医療機関における知的障害者の雇用
- 事業所名 :
- 医療法人社団坂梨会 阿蘇温泉病院
- 所在地 :
- 熊本県阿蘇市
- 事業内容 :
- 医療業(総合病院)
- 従業員数 :
- 276名
- うち障害者数:
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 3 技術専門職(コンピュータ担当)、建物管理(メンテナンス)、介護 内部障害 1 薬剤師 知的障害 2 介護周辺業務 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要・障害者雇用の状況
(1)概要
当事業所は、昭和49年に一般内科(循環器、消化器、呼吸器、放射線、小児)有床診療所として発足して以来、脳血管障害への温泉療法を加味した理学診療科、歯科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、産婦人科、透析室などを順次開設。現在、地域の中核病院としての位置を確立している。
なお、当法人としては、当事業所のほか、介護老人保健施設「愛・ライフ内牧」も運営している。
(2)障害者雇用の状況
概ね、ハローワークの求職登録者で熊本障害者職業センターを利用した人を採用している。採用にあたってはトライアル雇用を積極的に活用している。
「地域の人たちを優先的に雇用していきたい」という方針を持つ理事長は、「障害者の方に出来るような仕事があれば、積極的に雇用を進めていきたい。効率主義や能力主義に偏重しない適宜、適切な障害者雇用ができればと思っている」と話す。
当事業所の総職員数276名(法人としては366名)のうち、障害者は6名で、車いす利用者はいない。
通勤については、徒歩やマイカーでの通勤時間が5分程度の職員が3名、他の3名は自家用車やバスなどを利用し片道1時間程度を要し通勤している。

2. 取り組みの内容
(1)身体障害への取り組み
身体障害のある職員4名については、技術専門職に2名(心臓機能障害4級・上肢機能障害1級)、建物管理職に1名(上肢障害1級)、介護職に1名(下肢障害6級)配置しており、うち、本人の希望によって週3日勤務(勤務時間は8:00~17:30のフルタイム)としている職員もいる。また、建物管理職についても8:00~17:00のフルタイム勤務としている。重度の職員も勤務しているが、いずれの職員も仕事そのものについては、他の職員と何ら変わるところはない。介護職員については、トランスファーなど負荷の大きな業務も問題なく行っている。
彼らに対しては、他の職員も特別に意識することなく共に勤務している。
設備改善については、車いすを利用する職員もおらず、特別の改修工事や職員駐車場の専用駐車スペースの必要性は、現在のところは見受けられない。
(2)知的障害への取り組み
1)取り組みの経緯
当院が初めて知的障害者を雇用したのは5年前で、現在勤務している2名を雇用する2年ほど前になる。ハローワークから紹介があり、様々な事前準備を行った上でトライアル雇用からスタートした。それまでは、知的障害についての理解や情報も不足しており、トライアル雇用制度もこの時初めて知った。
彼らの雇用に際しては、当初戸惑いや不安があったが、最初の1名を雇用したことによって、制度のみならず雇用の難しさや課題点を学び、現在の職員2名の雇用に際して、この経験や知識が役に立つことになった。
配属した病棟の看護師長が彼らのすぐ近くに住んでいたので、様子を確認するとともに、最初は手探り状態の中、職場全体で見守るという感じで対応した結果、彼らと周囲の職員とが心を通わせることができ、その結果、職員における知的障害への戸惑いや抵抗感が払拭され、彼らの様々な性格や個性についても、一人ひとりと接することによって学んでいった。
2)職務設定
知的障害のある職員2名は、病棟に配属し、看護師長や介護スタッフが側面から支援するほか、家族や熊本障害者職業センターのジョブコーチと連絡を取り合いながら対応している。エプロンやタオルの洗濯やおむつたたみ、ゴミ捨て等の作業が、彼らの主な職務であるが、特に最近は当院に対して安全に関する要求が高まっている中、患者の家族からのクレームなどにも敏感にならざるを得ない状況において、患者と接することはあるが、直接の介護業務は行っていないが、勤務ぶりもまじめで明るく、当院にとって大事な存在になっている。
3)取り組みのポイント
当事業所において知的障害のある職員の雇用が円滑に進んでいる要因は、以下のとおり。
①面接による確認
医療機関の採用において、安全であること事故がないことが最大の条件であり、障害者雇用においても同様であるが、面接の時点で十分に確認した上で採用を決定している。
②定期的な契約更新
採用の際は3ヶ月間のトライアル雇用を行い、採用後は当初は3ヶ月で契約更新を行い、職務に慣れていくことで半年間、1年間と契約期間を延長する。現在は1名が1年契約、もう1名が半年契約となっている。
③家族、ジョブコーチとの緊密な連携
知的障害者の雇用においては、周囲の職員と支援者が連携し見守る体制を作ることが大切である。契約更新時などに定期的な話し合いの場を設け、本人の現状と今後の計画を共に把握することで、同じ認識のもとで本人に対応し、アドバイスできる。もちろん、職場で本人の体調が悪くなるといった場合は即家族やジョブコーチに連絡を取っている。
④目標設定による意欲の向上
彼らの意欲の向上を図るため、一人ひとりの目標を設定し、契約更新にあたって「3ヶ月後にはここまでできるようにしましょう。それができるようになったら、次の3ヶ月はもう一つ仕事を増やしましょう。」といったやり方を行っている。その時には家族やジョブコーチも同席し、現状や改善点、次の目標など当院からの提案をもとに打ち合わせる。
なお、彼らの意欲向上については、後輩という存在も大きな影響を与える。「負けられない」という思いが働き、仕事ぶりもスピーディにできるようになることもあった。
⑤生活面でのサポート体制
彼らの私生活については事業所として踏み込めず、責任が取れないため、家族のサポートが非常に重要となる。病気やトラブルが生じた際の対応、また自宅のように事業所が見ることができない様子を確認する意味でも重要であるが、家族から「仕事を休んでいる時も、早く仕事に戻りたいと話している」というような話は、職員のやる気を高揚させる効果もある。
なお、家族から離れて一人暮らしをしている職員もいる。最初は非常に心配したが、家族が定期的に本人の様子を見に来て食事の手助けをするといったサポートが非常にしっかりなされている。なお本人は、もともと一人暮らしをする前から家事全般を行っており、介護の周辺業務もスムーズに取り組むことができた。
彼らを自立させようという家族の意思がはっきりしていることも重要な要素である。
⑥経験を重ね適切な対応を見出す
契約更新の際の相談や目標設定については、最初から行っていたものではなく、経験を重ねる中で学んできた。雇用する人数を重ね、彼らとの接し方を学ぶと同時に、彼らも様々な人と接することで成長する。お互いに望ましい雇用のあり方を見出すまでには、一定の時間が必要であった。
3. 今後の課題点
現在、医療機関においては診療報酬の削減など厳しい状況下の中、コストダウンや効率化といった問題点に真剣に取り組んでいかなければならず、余裕ある雇用ができない以上は、障害特性や程度、適性について厳格に判断していかなければならない。
また、安全性の向上という問題もある。患者の家族からのクレームや裁判が増加する時代において、地方の医療機関においても十分な配慮が求められる。
当事業所においては、今後もできる範囲での障害者雇用を行っていきたいと考えているが、楽観的に考えてばかりいられないのも現実である。
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