地域福祉の視点から、ホテル業において知的障害者を雇用
~共同の理念により、従業員間の理解を図る~
- 事業所名
- 株式会社古瀧
- 所在地
- 福島県いわき市
- 事業内容
- 宿泊業(ホテル)
- 従業員数
- 70名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 1 食器の洗浄・収納、食材の下処理(魚の鱗取り、野菜の下洗い等) 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 5 食器の洗浄・収納、食材の下処理、清掃(客室・トイレ等)、タオルたたみ、調理補助(盛り付け、仕込作業の手伝い等) 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要と障害者雇用の理念
(1)事業所の概要
いわき湯本温泉にある古滝屋は江戸中期の創業で、昭和30年5月に旅館業としての法人格を取得した温泉旅館である。故里見三郎初代社長の息子である里見庫男社長が経営する古滝屋は同温泉街の中心に位置し、客室60室、収容数360名で、約30軒ある旅館の中でも規模は大きい。
また、古滝屋では、障害者や乳児らを持つ家族も安心して宿泊できるよう、平成19年4月にユニバーサルデザインを採用した客室を整備した。
(2)障害者雇用の理念
当社は、「人は皆一緒である」という信条により、障害者雇用を企業の社会的使命(社会的責任)として捉え、彼らと共に働く「共働の理念」を掲げている。
(3)障害者と共に歩む環境づくり
当社は「いわき障がい者職親会」(平成7年10月結成、現会員数61:事業主41ほか養護学校、福祉施設等)や、「グランドゴルフ交流会」(平成16年結成、市内の福祉施設や在宅障害者と、一般の賛同者がグランドゴルフを通して交流を図る。毎月第2土曜日開催)への参加などにより、積極的に障害者の雇用問題の研究や障害者との交流を図っている。
2. 障害者雇用の経緯と現況
(1)障害者雇用の経緯
市内の「いわき障害者就業・生活支援センター」からの紹介により平成12年に初めて障害者を採用したことがきっかけとなる。採用にあたっては、就職前のトレーニングとして2週間程の研修期間を設け職場実習を実施する。実習中は、生活支援センターから派遣されたジョブコーチが就労支援にあたる。その間、現場責任者(チーフ)はジョブコーチと協議して、本人ができる仕事の内容(適所)や適性を判断する。雇用後は、月一回程度ジョブコーチの訪問指導を受けている。
(2)雇用状況と業務内容
当社の従業員70人(平成18年12月現在)のうち、障害のある従業員は6人。雇用率は12.85%と、法定雇用率(1.8%)の約7倍の雇用状況である(参考までに、平成17年6月1日現在の実雇用率は、全国1.49%、福島県1.47%)。
また、彼ら6人のうち5人が知的障害がある。年齢は25歳から59歳まで広範囲にわたっている。障害の程度は重度3人・中度3人で、勤続年数は1年未満から長い従業員で約7年である。また、当社で雇用する以前に就業経験を持っている従業員が多い。
障害のある従業員の雇用状況と業務内容は下表のとおり。
表 雇用状況と業務内容
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注:食材の下処理とは、魚のウロコとり、野菜の下洗い等。
1)作業工程
①食器洗浄作業(男性2人・女性2人)
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②調理補助作業(男性1人)
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③清掃作業(女性1人)
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それぞれの部所で作業に従事する彼らは、作業手順を理解し、慣れた手つきで手際よく取り組んでおり、他の従業員とほとんど遜色のない働きぶりである。


2)労働条件
彼らの労働条件は、パート形態で、勤務時間は午前7時30分から午後3時30分までの間で5~6時間程度。一週間の勤務日数は4~5日。賃金は時給620円である(福島県の最低賃金は618円:平成18年12月1日発効)。
3)生活の拠点
自宅:1人(男) アパート:1人(女…姉と同居)
グループホーム:2人(男・女) 通勤寮:2人(男・女)
4)通勤方法
交通機関(バス・電車)を利用している。全員支援の必要なく通勤しているが、交通機関の利用に不安がある人については、慣れるまでジョブコーチの支援を受けた。
3. 取り組みの内容
(1)ジョブコーチを活用したサポート体制
日常の就労場面におけるサポート役は各部所のチーフがあたり、作業の内容や職場のルールなどについて指導するほか相談に応じている。また、ジョブコーチの支援を活用していることも、安定して彼らの雇用を継続していく上で重要な役割を果たしている。
(2)職場定着に向けての配慮
1)普通に接する
作業設備などにおいて、彼らに対する特別な配慮は特に設けていない。彼らを特別視(特別扱い)することなく、一従業員として接していることが、彼らの職場定着の重要な要因となっている。
彼らからは、「まわりの人たちが良く理解してくれて、安心して仕事ができる」、「みんな普通に見てくれている」、「前の仕事より、今の仕事の方がいい(差別や偏見がない)」、「これからも、ずーっと今の仕事を続けたい」などの感想が聞かれ、職場の中に普通の人間関係を築いていくことが大事であることを示している。
2)根気よく、社会人としてのルールを教える
今日注意したことが、明日は忘れてしまったりすることも多いが、職場のルール(あいさつ・報告・連絡・相談等)はしっかり身に付けてもらうため、その都度根気よく教えている、と現場のチーフは話す。障害があるから仕方ないという考えではなく、彼らの自立心を高めていくために、優しさとともに、社会人としての厳しさも当然要求していく姿勢も必要である。
3)障害者同士の支え合いを大切にする
当社で雇用している複数の障害のある従業員は、障害のある人同士、お互いに相談に応じ、問題の解決を図り、お互いが励ましあう環境になっている。当社は、意図的に彼らがお互いにそのような関わりが持てるよう配慮している。雇用したばかりの女性従業員が「一人ぼっちになると辛くなるかも知れない。みんなと一緒だから続けられる」と話しており、他の従業員も同じ感想を持っている。
4)従業員の親睦を深めるための環境づくり
福利厚生面では、従業員の慰労と親睦を深めるために次のような年間行事を組んでいる。
1月 新年会
5月 一泊研修旅行(連休後、2班に分かれて実施)
10月 いも煮会
12月 忘年会
これらの行事には従業員全員が参加し、障害のある従業員が他の従業員と一緒に楽しく働くことができる環境づくりに役立っている。
5)関係機関との連携
ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、通勤寮、職親会といった支援機関と定期的に情報交換会や研究を行っている。特に、日常生活上の金銭管理・健康管理・余暇活動の支援や人間関係の調整等については、生活支援センターとの連携を重視している。
4. 取り組みの効果等
(1)効果
当社の配慮と、周囲の従業員の理解により、障害のある従業員を安定した状態で継続雇用しているが、事業所としても障害者雇用に対して大きなメリットが生まれている。
それぞれの障害のある従業員が、自分の仕事に必死に取り組み職場に溶け込もうとしている姿を通して、知的障害に対するマイナスイメージ(周囲の支援が必要となる、仕事の理解に時間がかかる、人と協調することが苦手など)を払拭し、障害者観を大きく変えることができた。
安城マネージャーは、「社員が障害者に対する接し方を学ぶことにより、一般のお客さまへのおもてなしの態度が一層より良いものとなった」と、その効果を強調している。
(2)さいごに
当社は、行政機関や障害者就業・生活支援センター、職親会、福祉施設、養護学校等の関係機関・団体との連携・協力により、障害者問題を地域福祉の視点から捉えて、その改善に努力している。障害の理解はノーマライゼーションの普及により進んできてはいるものの、雇用や地域生活など具体的な場面では、彼らに対するマイナスのイメージや偏見が依然強く残っている。障害があっても可能なプラス面を共感しあう当社の取り組みが、他の事業所にも波及していくことが大いに望まれる。
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