水耕栽培等の業務における精神障害者雇用の実践
~精神障害者雇用の地域社会における役わり~
- 事業所名
- 有限会社中田サンファーム
- 所在地
- 宮城県登米市
- 事業内容
- みつ葉・チンゲン菜・チマサンチュ等の水耕栽培
- 従業員数
- 24名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 2 野菜の水耕栽培、収穫作業 精神障害 5 野菜栽培、野菜加工品製造 - 目次
1. 事業所の概要
1993年、当時農協に勤めていた酒井實社長は、うなぎ養殖事業の不振で負債を抱えていた施設、土地の活用について相談を受け、請われる形で当社を設立した。当初のなかなか経営もうまくいかない年月を経て、今日の当社経営に至っている。
事業内容は水耕栽培野菜の生産と販売である。4ヘクタールの水稲と7,650㎡のハウスにより、みつ葉、チマサンチュ、大葉、みず菜、米を主に生産する一方、加工品としてしそ巻き「しそぐるりん」を製造している。
また、人間関係のネットワークを大切にする社長は、1996年、農協経営の食料・雑貨店が地元農協の合併によって閉鎖せざるを得なくなった際、地元の存続の要望を受けて経営を引き継いだ。当初は赤字の連続だったが、週2日、お年寄りへの配達日も設定し、儲けよりもサービスに心がけている。この雑貨店経営はまた、地域の障害理解の推進にもつながってきている。
また、最近開設された地元産の農産物やそれらを加工した製品の販売所「愛菜館」に併設された食品加工所代表を引き受けた社長は、多忙な日々を過ごしているが、地元で必要とされる多様な役割を担いながらネットワークの輪を拡げることは、当社の発展、障害者雇用の理解を進めるためにも大いに役立っている。
当社も「愛菜館」に出店し、「しそぐるりん」を製造、販売している。
2. 障害者雇用の経緯
アルバイトで障害者と働いた経験を持ち、障害者雇用に取り組む意向を持っていた社長が、最初に雇用したのはSさん(統合失調症)である。当社を設立後、赤字続きの連続で気持ちが沈みがちなことが多かったが、よくSさんに励まされた。Sさんは雇用した当初から今も必ず始業時間10分前には職場に来る。また、雪が積もると30分前には出勤して率先して雪かきをする。Sさんは雇用してから少しずつ自信と能力が引き出された一人であるが、現在は班長そして指導者として中心的な役割を担っている。Sさんは時折、当社から離れた場所に借りている農場で作業することがあるが、いつもの職場が気になっている。他の社員に仕事を任せて出かけ、戻ると自分の現場に行き、任せた社員がやり残した作業をやり終えてから帰宅するなど、強い責任感がうかがわれる。
なお、障害者雇用の重要性を認識している社長は、1995年から宮城県精神保健職親会に入り、精神障害のある人の社会適応訓練事業の職親として訓練生を受け入れている。
現在の当社に勤務する社員13人、パート職員5人、社会適応訓練の訓練生5人のうち、12人が精神障害や知的障害がある。これまで、業務遂行援助者を配置するほか、障害者作業施設設置等助成金制度を積極的に活用し、障害があっても働きやすい環境を整えてきている。


3. 取り組みの内容
(1)障害者雇用助成金の活用
パネル消毒器、スチーム発芽器、下葉取機、野菜の袋詰機については、第1種作業施設設置等助成金を、また、休憩室を整備する際に、障害者福祉施設設備等助成金を活用した。
(2)業務遂行援助者による援助内容
1)作業面
みつ葉やチマサンチュの洗い、箱作りのほか、袋詰め作業、計量、パネル交換、消毒、片付けにおいて、適切な方法を説明し援助している。
また、しそ巻き作業においては、丈葉の水洗いと水切り作業、味噌ねりと味噌切り(一つひとつ切りグラム計量する)、しそ巻き(3個を1本の爪楊枝に刺す)、揚げ、またパック詰めとパックへのシール貼り、食器洗浄と片付けといった、全般にわたる作業において援助を行っている。
2)対人面
日常の職場における他者との付き合い方や話し方について説明、援助を行っている。
(3)ケア会議の開催
適切な指導により段階的にチャレンジを積み重ねていく機会を設けることが職場定着を図るために重要である。本人、保健福祉事務所職員や保健師、社長により定期的に「ケア会議」を開き、障害のある社員一人ひとりの充実した職業生活と家庭生活への支援を図っている。
(4)評価や注意の工夫
現在、訓練生を含め12人の障害者が仕事に取り組んでいる。彼らを評価したり課題点を指摘することで、一人ひとりの能力が引き出され成長をもたらしているが、良い評価をする場合は全社員23人が集まる全体会で褒め、注意する場合には個別に行っている。
(5)あいさつ運動
社員全員が、特別に気を遣いすぎることなく仕事することが大事であるが、社員や訓練生一人ひとりに対し、あいさつ運動を徹底し、感謝とチャレンジの精神を大切にするよう指導している。
特に精神障害者の場合には症状を悪化させる原因の一つに人間関係があるが、一方で人間関係が良好になると回復が早くなり十分に適応可能な状態になることもある。職場を明るくし、彼らの職場適応を進めるため、また、一人ひとりが、それぞれの役割を担いながらチームワークを大切にして仕事を行うため、笑顔でのあいさつ運動を重要視している。
声掛けを大切にしながら、ニコッと笑うことを大切に、職場の中では笑い声を大切にしている。そのことによって、一人ひとりが焦りやプレッシャーを感じずに安心して仕事を行うことができる。

(6)食品加工所における配置と効果
「愛妻館」で勤務するMさんをリーダーとした数名の障害のある社員は、週3日加工作業に従事している。
知的障害と自閉症のあるEさんは、当初、職場では言葉が出ず、意思の疎通がうまくいかないために周りの社員との関わりがうまくいかない状態が続いたが、やがて手紙を書いて働きたいという意思を示すとともに、Eさんの特性に留意し見守っていた周囲の社員から受け入れられていることを認識し、徐々に声が出るようになった。時間は要したが、「おはよう」、「ありがとう」、「さようなら」が出るようになってきた。
Eさんは、農場で作業していた時よりも、一日おきのしそ巻き作業に生き生きと取り組み、てきぱきとこなしている。声をかけると、下を向きながらも首を動かし「はい」と応える。
このようにEさんはこれまで中断と再開を繰り返してきたが、食品加工所に自分の居場所を見つけ楽しくパート的就労が継続できるようになった。
なお、Eさんの他にも、楽しく充実した食品加工所での仕事により農作業をしていた時と比べて表情が豊かになってきた社員もいる。精神障害があっても、個々に適した説明により作業をこなすことができる。少しずつついた自信が新たな意欲を引き出し、可能性を拡げている。
4. 社会適応訓練の取り組み
野菜などを育てる喜びを感じながら取り組む農業は、社会適応訓練に適していると社長は強調する。また、体力もついてくる。急がず、段階的にステップアップして雇用に結びつけることを考えている。
現在、当社で社会適応訓練を受けているHさんは、以前の職場では、決められた仕事量が達成できず、他の社員のペースについていけないことについて指摘を受ける毎に大きなプレッシャーになり、焦って不良品を出す悪循環があった。その結果、一人で悩みを抱え込み、過呼吸発作が頻発するなど仕事に行けなくなった経緯がある。その後デイケアなどを利用した後に、当社で社会適応訓練を受けている。
訓練は、週2日、午前中だけの作業から開始し、自分のペースに合わせ時間や日数を増やしてきている。
そのようなHさんは、先ごろ社会適応訓練中の体験を社員の前で発表した。当社で訓練を受けるまえでの経緯。当社での作業状況。わかりやすく説明をしてもらわないと焦ってしまうため、理解できるまで優しく教えてもらっていること。疲れたらゆっくり家で休養をとることを心がけ、やがては週5日働けるようになりたいこと。対人関係で悩むことがあるが、リーダーや社長に悩みを聞いてもらい職場の同僚と楽しく仕事をしていること。やがてパートまたは社員として当社で働きたいことについてHさんは話した。
5. 今後の精神障害者雇用について
農業従事者の高齢化、後継者問題、労働力不足などは深刻な問題だが、このような状況だからこそ、農業領域での障害者就労のチャンスもあるのではないかと社長は指摘する。
農作業は働く自信を高めるとともに体力の維持・増進につながり、さらにそこで培った自信は他の領域での就労を実現することにもつながることから、人手不足傾向のキュウリ農家などに声がけして、新たな取り組みを始めて一人でも多くの障害者に働く喜びと自信を体験させたいと考えている。
また社長は、障害を理解していないために偏見意識が生じるとも指摘する。障害のある人に接したことがないから、無理解のための誤解が生じてしまっていると言う。
地元での障害者雇用のネットワークを拡げたい社長は、地元企業に呼びかけて年に一度の交流会を開きたいと考えている。
ようやく少しずつ手ごたえを感じられるようになってきた。少しずつあせらずに実績を作っていくことに努めたいと強調している。
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