支援機関の協力やジョブコーチの支援により、職場定着を図る
~作業における意思疎通と生活面に対する取り組み~

1. 事業所の概要
(1)設立の経緯
置賜地域の中核都市である米沢市に、高齢者や障害者など、生活上の困難を抱えている家庭の支援を行う在宅福祉サービス事業を担う法人として、県内第1号のNPO法人に指定された「ほほえみサービス米沢」の理事長は、開所当時の理念「助け合い」を様々な障害のある人全てに支援を提供したいとの思いから、NPOで対応困難なケースなどに対しても柔軟な姿勢で人々の希望に添った対応ができる支援サービスの中心的な場が必要と考え、平成15年に当社が設立された。
同年にアパートを改造した訪問介護ヴィーヴルを身体障害者に提供し、翌平成16年にはさらにアパートを新築しヴィーヴル駅前を設立。5部屋をバリアフリー化し、5人の障害のある人に生活の場を提供、一時的にホームヘルパーを派遣しボランティアに近い活動も加えた状態でケアを継続した。
平成17年には共同住宅としてさらにアパートを新築、精神・知的・身体障害者・高齢者全てに適切に対応できる事務所を構え6人の方が利用、24時間ケアのシステムを取るようになった。そして、援助を必要としているあらゆる人の中核的支援センターとするべく、平成18年に新たに市街地に「ヴィーヴルIN遠山」を設立した。
(2)事業所の特徴と理念
当社の事業内容は、生活の場の提供と介護・支援サービスを中心に食事・身体介助・入浴・清掃・通院・日中活動と多岐に渡り、助け合いの部(有償ボランティア)の組み合わせで生活全体を援助している。
助け合いの部には、約100名の登録者がおり、常駐ヘルパーは7名、その他に登録ヘルパーが14名で支援にあたっている。
ディサービスとの違いについて、当社は利用する方の生活の場であり介護保険・居宅支援費を財源に「当たり前の生活」「安心して生活できる場」の提供により、自分らしい生活を今後も継続できるようにと考えられている。利用している人々にも今までの家庭的で生き甲斐のある生活の延長を目的に、それぞれの特技や趣味を生活に生かしながら、家庭の雰囲気で暮らしていける場所にしたいと社長は語る。
障害に差別があってはならない、誰もが同じ・・・出来ないところは出来る人に手伝って貰えば良いだけ。「ほほえみサービス米沢」の理念である「お互い様」はここでも生かされている。人は誰でもお互いに寄り添いながら協力し、尊敬し、助け合い生きている。すばらしい設備ばかりだけでは心は満たされない、そこに人や思いやりがあってこそ“地域に根付いた家庭”ができる。
社長は、自らヴィーヴルに住み込み、同じ食事をとりテレビを見、笑顔で利用している人を絶えず見守っている。時には夜間巡回・トイレ介助・余暇活動とほぼ24時間一緒に時を過ごしている。その取り組みの姿勢(信念)については他の職員や地域の人も動かされている。又利用している人々も生き生きと穏やかに暮らしている。地域支援のネットワークの場としての役割が確実に浸透している。
2. 取り組みの内容
(1)面接
社会生活を体験する中で、生活面・人間関係・社会性の課題により再訓練を必要としていた、知的障害のあるUさんは、2年間授産施設「あさひ寮」での生活や作業、地域での実習を通し地域生活への希望は高まってきた折、ハローワークの求人欄にて「ヴィーヴルIN遠山」の清掃作業員募集が目に留まった。条件の中の「住み込み可」については、経済的な問題も抱えていた本人にとって好条件であったため、当社の面接を受けた。
(2)雇用に向けた支援機関の支援内容
平成18年4月にハローワークのトライアル雇用の説明を受け、Uさんに対しては事業内容について情報提供したうえで、5月1日から住み込みの形でトライアル雇用を開始した。雇用条件は、一日6時間勤務で、給料は障害の有無にかかわらず、求人に出した額を設定した。
なお、トライアル雇用開始にあたって、支援機関が「あさひ寮」から「就業生活支援センターおきたま」に移行するため、今後の支援体制についてUさんも同席のうえ両機関によるケア会議を開催、当社及びUさんに対して、以下の支援・協力について提示を受け、本人とともに了解した。
①当分の間、当社にジョブコーチとして毎日施設職員が入りプログラム作成を行い支援すること。
②住み込みに対するUさんの不安に対して、休日は「あさひ寮」で過ごすこと。
③必要に応じて、関係者によるケース会議を開催し支援すること。
④関係機関のネットワークに、随時情報を共有し支援を強化すること。
(3)知的障害に対する取り組み
Uさんの職務内容は、二階建ての広い場所の清掃が中心。作業時間は7~9時、11~13時、16~18時に設定した。
なお、強度の弱視で隅が見えにくいUさんが正確に作業遂行できるよう、以下の点についてジョブコーチの協力を得て取り組みを行った。
1)毎日の生活や作業(時間や清掃場所)について自己管理できるよう、週間予定表を作成、拡大表示した。
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*ヘルパーが留守の時、11時40分からOさんに昼食を差し上げる。
①部屋から誘う
②作られた昼食をすすめる(牛乳など水分を忘れずに)
③食器を片付ける
2)Uさんの作業ぶりについては、細かな部分まで手が回らない、手順を一つ見落とす、清掃漏れも見られたため、開始2週間後に、作業チェック表を作成、一工程終わる度にチェックするよう指導した。
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3)指導については何度も繰り返し行ったが、言葉遣いやゴミ出しの注意を促すなかで、Uさんに焦りの表情や、憮然とした言葉が出始めた。
ジョブコーチとともに毎日の作業評価を記録した結果、言葉遣いや時間の観念、清掃手順の把握など、Uさんの苦手な部分が見えてきた。そこで支援機関とのケース会議を開き、作業時間をUさんが理解しやすい9~16時に変更した。
4)当初住み込みの形でトライアル雇用を開始したが、生活と職場が同じことで、Uさんの生活に仕事とプライベートとのメリハリが無くなってきたため、徒歩15分で通勤できる下宿屋を探し生活の場とした。このことにより、Uさんに対する生活支援も必要となったことから、地域生活移行について就業生活支援センターおきたまの協力を得た。
5)作業時間の変更後、清掃に加えて来客への対応、電話の対応、利用者との対応が増える一方、ジョブコーチの支援時間を減らしてきたことで、Uさんに混乱が見られたため、本人の意向を確認し、ジョブコーチの支援時間を増やすよう依頼した。
その結果、今まで指導してきた内容を再確認する形で支援を行うことにより、Uさんはスムーズに理解することができた。また、作業内容の一部変更を行ったが、清掃以外の作業遂行については、ハローワークと調整し集中的に指導に取り組んだ。
3. さいごに
(1)取り組みの結果
Uさんは、平成18年7月末にトライアル雇用を終了し、8月から「ヴィーヴルIN遠山」にて継続雇用した。退所した「あさひ寮」の職員が時折相談の機会を設けていることもあり、生活にも仕事にも落ち着きが出てきた。「まだまだ覚える事が多い」が、将来はお金を貯めて家族に仕送りしたい、とUさんは話す。
Uさんを特別扱いせず、幾度も同じ間違いが見られたり、指示された内容を把握することが苦手なUさんに対し、もどかしさを感じる事もあるが、明るく穏やかな性格のUさんに対し、社長をはじめ他の社員も「長い目で見ていく」意向である。



(2)ジョブコーチ支援の必要性
特に知的障害について、事業所と本人との間で意思疎通が困難な状況においては、本人に理解しやすい適切な指示方法を探り実行に移すこと、また、事業所と本人との双方から信頼を得てパイプ役を務めるジョブコーチによる支援が有効である。
また、全ての障害のある人の支援の中核を担うことが理念である当社において、Uさんへの取り組みを通じて障害があるということについて再認識した、と当社は語る。一つひとつの課題をクリアし、次の段階に進めるよう、ジョブコーチによる評価をもとに彼らと共に障害のある社員の職場定着を図ることが重要であることを、当社の取り組みは示している。
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