニングカスがシンクに溜まるため、スポンジと流水ホースでシンクを洗う。

②食器の収納
宴会用テーブルに対応した4連の棚一つひとつに、正確に食器を収納し、棚ごとにほこり防止シートをかける。

3. 雇用の取り組みを振り返って(担当者とのQ&A)
Gさんが当社の従業員になるにあたり、事業所担当者としての意識と取り組みについて、以下紹介する。
- Q1:
- 体調管理シートと業務日誌をつけることについて、それがあるときと無かったときとで、どのようにGさんとの関わりが変化したか?
- A1:
- Gさん自身のバイオリズムを予見・確認することが可能となり、月初めに「今月は中旬に無理をせずに取り組もう」などと彼との相談がよりしやすくなった。
- Q2:
- 雇用支援アドバイザーが現場に入ったことに対して、どのように感じたか?
- A2:
- 現場との架け橋となってもらい、Gさんにとっても安心感があった。
- Q3:
- Gさんが症状によって出社できなくなることについて、どのように感じているか?
- A3:
- 出社できないとの連絡が彼から入る時はいつも残念な思いだが、彼の体調のことが気になり、次の日は来てくれるかな?と心配している。
- Q4:
- Gさんが職場に入って、現場はどのように変わったか?
- A4:
- 現場そのものが明るくなったほか、仕事に真摯に取り組むその姿を見て、会社として従業員個々の自己啓発を促されたという一面がある(「自分も、よりやらねば!」という意識が芽生え、モチベーションがアップする由縁にもなっている)。
- Q5:
- Gさんに対して、特に配慮していることはあるか?
- A5:
- 彼は自分自身に対してよりも作業への貢献に心をくだく傾向があるようだが、彼からあまり話してこない体調面にいつも気を配るようにしている。就業時にはいつも話し合うが、担当者だけで把握しがたい時には同僚にも受け持ってもらい、絶えず彼とのコミュニケーションの中で労務管理づくりができるような雰囲気づくりに取り組んでいる。
- Q6:
- 担当者として、Gさんとの最初の出会いと現在とで、彼に対する印象はどう変化したか?
- A6:
- 最初は当方としても不慣れな面もあり、彼も慣れていないようで口数も少なく、明るさにも欠けていたように思う。今では彼の労務管理は担当者だけではなく、部署の担当にも任せられるようになり、最近では彼の方からその日の業務や体調、感想を伝えてくれるようになった。すっかり社員になったと思っている。

大阪市障害者就業・生活支援センター 支援係長 前野 哲哉
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