障害特性に応じた雇用管理と職場への周知により障害者を雇用
- 事業所名 :
- 沢の鶴株式会社
- 所在地 :
- 兵庫県神戸市
- 事業内容 :
- 清酒「沢の鶴」の醸造、販売及び関連事業
- 従業員数 :
- 250名
- うち障害者数:
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 1 研究室分析係 内部障害 1 一般事務 知的障害 2 瓶詰め、包装 精神障害 0 - 目次


1. 事業所の概要
(1)概要
神戸市灘区から西宮市にかけての海沿い一帯に軒を連ねる、江戸時代から続く酒蔵の一つである当社の創業は1717年、徳川8代将軍吉宗の治世下までさかのぼる。
当社は現在、本業である酒類の製造・販売に加え、食品事業、不動産業などの関連会社を持つ企業へと飛躍している。
(2)障害者雇用に反映される社訓と社是
当社は『信義誠実』、『創意努力』、『協力親和』を社訓と定め、『民族の酒「清酒沢の鶴」を通じて社会に貢献すると共に企業の発展と従業員の生活安定を図る』を社是としている。
障害者の雇用および中途障害者の雇用の継続は、古くから神戸に根を下ろす企業として地域社会に貢献することや、社員の生活の安定を図るために定めた企業理念を基本として取り組んでいる。
当社における障害者の新規雇用は、平成17年3月の3名同時採用が初めてであったが、実際は、中途で身体障害を受障した従業員に対する、体に負担のかからない部署への配置転換や、業務内容を一部変更する等の取り組みは以前から行っていた。社員を大切にする社風が反映されている。
2. 障害者雇用の経緯と現況
(1)経緯
当社の法定雇用率は、従来、在勤期間中に受障した従業員に対する雇用継続への取り組みにより達成されていたが、彼らの定年退職により、再び雇用率を下回ることとなったため、課題としてあげられていた。「企業として社会的責任を果たしたいという思いがあり、さらには神戸の企業として地域社会に貢献していきたいという気持ちがあった」と総務部の喜田部長は話す。
このような経緯から「まずは彼らの働く姿を見て判断して欲しい」という、神戸市内にある障害者就労支援施設の職場開拓員から、同施設で就労訓練を受けていた知的障害のある30代のAさんについて、雇用を念頭においた短期間の職場実習の依頼を受けた。
当初、当社がハローワークに出していた調理場の賄いや清掃業務の求人内容に対して面接と実習の依頼を受けたが、調理場の従業員数と業務内容を考慮すると、調理補助等での雇用は不可能と判断したが、人事部は、この機会に製品部の責任者と相談し、知的障害者の受け入れ可能な作業内容の洗い出しを行い、ビン詰め工場での酒瓶のライン作業や箱詰め作業であれば、雇用の可能性があると判断し、職場実習の受け入れを決定した。
なお、Aさんの職場実習にあたって、Aさんの所属施設から連絡を受けたハローワークから、求職登録中の下肢障害のある30代のCさんの面接について、さらにもう1名、Aさんとは別の施設を利用し担当官と職業相談を行っていた知的障害のある20代のBさんについても面接及び職場実習の依頼を受けた。
下肢障害があるものの立位の保持や歩行が可能なCさんについては、面接の結果、就労への強い意欲と、新しいことに前向きに取り組もうとする姿勢を評価し採用を決定、一方、Aさん、Bさんについては、ともに製品部において短期間の職場実習を通じ能力や適性を見極めたうえで採用を決定した。
(2)障害者雇用の状況
平成18年8月現在、当社で雇用している4名の障害のある従業員の従事業務は以下のとおり。
内部障害1名(社員) :醸造部事務職
下肢障害1名(1年単位の契約社員):醸造部研究係(分析係)
知的障害2名(1年単位の契約社員):製品部(瓶詰め/包装工)
3. 取り組みの内容
(1)従業員に対する周知
事業所が初めて知的障害者を雇用する場合、人事サイドもさることながら、一緒に働く現場の従業員の不安も少なくない。
Aさんは、知的障害があるとは気づきにくい部分があるが、Bさんは、特に作業スピードや体力面で他の従業員に比べ下回るといった、それぞれの障害特性を把握することが、従業員にとっても、AさんBさんにとっても、不要なストレスをため込まないために必要なことであるため、一緒に働くことになる瓶詰め工場の従業員に対し、二人の障害について周知し、理解を得るよう努めた。
(2)就労支援機関等の利用
Aさんの採用に際しては、Aさんが所属する就労支援施設の指導担当職員がジョブコーチ役として、仕事の手順の確認・指導に加え、本人と従業員間の橋渡し役として支援を行った。Aさんの職場実習後に行ったBさんの職場実習では、兵庫障害者職業センターのジョブコーチによる雇用前支援及び雇用後支援、フォローアップを受けた。
(3)障害者助成金制度の活用
新たに3名の障害者を雇用するにあたって、トライアル雇用などは使わなかったが、下肢障害のあるCさんが使用する便座式のトイレを設置できるよう、障害者作業施設設置等助成金(第一種)を活用しトイレの改修を行った。
(4)職場配置
1)知的障害
Aさん、Bさんは、ともにビン詰め工場において、基本的には同じ作業場に配置しているが、作業内容は各人の体力および適性を見極めたうえで設定している。
①Aさん
比較的体力、持久力があるため、体力を要する職務にも対応できるため、お酒の入った瓶の箱詰め工程において、ラインに乗って次々に流れてくる酒瓶を、両手で2本同時につかみ、箱に詰めていく作業を設定した。
Aさんは、周りの従業員とほぼ同等のスピードでこなしており、ライン作業でも他の従業員に共に作業に従事している。


②Bさん
小柄な体格で体力的に不安があるため、できるだけ体力的に負荷の少ない作業を設定した。
お酒が入った瓶は重いため、軽い空き瓶をラインに乗せる作業や、空箱の準備や整理等を任せている。また作業ペースに関する配慮として、ペースを合わせなければならないライン作業ではなく、自分のペースでできるような作業内容を複数用意している。

2)下肢障害(Cさん)
研究・分析業務を担当する醸造部研究係に配属したCさんは、これまで全く経験のない職務である分析係として、他の研究員と同じ職場環境の中、共に研究に励んでいる。
(5)継続雇用のため勤務条件を変更
雇用して数ヶ月が経過したある日、勤務態度もいたって良好であったBさんから、「仕事を辞めたい」との相談を受けた。体力面に課題のあるBさんにとって、フルタイムの勤務は体力面だけでなく精神的にも負担になっていた。相談を受け当社は、Bさんが仕事を続けられるよう本人や家族と相談を行った結果、Bさんが希望した勤務時間の1時間短縮を認めた。
「Bさん本人もまた一から仕事を探すのは大変でしょうし、会社にとっても一度雇って仕事を覚えてもらった人なので、少しでも長く仕事を続けてもらいたいと思っています」と喜田総務部長は話す。
4. まとめ
(1)Cさんのコメント
醸造部研究係に配属し、分析係として勤務するCさんは表情も活き活きとしながら、次のように話す。
「ハローワークの障害者窓口の担当の方より沢の鶴の求人を紹介され、面接の結果、採用となりました。今やっている仕事はそれ以前の経験とは全く違う仕事内容でしたが、新しいことに対しても一から覚えようという気持ちで取り組んできました。また、周りの社員の方からも丁寧に教えて頂いています。働く上での(身体面の)ハンディはこれまで特に感じたことはありません。むしろ働くことが自分自身にとって良いリハビリになっており、これからもこの仕事を続けていきたいと思っています。」
働くことは単に経済的な面だけでなく、肉体的にも精神的にもよい影響をもたらしている。
(2)障害者雇用にあたってのポイント
当社が、障害者雇用にあたって重視した点は、以下のとおり。
①まじめであること、誠実であること
②協調性があること
③コツコツと働くことができる人
これらはどれも基本的なことであり、障害者だから特別に違う視点で雇用を考えることはない。
(3)今後の課題と展望
今後の障害者雇用に向けての課題について、現在特に大きく懸案となっているものはないが、作業能力や体力面では特に問題ないと評価をうけているAさんが有給休暇を使い切っていることについては、留意する必要がある。一方、体力面に不安があるBさんは、継続雇用を図るためには、今後も引き続き職務内容や就労時間に対する配慮や調整は必要であり、同時に周囲の従業員の理解も得る必要もある。
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