クリーニング業における知的障害者・精神障害者雇用の取り組み
～受注先の変更をきっかけに障害者雇用に取り組む～
1. 事業所の概要
当社は大正12年に盛岡市内中心部に創業し、県内のクリーニング業としては老舗である。当初は個人から依頼が主であったが、昭和40年代から近所の岩手医科大学附属病院から白衣や寝具のクリーニングの依頼を受けたことをきっかけに、現在は病院関係の白衣・シーツ・タオル等のクリーニングを専門としている。「お客様から預かった衣類や寝具をきれいにしてお届けする」を経営方針とし、岩手医科大学付属病院のほか岩手県立中央病院といった大規模の病院からの受注が多い。
2. 障害者雇用の経緯
（1）精神障害者の雇用の経緯
20年ほど前、岩手医科大学付属病院からの受注を開始してまもなく、精神科のある同病院から「精神障害者を雇ってもらえないか」という相談を受けた。病院からの受注に特化した作業内容はタオルのクリーニングが多く、個人客相手の時より仕事が全体的に単純化してきたことから、佐藤恭一社長は精神障害のある求職者を1人雇用する決断をした。
担当作業は、仕分け→プレス→たたみ、という単純な流れ作業を設定した。周囲の社員に比べて作業の把握に時間を要し、教える側にも根気が必要だったが、一度慣れるときっちり仕事をするうえ、根がまじめなので毎日時間通り規則正しく出勤する。
「会社全体の毎日の仕事量が決まっているので、急に休まれたり突然来なくなる、というのが一番困るんです。その点、障害者に多く見られる『勤勉さ』は、うちの会社にとってはとても助かりました」と社長の息子の佐藤久之工場長は話す。なお、本人は現在も継続勤務している。一方で当社においても、同病院との付き合いの中で精神障害に対する理解が深まった。
（2）知的障害者の雇用の経緯
業務拡大に伴い、公共職業安定所を通じて社員を募集するようになったが、その際に「クリーニング店の中には知的障害者を雇用しているケースも少なくないから」と、知的障害者の雇用を勧められた。また同じ時期に工場長の娘が知的障害を持って生まれてきたこともあって、社長・工場長は「知的障害者に働く場を提供しよう」と雇用に取り組むことを決定した。
知的障害者も精神障害者と同様に、まじめに働き、慣れれば他の社員と変わらない戦力になることから、「雇用側のやり方次第で、健常者同様に活躍してもらえる」ことを雇用理念とし、以来、新しく社員を雇用する際にはできるだけ知的障害者や精神障害者を雇用している。
当社においては周囲の社員と彼らとの間にトラブルは見られない。「10年ほど前から働いている知的障害のある女性がとても明るい性格で、全体のムードメーカーになっていることも大きいかも」と工場長は話す。
3. 取り組みの内容
（1）指導方法
現場で、指導役の工場長が、覚えるまで教えている。周囲の社員と比べると覚えるまで時間を必要とするが、「一人前になるまで数ヶ月から1年かかっても指導する」と長い目で見守っている。
それだけに、作業をマスターした社員には少しでも長く働き続けてもらうことを強く希望する。そのためには「仲間意識を持ってもらうことが大切」と考える工場長は、それまで実施したことがなかった社員旅行（年一回の温泉旅行）を企画・実施し、彼らもカラオケなど大いに楽しんでいる。このような取り組みも功を奏し、社員の勤続年数は長い。
なお、彼らに注意する時には、諭すように話すことを心がけている。最初は注意を受けていることがわかるようしっかり叱っていたが、彼らが心に壁を作ってしまうように感じたので、注意方法を変更した。
また彼らは、自転車やバス、電車などで通勤しているが、雇用した当初は帰り道に迷い家族から「家に帰っていない」と連絡が入り、探し回ったこともあった。現在、いつも利用している電車が天候不順などで遅れたり運休になると、自分で対応できない人もいるが、そのような場合は「家族に送られてきちんと来るので、大きな問題ではありません」と工場長は話す。
（2）作業配置と作業遂行の工夫
作業は分担制ではなく、全員が作業全般に関わっている。そのため、例えば人間関係がこじれた場合は、その時だけお互いを近くに配置しないようにするなどの工夫ができる。
また、障害者雇用を機に作業の精度を見直し、彼らの負担軽減を図った。例えば、洗濯物の伸ばし作業において、従来何度も伸すよう指導していたが、仕上がりにほとんど差が見られないことから、「伸しは1、2回でよい」と指導している。
（3）機器の購入と助成金の活用
平成14年に第一種作業施設設置等助成金を活用し「シーツの自動たたみ機」を導入した。乾燥が終わってロール機から出てくる大判の熱いシーツをたたむ作業は重労働だったが、この機械の導入で障害のある社員の負担が軽くなった。
4. さいごに
（1）障害者雇用に取り組んで
障害者も健常者と同じくらい戦力になることを、当社、また障害のある社員自身が実感している。「特に障害者は、働きたいという強い意欲にあふれています。実際に働く場があって自分が必要とされる場があるということが、いろいろな自信につながっているのでは」と工場長は分析している。実際、障害のある社員からは「仕事があるのがうれしい」「特に仕分けするのが楽しい」との感想が聞かれる。
（2）今後の課題・展望等
もう少し規模を拡大し、一人でも多くの障害者を雇用していく意向である。競合他社も多く現実は厳しいが、岩手県では障害者雇用企業に優先的に仕事を発注する制度が設けられていることから、受注の拡大につながる可能性もある。また、高齢化社会に伴って増加している介護施設からの受注も期待できる。
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