知的障害者の能力を生かした「目で見て分かる」仕組みづくり
- 事業所名
- 株式会社富士通ゼネラルハートウエア(株式会社富士通ゼネラルの特例子会社)
- 所在地
- 神奈川県川崎市
- 事業内容
- 構内清掃、ゴミ分別回収、販促物梱包・発送、サービス部品梱包、社内郵便物取り扱い、業者納品物受入、通勤自転車パンク修理 等
- 従業員数
- 28名
- うち障害者数
- 21名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 2 サービス部品梱包作業 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 19 構内清掃、販促物管理、郵便物取扱、業者納品物受入等 精神障害 0 - 目次
1. 特例子会社設立の経緯
「昭和40 年代、高度経済成長期に入ると、それはもう大変な人手不足でしてね。当時、富士通ゼネラルでは主にカラーテレビを生産していたんですが、南武線沿線はご覧の通り工場が集まっていますから、労働力の奪い合いが激しくて。そこで付近の川崎市立養護学校と神奈川県立高津養護学校に声を掛け、新卒者を採用するようになったと聞いています」と島野康寿社長は話す。
以来、株式会社富士通ゼネラルは、両校と信頼関係を築きながら、多くの障害者を雇用してきた。しかしバブル崩壊後、雇用をとりまく環境が一変。生産拠点を地方や海外にシフトしていく一方で、本社工場は研究施設へと役割を転じ、それまで組立生産ラインで作業していた彼らに与える仕事が減少した。
長年、働いてくれた障害のある従業員に、会社の都合で解雇を言い渡すことはできない。そこで2004年1月、彼らを集中的に受け入れるための特例子会社として当社を設立。彼らに適した新たな仕事を探すと同時に、CSR(企業の社会的責任)やコンプライアンス(法令順守)を推進する意味も含め、富士通ゼネラルグループ各社において法定障害者雇用率の達成に向け本格的な取り組みを開始した。
2. 事業所の概要
(1)組織構成
川崎を起点に、東京は多摩地区・立川までを南北に結ぶJR南武線沿線上、NEC、キヤノン、東芝、日立、富士通など多くの電機メーカーの工場や研究所が立ち並ぶ川崎市高津区において操業している。
社長をトップに、集められた指導スタッフ6人は、いずれも組立生産ラインで障害者を監督した経験を持つ職長クラスが選ばれた。障害のあるメンバー21人については、知的障害者が19人、聴覚障害者2人である。
「下は19歳から上は50代まで、年齢も性別も、障害の程度も違う21人に新しい仕事を覚えてもらうのは大変なこと。毎日が工夫と改善の連続です」と社長は話す。

(2)業務概要~職務創出の取り組み~
1)カタログ倉庫における発送作業
旧工場の一角、新旧さまざまな製品のカタログやPOPを保管するカタログ倉庫は、広さ約450平方メートルの空間にずらりと棚が並び、カタログ類はそれぞれボックスに分けて管理されている。
カタログはエアコンだけでも100種類以上、脱臭機やプラズマディスプレイなども加えると、その数は1,000以上にのぼる。全国の支店やサービスセンター、家電量販店から寄せられる注文を受け、必要な種類と冊数を取りまとめて梱包、発送するのがこの倉庫の役割である。
現在、これらの仕事は当社が一括して引き受け、知的障害のあるメンバーが従事している。
従来、製品カタログ類は、別の倉庫会社が保管しそこから発送されており、外注費として毎月数百万円のコストがかかっていたところ、当社が担うこととなり、親会社のコストダウンに寄与することができた。
当初から用意された仕事ではない。「障害者でもできる仕事は何かないか」と社内を探し歩き、関係部署の理解を求めて探し当てた仕事のひとつである。
2)ピッキング作業
最近は、サービス部品のピッキング作業にも加わっている。サービス部の巨大な部品倉庫には、全国各地のサービスセンターから毎日大量の注文が届く。エアコンのネジ1本や、脱臭機のフィルターであったり、内容は多種多様であるため、あらゆる製品の部品に精通した専用サービスマンの補助員として、メンバーが袋詰め作業などを担当している。
3)職務創出の取り組み
「仕事の内容は問わない」と社長は話す。昨年は300人近くの従業員が自転車通勤していることに着目し、「自転車修理」の看板を掲げた。朝、パンクした自転車を預ければ、仕事を終えて帰る頃には直っているサービス、修理代も一般の料金と比べて格安なことから、利用者が増えてきている。

その他にも特例子会社の仕事としてよく見られる構内清掃やゴミの分別回収、社内郵便物の集配・仕分け作業などにも従事している。しかしそれだけに留まらず、もっともっと仕事の場を増やしていきたいと意欲を燃やす。
サービス部品のピッキング作業にしても、「将来的には作業全般を任せてもらえるぐらいにしたい」と社長は考えている。ゆくゆくは親会社から市場価格より高額な受託料で受注している現在の状況から脱却し、一事業所として独り立ちするのが願いだ。
2007年秋口には、現在建設中の新棟が完成する。それに伴い、清掃メンバーの増強も必要になる。すぐには独り立ちはできないが、一つずつ仕事を探して業務を拡大していくことが、地道ではあるが一番の近道だと社長は信じている。

自分たちが育てた花を一輪挿しに飾る気配りも好評である
3. カタログ発送における工夫~目で見てわかる「動物園システム」の導入~
(1)コードを動物などの写真に変換
カタログ倉庫におけるカタログ発送業務において、知的障害のメンバーが、1,000以上ものカタログの中から、全国の支店やサービスセンター、家電量販店から寄せられた注文に対して必要な種類と冊数を取りまとめて梱包、発送するために、工夫を凝らしている。
棚には、一つ一つのボックスにライオンやゾウ、キリンにシマウマなどの写真が貼り付けてある。当社の特色である「動物園システム」である。
言語情報の処理が苦手な知的障害者は、注文書に記されている「A001」といったカタログナンバーを認識するのが難しい人が多い。そこで考え出されたのが、文字情報を動物などの写真に置き換える管理システムであった。


例えば、エアコンのカタログは「いきもの」の写真を使うことにし、「A001」のカタログはライオン、「A002」のカタログはゾウ、と一つずつ振り分けていく。
さらに発送先についても、A支店は飛行機、Bセンターは新幹線など「のりもの」の写真に置き換える。
注文書の内容をメンバー用に変換するのは指導スタッフの仕事。「A001」というカタログをA支店に100冊送る場合、指示は「動物園に行って、ライオンを100頭飛行機に乗せてください」となる。

目で見て判断することに関しては、健常者よりも得意な人も多く、実際このシステムによる作業をメンバーとそれ以外の従業員双方に試したところ、該当カタログを選び出す正確さとスピードは、メンバーのほうが上であった。
(2)誰もが分かる写真を選定
とはいえ、間違いを防止する策は必要である。梱包前には「関所」と呼ばれるスペースで、必ず指導スタッフが注文書と内容の確認をしているが、日常的にも社長は「間違ったカタログを送ったらお客様に迷惑がかかりますよ。私たちはサービスを提供しているんですから、気をつけましょう」と声を掛け、意識付けを行っている。
また、メンバーの障害には程度の差があるが、ここでは「訓練してできるようになろう」といった個人の能力を無理に引き上げることはせず、むしろ一番認識力の低いメンバーに合わせ、「全員ができる」仕組みづくりに重点を置いている。
「トラの写真を使おうという場合、まず全員がトラを認識できるか必ず確認テストをします。21人中1人でもトラとネコの区別がつかなかったら、この写真は却下。それを3回繰り返し、全員が確実に分かる写真を選び出すんです」と島野社長は話す。正確性を高めるためにも、この確認テストは欠かせない。
その他にも、同じ動物でも違うポーズやアングルの写真にすると障害者は「別の動物」として認識してしまうので、写真は同じものしか使わない、使用する写真はレストランのメニューや学校で使った文房具など馴染みやすいものを選ぶなどの工夫が凝らされている。
(3)取り組みの成果
カタログ倉庫の実績が認められ、従業員の制服倉庫の管理や、業者納品物の受け入れ作業もメンバーが手がけるようになった。言葉を写真に置き換える「動物園システム」の確実性と、メンバーの真面目な仕事ぶりの成果、と社内の評価は高い。
4. 生き生きと勤務できるための取り組み
「組立生産ラインで黙々と仕事をしていたときよりも楽しいとみんなが言っています。情緒も安定しているし、生き生きとした表情で仕事をしていますよ」と社長は嬉しそうに話す。その背景には、仕事にやりがいを感じさせる様々な「仕掛け」が施されている。
(1)掲示紙によりコミュニケーションや意欲向上を図る
事務室には、壁に各メンバーの毎月の目標を掲げた紙が貼ってある。紙には、頑張ったことやこれから取り組みたいことなど、文字や絵で自由に表現してもらっている。仕事の内容についてはもちろんだが、「みんなで食事をして楽しかった」でも何でもいい。自己表現できる場があることが大切である。
月末には用紙に指導スタッフが「一緒にがんばろう」などのコメントを書き加え、自宅に持って帰る。保護者とのコミュニケーションツールとしても役立っている。重度の障害で以前はほとんど白紙だったメンバーも次第に少しずつ書けるようになり、家族が驚いたこともあった。
壁の掲示には、目標やメンバーの感想だけではなく、みんなで取り組んだ構内の草取りなどの写真も大きく貼り出し、清掃前と清掃後を並べてがんばった成果を実感できるよう工夫してある。成功体験を何度もかみしめることで、仕事への意欲を持たせることが狙いである。
(2)体調に応じた作業内容等の設定
障害者は健常者よりも身体の調子が精神の不安定に表れやすい面がある。女性の体調の変化や年配メンバーの体力の衰えなどには特に気を配り、場合によっては作業内容やメンバーの組み合わせを変更するなど、臨機応変の対応をしている。
(3)聴覚障害に対する取り組み
聴覚障害者の2人に対しては、身振り手振りを大きくし、大げさと思われるぐらいの表情でコミュニケーションをとるように心掛けている。伝達は主に筆記だが、指導スタッフは現在、手話の勉強中である。
何かと声を掛け、ときには肩を軽くたたくなどのスキンシップも行う。「あなたのことをしっかり見守っていますよ。だから安心しください」と伝えることが、彼らの情緒安定にもつながっている。
5. 知的障害に対する取り組みと勤務状況
(1)A子さん(女性)
2004年10月に雇用したA子さん(21歳)は、明るくよく話し、またパソコン操作などもできる器用さを備えていることから雇用を決定した。まずは社内清掃とパソコンによるトレーニングから始めることにし、ぎこちないながらもA子さんは一生懸命取り組んでいた。
ところが月日が経ち、職場の雰囲気にも慣れてきた頃から雑な面が目立ち始め、指導スタッフから「手がかかる」という報告が上がるようになった。
通路のモップかけなどを任せると大汗をかいてがんばるのだが、人が見ていないと手抜きになることが分かった。また、話好きなのはよいが、気に入らないとすぐに怒り出すところも問題になった。嫌なことには徹底して拒否反応を示し、強要するとヒステリックな奇声を発するため、周囲のメンバーは「怖い人」という印象が固まった。
次第に孤立していくA子さんに対し、指導スタッフは対策として、作業のグループ替えを行い、次の点に留意するようにした。
・グループ作業の大切さ、集団成果の意義を教える
・意見を押し付けない、傷つけない
・できるまでやって見せ、できるまでやらせる
・ほめ方、叱り方にメリハリをつける
指導スタッフはできるだけ彼女に時間を割き、特にメル友になったスタッフはメールのやり取りのなかにも彼女を傷つけない優しさと、ときには厳しい表現を使い分け、彼女に社会人としての道程を教え始めた。
精神的なサポートを施す一方で、仕事面ではOJTによる指導法を導入、毎日一緒に作業をしながら根気よく手順を教えていくことで、やがて彼女も安定し、仕事のでき具合にムラが減ってきた。
入社3年を迎えた今では、仲間たちに「一緒に帰ろう」と声を掛けるほどになり、彼女のなかに相手を思いやる仲間意識が芽生えたように見て取れる。指導スタッフの取り組みにより、A子さんに成長が見ることができた。
(2)Bさん(男性)
2005年10月に雇用したBさん(20歳)は、おとなしく口数が少ないが、構内清掃の仕事を実に丁寧にこなすことから、彼の能力をより発揮できる別の仕事を探すこととした。
読解力の必要な社内郵便物の仕分け作業を担当させると、社内の評判もよく滑り出しは上々であった。パソコン操作もできるBさんには郵便料金の計算や日計表の作り方を教え、今では彼一人で作成している。
一方、Bさんは、喜怒哀楽を表すことが苦手であり、仲間たちとの交流を避けるように、いつも隅のほうで一人じっとしていることが多い。行事にもほとんど参加せず、彼の暗い表情は指導スタッフの間でも心配の種となっていた。
指導スタッフは、彼の母校の養護学校の先生や地域の就労支援センターと連絡を取り合い、彼の家庭状況をより詳しく確認したところ、彼の肩に一家の生活がかかっているという状況が判った。彼の負担を少しでも取り除き、家庭生活と精神状態の安定を得られるよう、今後も行政や就労支援センターと協力していく方針である。
また、彼が一人で悩みを抱え込んでしまわないように、仲間との交流も促し、できる限り社内の行事などにも参加させて積極性を身に付けさせようと心掛けている。
最近のBさんは少しずつ会話が増え、ミーティングの場でも求められれば自分の意見を述べるようになり、ジョークにも反応するようになってきた。職場の仲間が気にかけているということを、彼自身が理解できてきたと思われる。
彼の夢は、いずれは独立した生活を営み、一生懸命仕事に取り組むことだという。彼のもつ能力を引き出し、より高度な仕事を身に付けさせたいとスタッフたちも夢を描いている。
6. さいごに~「ハート」に響け!これからも~
当社のモットーは、「笑顔とあいさつで今日も楽しく仕事をしよう!」である。障害者のメンバーのあいさつが、昨年、親会社でちょっとした話題を呼んだ。
構内清掃メンバーの仕事開始は朝7時半。ちょうど本社の従業員が出社してくる時間と重なる。毎日、ほうきやモップを手にニッコリと「おはようございます」とあいさつするメンバーの元気な声に感動を受けたある従業員が、イントラネットの掲示板に投書したのだという。
『毎朝、知らん顔して無言で門を通っていた自分が、恥ずかしく思えた。声を掛けられて最初は戸惑ったけれど、今では自分も自然と「おはよう」が言えるようになった』。メンバーの行動が健常者にいい影響を与えている。
親会社では恒例行事として、夏に構内にやぐらを組んで盆踊り大会を開いている。従業員の家族や地域の人も招待して3,000人近くの来場者でにぎわうが、その会場に屋台を出して焼きそばなどをふるまうメンバーの姿がある。その他、一緒にお花見を楽しみ、スキー旅行に参加する。「障害」という線引きは見られない。
この社風が土台となっているからこそ、メンバーはのびのびと、かつ「みんなに喜んでもらいたい」という熱意をもって仕事に励むことができる。
社名となった「ハートウェア」は、「いつも心のこもった、ていねいなサービスを提供し続けたい」という願いから付けられた。「ハード」ウェアでも「ソフト」ウェアでもなく、「ハート=真心」ウェアを大切にしたいという同社。「やっと一歩を踏み出したばかり。めざす姿に対してまだまだ課題は多い」と島野社長は言うが、今後のさらなる展開に期待が寄せられる。
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