2006年度作成

事業所名 :

有限会社西日本印判センター

所在地 :

島根県益田市

事業内容 :

印鑑、ゴム印製造

従業員数 :

13名

うち障害者数:

6名

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	1	ゴム印製造工程
肢体不自由	5	印鑑、ゴム印製造工程
内部障害	0
知的障害	0
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要
2. 障害者雇用の経緯と現況
3. 取り組みの内容
4. 今後の展望と課題

1. 事業所の概要

（1）事業内容

　昭和38年に先代社長と市議会議員2名で創業した当社は、印鑑、ゴム印の製造を行っており、県内はもとより西日本各地に取引先がある。現在はパソコンによる生産も取り入れながら、時代の流れに対応しつつ職人の能力と噛みあわせた事業を展開している。

（2）経営方針

　創業43年になる当社は、昭和58年の水害を乗り越え、地道に印鑑製造を行ってきた。当社の職種に合う人なら誰でも受け入れ、障害のある人にも働く場を提供し社会貢献していくことを方針としている。

2. 障害者雇用の経緯と現況

（1）経緯

　福祉に理解があった初代社長は、創業時に、印鑑業界の本場であり同業者が昔から印鑑の仕上げ工程などの技術を持った多くの障害者を雇用している山梨県を訪問し、事例を参考に障害者雇用に積極的に取り組んだ。また、両上肢切断の障害があるが印鑑製造に必要な逆さ文字を書ける技術を持った山梨県在住の人を「一生面倒を見る」と雇用した。当時は全従業員15人中、7人の障害のある従業員を雇用していた。
　3代目となる大谷社長も「小さい頃から社員旅行などにも一緒について行き、彼らと自然に接することができ、仕事場に障害のある人が働いていることが当たり前だった」と話し、障害の有無にかかわらず大切な人材として、常に障害者雇用を継続的に考えている。

（2）障害者雇用の状況

　全従業員13名のうち障害のある従業員は6名。身体障害のある従業員が中心で、創業時から障害者雇用について積極的に取り組んでおり、平成17年11月にはトライアル雇用を活用し雇用を図った。

3. 取り組みの内容

　現在、印鑑製造に1人、ゴム印製造に5人の障害者を配置しているが、継続的な雇用に繋げるためいくつかの取り組みがなされている。

（1）技術を活かす

　印鑑製造には特殊な技術を必要とするものがいくつかある。逆さ文字の技術においては、一人前になるには10数年かかるとされる。また、印鑑の仕上げの工程である「手彫り仕上げ」は、捺印の際の抜けの良さやゴミの詰まりにくい印鑑に仕上げるためには欠かせない工程だが、現在対応できるのは1人の障害のある従業員のみである。長い年月をかけて経験を積み、根気とセンスを磨いてきた本人の努力と、そのセンスを見抜き、その技術を活かす環境を創り出した当社の取り組みによるものである。

　また、ゴム印製作については6工程のうち、プレス機作業は温度や湿度調整、台木製作は形や大きさの選定など経験のいる工程もあり、長年勤めて技術習得された従業員が自信を持って作業に従事している。

（2）時代に適した機械設備

　印鑑業界にもパソコンを利用した機械彫りや、逆さ文字の技術が無くても作業可能なソフトウェアなどの登場で、必ずしも手先が器用でなければならない作業ではなくなってきている。技術をもつ人材とは別に、パソコンを利用した印鑑製作機材のオペレータとしても障害のある従業員を雇用している。
　また、発注を受けた印鑑やゴム印のデザインをパソコンでレイアウトする行程は、パソコンの技術はもちろん、既存の書体そのものを使用せずに部分的に太くしたり角度を変えたりとセンスが問われるが、片麻痺のある従業員は経験を積んでテキパキとこなしている。
　印鑑を彫る行程は、パソコンからデータを受けた機械が自動的に文字を彫り、比較的簡単な作業で仕上がるが、機械による作業には限界があるため、当社では仕上げ行程は手彫りで行うように、機械と手作業とを織り交ぜながら高い品質を保ち製作している。
　大谷社長よりベテランの障害のある従業員もおり、当社を支えている。

（3）生活環境の整備

　障害者雇用を継続するには、彼らの生活への配慮も重要なポイントの一つである。当社は創業当初に寮を設置し、彼らの生活の場としている。現在は実家が遠方にある従業員も含めて4人が寮を利用しているおり、彼らに欠かせない設備となっている。
　食事の世話人もおり、健康面にも配慮している。昼休みには従業員の休憩場所としても利用でき、働きやすい環境に配慮している。

（4）障害特性への配慮

　身体障害のある従業員に対するソフト面の配慮については、特に設けてはいないが、大谷社長の彼らに対する接し方は長い経験からなるものであり、彼らも精神的に非常に落ち着ける環境で勤務している。人間関係が難しい世の中でありながら、子供の頃から接してきた経験が生み出した関係づくりである。

4. 今後の展望と課題

　大谷社長は、業界全体が将来、欧米化に伴いサイン認証の時代が来ることも考えられる中、先代から引き継いだ230件あまりの得意先を大切にしながら、3代目社長として新たな試みにも挑戦していきたいと話す。
　障害者雇用の面では、知的障害のある人の雇用も検討しているが、課題としては文字を扱う仕事であることから「文字の認識力」が問われる点が掲げられる。ジョブコーチ等の専門的なサポートが必要となることが予想される。
　また、島根県雇用促進協会の役員として島根県の西部地区において障害者雇用の推進に関わっている社長は、障害者雇用にはより一層の企業努力が必要と話す。
　事業所にとって技術や経験のある人材は、障害の有無を問わず欠かせない存在である。社長は「障害がある方だからこそ持っている感性があり、それは宝物。一緒に仕事ができることは喜びでもある」と話す。現状を維持しながらも従業員と共に技術を活かし、新しい試みにも益々積極的に取り組む当社の取り組みに期待が寄せられる。

前ページへ