職場内の「仲間」意識が障害受容を促す
- 事業所名
- 株式会社ニチレイメンテック山形事業所
- 所在地
- 山形県天童市
- 事業内容
- 農水産物の受託加工業、労働者派遣事業
- 従業員数
- 320名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 2 環境整備、商品仕込み 内部障害 2 ボイラー操作、廃水処理 知的障害 2 包装機械操作、環境整備 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
(1)概要
当事業所は、山形県内の山野の中心部で自然に恵まれた環境の中にある株式会社ニチレイフーズ山形工場内で、実生産管理を担う事業所である。山形県の大動脈である国道13号線沿いにあり、交通の便は大変良い。
山形県はさくらんぼ・ぶどう・洋梨といった果実の生産が盛んであり、当事業所の前身がこれら果実を缶詰に加工する事業を行っていたことから、その専門性により冷凍食品製造や冷蔵倉庫業を事業とするニチレイグループの中で唯一、レトルト食品や缶詰を主に生産してきた。
現在、当事業所は、カレー、スープ、ソース、また糖尿食・腎臓食といったウェルネス食品などの密封系調理食品の専門工場となっている。コストパフォーマンスを発揮する大量生産ラインと、高いノウハウを有する手作りライン、この二極のバランスを保ちながら、顧客の満足と信頼をいただく技術を全国に発信すべく、従業員一丸となって日夜努力を重ねている。
業務の向上にも積極的に取り組んでおり、2000年にはISO14001、2002年にはISO9001の認証登録をしている。
(2)従業員に対する捉え方
なお、ニチレイグループは従業員をかけがえのない“人財”としてとらえ、キャリア開発なども積極的に導入している。当事業所にあっては、田村清貴所長が社員・従業員のことを「仲間」と呼ぶ方針を示している。
(3)従業員に対する捉え方
当事業所では、「仲間」の意識改革の一環として『ごくろう3活動』を行っている。
①毎日3分以内、②3S(整理・整頓・清掃)を、③終業後など「ごくろうさん」と言った時に行う、というもので、「仲間」は皆タオルを携帯し、汚れ等気付いたところをすぐにサッと拭く。実施した箇所と内容は表に記載し、各工場長が確認する。
通りすがりにちょっと、短い時間でよいという気軽さが取り組みやすく、全員が行うことで、整理・整頓・清掃は誰かがやることではなく自分もやるのだという責任感を育み、更に「仲間」同士のいたわりの言葉とつなぎ合わせることで、支え合いや協働の精神も涵養している。

2. 障害者雇用の経緯と背景
(1)経緯
障害者として最初に採用した知的障害のある女性Aさんは、養護学校時代に2年間職場実習を実施した。職場が自宅から近いこともあって就職を希望、また職場の「仲間」からも元気ハツラツさと純真な笑顔が受け容れられ、養護学校卒業後1988年4月に正式に社員として採用した。以後18年間継続雇用しているAさんは、1993年には『優秀勤労障害者』として山形県障害者雇用促進協会長表彰を受けた。
また、当事業所は、障害のある人の就労を支えている天童市心身障害者福祉賛助会の訪問を毎年受けている。同会にはAさんの小・中学校時代の恩師が在籍しており、訪問の際にはAさんに励ましの言葉をかける。
当事業所は地域の中で、障害のある人への理解があり、積極的に受け入れに取り組んでいる事業所として着実に根付いており、2005年に「障害者雇用優良事業所」として山形県障害者雇用促進協会長表彰を受賞している。
(2)背景
身体障害のある人を家族に持つ「仲間」の、献身的であたたかな介護のあり方を見てきた他の「仲間」に、障害のある人への理解と共生の考え方が芽生え、やがて事業所全体に培われ、彼らをごく自然に受け容れる風土が根付いていった。
また、当事業所には、本義である業績を伸ばすことはもちろん、それを達成する従業員が快適に仕事に取り組めるためには仕事以外の生活も快適に過ごすことの大切さを認識し、介護に限らず本人や家庭の諸事情により残業ができない「仲間」の立場を認め許容する方針が自然に表れている。
3. 取り組みの内容
以下、当社がAさんに対して取り組んだはたらきかけである。
(1)職場実習
職場実習は、事業所にとっては、本人の得手不得手、新しいことを習得する時どんな過程を辿るか、コミュニケーションのとり方等を知ることができ、工夫や配慮の内容について事前に検討・準備できるとともに、本人にとっては、仕事の種類や方法のほか、事業所のルールや雰囲気等を事前に体験できるので、特に新しい環境に適応するのに時間がかかる知的障害・精神障害のある人にとっては、事業所に慣れることの一助にもなり安心感を得られる。
養護学校での事業所での職場実習は、主に高等部2~3年の4回であるが、Aさんは学校でカリキュラムされた実習以外にも自主的に実習に取り組み、当事業所で計6回実習を受け雇用された。
実習時の作業においては、Aさんの力を最大限に発揮させることができなかったことから、Aさんの適性について時には所長が学校を訪問し協議を重ね、現在の作業内容が固まった。
当事業所・本人・学校・家族の四者が「この事業所で働いていくために」という共通認識をもって取り組んだ成果である。
(2)作業内容の固定
雇用したAさんについては、管理グループに配置し、福利厚生施設の環境衛生担当として、清掃業務等を任せている。
業務は多岐に渡る。始業時刻の30分前には出社するAさんは、仕事の段取りを考えて準備を開始する。8:00の始業時刻からは、3つの工場と食堂等の共有部分を清掃する。手を抜かず、素早い動きで次々と作業をこなしていくのは、Aさんの性格にもよるが、作業内容と工程を毎日ほぼ固定していることも大きい。ルーティン作業を時間をかけて繰り返すことにより、知的障害があっても以下の作業を習得し遂行することができる。
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(3)作業指導(モデリング)
Aさんは障害特性により、効率や要領の良さを自ら追求することは苦手で、「どうするとうまくできるか」と考えたり、ちょっとした工夫をしたりすることができない。
例えば、見える所は毎日拭くが目の届かない所までは気が回らないことや、洗剤量が多すぎたり、すすぎが足りないため洗剤の跡が残ることが時々ある。工程に加えて動作まで固定化するとよく起きることであるが、そのような場合は、同じ管理グループに所属する障害者職業生活相談員の古澤さんが、まずやって見せて、Aさんに同じようにやってもらい、良いテクニックを身につけさせている。口頭で指示するだけでは教えたことにならない。Aさんが習得できるところまで見届ける必要がある。

(4)作業確認
更に古澤さんは、新しいやり方が今までのやり方と比べてどう良いかを、Aさんと一緒に確認し合う。この理解の過程をAさん1人に任せない点が重要である。
一度習得したポイントがいつしか抜けていくことも、障害のある人にはよく見られるので、古澤さんは根気強く何度でも一緒に確認をし、2人は「決められたことを決められたとおりにきっちりやろう!」を合言葉としている。
(5)指導後のフォロー
更にAさんの作業をフォローし、正確さをより高めるために、事業所のOBを1名Aさんの近辺業務に付けている。ややもすると、障害のある従業員と接しているうちに、他の従業員と同じレベルまで近づけようとするあまり、要求水準を高くしていくことも見られるなか、当事業所はAさんを他の「仲間」と同じものさしでは見ず、“こういうAさん”として見ている。Aさんなりの成長を遂げられるための支援を惜しまない。
(6)Aさんの勤務態度と感想
Aさんは入社以来欠かさず、終業後には事務所に立ち寄って「お疲れ様でした。お先に失礼します」と元気よく挨拶をして帰る。一日の作業を終え本人も「仲間」もホッとする。同時に良い挨拶は「仲間」の手本となっている。
Aさんには職場に何でも話せる相談相手がいる。仕事のことをお互いに話し合い、「苦労を分かち合う「仲間」がいるから仕事は楽しい」とAさんは笑顔で語る。持ち前の明るさで多くの「仲間」と言葉を交し合うAさんの、良いコミュニケーションを築く秘訣は、「自分からお話すること」である。逆に辛いことについては、「仕事のことで注意されても、自分が悪いと反省しています」と話す。
4. さいごに
(1)障害に対する認識の変化
ある「仲間」が体調を崩したことをきっかけに、部署のグループリーダーや職業生活相談員を中心にして、4名からなる職場定着推進チームを設置した。復職に向け「やわらかな受け入れ」を行うことにより、それまで仕事の正確さ・安全性を最優先に考えていた「仲間」達から「こんな時代だから・・・自分も含めて、誰でも体調を崩すことはありえるよね」との声が聞かれるようになり、“他人事”が“自分のこと”“自分達のこと”へと意識の変化が見られた。
(2)「仲間」意識が障害を受け入れる
当事業所においては、山形県障害者雇用促進協会長表彰の賞状は職場に掲示していない。障害のある「仲間」がその賞状を見て、「自分は「仲間」とは違う「障害者」という存在なんだ」と感じて傷つくことを避けたい、という所長の配慮である。
当事業所が彼らをあたたかく受け容れられる要因として、全ての従業員を『仲間』と呼び合う社風が全てだと感じられる。上下関係に付随する権威と従属がなく、共に同じ方向を見て進む連帯感、相手の気持ちを考える思いやり、相手を尊重する礼儀、共に働く喜びが、当事業所には満ちている。企業が障害者雇用に取り組む際には、これらの準備に努めることが重要であると当事業所の取り組みは示している。
ジョブコーチ 小竹 由子
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