老人福祉施設における知的障害者雇用の取り組み
~資格を活かすとともに、潜在能力を引き出す~
- 事業所名
- 社会福祉法人ふれあいコープ
- 所在地
- 栃木県宇都宮市
- 事業内容
- 老人福祉施設(訪問介護・通所介護)
- 従業員数
- 140名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 1 ケアマネージャー 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 2 介護職、環境整備(清掃) 精神障害 0 - 目次


1. 事業所の概要と障害者雇用の考え方
2000年介護保険制度のスタートと同時に福祉事業に取り組んだ当法人は、在宅福祉の分野を基本にした事業を行い、2005年に栃木事業所が開設。2006年に社会福祉法人の認可を受けるとともに、とちぎコープ(生活協同組合)から福祉事業の移管を受け、現在、宇都宮市4ヶ所、栃木市1ヶ所にて以下の事業を行っている。
なお、宇都宮市の4ヶ所については、当法人が直接運営しており、将来的には、現在とちぎコープが運営している栃木事業所も、当法人が運営する予定である。
事業内容
デイサービス(通所介護)
訪問介護(ホームヘルプ)
在宅介護支援
小規模多機能型居住介護
福祉用具レンタル・販売
また、2008年3月には、特別養護老人ホームを開所する予定である。今後も広がりを見せる地域に密着した介護事業にあたっては、専門性を高めた人材育成、誰もが安心して暮らせる居場所作りに大いに期待が寄せられている。
「たすけあいの精神」から生まれ、一人では弱い消費者が互いに協力し助け合うことで、より良い生活を目指していこうとする組織体・事業体が生活協同組合である。高齢者の「住み慣れたところで安心して、元気に過ごしたい」願いの実現、歳を重ねても安心して暮らせる、自分らしく暮らせる、自己の意思決定と尊厳を持って暮らせることを目指す福祉事業は、生活協同組合の理念・精神をもとに発展させている。
障害者雇用に関しても、誰もみな同じ一人の人間であることを忘れず、その人にあった仕事を見つけ出すことも重要な役目と認識している。
2. 障害者雇用の経緯と現況
2001年に近隣の社会福祉法人「せせらぎ会」から、知的障害者の職場実習の依頼を受け、4人の実習生を受け入れたことが障害者雇用のきっかけである。ノーマライゼーションや企業の社会的責任の観点から障害者雇用に前向きに取り組むことが必要と判断した当法人は、中心業務である高齢者の介護に対して、最終的には知的障害者が介護業務に従事することを目標としたが、知的障害の特性の理解を深め、雇用管理のノウハウを蓄積することを念頭に、先ずは厨房作業や清掃作業に重視するクリーンスタッフとして受け入れることとした。
なお、実習期間を経て正式にパート雇用した知的障害のある女性のAさんに対しては、経験豊富な年配のスタッフを指導担当者とし、加えて定期的に「せせらぎ会」の職員からの訪問指導や職場へのアドバイスを受けることで、周囲のスタッフも知的障害者雇用への不安も軽減するとともに指導ノウハウを習得することができた。
その後、委託訓練事業3ヶ月終了後に採用した、ホームヘルパー3級を取得した知的障害のある男性Bさんについては、車の免許も持ち、仕事に対しても積極的で、働きながらホームヘルパー2級も取得し「介護の仕事がしたい」という強い思いが伝わり、様々な配慮や指導により、現在、介護スタッフとして勤務してもらっている。
聴覚障害のあるCさんは、ケアマネージャーを担っており、一つのことに一生懸命であり、とても素直である。
障害という周囲の意識の壁を「個性を理解する」ことで取り払い、また利用者の人々も暖かく見守っている。
3. 取り組みの内容
(1)知的障害に対する取り組み
1)クリーンスタッフ
Aさんは、施設からグループホームそして現在はアパートで暮らし、電車で通勤している。当初は「読み書きができない」とのことであったが、「覚える機会を作ればできるのでは」という思いで、彼女の能力を引き出すようにし、利用者の人への連絡帳の日時、曜日、天気の記載部分を担当してもらったところ、3ヶ月程で覚えて書けるようになった。なお、通勤途上で危険な場所があり、スタッフ自らが判断し彼女の様子を見に行ったこともある。
これらの取り組みを通して、周囲のスタッフの常識が必ずしも彼女にあてはまるとは限らないことを学び、それを踏まえて彼女に対し彼女を含めた3人の清掃チームでバックアップを行っている。
Aさんの作業内容については、クリーンスタッフのチームの一員としての食器洗浄やホール清掃等のみでは、一日の仕事量の確保が困難であったことから、他に施設内の花への水やり、利用者の連絡帳に日付や天気を記入を行っている。仕事が丁寧で何事にも手を抜かず、新人に仕事を教えることもできるようになり、利用者の人とのコミュ二ケーションも上手にとれるようになった。


2)介護
ホームヘルパー3級の資格を持つBさんについては、採用後直ちに介護職を任せることは本人の負担も大きいと判断し、当初は配膳やお茶だし、利用者との話し相手といった業務に従事してもらうほか、午後はクリーンスタッフの作業に従事してもらうことで、介護の現場に徐々に慣れるよう配慮した。
また、ホームヘルパー3級では身体介護業務に従事できないことから、職域拡大を図るため、在籍したまま2級の講習を受講し取得してもらった。2級取得後は、Bさんが現場に慣れた時点で、午前中は、利用者の出迎えの補助、利用者の誘導、トイレ介助等を設定し、マンツーマンによりBさんのペースに合わせた技術指導を行った。
この指導により、Bさんは一定の介護補助業務には対応できるようになったが、デイサービスは一日の利用者も多く、スピード的にも十分対応できるレベルに達することが困難な状況が続き、Bさんと相談の結果、2007年1月に開所した小規模多機能居宅介護事業所に異動して勤務することとした。異動にあたっては、24時間、365日、ゆったりと流れる時間のなかでの食事作り、入浴介助、排泄介助等を職務とし、開所までに着脱等さらなる技術を他のスタッフから習得した。自分の弁当を作りながら仕事に通う彼の取り組みを、周囲のスタッフも認めている。「強い人も弱い人もすべての人が、仲良く助け合いながら」という理念が、新たな職場でも実践されている。
(2)コミュニケーションのとれる事務所づくり
「誰にも対してもやさしく」という思いを持つセンター長は、彼らを含めてスタッフや利用者の人一人ひとり暖かい眼差しで見守っている。業務が異なる職員同士で会話する機会は少ないが、事務所の仕切りを取り払い椅子を回して話せるようにしたことで、皆で励ましあえる雰囲気を作ることができた。壁は最小限にし、デイサービス以外のスタッフも利用者の人を見守れるようにしたことや、センター長自らも事務所の一角でスタッフや利用者の人から顔が見える中で執務している。
4. 今後の課題と展望
(1)今後の課題
平成18年4月の介護保険制度の改正は、多くの事業者にとってとても大変厳しい内容となった。今までの利用者数や訪問時間の確保のみでは報酬が減り、経営難を抱えてしまうため、人件費を抑制するために配置人員を削減し、そこから発生するサービスの低下、事故等が危惧されるなか、当法人においては、介護の仕事を行うにあたり、商品であるスタッフ一人ひとりの個性をどのように引き出し、生き生きと取り組めるかについて、共に考えるリーダーや職員を増やしていくとともに、障害の有無にかかわらずその人に適した職務を見出していく意向である。
(2)センター長の持つ展望
障害者雇用について、「障害という個性を理解することで心の壁を取り払い、一人の人間として接していきたいと思ってます、だから厳しいことも言いますよ。職員一人ひとりとじっくり話しあいもします。仕事はすぐできるものと、ゆっくり覚えなくてはならないものがあります。長くこの仕事をしてほしいので着実に進んでいってもらいたいです。障害があっても働ける職場はもっと必要ですね」とセンター長は話す。
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