企業と福祉が見事に融合した特例子会社
1. 事業所設立の経緯
（1）福祉の専門家との連携
プルデンシャル生命保険株式会社においては、特例子会社の設立に当たって、多くの先達を研究 ・検討したところ、企業単独では難しい重度の障害のある人たちを多数雇用し経営していくことは、非常に無理やロスが多いのではないか、との判断から、長い紆余曲折を経て、ビジネスの専門家と福祉の専門家が連携、提携し、お互いの専門分野を有効活用するビジネスモデルの実現が最も実現可能性の高いものになる、という結論を出した。
企業と福祉の双方にとって、お互いの既知の部分を供出しあうことで、トレーニングの必要の少ない、換言すれば専門性を持つ人を養成する手間ひまをお互いが省く、しかも、既存の企業のノウハウ、そして福祉的なノウハウを充分に活用し合えるシステムを目指した。ただ、このアイデアを実践に移すプロセスでは、福祉サイドの理解を得るのにかなり苦労を強いられ、企画、準備等、想定以上の時間と労力を費やした。
（2）業務の設定
先行の特例子会社の主業務は、親会社の周辺業務や業間業務としているものが大勢を占めているが、それらだけでは、業務量の拡大や高付加価値の実現はあまり期待できないことが判ったため、当社の持つ特性をマーケティング的に分析し、安定的な販路の確保および販売量が見込めるもので付加価値を高められる余地の高いものを追求したところ、クッキーの製造販売を結論として出した。
加えて、福祉とのコンビネーションが実現できれば、新しいビジネスモデルの創出が可能ではないかと考え、クッキー製造の経験があり、当社の考え方を理解してくれる福祉施設を探し、多くの施設を訪問したが、このアイデアに理解を示す施設はほとんどなく、多くの時間を費やしたが、現在のパートナーである上福岡障害者支援センター21と連携協働し、2006年1月20日に設立、操業にこぎつけた。
2. 事業所の概要
（1）障害者雇用状況及び運営体制
プルデンシャル・ジェネラル・サービス・ジャパン株式会社及びクッキー製造部門として設立した当工房で雇用している障害のある社員は以下のとおり。
プルデンシャル・ジェネラル・サービス・ジャパン株式会社（本社）
（業務内容：リラクゼーションルームWith（社員向けマッサージの提供）の運営、社員用休憩ラウンジの運営管理）
視覚障害 2人（社員向けマッサージ）
肢体不自由 1人（ラウンジ運営管理）
内部障害 1人（ラウンジ運営管理）
菓子工房WITH
知的障害 5人（クッキー製造）
同工房は、工場長1人と知的障害のある5人の社員により構成されている。
（2）作業所との連携による業務
支援センター21との連携、またクッキーを製造するスペース等の都合から、東京都千代田区に設立した特例子会社（本社）とは別に、埼玉県川越市のビルに、同センターと同じ系列の知的障害者作業所「くまのベイカーズ」の隣で業務運営することで、作業所との連携体制が構築されている。
具体的には、クッキー製造の主な工程は社員が担当しているが、選別、箱詰め、包装等の周辺作業は「くまのベイカーズ」に業務委託している。作業所は受注作業として利用者が作業し、当工房へ納品する。
当工房は、従来、先行のほとんどの特例子会社がもっとも苦労し、多くのエネルギーと時間とマンパワーを割く福祉的な専門性と企業的色合いの融合を十分に果たしている事業所である。
 当工房の看板
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（3）クッキー製造
当工房で製造するクッキーは、有名パティシエがレシピを作っている。原料は厳選・吟味した物を使用し、社員によって真心こめて焼き上げられ、「一流企業の市販品以上」と社長は自負しているように、口にした瞬間、馥郁（ふくいく）たる香りと味わいが、えも言われない。しかも、プルデンシャルのロゴマークが入り、見た目にもこだわっている。
なお、製造したクッキーは、親会社の営業社員が保険の営業に際し「手土産」として使うケースが圧倒的に多いが、本社社員などが自分で食べるお菓子としてもかなりの量が購入されている。
営業の手土産については、生花等も考えたが、「生もの」でロスが多く「没」。一方、クッキーは長持ちし、独自色が出せ、本社のPRに一役買えるなど、付加価値も高く、将来に亘って安定した需要が見込めると判断した。
なお、親会社の営業社員は、毎年増加の一途であるため、クッキーの需要は拡大の見込みである。また兄弟会社であるジブラルタ生命にも販売が開始される予定で、更なる販売量の拡大、障害のある従業員の増員、雇用率達成、社会貢献など一石数鳥と考えており、既に数人の増員が予定されている。
3. 取り組みの内容
（1）福祉専門技術者の補助
障害のある従業員の雇用管理は、障害に関する知識を持ち経験を積まないと、素人の企業人だけでは充分にできないことは明らかなので、入居ビル隣にある作業所「くまのベイカーズ」の所長に福祉専門技術者として、作業管理を含め彼らの管理全般を補助してもらい、その他の部分に本社の経験や技術を注いでいる。
（2）採用方法
実習を行った後、面接をして工場長、社長の意見が一致すれば採用している。
（3）作業環境
衛生管理が二重に徹底された出入口を入った当工場は、周囲を真新しいステンレススチールの大型冷蔵庫や乾燥棚、戸棚、さらに親会社のロゴマークをクッキーに練り込める製造機械（高額であったが助成金を活用し購入）、冷凍した練り棒を正確に裁断するカッター、高性能なベーキングマシン等に囲まれた50平米ほどの小部屋である。
工場内では、頭のてっぺんから爪先まで、真っ白な作業服に包まれた従業員が、黙々とそれぞれ自分の作業に精を出している。
（4）作業管理
当日の作業内容（製造品目等）については、大型冷蔵庫に貼付しているマグネット式の掲示板を用い社員に示している。社員はそれを見ながら、自分がなにをすべきか判断し作業に取り組んでいる。
社員の作業について云えば、各人の能力を伸ばしていける環境を整え、機会を作り、それらを結集するノウハウを考え、それに見合う作業を創出し、提供するのが経営陣の役割であり義務と考えている。
4. さいごに
企業の力をポイントで注ぎ、併せて、本社の理念である「社会に対するボランティア」も、作業所との連携によりうまく実現してきており、経営的にも前途洋洋である。
「特例子会社の設立は、きれいごとは言わず、見栄を張らないほうがいい。簡単なんだ、多くの企業にまねをして欲しい」と社長は強調する。
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