障害特性に応じて職務を設定する紡績企業の取り組み
1. 事業所の概要
（1）概要
衣料用、一般資材用、車輌内装資材用を中心とした紡績糸の生産及び販売業として、1950年に創立した当社は、安全・衛生・防災・環境・倫理・法令遵守を最優先とした経営に取り組んでいる。
ポリシー
①安全・衛生・防災
人の安全と健康は何物にも換えることができないかけがいのないものであり、私たちは自分と仲間を守るため労働安全衛生法等の法令を遵守し、社内ルールを守り災害ゼロを目標に自主的な活動を実行しています。
②環境
地球環境保護に積極的な役割を果たすため、省エネルギー排出・廃棄物の削減・リサイクルと企業活動を推進し環境改善に努めています。
③倫理・法令遵守
企業倫理・法令遵守行動規範を定め、人権を尊重し高い倫理観と責任感をもって行動し、社会の信頼を得られる企業活動を行っています。
（2）組 織
組織構成として、本社・糸魚川工場のほか、同じ糸魚川市内に能生工場を設けている。
2. 障害者雇用の状況
当社の障害者雇用の歴史は古く、取り組みを始めた経緯等について十分な記録は残っていないが、昭和52年に雇用した下肢障害のある社員は現在も継続雇用している。雇用当初に周囲の社員が職場内の整理整頓を心がけるなど、職場環境の整備を行い、移動面等においては特に支障は見られない。
また、本人の明るい性格と頑張りで仕事の面では他の社員と同等に職務に取り組んでおり、現在、精紡部の班長として活躍している。
知的障害のある社員は2人雇用しており、最初の1人は昭和57年、2人目は平成3年に雇用した。当初は仕事を覚えることに通常の数倍の時間を要したが、覚えてしまえば仕事を着実に行い、休まず真面目な就労態度は評価されている。
内部障害のある社員2人は共に心臓疾患を有している。中途障害の社員に対しては、業務面では配置換えなどを行い定着に配慮している。
長い雇用経過の中では、定年退職した社員や数人の自己都合による退職以外は、職場不適応が理由で退職した社員はいない。
昭和48年度 障害者雇用優良事業所新潟県知事表彰を受賞
平成16年度 障害者雇用優良事業所厚生労働大臣表彰を受賞
3. 取り組みの内容
（1）募集・採用
公共職業安定所からの紹介を主として採用している。採用に当たっては、障害の有無ではなく、仕事ができるか否かを選考基準にしている。
なお、採用後、勤務中に事故に遭ったり、疾病により障害者手帳を取得した中途障害者も勤務している。
（2）障害に応じた取組み
1）知的障害
反復作業で計算力を要しない職務に配置している。仕事を覚えることに多くの時間がかかる社員に対しては、何度も繰り返し時間をかけて教える。いったん覚えると一つひとつの作業は遅くても、真面目にきちんと仕事に取り組んでいる。また、休まず仕事に取り組む姿は職場の模範であることを社員に常々伝えている。
また、一度にあれもこれもという指示を受け入れることは困難な社員には、一つの指示が終わったらその都度報告させ、次の指示を出している。このことに気づくまで2年の歳月を要した。
なお、最初に雇用した社員に対する指導のノウハウは2人目の時にはそのまま通用せず、対応ができるまで1人目以上の時間を要した。
現在は2人とも十分仕事に慣れ頑張っており、周りの社員は常に声かけを心がけている。
2）中途障害
障害の進行に伴い現業の作業の遂行が厳しくなってきた際には、事務部門に配置転換するなど、体調や体力に合った職務に配置してきた。
3）肢体不自由
指先の不自由な社員用の作業基準を設定した。
肢体不自由の社員を配置する精紡部では、動線（糸になるまえの極細の繊維）が切れた時、なかなか見えにくいことから動線が絡まり動線の供給が止まることによるロスが多かったため、トラブル時に豆電球が点灯することで確認できるよう改良した結果、補正の時間が早くなりロスが減少するとともに社員も慌てず対応できるようになった。
併せて、動線をつなぐため従来は機械が動いた状態で素早く処理していたが、上肢の負担を軽減するため、ストッパーを後付けし、処理をする部分の機械のみを止めて作業できるよう改良した。
また、施設改善として、トイレ内に手すりを設置し彼らが使いやすいようにした。
（3）障害に応じた取組み
肢体不自由・内部障害のある社員を指導する社員には、差別の気持ちを持たないよう繰り返し指導している。
知的障害のある社員に対しては、社内で職業生活相談員を指名し養成してきた。常に声かけを心がけ対応している。
（4）安全・健康管理
アスタイルの小さな割れ目にも躓く肢体不自由者もいるので、きめ細かに補修している。
工場内のフォークリフト通路を黄色に塗装し、事故の未然防止に取り組んでいる。
当社の指定した作業服、帽子を着用させているほか、機械の騒音対策に耳栓を用意している。
健康管理については、心臓疾患のある社員が定期的に人工弁等の検診を受けることに支障がないよう、休暇面で配慮している。
4. 今後の課題
長い年月にわたり、300人以下の社員規模で積極的に障害者雇用に取り組み、障害者雇用報奨金を受給している当社においては、業界を取り巻く経済情勢から、全体的に人員を抑える一方で生産性を上げる取り組みが必要な状況である。
数年前に希望退職を募り人員を減らした際に障害のある1人の社員が希望退職した経緯があるが、その中で障害者、特に知的障害者雇用に取り組む場合、反復作業で計算力を要しない職務の開発など課題がある。
当面は、現行体制の中、障害の有無で差別化しない考え方で障害者雇用に取り組むことが必要と考えている。
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